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機織り機作り

 キイロさんに教わった鉄作りの方法を実際に試してみて、またそれから極簡単なプレス成型用の型を作ったりしてみて、口で教わっただけではやはり解らないことも、何となく理解出来てきた。

 そして確かに今現在の鍛冶場になっているキイロさんの家周りでは、砂鉄だったり鉄鉱石だったりから、大量に鉄を作るのは無理だということも、実感として理解した。

 薄い鉄板を作るために、少しだけ砂鉄からキイロさんに教わった方法で精錬して見たのだが、その最初に加熱した段階で、そこから出て来る熱気に、紫色をした小さな花をつけた草を近づけてみると、まだ持っている手にはあまり熱を感じないのに、みるみる萎れ、それだけじゃなく花の色が変化していったのだ。 

 僕は頭の中の知識から、この結果はやっぱり硫黄酸化物が排出されているのだなと思った。

 そんな知識がなくとも、草が萎れていく様子を見れば、これは畑なんかの近くでやってはダメだと思うのは当然なんだけど。


 僕が今やろうとしているのは、大きな鉄の精錬工場を作るなんてことではない。 自分たちが使う少しの鉄を得ようとしているだけのことだ。

 だから、そんなに神経質に精錬する場所を考えなければならない訳ではないと思うのだが、それでも自分たちの田畑や植林した木からは離れた場所で、地金にするまでの作業はした方が良いだろうとは思う。


 「砂鉄を使ったのだから、あまり硫黄分はないはずなのだけど、やっぱり少しは混ざっているのかな」


 「ん、何、ナリート。 何か言った?」


 つい声に出して、頭の中の知識と実際にしてみて受けた感じを比較していたら、小声だったのだけどジャンに聞こえてしまったみたいだ。


 「何でもない、ちょっと考えていて、独り言」


 大体において、僕の頭の中の知識が正しいとは限らないのだから、何となく違う世界のことのように感じるから、いくらか食い違いがあってもおかしくはない。


 この城下村、城として作り始めた丘の下に広がってきた、人の住む場所で、適当な名前が無いからもう城下村と呼ぶことにしたんだ。

 そうでないと、もう何となく単なる小さな集落という規模ではなくなってきたからか、孤児たちの村とか呼ばれ始めてしまっている。 それは嫌だし、僕は城作りを始めたのだからと思って、僕が強硬に城下村と呼ぶことを主張したのだ。

 丘を城、丘の下は城下村と。 

 「城下と付けば、町だよな」と頭の中の知識が言っている気がするのだけけど、残念ながら町という規模ではないから城下村だ。


 話を戻して、城下村の多くの住居から離れた場所にあるキイロさんの家というか鍛冶場近くでも、原料の砂鉄や鉄鉱石から鉄を作ることは出来ないことは理解できたのだけど、場所の問題以外にもう一つ問題があることが分かった。

 キイロさんは前に僕らに説明してくれた時、「麻糸を作るために、麻をたくさん植えているみたいだから、それで出る麻幹で用が済むか」と呟いていたが、その意味が砂鉄から鉄を作った時に理解した。


 キイロさんは、農具を直したり、自分が持ってきた鉄の地金を使って何かを作る時には、単純に炉で鉄を赤熱させて作業していて、他の物を原料として使うことはなかった。

 それで、その呟いた言葉の意味がよく解っていなかったのだけど、砂鉄から鉄にする工程にはそれが必要だったのだ。

 やってみて、頭の中の知識とすり合わせると、その必要が理解出来た。


 鉄を作るには、原料の砂鉄や鉄鉱石、つまり酸化鉄の鉄にくっついた酸素を除去しなければならない。 それを還元というらしいが、そのためには砂鉄や鉄鉱石を赤熱させるだけではダメで、その状態の原料に一酸化炭素を触れさせる必要があるのだ。 そうすると二酸化炭素が排出されて、鉄が残されるという訳だ。

 その一酸化炭素を得る為に、炭素を不完全燃焼させる必要があって、麻幹はその燃やす素材となる訳だ。


 今はまだ麻は生育中で、糸作りはしていないから、その副産物として出る麻幹はない。 昨年出たのは、とうの昔に日々の暮らしの中で焚き付けとして使い終わってしまっている。

