表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/177

再開と新たに2つ

 僕はルーミエに字を教える事になった次の日から、よしスライムの討伐を再開するぞと決心した。

 ルーミエに字を教えれば、シスターから本を貸してもらえる事になって、僕は気分がとても変わって、今ならもう出来ると思ったのだ。


 一つにはレベルが上がってからの練習で、少しの努力でどんどん体力は増えたり、槍を鋭く突くことが出来るように実感できていた感覚が、無くなってきたということもある。

 数字が上がったり、新たに見えるようになった項目に該当する事柄は、なんとなく簡単に上手くなったり、より力強くなったりしている感覚なのだが、もう練習してもそういう感覚がなくなって、普通に練習しているのと同じ感じになっているのだ。


 僕はそれをレベルが上がる事によって、簡単になる分がもう終わってしまったのかな、と考えた。

 だから練習を続ければ、少しづつは伸びるのだろうけど、レベルが上がった時のようにはいかなくなってしまったのだと思った。


 普通だったらそれで終わりだと思うのだけど、今の僕は自分が見えている。

 そしてあとたぶん4匹のスライムを討伐すれば、またレベルが上がることを僕は分かっている。

 だとしたら、そりゃ簡単にもっと強くなれる、レベルを上げようと思うに決まっているじゃないか。

 だって、レベル2のスライムにまた遭う可能性よりも、たった4匹だと遭わない可能性の方が大きいと思うし、それに練習をしたから、今度はレベル2のスライムでもこの前よりは簡単に討伐できるはずだとも思ったのだ。


 それでも僕は慎重に万全を期した。

 その日はスライムの討伐はしないで、新しい槍を2本作った。

 僕は気がついたのだった。 もし戦っている最中に槍を壊してしまったら、その時にはもうただ逃げるしかないことを。

 でも2本持っていれば、1本を駄目にしてしまっても、まだ残してあったもう1本を拾えば、逃げずに戦うことができる。

 その日ルーミエには、まず言葉を覚えるために僕がシスターに教わった文章を教えた。

 僕は、その日はその文章を覚えさせるだけのつもりだったのだけど、ルーミエは物覚えが良くて、簡単にその文章を覚えてしまったので、何文字か教えようと思った。

 しかし、僕はルーミエにその日は文字を教えることが出来なかった。


 僕は全く考えていなかったのだけど、ルーミエは字を読めなかったけど、字という物があるのは認識していたのだが、そこまでで、当然のことながら字を書いたことはない。

 唯一の例外は、この前シスターに教わった自分の名前だ。 だがその時は小石で地面に書いた。

 今回僕は小さな棒を持って、その棒で書くことにしようと考えた。

 ところがルーミエは今まで、棒で何かを書くという動作は、せいぜい棒を持って地面に線を引いたという程度しかしたことがなくて、形が複雑で細かい字とまではいかなくても、少し複雑な形を書いたことなど全くなかったのだ。

 僕はまず地面に字を書く練習をさせる以前に、ルーミエに字を書く時の棒を作り、持ち方から教えなければならないのだと気が付いた。


 僕はルーミエに地面に字を書くのに、ルーミエの手の大きさに都合の良い棒をまず作ってやらねばならない。

 僕は竹を切ったりするのに使うために加工した、石のナイフとも呼べないような道具をいくつか、草をあんで作った袋に入れて持ち歩いているのだが、それを使って適当な枯れ枝を切ったり先を削ったりして、少し小さな字でも書けるように、先を尖らせた棒を作ってやった。


