表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/177

朝告鳥とアリーの技能

 何だか良く分からないが、領主様に呼び付けられた。

 「ナリート、用があるから町に来て顔を見せろ」と、城下村にやって来た行商人の人が簡単な手紙を届けてくれたのだ。


 ここのところ町に行って売りに出す物もないし、何かを買う資金は盗賊退治で報奨金が出たから幾らかあるけど、絶対必要と思う物は今はなくて、買い出しに行く必要もない。

 町に行って、食べ物や様々な物を手に入れてこないと暮らして行けなかった時と比べると、僕らの城下村も随分と発展した。 今は、町にやる人手を出すよりも、村の中の仕事をこなすことの方が重要で、町に人を送りたくない。 忙しいのだ。


 町に行かずに済むのは、ある程度定期的に行商人がこの村に来てくれるようになったことも大きい。

 町とこの村との間は、道の整備を強制的にさせられたこともあるし、僕らの仲間が往来している時には、辺りの一角兎を狩りまくったりもしたし、この間は盗賊を滅したので、楽に安全に往復出来るようになっていて、行商人にしてみると訪問しやすい場になったのだ。

 塩をはじめとした、ここでは手に入らない必需品や細々とした物は、まだまだ沢山あるのだけど、そういった物のほとんどは、行商の人が持ってきてくれる。 わざわざ町まで買い出しの人手を出す必要がほとんどなくなったのだ。


 僕が作りたいと思っている城としてはまだまだだけど、開拓村としては、住んでいる人数や、自活度を考えると、かなり目標が達成出来たと言えるのではないだろうか。

 あとはもう少し、きちんと定期的に入る現金収入が村としてあれば良いのだが、それは今後、糸と布の生産でどうにかなるのではないだろうか。


 「領主様が、荷車を持って数人で来いって呼んでいるのだけど、誰が行く?

  呼びつけられた当人の僕は行かなければ駄目だろうけど、あとは特別誰かをという指名は無いみたいだけど」


 「なんだろう。 台車を持ってというのだから、何かくれるのかな。

  でも指名が無いなら、私は行かないよ」


 エレナが僕の誘い水を速攻で断ってきた。


 「そうだな、俺も指名が無いなら行きたくはないかな。

  それにまだ鏡作りが終わってないから、俺たちが町に行ったらキイロさんが怒るよ。 な、ウォルフ」

 「ああ、そうだな」


 ウィリーとウォルフも断ってきた。

 もう鏡作りはほとんど終わっているのを僕は知っている。 この2人は領主様と顔を合わせると何か仕事を押し付けられるのを警戒したのだろう。


 「僕はほら、アリーが糸クモさんの世話と、それの布作りで忙しいから、ちょっと離れられないよ」


 ジャンにも断られてしまった。


 「ということだから、ナリートとルーミエで行って来なさい。 フランソワちゃんはどうする?」


 シスターが自分のところまでとばっちりがこない内にという感じで、人選を決めてきた。 シスターは町に行くと聖女様呼ばわりをされるので、自分では行きたく無いからだな。


 「私も今ちょうど忙しい真っ最中ですから」


 シスターは、一緒の部屋で過ごしているのだから1人別になるのはという感じでフランソワちゃんに聞いたのだが、フランソワちゃんは簡単に断ってきた。

 畑や田んぼに手がいる真っ最中なのは分かっているから、シスターもフランソワちゃんは別に聞いたのだろうけど、フランソワちゃんもここ以外だとシスターほどではないけど特別視されてしまうのが嫌のようだ。