 僕とジャンは、ほんの少しの実験とプレスの型作りでは、普段は煮炊きと冬の室内暖房にだけ使う、柴を使って鉄を作った。

 とにかく木材は、この地では貴重だ。

 僕がこの場所を城作りに選んだのも、丘に木が生えていることが大きな理由の一つだ。

 魔法でお湯を作れても、料理その他に火は欠かせず、その燃料となるモノが必要な訳で、たぶんスライムと一角兎のせいで森や林の少なく草原や荒地の多いこの地方では、特に木は貴重なのだ。

 そのために炭がほとんど使われていないし、金属も貴重になってしまっているのだと思う。


 「よし、竹も植林しよう」


 「ナリート、何を急に言い出すんだよ」


 「いや、要するに鉄を作る時には炭が必要なんだよ。

  だとしたら、木じゃなくたって、竹でいいじゃん。 竹は木よりもずっと成長が早いからさ、竹林作る方が簡単じゃん。

  それにスライムも竹は苦手にしているから、一角兎だけ気をつければいいから、その意味でも楽だよ」


 「竹が炊事の時に燃やされないのは、燃えにくいからだよ。

  鉄を作る時に燃えにくくても構わないの?」


 「炭にして燃やすんだから、大丈夫だと思うな」


 「先に炭にしておくの?」


 「うん、その方が良いと思うんだ」


 この世界では、一般的には炭は使われていないから、炭という物を知らない人が多い。 普通の人が炭と言って思い浮かぶのは消し炭だけだ。 こっちは煮炊きの時の燃料を少しでも節約するため、必要がなくなればすぐに火は消されるので、結果よく見る事になる。

 消し炭も残さないようにピタリと、くべた燃料で料理を終わることが出来ることが、家事上手のベテラン主婦かというと、そんなことはない。 完全に燃やし切るまで使うというのは無駄が多いらしい。 たぶん火を着けるのに魔法を用いるので、それが出来ればそこには苦労しないことが影響しているのだろうと思う。


 ジャンはそうではなくて、きちんと炭という物を知っている。 僕がまだこの世界の鍛治というモノを知らなくて、頭の中の知識だけで出来ないかと考えた時に相談した時に、炭の必要を教えたし、その後キイロさんにも話を聞いているからだ。

 だけどジャンは炭を知識としては知っているけど、使っての違いを実感として知っている訳ではないから、わざわざ先に炭にしておくなどという手間を掛けることの意味を疑っている感じがする。

 まあ僕自身も実際に試してみたりの経験がある訳ではないから、あまり変わらない。


 僕はジャンと共に、その辺の実験も兼ねて、鉄作りを砂鉄が採れる場所近くでしてみることにした。

 城下村内では出来ないし、そこにいると鏡作りを手伝わさせられるから、それから逃げる為でもある。


 僕たちはそこにロベルトも一緒にすることにした。


 ロベルトはウォルフとウィリーと同期なのだけど、他の同期は女性だし、その下のエレナの代は女性ばかり、そんな感じでちょっと存在が浮いてしまっていて、また元からの僕らの中にも入ってないし、マイア、アリー、フランソワちゃんのように何かの中心人物となっている訳でもない。

 キイロさんが来るまでは、最も年長の1人だし、人数が増えてからは色々とリーダー的なことをしていて、決して軽んじられている訳ではないのだけど、大蟻退治のレベル上げでは後回しになってしまったりだとか、何というか今一つ存在感が薄くなってしまっている。

 なんというか、上の立場にも立ち切れないし、後から来たメンバーのように指導を受ける立場でもなく、宙ぶらりんな感じ。

 それでも今までは町に行くメンバーのリーダーを務めたりで存在感を出していたのだけど、それも今では僕らの後に狩をしていた冒険者証を持つメンバーがいるようになったり、誰もが投石器で一角兎くらいは苦にしなくなって、そこでの存在感も薄くなった。

 野盗騒ぎの時には、まだ抵抗する者がいないかを調べるのに、指名されなくてもウィリーとジャンと一緒に自分から出たり、きちんと頑張っているんだけど、なんか影が薄いんだよなぁ。

