清少納言
「清少納言、この絵はね、伊勢物語の白玉のおどりの部分を描いた物なの。とっても愉快でしょう?」
「まあ、愉快。定子様、この絵、譲っていただけませんか?」
「いいけど、それほど気に入ったのね。うれしいわ。」
私は清少納言。
今の天皇様のお后、定子様にお仕えしている。
定子様の宮中での身分は中宮。
皇后の次に高い身分だ。
お后というと、高貴な方と想像ができるけれど、定子様はちがう。
気さくで、気配りができて、それでも中宮としての威厳を保つ、すばらしいお方だ。
「あら?」
鷹が部屋に入って来た。
そして、その足には和紙が結びつけられている。
「何かしら?清少納言、読んでくれる?」
「はい。」
和紙を開いた。
「清少納言さんへと記してあります。ふむ、どうやら枕草子の感想のようです。」
「そう。」
香り子とかいう人からの手紙。
枕草子は同感することが多くて、おもしろかったらしいけど、みんなと変わったことをやりすぎるとそのうち理解されなくなってしまう。そこは注意してほしい。香り子さんは、そう思っているのね。
さて、返事を書かなきゃ。
私は慌てて墨を用意する。
『香り子さんへ
感想、書いてくれてありがとう。注意してくれたのも、うれしい。
あなたも文章を作るのがうまいと聞いているけど、どれくらいの腕前?
というか、書く分野がちがうわね。
だって、あなたは架空の、心ときめく物語を書いているけど、私は思ったことを草子に書いている
もの。
それと、一月ほどしたらお会いできる?あなたの物語が読みたいの。都合が空いてる時に、文を
くださいね。
清少納言より』
香り子さんと同じように、和紙を鷹の足に結びつけた。
「あなたの飼い主さんの所へ戻りなさい。」
鷹は貴族たちが集う住宅地へ飛んで行った。