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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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僕は失敗ばかり

 大失敗だった。

 孤児院の幼い子たちが、高熱を発して完全に寝込んでしまったのだ。


 孤児院の子たちのほとんどが熱を出して、寝込んでしまうことは予想していたから、最初僕もミランダさんたちも、慌てたりすることなく冷静に対処していた。 ところが幼い子たちが予想していた以上に重篤な状況になるほどの熱を出してしまったのだ。


 その状態になってから、僕はその理由に気が付き、自分のせいであることを理解した。

 僕は西の村の孤児院の子たちのレベル上げのために、スライムの罠を作らせたのだけど、その時に幼い子まで、わざわざその作業に加えたのだ。 年齢よりも小さく弱々しく見える幼児たちも全体レベルが上がれば体力もすぐに付くし、より安全だと考えたからだ。 これは幼い子たちだけに限らないのだが、今の西の村の孤児院の子たちは、なんだか昔の僕たちよりも弱々しく見えて、正直すぐに死んでしまいそうな感じに思えてしまったからだ。

 だが、考えてみると、僕たちだって神父様にレベルを見てもらう年齢を超えてからだったのに、初めて[全体レベル]が上がった時には、熱を出して一日寝ているような状況になったのだ。 そこまで年齢も達していなくて、なおかつ体も弱々しい幼い子たちが、スライムの罠によって得られる経験値でレベルが上がれば、もっと身体に大きな負荷が掛かるのは、当然考えるべきことだったのだ。


 「ミランダさん、すみませんでした。

  僕が考え足らずで行動してしまい、迷惑をかけてしまいました」


 「ナリートくんだけじゃないよ。 私も良いことだと思って、あの時止めなかったのだから、同じだよ。

  大丈夫、ちょっと心配したけど、みんな持ち直したから、これからはそのおかげでどんどん身体も強くなっていくと思うから」


 「それだけじゃなくて、寄生虫の駆除計画も予定より遅れてしまったでしょうし」


 「そっちこそ問題ないよ。 寄生虫の駆除なんて、この人数だけでも何ヶ月かの単位で考えないといけないのだから、数日の予定の狂いなんて問題にならないから。

  とにかく小さい子たちももう大丈夫だから、気にしなくていいから」


 レベルが見えると言うか、神父様が[職業]を見ることが出来る年齢に達していた子たちは予想通り1日で回復したが、小さい子たちの熱が下がるまでには3日もかかってしまった。

 小さくて身体も弱い子たちが3日も熱を出して寝込んだら、それ以前の状態に戻るまではもっと時間が掛かるのは当然で、ミランダさんやマーガレットといったシスター枠の人たちは、孤児たちの看病などの世話に1週間も追われて、予定をこなせない羽目に陥ってしまった。


 僕は少し焦って、エレナたち狩りをするグループだけでなく、他のみんなにも、この新村作りの拠点周りのスライムの駆除を頼んだ。

 今まではスライムの罠により多く掛かるように、然程の脅威でもないから周りのスライムを放置していたのだが、今は罠に掛かって、もしまた孤児たちのレベルが上がると、また体調を大きく崩す可能性があるからだ。

 西の村の孤児たちが作った罠を、今現在は問題があるからといって、たった1日で壊す訳にはいかないので、スライム自体を駆除して罠に掛からない様にしたのだ。

 ああ、全く何をやっているのだろう。 孤児院の子たちは、ほんの数人を除いて、翌日1日は寝込んでいたので、そのスライム駆除作業は見ていない。 それは良かったと思う。


 「ちょっと失敗してしまったので、その失敗の収拾がつくまで戻れないと伝えておいて」


 僕はウィリーに伝言を頼んだ。 当初の計画だと、僕とキイロさん、それにエレナたちは、こっちで3日過ごしたら、一度城下村に戻る予定になっていたのだ。

 エレナはウォルフが毎日馬車での物資の運搬にやって来るのもあって、すぐに僕と共に残ってくれると言ってくれたのだが、キイロさんには申し訳なくて、キイロさんには予定通りにしてもらおうかと思ったのだが、