 で、今現在も仕事が浮いた感じになっていた。 鍛治には魔力が僕らに比べると少ないので呼ばれず、後から来た者と一緒に、そっちの仕事のリーダー的な。 

 でも、もうそれ必要あるの、それに1人だけ年長がいるのは煙たがれる。


 そんなこともあって、ロベルトにも手伝ってもらうことにしたのだ。

 物を運んだり、炉を作ったりは人手が1人違えば大きいし、魔力量の少ないロベルトが毎日目一杯魔法を使えば、良い修行にもなると思う。 歳下が上から目線で申し訳ないけどさ。


 で、まあ、物は試しと、切って放置してあった乾いた竹を持って行って、それと砂鉄を重ねるように炉に入れて、炉の中の温度を上げてみた。

 炉の中の形をイメージして、僕とジャンがメルトの魔法を使い、ロベルトには竹を燃やす必要があるから、ウインドの魔法で風を送り込んでもらった。


 まだ実験段階だから、作る量もごく少ないので、すぐに温度も上げられたし、炉の煙突からは煙も出たので、しっかり竹も燃えていたの思うのだけど、結果は全然ダメだった。

 スポンジ状になった鉄が出来るはずだったのだが、ほんの僅かな塊が出来ただけで、ほとんどは持ち上げると崩れてしまう。 つまり砂鉄のままで、還元出来なくて、酸化鉄のままという訳だ。


 この後、竹の炭を作るのにも試行錯誤したり、竹炭での方がやはり良いことを確認したり、炭の大きさを小さくして混ぜた方が上手くいったりと、少量の実験を続けた。

 うーん、楽しい。

 2-3日がかりの実験を3人で何度も重ねて、意見を出し合って、結果を確かめて、まずは砂鉄から鉄を作る方法を確立していった。


 僕の頭の中には、魔法を使わずに炭を大量に使用して鉄を作る方法はあるけど、魔法も使って作る方法の知識はない。

 キイロさんによると、砂鉄や鉄鉱石から鉄を精錬する段階は、やっぱりこの世界でも炭を大量に消費して行うのが普通らしい。

 だから、もしかすると僕らのやっている鉄作りは、この世界でもオリジナルな方法なのかもしれないと思うと、何だかとてもワクワクした。


 鉄を精錬する前段階の炭を作る時でも、魔法を使って温度を上げるようにすると、頭の中にある炭作りに比べて、ずっと原材料の竹が少なくて済むのだ。

 炭を作るのに、炭にする分とは別の燃料を必要としないで作れるので、ずっと効率良く出来る。 なぜ、この方法で作れるなら、炭がこの世界で一般化していないのだろうかと、考えてしまうくらいだ。


 色々と試行錯誤を繰り返して、実験段階では砂鉄から機織り機の道具に使うための鉄を作りだす方法が確立した。 ただしまだ少量の鉄しか作り出せていない。

 もう少し規模を大きくして、ある程度の量を一度に作れるようにしたい。


 まず僕たちは竹の炭を作るための炭焼き窯を作った。 今までは少量しか作らなかったから小さなのを適当に土魔法で形作って、炭を取り出すには壊して、と簡易的なことしかしてなかったのだ。

 でもある程度の量を作るなら、きちんとした窯を先に作ってしまった方が効率が良い。

 それに僕にはもう一つの目論見がある、きちんと窯を作れば、そこから出る煙を冷やせば竹酢液が採れるのだから、それを逃すのはもったいない。 


 出来た竹炭と砂鉄を混ぜて鉄にする炉も大型化する。

 炭窯も、こちらの炉もまた少し試行錯誤しての後、やっとある程度の量のスポンジ状の鉄を得ることが出来るようになった。

 


 スポンジ状の鉄を、赤熱させて、叩いて、伸ばして、薄い板にして、その板をプレス成型して部品を作った。

 その部品をなるべく均等な隙間になるように固定して、機織り機で問題になっていた部分を作った。 僕たちの会心の作だ。

 他の部分は、そこから比べれば簡単だ。 機織り機は完成した。


 後で、この櫛のような部品、糸の太さで隙間の広さを変えて何種類か作らなければならないことが分かって、大変な作業になることになったのだけど、この時はそんなことは考えもしなかった。

 その時には、その時に作られていた糸クモさんの糸の太さに合わせていただけで、まずは機織り機を完成することが目的だったから。



 糸クモさんの糸を使った布を織るには、流石にそれまで見慣れた布の織り方ではなく、枠を作って、それに縦糸をきちんと揃えて軽く固定して、横糸を通していくような方法が取られいた。