 結局、僕とルーミエと、それに町の孤児院出身の数人で行くことになった。

 何かの買い出しの必要があった訳では無いので、僕らが領主館に行っている間は暇な時間になってしまうので、後輩たちに会って時間が潰せれば良いだろうと考えたからだ。

 もちろん町に行く途中では、道の整備をさせたり、一角兎を狩ってお土産にさせたりして行く。


 「領主様、今回は何の用ですか?」


 僕たちが領主様に会いに行くと、僕ら2人が会いに来たことに領主様はちょっと驚いた顔をした。


 「何だ、お前たち2人がわざわざ来たのか? お前ら、暇なのか?」


 「確かに抜けられない仕事があった訳じゃ無いけど、私だって暇だった訳じゃ無い」


 領主様の言葉にルーミエが少しふくれて文句を言った。

 僕だって、別に暇だった訳じゃない。 呼び付けられたから来たのだ。


 「ああ、そうか、すまん、すまん。

  ナリートに渡してくれと手紙を託けたから、俺がお前らを呼びつけたと思ったんだな。 実は誰でも良いから荷物を取りに来てくれたら、それで良かったんだ」


 えー、何だそんな事かよ、と思ったのはルーミエも一緒だと思うのだが、来てしまったからには仕方ない、その荷物を受け取って早々に帰ろう。 今なら日も長いし、日帰りが出来る。

 その荷物のある場所に、何故か領主様は直々に連れて行ってくれるみたいだ。


 「えーと、実はな、少し前に王都に行ったのだが、その時に知り合いの貴族にな、あるモノをもらったんだ。

  もらったのは生き物でな、何でも王都の貴族の間では、その生き物を飼うことが流行っているそうだ。

  そしてまあ、『あなたも貴族なのだから、飼育するようにお分けしましょう』と、その貴族は好意でなのだが、押し付けられてしまったのだ。

  まあ、その生き物というのは別に飼うのが難しい訳では無いのだが、ちょっと問題があってな。 ぶっちゃけて言うと、ここで飼うにはうるさくてかなわんのだ」


 「ええっ、荷物って、この鳥の事ですか?」

 ルーミエがとても意外だという感じで、言った。

 「でも、領主様が言うほどうるさいとは思わないのだけど」


 「ルーミエ、甘いぞ。

  こいつはな、夜明けになると奇声を大声で発するのだ。 こんな町中でそんな時間に奇声を発せられたら迷惑でしか無い。

  王都の貴族たちは物好きにも、その奇声を誰が所有する鳥が最も美しく高らかに発するかを競いあったり、その鳥の尾の長さを競いあったりしている。

  儂は、軽く分けてもらったくらいだから、その声が特別大きかったり長々と発したりする鳥ではないし、尾も特別長くはない。

  それでもここで飼うには、それでも十分迷惑なのだ。 その上、コイツは卵をどんどん産んで、増えようとしやがる。 困っているのだ。

  かと言って、貰ったものだから、迷惑だからといってあまり邪険にも出来ん。

  後で、『あの差し上げた鳥、どうなりましたか?』などと尋ねられることもないとも限らないからな」


 「領主様は、そんな困り物を私たちに押し付けようというのですか?」


 「いや、ルーミエ、考えてもみろ。

  この町中にある館で飼うのは問題だが、お前らのところの家から少し離れた場所で飼うなら問題じゃないだろ。

  このとおりだ、頼む」


 ルーミエは問題を自分たちに押し付けていると怒っているようだけど、本来なら領主様は僕たちに、「この鳥の飼育を命じる」と強制しても良い立場だ。 そんな立場も年齢も僕らとはうんと違う領主様が、体を小さくするようにしてルーミエに頼んでいるのは、領主様の人の良さを表しているのだと思うけど、何だか可笑しくなってしまう光景だ。


 「ナリートもニヤニヤして見てないで何とか言ってよ」


 少し怒った調子で、ルーミエが僕にそう言ってきて、僕は現実に引き戻された。


 「うん、良いんじゃないかな。 その鳥の飼育を引き受けても。

  と言うより、僕としては、ぜひその鳥を飼育したい」


 ルーミエが期待した言葉と違っているだろうから、余計に怒るかなと思ったのだけど、ルーミエは眉をピクリとさせると、ほんの一瞬考える雰囲気を見せた後、落ち着いた調子で言った。