 ルーミエは僕がすることに興味津々で、袋から石の道具を取り出す所からずっと、大きく目を見開いて僕のすることをじっと見ていた。

 僕が出来た棒をルーミエにやって、教えるための自分の分も作った。


 さて用意ができたので、字を教えるか、と思ったら、ルーミエがとてもキラキラした目で僕を見ている。

 何なんだと思ったら。


 「ナリート、それ凄いね」と、僕の持っている石のナイフに目が釘付けだ。


 「ルーミエ、これが欲しいの?」


 「うん、それって、大人の人が持っているナイフみたいに、物が切れるんだね。

  ナリート、それ、自分で作ったの?」


 「ああ、僕たちはナイフなんて持たせてもらえないからな。

  硬い石を見つけて、それを割ったりして作ったんだ」


 「あたしもそれ作りたいけど、あたしは村の外に出してもらえないからなぁ」


 「なんだルーミエ、これが欲しいのか。 欲しいならやるよ。

  僕は幾つか作ってあるから」


 そう思ってルーミエに石のナイフもどきをあげようとしたのだが、その時に気が付いた。

 「あ、でも、字を書くための棒はともかく、これは何か入れ物がないと持ち運べないからダメか」


 「ナリート、その入れている袋はどうしたの?」


 「ん、これも自分で作った。

  林にある蔓を取って、それを叩いて柔らかくして、編んだんだ」


 「作るの難しいの?」


 「ちょっとだけ根気がいるけど、別にそんなに難しくはないかな」


 ルーミエは少し考え込む感じだったが、それが終わったという感じで言った。

 「分かった。 私もその袋作るから、袋が出来たら、その石も一つ頂戴」


 袋が出来たらって、どういうこと? と思ってルーミエに聞こうと思っていたところにシスターがやって来た。

 約束の本を持ってきてくれたのだ。


 「ルーミエちゃん、ナリート君はちゃんと約束通り字を教えてくれた?」


 「字はまだ教えてもらってない、でも字を覚えるための言葉を教わった」


 「ああ、なるほど、そういう事か。

  ナリート君、ちゃんと考えているんだね。

  はい、それじゃあ、約束のこの物語の本を貸してあげるわ。

  まずは簡単な楽しいお話だから、自分で読むだけでなく、この子たちみんなに読んであげてね」


 僕は待望の本をシスターから貸してもらえたが、それと一緒に小さい子たちに本を読んであげるという役まで押し付けられたみたいだ。

 何だかシスターに上手に利用されているみたいな気もするけど、本を貸してもらえる事に比べれば、全然問題にならない小さなことだ。


 そんなことを僕が考えていたら、ルーミエがシスターに言った。

 「シスター、お願いがあるの」


 「うん、ルーミエちゃん、どんなお願い?」


 「あのね、お仕事がない日に、ナリートと村の外に出てみたいの」


 「村の外に? 村の外は魔物が出たりして、怖いんだよ。

  何のために外に出たいの?」


 「あのね、シスター。

  ナリートに字の練習のためにって、この棒を作ってもらったの。

  ナリートは石を割って作った道具で、これを作ってくれたのだけど、私も自分でも作れるようになりたいの。

  その石の道具はナリートが一つくれるって言うのだけど、まだ入れておく袋もないから、もらえないの」


 ルーミエは僕の袋をシスターに指し示しながら、そう言った。


 「だから、袋をどうにかしないとと思ったの。

  それでナリートに聞いてみたら、その袋も自分で作ったっていうから、作るのは難しいか聞いたら、難しくないって言うから、自分も作りたいと思って。

  そのためには、外に出て、材料を見つけてこないと作れないから」


 「えーと、ナリート君、ちょっと見せて」


 僕は仕方ないから、置いてあった袋をシスターに渡した。

 シスターは袋を見て、それから中に入っている石も見た。

 そうしてあらためて、側に置いてあった竹の槍も見て言った。


 「そうよねぇ、竹の槍を作るには道具が必要よね。

  今まで簡単に見過ごしていたわ」


 そうシスターは呟くと、あらためて僕の方を見て言った。


 「ナリート君、竹槍はその石の道具を使って、作ったのね。

  字を書くのに使う棒も、その石の道具を使って形を整えたのね。

  この袋はどうやって作ったの?」


 「えーと、林の中にある蔦を取って、それを叩いて柔らかくして、それから編んで作りました」


 「うーん、器用ね。 そんなの誰に教わったの?」


 「えっ、こんなこと誰でも知ってるし、出来るよ」


 「ここら辺の子はそうなの?

