表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/173

プロローグ

魔法もあるし、お馴染みのモンスターも出てくる話です。

でも、それらは全く主役ではない物語になる予定です。


のんびりと更新していきますので、気楽に気長に読んでいただけると嬉しいです。

 今の僕の境遇は恵まれたものだとは思わないけど、別に不幸だという程のことでもない。

 というか、僕にとってはこの今がごく普通のことだし、僕と同じ境遇の仲間がたくさんいる。

 それは確かに、外で見かけるように、僕にも両親がいたら今とは違った生活をしていると思うけど、この孤児院での生活が殊更特別でも、劣悪な環境に置かれている訳でもないと思うのだ。


 僕が今晩寝るのに、ちょっと特別な気持ちになって、ちょっと背伸びした感じで自分のことを考えてしまうのは、僕が明日になると7歳になるからである。

 明日、7歳になると、魂に刻まれているという自分の職業を、神父さんがその特別な力で、何であるかを読んで教えてくれるのだ。

 魂に刻まれているという職業は、それこそ千差万別で、どれだけの数があるか誰も知らないという。

 中には英雄だとか、王様だとか、そこまでいかなくても魔法使いだとか、賢者だとか、僕でも知っている物語の中に出てくる有名な職業もある。

 そんな有名な職業があることを知ってはいるけど、もう一つ僕は小さいながら知っていることがある。

 それはそんな有名な職業の人は、本当に極稀に存在するだけで、ほとんどは単なる農民とか、村人という職業だということだ。

 ま、他にも、木こりとか、狩人とか、少し珍しくなると大工だとかの職業が刻まれている人もある程度はいる。


 僕の周りの孤児院の歳上の仲間も、そのほとんどは農民とか村人で、知っている人の中では大工だった人が1人いるだけだった。

 魂に刻まれた職業が大工だったからといって、現在の生活がそれによって変わった訳ではないのだけど、きっと10歳になって一応この孤児院を卒業する時には、それに合った仕事ができるように、きっと神父さんが手配してくれるのだろう。


 僕は自分の職業が英雄だったら良いな、なんて夢のようなことは願わない。

 僕の友達たちは、ワクワクしながらそういう物語に出てくる職業を願ったけど、誰もそれは叶わなかった。

 まあ、それはそうだよね、周りに英雄ばかりいたら、それはそれで変だと思う。

 本当にすごくたくさんの中に1人だけだからこそ、英雄という職業だった人は物語の中の人になれたのだと思うから。


 だから僕はそんな風な、特別な職業を願ったりしない。

 僕は反対に、自分の周りにも沢山いる農民や村人という職業以外の職業を願うことにした。

 僕はここのところ色んなモノにその願いをしてきた。

 もちろん神様には一番最初に願った。

 それから太陽にも、月にも、お星様にも願った。

 あと何か願えるモノがないかと考えて、一番大きな木にも、一番大きな岩にも願った。 

 そしてそれ以上願えるモノが思い浮かばなかったのだけど、最後にさっき枕を叩いて願った。

 普段の僕は昼間の仕事に疲れているからか、空腹には慣れているので、すぐに眠ってしまう。

 でも今日は明日を考えるとなかなか眠れない。

 眠れなくて、赤い目をして明日を迎えたら、きっとみんなに馬鹿にされるだろう。

 それだから、僕はちゃんと眠ろうと今努力している。



 というのが昨晩の最後の記憶だった。

 今の僕は、7歳の誕生日をみんなと同じ粗末な寝床の上で、高熱にうなされて過ごしていた。

 「ナリート君、その様子だと起き上がることも出来ないわね。

  とりあえず何か食べる?」

 「いらない」


 普段は厳しいけど、こんな時は優しいシスターが僕に声をかけてくれた。

 その声に何とか応えはしたのだけど、一言そういうだけで精一杯だった。

 何だか分からないけど、頭が爆発して、頭の大きさが急に倍になってしまったかのような気分なんだ。

 頭の中で何か色んなことがグルグルしていて、訳が分からない。

 起きていても、目が回りそうだし、寝ているとクラクラしてしまい、どちらにしろ何だかちっとも休まらない。

 今の僕はそんな状態で熱が出て、ウンウンうなって耐えているだけの状態なのだ。


 「食べられないなら仕方ないけど、せめて水くらいは飲むのよ」

 シスターは僕を抱えて起こして、コップの水を飲ませてくれた。

 「それからついでに、こっちも飲みなさい。

  苦いけど頑張って飲むのよ、熱冷ましだから」


 僕は水を飲んだコップとは違うコップを口にあてがわれて、無理矢理中の液体を飲まされた。

 酷い味に、逃げようとしたのだけど、ただでさえ7歳になったばかりの子どもが大人のシスターに抑えられて抵抗できるはずがない。 ましてや、弱った体の今では、そのコップの中身を飲まないで済ませる方法はなかった。


 僕は少しジタバタしただけで、コップの中身を全部飲み干すことになったのだが、その結果にシスターは満足したようだ。

 「これで熱も下がるでしょう。 とにかく今は寝ていなさい。

  でもこの様子では、神父様にあなたの職業を見てもらうことは無理ね。

  熱が下がってから、改めて神父様に頼みましょうね」


 僕はまだグルグルが止まらない頭の片隅で、「なんてことだ、7歳の初日に職業を見てもらうことができないなんて。 きっとみんなに揶揄われるぞ」と考えた気がするのだけど、熱冷ましを飲むときにジタバタしたことで、なけなしの体力を使い果たしてしまったのだろうか、気を失うように眠ってしまった。