 「この鳥を飼いたいって、何かあるの、この鳥って」


 「ん、この鳥って、鳴き声や尾の長さや綺麗さを競う以外にも何か価値があるのか?」


 領主様もルーミエの言葉で、僕が何かこの鳥に価値を見出していることに気づいたみたいだ。


 「ナリート、詳しく白状しろ」


 白状しろ、なんて言われなくても、領主様には教えますけどね、この鳥を譲ってもらうのだし、これまでも多大な恩義もあるし。


 「この鳥、夜明けくらいに大きな鳴き声をあげるので、朝を周りに知らせる鳥という事で朝告鳥という名前がついたんだと思いますけど」


 「おおっ、良く知っていたな。 そうこの鳥は朝告鳥という。

  まあ町中では、その大きな奇声が問題になるんだが」


 僕はそんなに問題になるかな?、と思った。 何故なら暗くなればすぐに寝る生活をしている庶民は、その分早起きで、夜明け頃にはもう活動をし始めるからだ。

 あ、そうか、この館で働く文官の人たちは忙しくて夜に入ってまで仕事をするから、朝、夜明けに大きな鳴き声を上げられるのは困るのか。 ま、町中にもそういう人はいるだろうけど、1番はこの館に勤める人が被害者なんだな、きっと。


 「この鳥は、たぶんもう一つ名前があると思います。 その名前はニワトリという名前です。 これは庭で飼う鳥だからニワトリ」


 「庭でって、そんなことしたら鳥なんだから逃げちゃうよ」


 「ルーミエ、この鳥はほとんど飛べないんだ。 それだから庭みたいに、いくらかの囲う物がある場所になら、放しておいても逃げないというか逃げれないんだ。

  それだから飼うには飼いやすい。 ただ飛べないから、スライムから逃げれないから、安全をしっかりと確保してやらないと駄目だけど」


 「それでどうしてナリートはこの鳥を飼いたいの?

  私、鳴き声の良さなんて分からないよ。 それに私たち貴族じゃないから、尾が長くたって綺麗だからって、それが何って感じだよ。 確かに最初は綺麗とかスゴイとか思うかもしれないけど、それだけだよ。 その為に、貴族様のようにわざわざ飼おうとは思わないよ」


 「それはそうだよ、僕だって鳴き声や姿形を競うために飼おうとは思わない」


 「ナリート、それじゃあなんでこの鳥を飼いたいと思うんだ。 そこのところを詳しく聞かせろ」


 「はいはい、領主様、今から説明します。

  きっとこの地方では、スライムから守るのが大変で今まで飼われていなかったのだと思うのですけど、スライムが少ない場所では普通に飼っているんじゃないかと思うんですよ。 飼いやすくするために、飛べない鳥になったんじゃないかと思うんですけど。

  それでなんで飼われているかというと、この鳥は沢山卵を産む種類の鳥なので、その卵を採るのを1番の目的に飼われているんだと思います。 きっと肉も食べるのに回すとも思いますけど」


 なんか領主様からは「もう少し詳しく」と説明を求められたけど、僕は「実際に朝告鳥を見るのも初めてだから、本当のところは良く分からない」と言って逃げた。

 だってニワトリの話なんて、実際は頭の中の知識としてあるだけで、この世界でどんな感じになっているのかを知っている訳ではない。 でも同じようなことになっていると感じるので、きっとこの世界も同様なのだろうと思っただけだ。

 現実的な話、この鳥が僕が頭の中で知っているニワトリと同じモノであるかどうかも、これから検証してみないと判らないのだ。



 領主様からニワトリを貰って、いや託されて、自分たちで飼ってみると、すぐに問題点が出てきた。


 託されたニワトリは当然だけど数が少ない。 まずは数を増やすところから始めなければならないのだが、数も少ないこともあり、僕たちの住居、つまり丘の城と呼んでいる方でニワトリの飼育を始めた。

 夜明けとともに雄叫びを上げるのは僕たちでは問題にはならなかった。 僕たちは当然だけど早寝早起きだからね。


 「本当に名前の通り、夜明けに鳴くのね」


 シスターがそう言って、喜んでいたくらいだから、何の問題もない。


 僕たちがまず目指すのは数を増やすことだけど、それと共に卵を良く産んで、飼いやすい鳥にしていかなくてはならない。

 この世界にも品種改良というような考えは経験的にだろうがあって、貴族による良い鳴き声とか、尾の長いとかという特徴を得ようとしているのとかが、モロにそういった手法だ。

 領主様が他の貴族からもらって来た鳥は、当然だけど貴族の間ではそんなに評価されない鳥だった訳で、極端に尾が長かったり、声が大きく長く鳴いたりする鳥という訳ではない。 それは逆に僕らにとっては都合の良いことだ。

