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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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布作りを本格的に

今回はちょっと短めです。

 キイロさんが来てくれたことで、これから徐々に金属製の道具がもっと使える様になる。

 その原料である鉱石や、砂鉄などといった物を集めて運んだり、またキイロさんの指導の下に行う様々な炉作りなどは、やはり力仕事の部分が多いので、男性陣の仕事となっている。


 意図した訳ではないのだけど、ここでの暮らしに必要な仕事は、かなり男女間の分業制が進んでいる気がする。

 一つには孤児院時代に、男子は村の外に柴刈りに出て、女子は農作物の収穫をしていたという分業がなされていたからかも知れない。

 もちろん共同で行う作業も多いのだけど。


 キイロさんの指導の下に作っている炉は、最初の炉が出来た後は、なかなか次の炉が完成しない。 やはり金属製品を作るための炉というのは色々と難しいのだろう。

 僕の頭の中には、色々な形の金属を精錬したり、形を作ったりするための炉が、知識としてあるのだけど、今キイロさんの下で作っている様な魔法の利用を前提とした炉なんて、当然のことながらない。

 もしかしたらこの世界の炉を、実際に体験すれば、頭の中の知識と照らし合わせて、改良することが出来るのではと、ちょっと自分のことながら期待している部分もあって、早く次の炉が稼働し出さないかと思っているのだけど、なかなか時間が掛かっている。


 「あのなあ、今度作っているのは、俺も今までに見たことない規模の炉なんだ。 そう簡単に出来る訳ないだろ」


 「えっ、そんな大規模なモノを作ろうとしているのですか?」


 「お前らの使える魔力を見ていれば、作りたくなるだろうが。

  一人一人の使える量もすごいと思うが、それ以上に使える人数が沢山いる。 それならどんどん交代で炉の温度を上げていけるからな。 大きくても十分に使えるはずだ。

  それに一度に大量に作る方が効率が良いからな。

  とはいえ、炉が出来上がっても、実際使ってみて上手くいくかどうかは、その時になってみないと分からないけどな。 まあ、俺は上手く行くと思っているけど」


 キイロさんもここに来て、今までやってきたことをそのまま踏襲するだけでなく、なんだかもっと大きな夢を持ったようだ。


 それから植林をしたり、今急いで行っている一番外側の土塁の嵩上げとそれと並行して行っている堀の拡張なんかは、やはり力仕事が多いので、男性陣が主に関わっている。



 一方の女性陣も孤児院にいた昔と同じように、作物の収穫をするだけでなく、そこでも行っていた薬作りもやっている。

 それはそうだよね、シスターが居て、ルーミエが居て、薬作りをしない筈がない。


 以前の薬作りは、そのほとんどが寄生虫対策の虫下し薬作りだったのだが、この領内はフランソワちゃんの進めた農業改革の効果か、寄生虫が下火になり、以前ほどは虫下し薬の必要がなくなり、他の薬を作ることの方が多くなった。


 薬の原料となる草などは、以前は林の中や周りの草原を探し回ったりしていた。

 大体において、そういった有用な草の生えている場所なんていうのは、見つけた人が秘匿していて、そういう人が温情で教えてくれない限りは、自分たちで見つけなければならない。

 また、多くの人に知られている場所は、公式ではないけど、その場所の占有権を持つ人が決まっていて、勝手に他の者が採取することを禁じていたりする。

 それだから薬を作るための原料を得ることは意外に難しくて、僕たちのいた孤児院では、林で見つけた木の皮から作る虫下し薬以外は、売ることが出来るほどの量を作ることが出来なかった。

 シスターとルーミエという、その活動にとても優れた[項目]を持ち、なおかつ知識を持つ者がいても、それを即座には活かして行けなかったのだ。


 食中毒の病が流行った後、ルーミエは自分が主導して、小さな畑を持った。

 そこにルーミエは、それまでに色々な場所で見つけた、様々な薬草や薬樹を移植したのだった。

 エレナとエレナの代の女性を伴って、どこかに出掛けたかと思うと、そういったモノを、枯らさぬ様に根の回りごと採取して来たりしている。

 ルーミエは、大アリの退治で色々な所に足を運んでいるし、この場所を選定する時にも僕と一緒に歩き回っていたので、そういったモノがどこに有るかにたぶん一番詳しくもあっただろう。


 とはいえ、畑に移植したからといって、すぐにそれらが増える訳もなく、今の薬の生産の主力は、虫下し薬を除けば、葛根湯がほとんどだ。

 葛根湯なんて主成分は葛の根なのだから、そんなのはどこにでもあるから売れるのかと思うのだが、それを掘って綺麗に洗って、細かくして、乾燥させるという手間があるので、しっかりと需要があるのである。

 それに葛根湯は風邪薬でもあり、お腹の薬にもなるという万能薬で需要が高い。


 それにしても葛は万能な植物だと思う。

 根は薬にもなれば、葛粉という粉も作れる。 蔓は繊維にして糸になり布になる。 花も美味しく食べられるし、葉は良い腐葉土となる。

 ただし、スライムや一角兎の大好物でもあって、下手をするとそれらのモンスターを呼び込むことになりかねないのは、もう他のことを圧倒する弱点だ。


 それから糸クモさんたちの世話も女性陣が主に行っている。

 まずは餌となる葉を採ってきたり、排泄物の処理をしたりということだ。 気候によって風通しを変えたり、もう少し糸クモさんが大きくなると、糸クモさんが外に出たり入ったりに気をつけたりもしなければならなくなる。

