レベル4になって新たに
[次のレベルに必要な残り経験値]は、予想通りあと1になった。
すぐにでも次のレベルになりたいから、もう1匹スライムを討伐したいところだ。
でも、僕は我慢して準備をする事にした。
2本持っている竹の槍の1本は、もう3匹のスライムの討伐に使ったからボロボロだ。
それを捨てて、もう1本であと1匹なのだから、スライム討伐をしてしまいたい気持ちになるけど、そういう油断をすると痛い目に遭うのだ。
僕はもう2度もスライムの酸にやられているから、そういう油断を絶対にしないと誓っている。
1日をまた、槍作りに費やして、少し余った時間を、筋力をつける訓練と、敏捷性を高めるつもりの訓練と、槍を正確に突き刺す訓練に使う。
ま、これはスライムを討伐した後も、時間があれば最近はするようにしているのだけど。
そうして1日準備という我慢の日を過ごしてから、僕は残りの1匹のスライム討伐をした。
予想のとおりだとしたら、次の1匹で僕はまたレベルが上がるはずだった。
そして結果は、その予想のとおり、今回も慎重に他から完全に離れているスライムを狙って討伐すると、それ自体はもちろん弱いスライムだったようで、簡単に済ませることが出来たのだが、僕はスライムを討伐した瞬間、自分のレベルが上がったのが、何となく今までの経験から感じることが出来た。
もう3度目の経験だからだろうか、レベルが上がったのは感じたけど、1度目のように気持ちが悪くなるということはなかった。
2度目の時も、1度目のように倒れてしまうことはなかったのだけど、頭の中のグルグルを意識すると倒れてしまいそうな気がしていた。
今の僕は、2度目のレベルが上がった後からは、頭の中がグルグルはしていなくて、多くのところが霧に閉ざされてしまっている感じになっていて、グルグルよりはマシになっているのだけど、やはりそれを意識するのは怖い気がする。
「そういうのは、やっぱり夜、寝床に入ってからにしよう。
自分を見てみて、ゆっくりと考えなければならないことも、きっとまた出てくるだろうし、ポイントをどこに入れるかも考えないといけない。
今度は幾つポイントがあるのだろう。
増えていたら良いなぁ」
僕はそんな独り言を言いながら、孤児院に戻ったのだけど、それから後はどうもそっちに気持ちを引っ張られていて、やることが上の空だったらしかった。
「ナリート、ちゃんと教えて、それ昨日教わった文字」
ルーミエに僕はそんな風に怒られたりしながらも、小さい子を洗ってやったり、おっと忘れちゃいけないと、小さな傷にヒールをかけてやったりして、それからの時間を過ごした。
夜、待っていた誰にも邪魔されない寝床での時間、僕は周りの友達が寝静まるのを今か今かと待っていて、やっとその時間が訪れた。
僕はウキウキと自分を見てみることに神経を集中した。
[全体レベル] 4
良し。 予想していて、感じたとおり、やっぱり1レベルが上がっていた。
[体力] 4
[健康] 4
この2つは今のところ[全体レベル]が上がると自動的に上がっている。
あと上がっているのは何があるかと探してみると、
[空間認識]と[魔力]が3に、 [敏捷][筋力][治癒魔法][石工][木工]が2に上がっていた。
[敏捷][筋力]の2つが上がるのは、あれだけ訓練したのだから、と納得もするし、上がっていて嬉しい気もする。
[治癒魔法]も、小さい子の傷を治して練習しているのだから、上がるのは分かる気もするし、[魔力]が上がったのも、もしかするとそれに関連するのかも知れない。
だとしたら、何であれだけ一生懸命訓練した[槍術]は上がっていないのだろうか。
それに毎日ちゃんと、柴刈りて枝を拾ったりの[採取]もしているし、スライムなどを警戒して、それら危ないモノの気配を探っている。
それって[索敵]しているという事にはならないのだろうか。
それに良く分からない[空間認識]。
これって、たぶん石を拾うのに、どれが良いか何となく分かる事に関わっているのだと思うけど、もうそうだとしても、石を拾う時にしか意識していない。
それなのにきちんと1上がっている。
[石工][木工]も、前と同じで大したことをしていないのに、ちゃんと数字が増えている。
この2つが前と同じことをちょっとしただけで、ちゃんと増えているのも不思議な気がする。
ま、とりあえずそこら辺は考えてどうなることでもないので、次に他の数字も見てみる。
次に僕はちょっと期待していた[残ポイント]を見てみた。
期待は無惨にも簡単に砕け散って、[残ポイント]は前の時と同じ2だった。
増えていることを、本当はすごく期待していたということなのだろうか、僕はすごくがっかりした。