 それから僕は丸三日の間、高熱でうなされていたようだ。

 ところとっぱちに、水や熱冷ましを飲まされたり、トイレに抱いて連れて行ってもらったような記憶があるのだが、明確に気がついた時には僕は自分の寝床ではなくて、シスターの部屋に急遽作られた寝床に寝ていた。


 「ナリート君、今度はちゃんと目が覚めたのかな。 うん、熱が下がっているから、今度はちゃんと目覚めたのかな。

  大丈夫? 私のことが分かる?」

 「はい、シスター。 ここは?」

 「うん、私の部屋よ。

  ナリート君の具合が悪過ぎて、みんなと同じ部屋には置いて置けないから、私の部屋に連れて来たのよ。

  とにかく熱が下がって、ちゃんと目が覚めて良かったわ。

  やっぱりどうしても時々、今のナリート君みたいに熱を出して、そのまま亡くなってしまう子もいるから、心配したわ」


 そうか僕は死んじゃうかと思われるほど具合が悪かったんだ。

 自分ではただ頭の中がグルグルしていて、頭が爆発して倍の大きさになったんじゃないかと思っただけなのだけど。

 僕はふと気がついた、目が覚めたのだからここ、シスターの部屋に居てはいけないと。


 「シスター、僕は目がちゃんと覚めましたから、自分の寝床に戻ります」


 おきあがろうと、体を起こそうとしたら、そのまま目が回った。


 「あらあら、まだ無理に決まっているでしょ。

  三日間も高熱にうなされて、時々水を飲んだだけなのですもの、力がはいる訳がないわ。

  もう少し体が元通りになるまでは、ここで寝ていなさい。

  少し後で、食べられるものを持ってくるから」


 それから僕はまだ三日間シスターの部屋で過ごすことになってしまった。

 最初は本当に体に力が入らなくて、シスターが持ってきてくれる柔らかいけど、いつもより少し豪華な食事を自分の手で食べることも大変なくらいだった。

 それから寝汗をかいたので、全身脱がされて、僕は自分の記憶の中では初めてお湯で体を拭いてもらった。

 トイレにも最初は自分で行けなくて、シスターに抱いて連れて行ってもらった。

 高熱にうなされていた時にもそうだったらしいのだが、意識があって、トイレにシスターに抱いて行ってもらうのは何だか恥ずかしかった。


 僕はとにかく早くシスターの部屋から出なければと思っていたのだけど、それでも時々、「僕はまだ神父様に職業を見てもらっていない」と思った。

 本当のことを言うと、頭の中のグルグルはまだ収まってなくて、それを意識するとまた熱が出そうな感じなのだけど、それはそれとして、今までと同じ生活をすることは、頭のグルグルしていない部分だけでも出来る感じだと、シスターの部屋にいて解ってきたのだ。

 それが解った頃、ちょうど体の方も立ち上がって普通に歩けるまでに回復したのだ。


 「立ち上がって歩けるようになったら、それならもう自分の寝床に戻っても良いかもしれませんね」

 やっとシスターに自分の寝床に戻ることを許された。


 「ただ、まだ普段の生活にすぐには戻れないでしょう。

  もう少し、大人しくしているのですよ」


 普段、僕がしている一番の仕事は、野山に出ての薪拾いというか柴刈りというか、つまりは燃やせる小枝を拾ってくる仕事だ。

 その仕事に出るのは、確かにまだ無理なのかもしれないと自分でも思った。

 この町の外に出ると、そこには弱いとはいっても子どもの僕たちには太刀打ちできないモンスターが多くはないけど、そこら中にいるのだ。

 僕たち子どもは当然だけど、モンスターを見たら逃げなければならない。

 一番多く見るモンスターはスライムで、このブヨブヨしたモンスターは最悪のモンスターとも言われているらしいけど、動きは鈍い。

 だから見かけたら走って逃げれば、子どもの僕らでも大丈夫なのだ。

 つまり走れないと、野山に仕事には出れないという訳だ。

 僕はまだ走れる程、体力が戻っていなかった。


 「外に出なくても仕事はあるわ。

  でもまあ、中での仕事を普段していないナリート君には出来ないことが多いから、暇な時間も出来るでしょう。

  神父様にお願いしておきますから、暇な時間にあなたの職業を見てもらいましょうね」

 シスターは、もう僕がシスターの部屋に居た時のような優しい声ではなく、普通の時に近い感じで、僕にそう話しかけてきた。

 何となく僕はちょっとだけ、がっかりしてしまった。

 でもすぐに違うことに注意が行ってしまった。


 「はい、まだなんで、早く見てもらいたいです」


 見てもらえるはずだった、僕の7歳の誕生日から、もう1週間になろうとしていた。

 何となくそれほど待ったのだからと、ちょっとだけ自分の職業を期待しちゃっている自分がいるのに気がついた。


 「うん、村人じゃな」

 そんな僕の期待は、当然ながら簡単に裏切られた。

 神父様は、何だか僕を見て、ちょっとだけ首を傾げると、そう一言告げたのだった。

 ま、農民と村人がとても多い職業なのだから、ごく普通でガッカリしてもしょうがないのだけどね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
【一言】 以前140話位まで拝読していました。 城造りがどうなったのか、また孤児院時代の話も楽しみたく読み返し中です。
ジャンル、ローファンタジーじゃなくてハイファンタジーでは? ローファンタジーは現実世界+ファンタジーみたいな世界観。 ハイファンタジーは異世界+ファンタジーみたいな世界観。
[良い点] 「気がついたらラミアに」でファンになりました。しっかりとしたプロットを構築された堅実な作風に好感が持てます。ラミア同様、愛読させていただきたいと思っています。 [気になる点] 「ところとっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