 「俺が新村開拓の責任者になっているんだ。

  問題が起こって、ナリートがここに残っていると言うのに、俺が戻ったら、それこそタイラに怒られる」


と言って、キイロさんも戻らなかった。 タイラさん、ごめん。



 ロベルトが指揮するグループは、1日はスライム狩を手伝ってくれたけど、その翌日からはすぐに池作り作業に入った。

 僕自身は、なんとなく池作りの最初から、城下村から来た連中と比べるとずっと弱々しいから、あまり戦力にはならないだろうけど、西の村の孤児たちも一緒に作業をさせようと思っていたんだけど、ロベルトは違うらしい。


 「いやいや、ナリート、それは無理だろ。

  今のあいつらの体力じゃ、土運びなんてしたら、すぐに体力が尽きるぞ。 それに魔法はまだ練習したこともないだろ。 まずは基礎的な生活魔法の練習をさせるだけで、体力が尽きると思うぞ。

  だから、最初は午前は体力作りの軽い運動と魔法の練習。 そして午後は読み書き計算なんかの勉強だってマーガレットも言ってたぞ。

  俺も最初からそのつもりだ。 だから、池や用水路の建設は、俺たちがどんどん進めていて、ある程度してから西の村の孤児院の子たちにも手伝わせる形だな」


 「あ、ナリート。 冒険者にする子を誰にするかは決めたよ。

  熱を出して寝込まなかった子3人は決定で、その子たちに声を掛けて話していた時に、興味を持って自分たちもと言ってきた子が2人いて、その2人も加えて5人にすることにしたよ。

  ただ、当座はロベルトが言っていた予定が優先だから、その空き時間というか、他の子が休んだり遊んだりする時間と、休みの日を、冒険者にする訓練に使うことにするわ。

  その子たち5人にとっては、ダラダラ出来る時間が無くなって、少し大変になるかもしれないと言ったけど、『大丈夫です、頑張ります』と言ってたから、大丈夫でしょう。 私たちだってそんなもんだったし、こいつらも同じ様にして最初は鍛えたのだから、同じことよね。

  あと、5人の内、1人女の子ね。 私と一緒かなぁ。 後で何かの時に見てみて。

  他の4人もだけど、[職業]で有利なことがあれば、それを活かす方が早く覚えられるから。 ま、5人とも神父様に言われたのは農民か村人みたいだけど、そんなの分からないし、そうだったらそうでも構わないし」


 エレナにまで、そう言われてしまった。

 ロベルトにしろ、エレナにしろ、僕よりも現実的に具体的に計画して、物事を進めてくれているようだ。


 「キイロさん、何だか僕が一番現実が見えていなかった様です。

  孤児院の子たちって、こんなに弱々しくて、何もできないんでしたっけ」


 「うーん、ナリート、たぶんこの西の村の孤児たちが、今までの普通だったんだと思うぞ。 俺から見ても、お前たちは飛び抜け過ぎだ。

  お前たちだって、最初はこの西の村の孤児たちとあまり変わらなかったんだと思うけど、俺もだけどナリートは、そういう普通に近い子たちとあまり関わってこなかったからな。

  ロベルトやエレナは、俺たちがあまり関わっていなかった、他の場所から来た奴らとかを指揮して、今までも物事をしてきたからな。 特にロベルトはそうだ。

  だから、その分、俺たちよりも孤児たちのことを現実的に考えられているのかも知れないな。

  それはシスター組も同じかも知れない。 王都から来たマーガレットと同期の子たちとかは、城下村に来て本当に驚いていたというから、西の村の孤児の方が普通だと思っているんじゃないか」


 なるほど確かにそうなのかも知れない。 僕に限らず、キイロさんも、ジャンも、ウォルフ、ウィリーも、鉄の生産とか、織機作りとか、セメントは僕とルーミナだけだった、漆喰作りとか、とにかく多くの人とは違っていることをしていた。 あ、塩作りもあったけど、あれは他の人も一緒にやったか。 とにかくなんか細かいことというか、後から村に参加した人のことはロベルトやマイアたちに任せてしまっていた。 それだからか、段々感覚がズレて行ったのかな。