  私はここの出身じゃないから、ナリート君が自分で作ったというから、ちょっとビックリだよ。

  まあ、そういうことか。

  うーん、他の男の子たちも外に出ているのだから、彼らより強いナリート君が一緒なら大丈夫か。

  ルーミエちゃん、それでは畑のお仕事がない日に、ナリート君と一緒だったら外に出ても良いよ。

  その代わり絶対にナリート君から離れたりしたら駄目だよ。

  ナリート君もルーミエちゃんを、ちゃんと守ってあげてね。

  油断して、前みたいなことには絶対ならないんだよ」


 どうやら僕はルーミエを連れて、外に出るということもしなければならなくなってしまったようだ。


 ルーミエを連れて外に出るのは、畑仕事が休みの日を待たなくてはならないので、すぐではない。

 それは数日後になる予定だった。


 僕はそれから3日はスライムを1匹づつ討伐した。

 思った通り、強いスライムには出会わなかった。


 その3日の間、ルーミエに字を教える以外に、僕は密かに別のこともしていた。

 何をしていたかというと、小さい子の体を洗うのを手伝ってやりながら、ヒールの練習をしていたのだ。


 きっかけは、シスターがヒールを使うのを見たことだ。

 洗い場に小さい子を連れてきたシスターは、転んだか何かしてかなり血が出ている怪我をした子がいて、その子に対して傷口を洗ってやってから、ヒールを使ったのだ。

 それを見てた僕は、そうだヒールの練習に小さい子に使ってやれば良いのだと思ったのだ。

 ヒールを使うために、自分に傷をつけるのも嫌で、ヒールの練習はなかなか出来ないと思っていたのだけど、ヒールは自分にかけるだけではなく、他人にかけることも出来ることを僕は忘れていたのだ。


 「一番最初に、足を冒険者さんに治してもらったのだし、シスターにもかけてもらったことあるのに、なんで他人にかけてみようと思わなかったのかな?」


 自分でも小さい子にかけてやろうと思った時に、なんで今まで考えつかなかったのだろうかと、ちょっと不思議だった。


 僕は小さい子が体を洗うのを手伝ってやりながら、気が付いたらヒールをかけてやっている。

 小さい子はよく見ると、足の膝小僧を擦りむいたり、手のひらや指を何かで切ったりと、小さくて、放っておいても治るだろうけど、よく傷を作ってくる。

 僕は体を洗うのを手伝ってやりながら、そういう傷を見つけると、その中でちょっと痛そうな何人かを、その傷を洗ってやって黙ってヒールをかけてやった。

 僕はヒールの練習になるし、小さい子は傷が治るのだから、どっちにとっても良いことだから勝手に治しても問題ないだろうと思ったのだ。


 僕がヒールをかけているなんて、小さい子は理解していないから、ただ単に痛いところを僕が洗ってやって痛みが治ったと感じるだけのことで、どうということはない。

 でも、何でだろう、小さい子の体を洗うのを手伝っている年上の男の子が僕だけだからだと思うけど、だんだん僕の周りにはすぐに小さい子が寄って来るようになった。

 シスターに頼まれているので、貸してもらっている本の物語を小さい子に読んであげる時には、周りに本当に群がってくる。

 いやこれは、物語を聞きたいからだ。

 あ、そうか、物語を読んでくれる人だから、僕にそれ以外の時にも寄ってくる様になったのか。


 僕は小さい子にヒールをかけるようになってすぐに、2つの事に気が付いた。

 1つは僕がかけるヒールは、シスターのヒールより効き目がずっと弱いのだ。

 自分が小さい子にヒールをかけるようになって、僕はシスターが小さい子にヒールをかける時を注意して見るようになった。

 きっと今までもシスターは、怪我をした子たちなどにヒールをかけていたのだろうが、僕はそれを良く見ていなかった。

 怪我をした子を慰めたりしているのはシスターはいつものことだから、その時どうこうというのはあまり見ていない。


 注意してみていると、シスターは小さくて、まだあまり物事がよく分かっていないような子どもだと、比較的簡単にすぐにヒールをかけてあげているみたいだけど、僕らくらいの年齢になっていると、ほとんどかけないようだ。