 僕らにとっては、そんなことはどうでも良いことで、まずは卵を沢山産んでくれる鳥が良い鳥だ。 そういう鳥を優先的に増やして行って、より多く卵が得られるようにしたい。 だけど現時点では、そういう視点で選ばれた鳥ではないので、こちらもまだ訳が判らない。

 増やすために雄と掛け合わせて有精卵を産ませて、それを抱卵させていては、どの雌が多く卵を産むかなんて見極めてはいられない。 それはある程度ニワトリの数が増えて、無精卵を産ませるようになってからのことだろう。


 逆に、僕らの飼育には邪魔になる尾の長い鳥になるのを避けるのは簡単だ。 領主様が他の貴族にもらった時に、

「一羽血統の良い、尾のなかなか立派な鳥を加えるから、それを元に増やしてみると良かろう」

と、わざわざ言われたという鳥を繁殖相手から外すだけで、まずはOKだ。

 雄を容姿で判断するのは簡単だけど、雌が産む卵の数に、雄の血統も関わるかも知れないのだけど、そこら辺は今後の課題だ。


 領主様はその貴族にニワトリを貰うだけではなく、どういう風に飼育すれば、より良い声で鳴いたり、より長く美しい尾を持つニワトリが生まれるかというノウハウを延々と教わったらしい。


 「朝告鳥の飼育をお前らに押し付けるのだから、その餌なんかは俺が用意するぞ。

  色々と面倒なことだからな」


 そのノウハウには与える餌に関してはかなり色々とあるらしい。 しかし僕らはそこは目指すつもりはない。


 「大丈夫です。 声が良くなるようにも、尾が綺麗で長くなるようにもする気はないので、その為の特殊な餌なんていらないですから。

  逆に、卵を良く産むようにするのに適した方法も聞いてきていたら教えて欲しいです」


 「いや、そういう話はなかったな」


 最初に問題になったのは、糸クモさんとニワトリの相性の悪さだ。

 ニワトリは糸クモさんまで食べようとしてしまうのだ。

 とはいっても、糸クモさんは別名デーモンスパイダーと呼ばれる、冒険者からはすごく恐れられるモンスターでもある。

 糸クモさんを何も考えずに食べようとして、逆襲されて糸で縛られて転がっているニワトリが何羽も発見される事態となってしまった。


 僕たちはニワトリを、飛べなくて逃げれないのだから、と軽く考えて、寝床と抱卵出来る巣作りの場を作りはしたけど、基本は僕らの家の周りに放し飼いにすることにした。

 糸クモさんは、朝の餌を食べ終わると、今は田んぼや畑の害虫退治に巣から出てきて向かってくれる。

 そこで両者が出会ってしまっての結果だ。


 「ナリート、アリーが言うには、糸クモさんには『ニワトリを縛らないで』と言ったのだけど、ニワトリが食べようとしてくるから、糸クモさんは仕方なく縛っているんだって。

  で、アリーはニワトリに、『糸クモさんを食べようとしたら駄目だよ。 縛られちゃうよ』と教えたのだけど、ニワトリは自分でも縛られたくはないから、食べようとしないようにしたいのだけど、目に入った瞬間に勝手に体が動いてしまうんだってさ。

  だから、糸クモさんとニワトリが一緒になるのは駄目だから、ニワトリの飼育場所を移して欲しいって」


 そうなのか、ニワトリは自分ではどうしようもなく、反射的に食べようとしてしまうのか。 それじゃあ一緒になってしまう場所でニワトリを飼うことは確かに出来ないな。


 ん、あれ、なんか変というか、おかしい感じがする。


 「あのさ、ジャン。

  何だかさ、今の話だと、アリーは糸クモさんやニワトリと話をしたような感じだよね。 どういうこと?」


 「うん、アリーはさ、前から糸クモさんとは話が出来る訳じゃないけど、糸クモさんが思ったり感じたりしてることが分かるんだって、逆にアリーが糸クモさんに伝えたいことも伝わるらしい。

  それでニワトリにも試してみたら、慣れている糸クモさん程ではないけど、やっぱり何となく意思疎通が出来たんだってさ」


 何それ、アリーの特殊技能なのかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