「2しか[残ポイント]がないとしたら、1はいつものとおり[知力]に入れるとして、もう一つはどうしようか。
たぶんもう増えているのには入らないから、増えてなかったのは・・・」
僕は増えてなくてがっかりした[槍術]に入れようかと随分迷ったのだけど、今のところスライム討伐で困っていないし、結局やっぱり強いスライムにはなかなか遭わないようだからと思って、
「うん、やっぱり、[酸攻撃耐性]だよな。
もし本当にそれが上がるためには、訓練する必要があって、酸攻撃を受けなければ駄目なのだとしたら、それは絶対に嫌だけど、そうじゃなくて、その数字を上げておくだけで、もしかして上がるのかも知れない。
それも考えられるんだから、やっぱり[酸攻撃耐性]だよ」
僕は何だか誰かに言い訳して、もう1は[酸攻撃耐性]に入れることを決心した。
ポイントをどこに入れるか決めて決心すると、前の時もそうだったのだけど、猛烈に眠くなって、意識がなくなってしまう。
僕がその眠気に逆らって、何となく最後に見た数字は、なんと27という数字だった。
翌朝目が覚めた時、僕は眠りに落ちる前に見た数字に驚いたことを、すっかり忘れていた。
みんなと一緒に起き出さなくてはいけない時間までの、ほんのちょっとの間に自分で決心して入れる事にした[知力]と[酸攻撃耐性]の数字がちゃんと1づつ上がっているかを確認したいと思って、自分を見てみた。
ちゃんと数字は
[知力] 4
[酸攻撃耐性] 3
に上がっていた。
「うん、ちゃんと上がっているな。
他も詳しく見てみて、確かめるのは、前の時と同じでまた今夜だな」
と思って、自分を見るのを止めようとした時、27という数字を思い出した。
思い出した僕は、急いでもう一度簡単に数字だけを注意して、自分のことを見てみた。
やっぱり27という数字が見つかった。
[次のレベルに必要な残りの経験値] 27
どうやら、次にレベルを上げるには、弱いスライムだと27匹も討伐しないと、今度はレベルが上がらないらしい。
僕はとても盛大にがっかりしてしまった。
僕はその日は、がっかりしてしまって、あまり何もする気にならなくて、柴刈りを終えたら、早々に孤児院に戻って来て、もう完全に毎日の仕事になっている、小さい子の体洗いを手伝うために、水場に行って、小さい子たちをシスターが連れてくるのを待つことにした。
その待っている間に、少し考えてみるつもりだ。
僕は水場からちょっとだけ離れたところに座り込んで、27という数字を考えてみた。
「まあ、ちょっと大変だけど、地道に毎日討伐していけば、届く数字ではあるな」
今現在、3匹のスライムを倒すのに、1日竹の槍を作る日が必要になるから、4日かかっている。
だとすると、単純には36日で次のレベルになるはずだけど、実際は林に行かないというか、行けない日も結構ある。
少なくとも6日に1日は、林に確実に行かないから、それも足すと最低でも42日かかってしまう。
それ以外にも行かない日も、それにその間にはリーダーがいなくなるから、このままだと1人では林に行かなくなるから、そうするとそれも出来ない。
うーん、やっぱり次のレベルになるのはすごく先になりそうな気がする。
「えーと、それにだよ、27匹もスライムを討伐したら、その中には絶対にあの強いスライムもいるよね」
僕は考えてみた。
今まで、12匹のスライムを討伐したけど、その中のたぶん1匹は強いスライムだった。
だとすると27匹のスライムの中にはきっと2匹、下手をしたら3匹の強いスライムがいるかも知れない。
強いスライムに、もしまた当たったとしても大丈夫なように、僕はいつも準備しているつもりではある。
でもやっぱりあの強いスライムとまた戦うのは、やっぱり出来ればしたくない。
「まったく、一番最初は1匹倒しただけで、レベルが上がったのに、次は3匹討伐しなくては駄目で、今回は弱いスライムなら9匹必要だった。
今度は27匹って、せいぜい15匹じゃないのかよ。
あ、そうか、3倍づつになっているのか。
だとしたら、もしかしてその次は81匹になっちゃうのかな。
何だか絶望的な数字になっていくな」
僕は考えるに従って、やっぱりなんていうか地味な気分になってしまって、元気がなくなる感じだった。
そんなことを考えているうちに、ルーミエと共にシスターが小さい子を3人連れてやって来た。
「それじゃあナリート君、今日もお願いね。
私はもう2回同じように小さい子を連れてくるからね、頑張って」
「シスター、それじゃ今日は10人も洗うのを手伝うのですか。
うわぁ、大変だ」
「そうね、ルーミエちゃんも入れると10人になるわね。
ナリート君は今日はもう服を着ているのね、濡らさないように気をつけてね」
