白と黒の輪舞曲
Twitterの診断のお題で出たので、そのお題で作品を執筆してみました。
◇領主きげん
我が屋敷の使用人ギヤは本当に良く働いてくれている。
何処を見ても塵一つ落ちていない。
料理も美味く、レパートリーも豊富で飽きさせる事を知らない。
気遣いも素晴らしく、私の欲しい時に欲しい物を運んで来てくれる。
私の顔をよく視てくれているのか、疲れた時にはマッサージも施してくれる。
だからこそ、申し訳なくなる。
それ程広くない屋敷なので、使用人はギヤ一人だ。
給金も最初に契約された金額で、それ以上の支払いはしていない。
そこまで裕福ではないとはいえ、もう少し給金を上げても良い訳なのだが、それでは私の感謝の気持ちは伝えきれない。
そこで何かプレゼントを贈ろうと考えた。
何が良いだろう……こういう事に疎い私のプレゼントでは満足させる事が出来るだろうか、変に気を使わせてしまっても悪いから止めた方が良いのだろうか。
いやいや、そんな後ろ向きに考えるな!
きっと喜んでくれるはずだ!
まずは一歩踏み出さねば、始まらない!
ん? 一歩……そうだ、ギヤの靴はかなり使い古されていたな。
ここは一つ新品の靴をプレゼントしてやろう。
◆使用人ギヤ
ここの領主のきげん様が僕に靴をプレゼントしてくれた。
もう靴がボロボロになってきていて、正直使用人として身なりを気にしないと駄目だな、と思っていた所でのプレゼント。嬉しい。
きげん様は、使用人である僕が仕事でやっている事に対してもいつも感謝の言葉を投げ掛けてくださる。
急な用事があった時や、僕の体調が悪そうな時には何も聞かずに休暇をくださいます。
感謝こそすれど、この様なプレゼントを戴けるとは思ってもみませんでした。
……どうしよう。こんなに良くしてもらっているのにプレゼントを戴くだけでは、申し訳ないです。
何かこちらからもプレゼントを返そう。
僕も感謝している事をお伝えせねば!
しかし、何が良いんだろうか……あ、きげん様は最近紅茶にハマっていらっしゃるので、ダージリンの茶葉とそれに合うお菓子なんかをプレゼントしよう!
◇領主きげん
……プレゼントのお返しをされてしまった。
んー、気持ちは嬉しいのだが、私の感謝の想いを受け取ってもらいたいのに、返されてしまったら、また何かプレゼントをせねばなるまい。
しかもあのギヤ、私の好きな物を心得ている。
最高のダージリンとチーズビスケットをプレゼントしてくれるとは、けしからん!
美味すぎて涙が溢れてしまったではないか!
くっ、あんなセンス私にはないぞ……。
何をプレゼントしよう。
そうだ、時計だ!
靴を良い物に替えたなら、身に付けている時計もノーブランドというのは、可哀想だ。
よし、時計をプレゼントしよう!
◆使用人ギヤ
今度は時計を戴いてしまった。
ど、どうしてなんだ。
これは僕のプレゼントが不服だったのを言えずに、遠回しに伝えているのか?
いや、待て……ひょっとしたら、時計に靴だから、僕の普段の身嗜みが悪いのが目に余ってのプレゼントなのかも知れない!
靴も見た目の良さだけでなく、履き心地も抜群で立ち仕事が一切苦にならなくなったし、時計のフィット感も前よりも断然に良く、秒単位すら狂う事がない。
こんな良い物を貰っておいて「ありがとうございました」だけでは、失礼だろう。
いや、きっときげん様なら何とも思わないのだろうけど、僕が納得いかない。
ここは何かお返しでしっかりとプレゼントしよう。
なんだ……何が良いんだ……えっとぉ、そうだ!
きげん様は最近お疲れで帰ってこられる事が多い。
マッサージだけでは取りきれない疲れもあるだろう。
効能と香りの良い入浴剤をプレゼントしよう。
◇領主きげん
……どういう事だ。またプレゼントを貰ってしまった。
受け取らないのも悪いから受け取るが、それでは私の感謝の想いが伝えきれない。
何で返してくるんだ!
しかも、プレゼントされた入浴剤、気持ち良すぎて湯船で眠ってしまいそうになる程に心地良かったではないか!
なんであんなプレゼントセンスがあるんだ!
プレゼントで入浴剤を渡そう、なんて思い付かないだろう!
靴に時計……いやいや、もう定番じゃないか。
くっ、敗北感が……よし、次のプレゼントを考えるぞ!
んー、なんだ、何かセンスのある物……そうだ!
ギヤのご両親に温泉旅行のプレゼントをしよう。
少し入浴剤に引かれた所はあるが、何か物ではないのをプレゼントするのは、良いセンスではないか?
ん? もう私は誰に話し掛けているんだ?
◆使用人ギヤ
……どういう事なんだろう。
今度は僕の両親に温泉旅行をプレゼントしてくださった。
身なりを気にしてプレゼントをくださった訳ではないのか?
しかも、ちょっとどや顔で渡された気がしたのだけど、気のせいだろうか。
まさか、両親にまでプレゼントを戴けるとは……どれ程優しいお方なのだろうか。
靴に時計に温泉旅行……無論、金額で僕が敵う訳ないのだけど、紅茶と入浴剤では全く釣り合いが取れていない。
やっぱりプレゼントをお返ししないといけない!
僕にだって使用人としての意地がある!
領主様がこんなにも尽くしてくださったのに、ここで終わらせてしまったんじゃあ、きげん様に仕える資格なんてない!
何を……あ、ウィスキーだ。
きげん様は夜はウィスキーを嗜まれる。
ウィスキーとグラスをプレゼントしよう!
◇領主きげん
何なんだあの使用人は……?
何故、あんなにプレゼントセンスが輝いているのだ?!
ウィスキーとグラスをプレゼントされた時は、まだ何とか「あぁ、これはようやく勝ったな」とか思っていたが、開けてみればウィスキーにもグラスにも私の名前が刻まれた特注品ではないかっ!?
あぁ……自分が金に物を言わせているだけの人間に思えてきてしまった。
私は何を送れば良いんだ?
どうすればギヤに勝てると言うのだ?
教えてくれ!!
私は誰に話し掛けているんだ!!
ふ、ふふふ、ふはははは!
負けん! 負けんぞギヤよ!
こうなったら、貴様が負けを認めるまでプレゼントを贈り続けてやるからな!