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呼ばれて・・・

 少しして、僕はシスターと共に、領主様に呼ばれた。

 これだけのことをしたのだから、何かしらの言われるだろうなあとは思っていた。

 ただ意外だったのは、今回の件では僕よりも主体的に指揮を執っていたウォルフとウィリーの元衛士の2人が呼ばれることなく、僕だけだったことだ。

 シスターが呼ばれるのは、僕らの城で唯一の大人で別格だから当然だろう。 あ、違った、もうキイロさんも成人しているから唯一ではなかった。


 僕とシスターは、領主様とその側近の人たちに、今回の件がその後どうなったかを聞いた。

 まずは枝葉のことから語ろう。


 神父様と一緒に護衛としてやって来た2人だが、彼らはやはり今回の野盗たちの仲間であったらしい。

 ただし、彼ら2人は今回の僕らの城の襲撃には加わっていなかった。

 僕は2人が加わっていて、門のところの作りが以前と異なっていることを警戒して、野盗たちが簡単に門内に入って来ない事を、今回の殲滅作戦のあり得るかも知れない一番の弱点だと思って心配していたのだけど、彼ら2人が参加していなければその心配はない訳で、不要な心配だった訳だ。

 さすがに神父様が、この襲撃にまで加わって来るとは僕たちは考えていなかったから。


 彼ら2人は、前に来た時に、ちょっと暴力に訴えようとしたのを簡単に抑えられてしまった事で、どうやら襲撃に加わることを躊躇ったらしい。


 「後から仲間に文句を言われるかもしれないと思いながらも、襲撃には加わらなかっただけ鼻が利くというか、勘が良いのなら、ここで結果を待ったりしないで、逃げておけば捕まらずに済んだかも知れないのにな。 中途半端な奴らだ。

  まあ上手く行けば吸える甘い汁の魅力に、逃げ出す選択が取れなかったのだろう。

  それに自分たちは偽神父と一緒に行動しただけだから、なんて甘く考えていたのかも知れないな」


 領主様が小物を馬鹿にするような調子でそう言うと、側近の人も言葉を足した。


 「自分の身の危険を察知する力は優れているのでしょうが、そこからどう対処するのが最も良いかを考える頭はないのでしょう。

  もっともそれが出来れば、冒険者としてもっとしっかりと活躍出来て、野盗の仲間になんてなっていなかったでしょう」


 うん、こっちもかなり辛辣だ。


 それでもあの2人は、実際に暴力行為には至っていないので、野盗の仲間としてはかなり罪が軽く、重労働の刑で済んだとのことだ。

 真面目に労働に勤しんでいれば、世間に出れる日もあるかも知れない、という刑だ。

 この世界は野盗の類いには厳しい刑が処せられるのが一般的で、ほとんどの場合は死罪だ。

 それもあって、もしもの場合には野盗たちは全滅覚悟で徹底して戦ったりするらしい。

 まあ今回の場合は、僕らは殲滅してしまって、この2人の仲間たちはもう死んでいるのだから、二重の意味でこの2人は幸運だっと言うべきだろう。


 「で、問題は、元お前らの所の院長だった偽神父だ。

  こいつは偽物なのは明白ではあるのだが、持参した教会本部の任命書は本物だった。

  さすがに勝手に裁く訳にはいかない」


 僕たちの村の神父様は、領主様からの召喚状に、

 「一体どういうことなのですか?」

と、最初は抵抗を見せた様だが、あの2人も捕まり、野盗たちが全滅したことを伝えられると、覚悟したようで、素直に町にやって来たらしい。


 偽神父の取り調べには、町の孤児院の院長でもある老シスターだけではなく、他の村の神父様も、それに立ち会う為にやって来たらしい。

 偽神父は素直に取り調べに答えたとのことだ。


 現実的に言えば、王国内屈指の高位のシスターである老シスターが取り調べの場にいるのだから、嘘や誤魔化しの言葉は全く無意味なのだ。

 シスターという[職業]に固有の技能である『真偽の耳』を老シスターはもちろん使える。

 そして老シスターがとても高位なのは偽神父だって良く知っている。

 となると、偽神父が嘘や誤魔化しを言っても意味がないことを本人も解っているから、素直に応じるしか道がないのだ。


 偽神父は大してレベルが高い訳ではないから、僕らのシスター・カトリーヌならば当然老シスターと同じように、偽神父の言葉の真偽は判るのだけど、他のシスターだと判るかどうか分からない。

 実際は僕らのシスターだけじゃなくて、他にも偽神父よりレベルが高いシスターはいるのではないかと思うけど、それが分かるのは、僕やルーミエという例外を除けば、その場に集まった他の村の神父様たちだろう。 確か巫女だか神子だかという[職業]の人は、この領内にはいないはずだから。

