はじまり
霧の立ち込める幻想的な森。
広大なその森の中央に突如姿を現した、真新しく壮大な門。
そして、その高さに不釣り合いな程小さな霊が一人立ち尽くしている。
その子の名はプティ。
女の子だ。
数十センチしかない白い勾玉状のその体は、誰もがおばけと聞いてすぐさま思い描くであろう姿。
彼女は以前から魔法に興味を持ち、あれこれ試していた努力家である。
だが、独学のため実を結ぶことはなかった。
そう、これまでは……。
しかし、つい先程のこと。
彼女がいつも通り、今日も当てもなく練習をしていた時のことだ。
突如として魔導士が現れ、告げた。
森中に響くように、皆に呼びかけるように。
「同志たちよ! 共に魔法を学ぼうではないか! 我ら夜虹魔術師団は快く迎えよう。さあ、迷うことは何もない!」
言うや否や、手始めに見せる魔法の数々。
一瞬にして花が咲き、枯れた川には澄んだ水が流れた。
木々には果物が実り、美しい鳥の囀りが聞こえてくる。
最高のパフォーマンスに、誰もがすぐに虜となった。
皆、もっと見たいと魔導士のそばへ寄ってくる。
その期待に応えるべく、また次から次へと魔法を見せる。
そうして最後に、巨大な門を建てた。
通ると魔法学校へ着くよう、空間魔法がかけられている。
その光景に皆は息を呑み、次の瞬間歓声が沸き起こった。
我先にと門へ向かう者たち。
そんな中、一人俯くプティ。
その様子に気づいた魔導士は、微笑みと共に手を差し伸べた。
「どうしたのかね? 何も恐れることなどない」
優しい言葉をかける魔導士。
しかし、プティは俯いたまま溜息を吐く。
「私、魔法の才能ないから……。こんな立派な学校、私なんかが行ったら迷惑かけちゃうだけだもん。私なんか……」
後ろ向きな言葉ばかり呟く彼女。
だが、魔導士は少しも嫌そうな顔をせず、とびきりの笑顔で励ます。
「大丈夫!」
はっきりと断言する魔導士の声。
そして、その勢いのまま続ける。
「仮になかなか魔法を覚えられずとも、決して迷惑だなどということはあり得ない! 加えて、魔法を使うのに才能はいらない。断言する! 我々と共に学べば、誰しも必ず魔法を習得できよう! 何も心配はいらない。さあ!」
不安を吹き飛ばす程の大声と笑顔。
その頼もしさに思わずプティは顔を上げ、目をキラキラと輝かせる。
「本当……? 私も立派な魔法使いになれるかなあ?」
無垢な瞳で問いかけるプティ。
魔導士はその目をまっすぐ見つめ、強く頷く。
そして……。
「約束しよう。さあ、門の先へ!」
高らかな声と共に手の平で門の方を指した。
誘われるまま、思い切って門へと駆け寄るプティ。
そんな経緯があり、今こうしてその門を見上げているわけだ。
「うわあ……」
期待と不安の入り混じる声が漏れ出る。
門は木々を突き抜け、どこまでも高い。
その足元に立ち見上げるプティ。
あんまり高く見上げていたため、黒いとんがり帽子が後ろにずり落ちた。
「はわわ、お帽子が……」
慌てて拾い上げ、被り直す彼女。
やがて、意を決すると門の先へ入っていった。