 糸クモさんの餌になる木を増やすための植林は、これは男性陣が行っているし、糸クモさんが脱皮して巣を作り直す時に、巣作りの為の格子を替えたりの時は男性陣も手伝っているけど、日常のほとんどのことは女性陣がやっている。


 こうして今年は少しづつ糸クモさんの不要となった巣を利用しての、糸クモさんの糸とそれを織った布の作成が始まっている。

 その中心というか、指導はもちろんアリーだ。

 糸クモさんの巣を利用した糸とか布は、僕の頭の中にある知識では似たモノはあるけど、それ自体はないので、僕は今は興味深くそれを見ている。

 頭の中の似たモノと、同じ部分と違う部分をきちんと把握すれば、頭の中の知識を利用出来ることもあるのではないかと思っている。


 そう、もちろん糸や布を作ることは他にもしている。

 昨年もやっていたイラクサを使った糸と布作りはもう始まっているし、今年は去年に比べるとずっと沢山の麻の畑も作った。

 麻は、その実も栄養価が高い食物となるので、多く植え付けている、あまり手もかからないしね。 ただし収穫して、その皮を剥いだりして糸にする時は結構大変なので、これは全員で一斉にすることになる。

 ま、葛の蔓から作る糸と共に、麻から作る糸も、今はまだその時期ではない。 それは綿花を利用した糸作りも同じだけど。


 「しかし、3年目ともなると、なんだか植えた作物が増えたなあ。

  俺はここでは自分たちが食べる作物だけを、なんとか飢えない程度作っていくのだと思っていたんだけどな」


 ウォルフが現状を見て、そんな感想を漏らした。


 「僕だって、そう思っていたよ。

  最初の計画通りの僕たち6人、いや14人で丘の上だけでやっていたら、今だってそんなものだと思うよ。

  人数がこれだけ増えると、やっぱり出来ることが増えるから、それ以上のことが出来る様になる」


 「ま、そのお陰で、足りない分は大アリ退治の褒賞で買って賄えば良いやという当初の目論見はあっさりとダメになったけどな」


 僕の言葉に、ウィリーが付け足した。


 「主食が割と楽にこの人数分賄える量が採れる様になったのは、田んぼが上手くいったのが大きいんじゃない。

  秋麦の収量も、植え方を変えたら多くなったし、粒も揃った。

  それで、他の作物も多く植える余裕が出来た。

  水路を作ったのも大きかったわね」


 フランソワちゃんが農作物の作付けに関して、自分の意見を言ったが、その通りという感じだ。

 ただし、水路は完成してない。 最終的には広げた堀に水が溜まるようにしたい。


 「でもまだ、ちょっと何か悪いことがあったら、それに対処できないレベルだよ。

  もう少し、もしもの時のための備蓄が出来る様にしないとダメだと思う。 その為の蔵ももっと必要だし」


 ジャンが一番の慎重派かな。


 「それにしても、ナリートの言う城という規模じゃ無くなってきたわね。 まだ村という規模まではいかないと思うけど、確実に部落というような規模にはなったわね。

  それでナリートは、糸とか布で、お金を得ようと考えているのかしら?」


 シスターに、そんな指摘をされてしまった。


 そう僕たちは何とか、ほぼ自給自足が出来る程度まで、衣食住の問題をクリア出来るところまできた。

 だからといって完全に自分たちだけの小さな世界で生活が出来るかというと、やはりそういう訳にはいかない。 どうしても足りない物はまだまだあるのだ。

 一番の大きな問題は、塩は買わねばならないのだ。 どっかに岩塩ないかな。


 それ以外にも、やはり町から定期的に買い入れている物はあって、その代金のほとんどが今までは大アリ退治の報奨金を充てていたのだけど、人数が増えたことによりそれだけでは足りなくなってきているのだ。

 お金を得る手段として、白い砂を町に運んで売ったりはしているのだけど、それで得られるのは微々たるモノだ。


 「はい。 アリーが糸クモさんの糸を採って布を作る方法を知っていましたし、綿花の栽培も始めました。

  この辺は、糸や布はほとんどがイラクサや麻を使った物。

  糸クモさんの糸を使った物や、綿花を使った物は絶対売れると思うんですよね」


 「綿花を使った布というのは、私は分からないけど、糸クモさんの布というのは、高級品として私も見たことがあるから、きっと売れると思うわ。

  これだけ人数が増えると、売れる物も作らないと、やはりやっていけないから、早く上手く行く様にしたいわね」


 「頑張ります」


 シスターの言葉に、アリーが緊張した声で応えた。

 糸クモさん関係はアリーに頼らなくてはならないけど、それ以外はみんなですることだから、そんなに緊張する必要はないと思うのだけど。


 それにしても、糸繰りだとか、布を織る方法だとかは、みんながしている方法はあまりに素朴過ぎて効率が悪過ぎる。

 この辺は僕の頭の中の知識で、もっと効率よく進められると思う。 だんだん試して行きたい。 まずは手回しの糸繰り機と、機織り機だな。


 「薬作りももっと頑張って、沢山売れる様にするよ。

  シスターの指導で作った薬と言えば、買ってくれる人は沢山いると思うから」


 ルーミエはシスターの名声を利用する気満々の様だが、シスターはやめて欲しいという顔をしている。


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