 そして老シスターをはじめ、集まった神父様たちは、今回の件での偽神父のことを、あまり広めたくはないという意識があった。

 その罪を有耶無耶にする気は毛頭なかったが、神父が偽神父であった事実は広めたくなかったのだ。

 堕ちてしまった神父は、元から偽物だったというのは、広く知られても良いことかどうか、判断が難しい所だったのだ。

 僕からしてみると、神父が何らかの誘惑に負けて堕ちてしまったというよりは、その神父は元々偽物だったという方が外聞が悪くないと感じるのだけど、そういった物でもないらしい。


 「まあどちらにしろ、偽神父に関しては、王都に護送されて、教会本部でもう一度厳しく詮議されて処分される事になる。

  こちらでの取り調べに関しては、私からではなく老シスターと集まった神父たちが詳しい報告を本部に公式に伝えることになる。

  そしてその写しは、こちらへも提出されて、保管しておくことになる。

  それぞれの報告書に、私の確認の署名も入れるから、教会本部としても隠蔽したり曖昧な措置は取れなくなる訳だ。

  まあ、あの神父を送って来た者は、どういう意図があったか知らないが、この結果に焦るだろうよ」


 こういった方策は、老シスターの献策ということだから、もしかすると老シスターは、偽神父を送ってきた者もその意図も、ある程度見当がついていたのかも知れない。


 「それでお前らのいた村の教会の神父がいなくなってしまった訳だ。

  誰かしらがそこの責任者に新たにならないといけないのだが、俺としてはカトリーヌがシスターに戻って、やってくれれば良いと思ったのだが、反対された」


 「当たり前です。

  私がシスターに戻って、あの村の教会の責任者になんてなったら、今孤児院を中心になって運営している見習いシスターの立場が無いじゃないですか」


 「いや、カトリーヌ、別にあの娘は気にしないと思うぞ。 お前のことを尊敬しているらしいしな」


 「それだけじゃないです。

  ただでさえ教会としての権威が失墜しちゃう行為をしでかした訳ですから、教会としては、きちんとした神父に入ってもらって、きちんと立て直す必要があるのは当然です」


 「まあ、そうなるよな。

  とりあえず他の村の神父を配置換えして、即座に回すようだ。

  抜けてしまった村には、大急ぎで新たな神父を派遣してもらうことになるようだ。

  教会としては、それしかないだろうな」


 集まった神父様たちは、その辺りの事でも大騒ぎだったらしいが、老シスターはそこは関与しなかったらしい。


 「誰が行ったって同じこと。

  あの村は、シスター・カトリーヌとルーミエ、ナリート、そしてあの村長の娘のフランソワといったかしら、あの子たちの影響が強過ぎる。

  だから、あの偽神父も道を踏み外したのかも知れない。

  それを思い知るだけのことでしょう」


と、騒ぐ神父たちを苦笑して見ていただけだったらしい。 側近さんの弁によるとだけど。

 僕らはどうだか知らないけど、あの村ではフランソワちゃんの影響力は絶大だし、シスターはあの村じゃなくたって聖女として絶大な影響力だよ。

 でも普通に神父様として過ごしていれば、普通に神父様として村人に挨拶してもらえたり、孤児院の子たちにも院長として接してもらえると思う。

 思い知るというようなことはないと思うのだが。


 「それでだナリート、ちょっと内緒話をしよう。 カトリーヌは聞こえていないということにしてくれ」


 えっ、何なの。 シスターには聞かせるけど、聞かなかったことにしてくれと、最初から言っているのかな。

 僕は何だか変な話だと思って、少し緊張して次の言葉を待った。


 「ナリート、お前たち、みんな寝込んだんだってな。 そういう報告が来ているぞ」


 「はい、まさか全員寝込む羽目になるとは思いませんでした」


 「まあ俺は、あの殲滅された様子を見て、その方法を聞いて、そういう事態もあり得るかな、とは思っていたんだ。

  お前の[職業]罠師の特別な力が作用してしまったという訳だろ」


 領主様は僕の[職業]罠師の特別な部分を知っていたから、みんなが寝込んだと聞いて、すぐにその理由が想像できたらしい。


 「あっ、私まで寝込んでしまったのは、そういう事だったのね。

  私はみんなの前では言えないけど、さすがにあの惨状は野盗とはいえ、心に来るモノがあって、そのショックでみんなと同じように熱を出してしまったのかと思っていたわ」


 シスターは僕らよりも、野盗たちを殲滅した時の惨状にショックを受けていたのかも知れない。

 僕は自分の作戦で起きた事だから、その惨状にショックを受けていないと言うと嘘があるけど、受け入れなければいけないと考えていた。

 それに自分の気持ちよりも、ルーミエたちが自分たちのしたことに大きなショックを受けていないかが気になっていたのだけど、みんなは逆に野盗なのだから当然の報いだというスタンスだった。