「シスター、あたしは自分で洗える」
「そう、それじゃあ、9人ね」
「今日はまだ、僕は自分の体は洗ってなかったんです。
今日は汗をかかなかったから」
「あら、そうだったの。
そういえば、今、ナリート君、随分あっさりと10人ていったわね」
「えっ、だってそうですよね。
シスター、3人づつ3回連れてくるのでしょ、それで9人でルーミエ入れて10人」
「だから、あたしは自分で出来る」
「ルーミエちゃん、今はそれはいいわ。
ナリート君、3人が3回だとなんで9人なの?」
「えっ、だって3掛ける3は9でしょ」
「ナリート君、掛け算なんてどこで教わったの?」
「えっ、えーと、どこでと言われても、普通に知っているだけで、よくわかりません」
「えーと、もしかしてナリート君、掛け算は全部覚えているの?」
「えーと、九九ですか。
九九はちゃんと覚えてますよ、当然です」
「当然て、それじゃあもっと大きい数字の掛け算も出来るの?」
「出来ますよ。 暗算で出来るかというと、なかなか難しくなりますけど、地面に書いて良いなら、ずっと大きい数字でも出来ますよ」
「ナリート君、凄いわね。 何で出来るの?」
「何でと言われても、出来るとしか言いようがないです。
何故かなんて分かりません」
「まあ良いわ。
とにかく、子どもたちをお願いね」
僕はその後は普通に、子どもたちをいつものように洗うのを手伝ったりした。
横着して、自分では着ている物を脱がずにやっていたのだけど、シスターに注意されていたのに、やっぱり自分の着ていた物を濡らしてしまって、着替える羽目になってしまった。
まあ、着ていた物を洗濯できたから良いんだけどね。
僕は夜になって、何となく気乗りしないのだけど、前の晩に次の夜は今度は詳しく自分のことを見ようと決めていたことを思い出して、自分のことを見た。
まずは前回までは新しい項目が増えたので、増えた項目がないかどうかを気にして見た。
「うん、分かっていたよ。
ポイントを増やす時に、どれにするか考えて見た時、増えた項目に気がつかなかったものな。
増えた項目はないよね」
ほとんど分かっていたことだけど、実際にちゃんと確認すると、気分が少し滅入っていた僕は、やっぱりまたちょっと落ち込んでしまう。
もう良いやと思って、今日はそのまま寝ようと思ったのだけど、何となく変わる訳がないからと思って、まともに見ない部分に違和感を感じた。
[名前][家名][種族][年齢][性別][職業]
うん、こんなのは変わりようがないよね。
変わるとしたら年齢だけだけど、僕はまだずっと先だ。
その次は[残ポイント]だけど、これはもう使ってしまったから0だし、と思ったら、その前にもう一つ項目がありました。
[称号]
こんな項目が新たに出来ていました。 しかも、色々と書いてある。
[称号]
孤児院の子、スライム討伐者、幼児の世話係、教師
僕は何なんだこれは、と思った。
孤児院の子、これは確かにその通りだけど、とそこに注目したら、それに対しての簡単な解説が頭の中に浮かんできた。
孤児院の子
両親を失ったので、孤児院に保護されている
面白いと思って次々に注目してみる。
スライム討伐者
スライムを討伐したことのある者の称号
幼児の世話係
幼児の世話を任された者、世話をする幼児の信頼を得ないとこの称号は授からない
教師
自分の知識を他人に分け与えようとする者の称号。 知識を分け与えられた者がその知識を理解しないと、この称号は得られない
もしかすると他の自分で見える自分のことを注目したら、何か解説が出るのかも知れないと思って、色々見てみた。
それぞれの数字が増えていく色々な項目は、その解説も普通というかその項目の名前が意味する通りだった。
ただ、面白かったり考えてしまう項目もあった。
[体力]の項目を注目したら、こんな解説が出てきた。
レベル4、だいたい普通の成人の体力。
ただし鍛えてないので、今現在は思春期の子ども程度の体力。
少し訓練すれば、レベル4の目一杯までは簡単に上がる。
やはりレベルが上がってもそれだけでは駄目で、訓練しなければならないという僕の仮説は正しいようだ。
それ以上に問題を感じる項目があった。 それは[健康]だ。
健康もレベル4なのだが、これに注目すると、何故か黄色い文章が頭の中で浮かび上がってきた。 1つは、
栄養状況に問題あり、様々な栄養が足りてません。
という文章だ。
そしてもう1つ
警告・寄生虫に犯されています
という文章だ。
僕は何故か、うーん、どっちもこの世界の孤児院ではありがちな話だな、と思った。
だけど自分のことだから、どうにかしないといけないと考えた。




