優しい上級生たち
始めにプティを出迎えたのは広大な庭園。
赤、白、その他様々な色とりどりの花。
中央には噴水があり、その水は澄んでおりキラキラと光を反射している。
そのあまりの美しさにはしゃぎ回るプティ。
花へ噴水へと次々に駆け寄っては目を輝かせる。
「わあ……キレイ」
思わず感嘆の声も漏れる。
と、その時、敷地内へと鐘が鳴り響いた。
「ウェルカムトゥスクール……夜虹魔法学校へようこそ! 生徒諸君には今後、自由に魔法を探究してほしい。基本的に学費は取らないので安心して励んでくれたまえ。我が目的は富ではない。共に魔法を学び、いつの日か夢を叶えることである。よって、規則もただ一つ。皆、仲良くすること。それだけだ。さあ、仲間たちよ! 共に魔法の道を突き進もうではないか! 我ら夜虹魔術師団に栄光あれ!」
必要最低限……とさえ言えない手短な挨拶。
こうしてあっという間に入学式を終え、皆が順に校舎内へと入っていった。
初日ということもあり、まず最初にやるべきことがある。
お互いの面識を得る者、カリキュラムを組む者。
それぞれに今後の目標や予定を立て、時間は過ぎてゆく。
やがて、お昼になると皆それぞれにランチタイムに入った。
昼食を持参した者もいれば、学校の外へ向かう者もいる。
そんな中、プティはどうしていいかわからず、ただ一人ポツンと佇んでいた。
と、そこへ……。
「よお、お嬢ちゃん! ごはん食べないのかい?」
近くのテーブルから声がかかった。
振り向いたプティの目に映ったのは、気さくに笑う骸骨。
戸惑うプティへと手招きしている。
「オレはスケルトンのボブ。よろしく!」
「わ、私はプティ……」
「プティちゃんか。お腹、空いてないのかい?」
「それが……持ってきてなくて……」
俯くプティ。
そんな彼女へと、ボブは自らの弁当からトカゲの丸焼きをつかみ取り、差し出した。
「食べるかい?」
「ひやぁ!」
悲鳴を上げて飛び退くプティ。
首を傾げ、頭を掻くボブ。
残念なことに、彼には微塵の悪気もない。
そこへ丁度通りかかった若い魔女が、ボブの頭を叩いた。
「痛ッ! 何するんだよアキ!」
「アンタ何度言ったらわかるのよ! 女子にトカゲなんか食べさせちゃダメって!」
「何でだよ? 上手いんだぞ? それに、女子でも食べる子いるし」
「気味悪く思う子だっているのよ! 覚えなさい!」
「へいへい、気を付けます」
しょんぼりするボブ。
その様子を見て戸惑うプティ……のお腹が鳴った。
俯くプティへとアキが歩み寄る。
「さ、行くわよ」
「えっと……どこに?」
「外に果物が生ってるわ。こっちよ」
そう言って歩き出すアキ。
果物と聞き、目を輝かせながらついていくプティ。
しばらくして、二人は敷地内にある果樹園へと着いた。
プティは頭上に生っている葡萄を見上げ、ジャンプしだす。
が、届くわけもない。
見かねたアキが魔法を使い、一房取るとプティの目の前に浮かせた。
「ほら」
「わあ、ありがとう!」
プティは喜んで手に取ると、パクパクと食べだした。
その様子を見て、アキが苦笑する。
「皮ごと、房ごと食べるのね、あなた」
言いながらも、また苦笑するアキ。
首を傾げるプティの前で、彼女も葡萄を一房取る。
すると、一瞬にして全ての粒を房から取り外し、皮も全て剥くと粒を弾けさせた。
弾けた粒は宙に浮かび、形状を保っている。
そこへアキが手を差し伸べるとコップが現れ、粒はそこに入ってゆく。
それを優雅に飲む姿を見て、プティが憧れの眼差しを向ける。
「すごーい! 同じ新入生とは思えない!」
「まあ、アタシはこの学校の設立に携わった一人だから。セブンスとは前から面識があるし……」
「セブンス?」
「校長のことよ。彼は部長と呼んでほしいみたいだけどね。ほら、さっきの挨拶聞いたでしょ? 学校の外で勧誘ショーもしたらしいから、見たんじゃないかしら?」
「あの人!」
「そう、その人。私はセブンスから上級生として生徒を導くよう頼まれてるわ。ボブもその一人よ」
「そっか……。じゃあ、アキお姉ちゃんって呼んでもいい?」
目を輝かせ、問うプティ。
対するアキは顔を赤くし、視線を逸らす。
「す、好きにすれば?」
「わあ……! よろしくね、アキお姉ちゃん!」
満面の笑みを浮かべるプティ。
その横で、アキは顔を背け頬を真っ赤に染めた。