紫という名の鷹
私が庭で遊んでいると、1匹の鷹が紛れ込んできた。
「まあ、かわいい。」
私は鷹をなでた。
「あなた、うちに来る?」
鷹は首を縦にふった。
私は鷹を鳥かごに入れ、紫と名付けた。
私は物語を書くのが大好きで、次に書こうと思っている物語に、紫の上という女性を登場させるつもりだ。
それにちなんで、紫と名付けた。
「あら、香り子。鷹を飼っているの?」
姉上が入って来た。
「ついさっき、庭で見つけたんです。」
「名前は?」
「紫です。次に書こうと思っている物語に、紫の上という女性を登場させるので、紫です。」
「あなたらしい、すばらしい名前ね。」
「ありがとうご・・・あっ。」
さっきまでいたはずの姉上の姿が消えていた。
姉上は、去年亡くなった。
1年たっても、その悲しみは忘れられない。
だから、時々姉上の幻が見える。
「香り子。」
「はい、父上。」
「宮中で評判の本を買ってきた。枕草子という随筆だ。」
父上はその枕草子を置いて去っていった。
私は枕草子を読んでみた。
「ふむふむ、なかなかおもしろいわね。特に、最初の『春はあけぼの』が独特。・・・なるほど、この人は変わった事が好きなのね。でも、周りに流されず、自分らしく生きているのは分かるけど、ちょっとこの人はやりすぎ。このまま変わったことを続けていくと、そのうち周りから差別的に扱われてしまう。そこは直して欲しいわね。」
「なるほど、香り子らしい感想だな。」
父上が、こっそりのぞいていた。
「もう、父上。」
「すまぬ。」
「ところで、この本の作者さんの名前は?」
「清少納言だ。定子様に仕えている。」
「そう。」
私は紫を見た。
「父上、ここから出て行ってくれます?」
「恋文でも書くのか?」
「ちがいます!」
「すまぬすまぬ。」
文を書くと、和紙を紫の足に結びつけた。
「いい?西に行くのよ?」
紫を空に放った。
文が届くことを信じて。