 とにかく僕とキイロさん以外の人の計画の方が、今の実際に即しているのは確かな気がする。


 シスター組は、幼い子たちが回復すると、一番最初にイクストラクで寄生虫を除去して、それからは毎日体操をさせるくらいで、あとは遊ばせている。 ちゃんと食べている、いや食欲旺盛にモリモリ食べているから、幼児なのにレベルが上がったらしいから、すぐに体力がつくことを期待している。

 それより大きい子たちも、順番にイクストラクトを掛けて行っている。 こっちはそれに加えて、しばらくの間虫下しの薬が飲まさせることになっている。 虫下しの薬は苦いので、幼児には無理なので免除されているけど、それ以外は必須だ。

 年上の子たちの日常も、とてもじゃないけど土を運んだりの仕事が出来るほどの体力は無さそうだし、線も細すぎる。 彼らが今まで西の村でしていたことは確認したけど、今は午前中は幼い子とは内容が違うけど体操と、それに生活魔法の練習に当てられ、午後は勉強だ。 ロベルトが言っていた通りの内容だな。

 実際にそれを見てみて感じたのは、マーガレットがとても教育熱心なことだ。 城下村から全員分の石板とチョークを運ばせて、とても熱心に教えている。 僕らの東の村と領主様の町で、孤児院でも勉強が教えるようになったら、他の場所の孤児院でもそれを取り入れたはずなのだが、西の村では行っていなかった。 これは僕が教えた時も思ったのだけど、孤児たちはとても真面目に学んでいる。


 「お前たち、新入りはまだ体力もないのだから、怪我させるんじゃないよ」


 「はい、姉さん、任せてください。 しっかりガードして、新入りにはスライム狩りをしっかり体験させてやりますよ」


 「でも姉さん、スライムは1匹竹槍で狩れば、それだけで良いですよね。 ナイフを貸してやれば、スライムより一角兎の方が安全に狩ることができますから、次からはそっちで」


 「ま、スライムは1匹仕留めれば、スライム討伐者という称号は得られるらしいから、その後なら構わないかな。

  でも、それよりも索敵をしっかり覚えさせるんだ。 それがしっかりしていないと危険のは良く知っているだろ。

  お前たちも、先輩として指導する立場に立つのは初めてなんだから、油断しないでしっかりやるのよ」


 うん、もうエレナのグループは、グループというより親分と子分みたいな感じだな。 でもまあ、しっかりと選んだ西の村の孤児を鍛えようとしているみたいだ。 任せておけば良いだろう。

 でも、きっと、選ばれた子たちはもう一度、レベルアップですぐに寝込むことになると思う。 エレナも忘れていないと思うけど、仕方ないと思っているのかな。



 僕とキイロさんは、予定より1週間遅れで一度城下村に戻った。 僕とキイロさんの代わりにウォルフとウィリーが現地に残ったので、その都合もあってエレナはそのまま現地だ。

 僕とキイロさんは久しぶりにゆっくりと風呂に入った。 現地ではまだ風呂を作ってなくて、昔みたいにお湯を出して洗ったり拭いたりだけで、久しぶりにお湯に浸かると、やっぱり格別な気分になる。


 「ナリート、やっぱり風呂はあっちにも早急に必要だな」


 キイロさんと一緒だったので、僕らは丘の下の風呂に入ってから、それぞれの家に戻り、次の日に領主様と文官の人たちに報告した。


 「どうだ? 上手く行っているか?