 なんて言うか、自分たちが苦労して築いたモノを守るためには、決して怯まない、妥協しない、徹底的にやるという気持ちが勝っていた感じだ。

 僕はどこか孤児だったという自分の立場に傍観者的なところがあるのかも、と考えさせられる事柄だった。

 周りのみんなは、孤児であった自分たちが、これから生きていくためにした努力を踏み躙られる様なことは決して認められないのだ。


 「ああ、カトリーヌ、確かにそれもあるだろうよ。 お前が考えていたことも、俺も間違いではないと思うぞ。

  だが、ナリート、お前は、そしてたぶんルーミエは、みんなが揃って寝込んだ理由に気がついたな」


 「はい、僕が一番長く寝込んでいたので、ルーミエが先にみんなのレベルが上がっているのに気がついて、それで、みんなが寝込んでしまった原因に気がつきました。

  直接攻撃には参加していない者もいたのですけど、あの場所の土塁を作ったりは、それこそ全員が目一杯頑張って、野盗たちがやって来る前に作り上げようとしましたから。

  そして、それに間に合いましたし、今考えれば、直接攻撃に加わらなかった人も、門の扉開け閉めや、橋の上げ下ろしをしていましたから、罠に積極的に関わったことになったのかも知れません」


 「ところで何だ、お前が一番長く寝込む羽目になっていたのか?」


 「はい、ちょっと恥ずかしい気もするのですけど、僕が一番寝込みました。

  この春から来たのとかも、一気にレベルが2上がってて、2日程寝込んだんですけど、ウォルフ、ウィリー、エレナ、ルーミエ、ジャンといった最初からで、なおかつレベルも高かった人なんかはレベルが1しか上がらなかったし、急にレベルアップすることに慣れていることもあって、半日とか1日で済んでました」


 「でも、お前は一番長く寝込んだ訳か。 お前はどれだけ上がった?」


 「はい、僕も2上がりました。

  僕も驚きましたが、最初にそれに気付いたルーミエが、とても驚いていました」


 「ナリート、あなたレベルが2も上がったの?

  あなたは私たちの中で、元々一番レベルが上だったのよ」


 「はい、それで驚いたんです」


 「まあお前のレベルが上がったことは、問題じゃない。

  それによって、というか、全員がレベルが上がったこともあって、お前は理解したことがあるな」


 「はい」


 「つまりお前は、俺がなんでこんなにレベルが高いかの理由も見当がついたという訳だな」


 「はい、ずっと疑問に思っていましたけど、その理由が推測できました。

  領主様が平民の出で、[職業]は村人だというのに男爵という位についていることも含めて、何となく見当がつきました」


 「うん、お前の想像の通りだ」


 シスターが良く分からないという顔をしていたら、領主様は「聞こえていないということにしとけ」と言ってたのに、説明した。


 「つまりな、儂は、昔、とても高レベルの、国を傾けかねない犯罪者を退治したことがあるのだよ。

  その組織を潰していく過程でも、首謀者を斬ったことによっても莫大な経験値が入って、それでレベルが大きく上がったという訳なのだ。

  カトリーヌ、問題点が理解出来たか?

  経験値は、モンスターを退治するだけではなく、人間を殺しても入ってくる。 そして人間は普通にそこらにいるモンスターよりもレベルが高く、入ってくる経験値も多いという訳だ。

  それだけじゃない、これは今現在はまだナリートも気付いているかどうか分からないが、どうせそのうちに気がついてしまうだろうから言ってしまうが、人間はレベルが高くったって、殺しやすい。 今回のようにな。

  まあ人間が殺しやすいという訳でも本当はない。 同じ人間だから弱点が良く理解出来ているという方が正しいのだろう。

 大蟻は退治しにくいが、ナリートたちにとっては今では良い経験値稼ぎにしかならなかったり、竹の盾のおかげで安全に兎が狩れるようになったりと、弱点を上手く突けるとモンスター退治も一気に簡単になるからな」


 シスターも理解が追い付いたようだ。

 それを見て、領主様は、これが今回僕を呼びつけた理由なんだな、と思うことを言った。


 「ナリート、このことを知って、良いことを知ったなんて風に思って、野盗狩り、犯罪者狩りをしようなどとは考えるなよ。

  同じ人間だから、弱点は解っているということは、向こうだってこっちの弱点を理解しているということなんだ。

  つまり、モンスター相手なら、こっちのレベルが高くなっていれば、低レベルのモンスターと戦って死ぬようなことはほとんどないだろうが、人間相手ではそうはいかないのだ。

  良い経験値稼ぎになるなんて甘いことを考えていると、逆に相手の経験値になるぞ」


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