 アリーによると、もっと後の方の糸クモさんの糸が太くなってからは、普通にしている上から糸を垂らすような方法でも織るらしいが、糸が細い最初のうちは、それでは織るのが難しいらしい。


 まずはアリーに作った織り機を試してもらう。

 機織り機に縦糸を最初にセットする時は、糸の一本一本に上下させるための輪にした糸をくくりつけたり(綜絖)、横糸をきっちりと抑える部品の苦心した櫛の部分(筬)に糸を通したり、ちょっと手間がかかる。 横糸は準備はずっと簡単で、棒に糸を巻き付けて、それを縦糸の間を通しやすいように、先が尖った鞘みたいなのに取り付けるだけだ(杼・シャトル)。

 僕らが作ったのは、ごく基本的な綜絖が二つしかない、平織用の高機だ。 綜絖を足で踏んで上下させて、縦糸を1本づつ交互に上下させる。


 「すごい工夫だよ、これ。 今までの倍どころじゃないよ、何倍も速く布を織ることが出来るよ。

  それに綺麗に均一に簡単に織ることが出来る気がする」


 それはそうだろう。 今までの織り方は、幾らかの工夫はあったけど、基本的には縦糸の一本一本に手作業で横糸を通していたのだから。

 綜絖によって簡単に糸を一本おきに上下すれば簡単にその間を通すことが出来る。

 織る速度が違うのは当然だし、縦糸の間に横糸を通すのに糸の選び間違いがないから、織りあがりが均一になる。 加減を均一にするのを気にしなければならないのは、筬で横糸を押さえるというか打つ時だけだ。


 アリーによると、とても薄くて上質な、糸クモさんの糸を使った布が織ることが出来たらしい。

 「高額で売れると思う」とのことで、金銭を得る手段が大蟻退治以外あまりなかったので、それは良いぞと思ったのだが、問題も出た。


 新しい機械で物珍しいからか、とにかく女性陣が、みんなその機織り機を使ってみたくて、一台では到底足りずに、すぐに「もう一台、もう一台」と作ることを要求されてしまった。

 そんなに欲しがられても、鉄を作るところから始めなければならないので、簡単には作れないんだよな。


 それでも、1台、2台と作って行ったのだが、今度はその機織り機を置く場所が問題となった。

 今までは簡単に片付けられる道具だった機織りも、高機という機織り機となると、かなりの大きさとなってしまい、場所を取るし、簡単に片付けられはしないのだ。

 これはもうどうにもならず、機織りのための専用の小屋を建てることになってしまった。


 そんなことをしているうちに、糸クモさんは成長して、糸クモさんから採れる糸も太くなってきた。

 使う糸が太くなると、僕らが作るのに苦労した、櫛のような部品筬も、櫛の歯はそんなに薄くなくても良いようになり、竹を削ったモノで用が足りるようになった。

 どうやら僕たちは、1番最初に作るときに、1番難しいモノを作らなければならなかったようなのだ。

 布作りは主に売るための、糸クモさんの糸を使った物だけでなく、僕らが使う布も織る必要がある。

 それらは今のところ、イラクサの繊維で、もう少しすると麻が収穫出来て、その後には待望の綿が採れる筈だ。 あ、葛の繊維も採れる。

 これらの糸は、綿は細くも出来るかもしれないけど、他はそんなに細い糸ではないので、竹を削って作った筬で用は足りるみたいだ。


 とりあえずは簡単な平織の布で構わないし、機織り機を複雑化するのはまだ後にすることにした。

 機織り機作りはロベルトが自分が主になって出来る仕事が得られたと、熱心に取り組んでいるので、もう任せてしまうことにした。

 正直に言えば、鉄作りがどうにかなった時点で、そして竹を削ってで用が足りるようになって、僕は興味というか情熱を失ってしまった。

 ロベルトが熱心で、ジャンもアリーに言われるからか、結構真剣に取り組んでいるから、僕はもう良いかな。


 あ、竹を結局たくさん使いたいから、竹林を新たに増やすことにして、まずはそれを中心的に進めよう。


絶不調です。

前々話はup先を間違えるし、ストーリー・内容は頭にあるのに文章に中々なりません。

途中の作品、全部停滞中です。

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