 そして、かける時にも自分の部屋に連れて行ったりして、内緒でかけてあげたりしているようだ。

 僕の時もそんな感じだった。


 ま、それは置いといて、シスターがヒールをかけると少し深い傷でも、かけると1発で治してしまう。

 僕にそれを見せるのは、僕はシスターがヒールを使うことを知っていて、なおかつ小さい子ばかりが周りにいる時だからだろう。

 「シスターはすごいなぁ。 傷を一瞬で治しちゃう」


 僕がそう言うと、シスターは

 「それは私はシスターですからね。

  シスターは治癒魔法が使えますから。

  それに私もシスターとして治癒魔法は修行して来たのよ」

とニコニコして答えてくれた。

 きっと見せびらかすことはないのだけど、治癒魔法が使えることはシスターの自慢のことなのだと思った。


 で、効き目なのだが、僕のヒールにはそんなに効き目がない。

 簡単な擦り傷くらいだと、僕のヒールでも完全に治るのだが、ちょっと傷が深かったりすると、僕のヒールでは完全には治らない。

 痕が残ったり、痛みがしばらく残ったりしてしまうのだ。


 僕はこのことから、一つ気が付いた。

 冒険者さんが、溶けた僕の足を治してくれた時に、何というか簡単に治ったから、そういうものだと思っていて、肘をスライムにやられた時も、痛かったけど、自分のヒールで治った。

 同じヒールという魔法で治ったから、そういうモノだと思っていたのだけど、きっと足を溶かされた時の傷は、2度目の肘の時とは比べ物にならない酷い傷だったのだ。

 でも、冒険者さんのヒールは強力だったから簡単に治ったんだ。

 何となくシスターも冒険者さんのヒールは凄いと言っていたような気がする。

 だけど、きっと僕の足を溶かしたスライムは弱いスライムだ。

 肘を溶かしたスライムは強いスライムだったのに、肘は足ほどの怪我では全然なかった事になる。

 強いスライムの溶かす力が、弱いスライムより弱いとは思えないのに、肘の方が怪我が軽かった事になる。

 なんだ、[酸攻撃耐性]って、本当に効いていたんだ、と僕は思った。

 

 僕はポイントをせっかく使って[酸攻撃耐性]の数字を2にしたのに、スライムの攻撃で怪我をしたから、意味があったのかどうか分からなくて、ちょっと損した気分になっていたのだ。

 でも、これも本当に良く効くようにするには、[体力]とか、[槍術]みたいに練習が必要なのかな。

 だとすると、ちょっと、いやかなり嫌だ。

 練習って、またスライムの酸で怪我をしてみるという事だよね。



 もう一つ分かったのは、僕はそんなに何回も一日にヒールを使えないということだ。

 ある日、洗ってやっていた最後に、ちょっと痛そうな傷を負った子がやって来た。

 僕は可哀想に思って、ヒールをかけてあげようとしたのだけど、どうにもかけてあげることが出来なかった。

 ちょっと意地になって頑張ってかけてあげようとしたのだけど、どうにも疲れるだけで出来なかったのだ。


 僕は魔力とか、魔法なんて、どういったモノだか知らないし、ヒールはかけてもらったことがあるし、項目として[治癒魔法]というのがあったから、きっと出来ると思って真似したら出来ただけで、ちっとも良く分かっていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