  まあ、予定通りに戻って来れなかった時点で、お前らの見込み通りではなかったことは分かっているがな」


 領主様がちょっとニヤニヤして僕らに聞いてきて、僕は少し腹立たしかった。だって揶揄ってきているのが明白だったから。 キイロさんは本当に上手くいかなかったことに恐縮しているという雰囲気だった。


 「領主様、どうも俺とナリートの予想が甘くて、予定外のことがあって戻るのが遅くなりましたが、他の連中にとっては予想通りの進捗状況だったという感じです」


 「僕が予想していたより、何だか昔の僕らよりも、西の村の孤児院の子たちは弱っていて、まだ開拓の工事には全く参加出来ていないんです。

  でもそれは僕が楽観し過ぎだったらしくて、ロベルトやマーガレットにとっては想定内の事態だったらしいですけど」


 「そうだな、ナリートは、町と自分の元の孤児院から以外のここにやって来た連中くらいを、きっと想定していたんだろ。 それは無理だな」


 「いえ、僕だって、もう少し状態は悪いだろうと想定していましたよ。 でも、それ以上に悪かったんです。

  西の村は、前に村長との交渉で行ってみた時に、今のこの領内の現状から取り残されていると感じたのですけど、それ以上でした」


 「俺たち2人は、それ以外から来た連中にも、あまり関わらないで、自分たちの仕事をここでも優先していましたから、感覚的なことがズレていたんだと思います。 少なくともロベルトやマーガレットたちは想定内のことだと思っているのだから、俺たち2人が駄目だったんでしょう」


 キイロさんの言葉に反論は出来ないなぁ。


 「それで子供たちの寄生虫駆除はどうなったの?」

 シスターも聞いてきた。


 「はい、そっちはミランダさんが先頭になって、もうしっかり始まりました。

  小さい子から順次イクストラクトを掛けて、年齢が達していない子以外は薬も飲ませています。 まだ何度かはかかるでしょうけど、孤児たちの寄生虫はすぐに撲滅できると思います」


 「ただ、これはミランダさんも言っていたのですが、孤児たちは全員が寄生虫に冒されていたみたいで、それを考えてみると西の村の村民もきっと、ほとんどが寄生虫に冒されているんじゃないかと。 それをどうするかは、これは新村作りとは別ですが、問題だと」


 僕とキイロさんが答えると、領主様とシスターも、渋い顔をした。


 「まあ、そうでしょうね。

  新農法を頑なに拒否して、旧来の農法をしているということですから、それではどうしたって寄生虫は避けられないでしょう。

  ま、西の村に関しては自業自得というか、そういう環境で西の村という小さい集団が纏まっている形が出来上がってしまっているのでしょうね、色々と。

  これから新西の村が近くに出来ると、それではやって行けなくなって、現実が見えて来るんじゃないですか」


 文官さんは辛辣だな。


 「あ、そうそう、ナリートくん、キイロくん。

  冒険者組合だけど、新たな所に受け入れられるようになったら、即座に人を派遣してくれるそうだよ。

  元々、西の村にも冒険者組合を作ろうとしていたのだけど、村長に頑なに拒否されていたらしいよ。 なんでだろうね。

  それだからもあって、組合も即座に動けるように人を選んでおいてくれるそうだよ」


 「えーと、これはナリートとも話してないのですけど、今の区画を少し増やして、冒険者組合と、あと西の鍛冶屋さんは速やかに来てもらおうかと思います。

  当初の計画だと、畑はともかく池と池までの水路が出来てから、居住区画をきちんと広くする予定だったのですけど、どうも西の村の鍛冶屋は、西の村に居づらい状況になっているみたいで、早めに引っ越しをさせてあげたいと思うのです。

  西の村の鍛冶屋がそう思うような状態だとすると、もしかすると俺たちが考えるよりも早く、西の村からちょっかいを掛けてくることも有り得そうですし、その時、それを突っぱねる理由にも、冒険者組合はなりますから、早めた方が良いかと思うのです」


 「そうか。 まあ、西の村の鍛冶屋をそのままにしておくのも可哀想かも知れないな。

  きちんとした建物でなくとも、まずは当座の建物でも良いだろうから、早めるのも構わないぞ。 キイロの思ったようにやってみろ」


 領主様はキイロさんに、許可を出した。 キイロさんにも鍛治以外の経験を積まさせようとしているのかな。


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