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失敗は出逢いのもと  作者: みたらし風花
第一章
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《7》ここは魔法が使える世界でした

日の光りが眩しくて目を覚ます。

ここまで時間を気にせず、ぐっすり寝られたのは休日以来だろうか。

いつもの癖で枕元に手探りをする。スマホを探す動作だった。



(そういえば、スマホ…電源つかないし、部屋に置いてきたんだ…)



わたしが家を出てくるときにバッグに入っていたものは全て、セシルさんが与えてくれた部屋に置いてきていた。スマホも、普段は肌身離さず持っているのだが、電源が入らないようじゃ意味がない。それにここは、電気が通っていないのだから。



(そういえば、ここの灯りって、電気じゃなければなんなのだろう)



と、疑問に思いつつ、のろのろとした動作でむくっと起き上がる。時間が気になる。時計はどこかにないのだろうか。キョロキョロしてると、時計らしきものを発見。一瞬、字が読めなかったのだが、何故か時間が今10時を過ぎたあたりだと理解できた。

全くわからない文字だったのに、何故分かったんだろうと思ったが、起きたばかりの覚醒していない私は深く考えることはなく。ただ、時計が私の知っている時計と同じように針が文字を指していたので10時なのだな…と。だからわかったんだ、と思い込んだ。



寝ていたすぐ近くにソファーが見える。そこからは規則正しい寝息が聞こえる。彼はまだ寝ているようだ。自分だけベッドに寝てしまったことに申し訳なさを覚えつつ、私はベッドからそっとおりた。彼を起こさないように部屋を出ようとする。

その際、彼が仕事場として使っている机が目に入った。昨日は暗くてよく見えなかったが、明るくなった部屋で改めてみると、凄い紙の量だった。特に片付けていないところからすると、見られても問題はないものなのだろう。どんな仕事をしているか気になり、机の上に散らばる紙を見てみた。


(えーと……なんだろ、これ、魔法陣!?)



そこにはいろんな魔法陣がかかれた紙が散らばっていた。ごめんなさい。最初、中二病的な何かを患っているのかと思いました。



残念ながら、魔法陣に書かれた文字は理解出来なかったのだが、その魔方陣の書かれた紙にはメモがかかれているらしく「火をつける」「持続」「火を消す」と、まるでその魔法陣の機能を説明するようなことが書いてあった。なんとなく、昨日のコンロを思い出した。石に触れて、「火をつける」、そして火を「持続」させる、使い終わったら「火を消す」。

ガスは通ってなかったから、きっと火をつけていたのはあの石と魔方陣なのではないか、と。



昨日は色々ありすぎて、深く考えなかったが、ここの世界は、というよりはここの国は…?といえばいいのかわからないが、私の世界よりも遥かに技術が遅れている。タイムスリップでもしたのかなって思うくらいには。



だから私は思ったのだ。



"私一人では生きていけない"と。



まだここの常識を覚えていないからというのもあるが、使われている日常道具が全て古いのだ。日本とはまた違う古さ、昔のヨーロッパとかだったらこういう感じなのかなと思う古さ。



いろいろありすぎて、昨日は「こうすれば水が使えるんだ、火が使えるんだ、灯りがつくんだ」とその場で理解していたが、深く考えると「いやなんで?」と思うことばかりだった。

ひとつの結論として得たのが、ここは魔法が使える世界なのではと。



魔法。実感が沸かないけど、魔法のおかげだと言われたら強引にでも理解はできる。



(ま、魔法…!すごい、私でも使えるのかな)



魔法は誰しも一回は憧れるのではないだろうか。子供の頃にみたアニメ、本でも映画でも流行った長期シリーズの魔法使いのお話。



呪文を唱えれば誰もが使えるのだろうか。それとも人によって魔力というものがあり、それを行使することが出来るのだろうか。

魔法でもいろいろある。でもいま、ここに魔方陣があるということは、もしかしたら魔方陣さえかけるようになれば使えるのでは…と、うきうきな気分で机の上に散らばる紙を見ていた。



時間も忘れて一枚、一枚眺める。

どのくらい経ったか忘れたころ、近くで寝ていたセシルさんが起きたのに気がつき、ようやく私は机から離れた。



「…ん……」



「おはよう」



「…………おはよう……」



凄く眠そうだった。私とそう寝る時間は変わらなかったはずなのだが、爆睡するほど疲れていた私と違ってここまで起きるのが遅いとなると、彼は普段からこの時間に起きる生活をしている、朝が苦手なのだろうか。



そう、ここはセシルさんの部屋だ。起きたからには私は長居してはいけない。セシルさんは起きたのだろうが、まだソファーで動かずにいる。きっとまだ覚醒していないのだろう。そんなセシルさんを置いたまま、私は静かに部屋を後にした。



とりあえず冷たい水で顔を洗った。リビングに行って、何か食事が出来ればいいと思ったのだが、勝手に食材を使ってしまっていいのか分からずにいた。何か役に立てればいいと思ったのだが、余計なことをして困らせたくはなかったので、私は大人しくすることを選択した。テーブルについてイスに座った。



(何だか不思議な気分)



知らない世界の、知らない国の、知らない町で昨日知り合ったばかりのセシルさんの家にいる。

朝起きたら実は夢でした!なんてオチもなく。

自分の知らない世界にいるのに、ここで落ち着いていられる自分を不思議に思いながら待っていたら、ようやく彼がこちらにやってきた。



「すまない。待たせた」



「ううん。私もさっき起きたばかりだから。セシルさん、昨日はありがとう。おかげでぐっすり眠れた」



「そうか。それは良かった。腹が減っただろう。すぐに作る」



「…すみません、お願いシマス」



朝食には少し遅すぎる食事は、昨日より簡単そうなメニューだったが、とても美味しかった。

人によって味が薄味、濃い味と異なり、好みによって食事の気分も変わるのだが、セシルさんの作る味は私にとって凄くちょうどいい味だった。自分で作ったり、家族が作ってくれるような、長年親しんだ味付けで落ち着くような感覚。これはとても幸せなことなんだと、しみじみ思った。



「…そういえば、ここって、魔法が使えるんだね」



「魔法?」



「セシルさんの部屋にあったあの魔法陣の紙、魔法を使うためのものでしょ」



「ああ、あれか。そうだな。お前は魔法が使えるのか」



「まさか!!私の世界は、魔法は空想の世界でしか存在しない、あり得ない力だから」



そう。わたしが魔法の存在を知っているのも、全部空想の世界でのお話がきっかけだから。

魔法がないといったときのセシルさんの驚きようは面白かった。



「魔法が存在しないのか?生活、不便じゃないのか」



ちょっとセシルさん、可哀想な目で見るのやめてもらえますか。ばかにしないでくださいよ!



「不便なわけがない。その分技術が発展しているし。むしろここでの生活のほうが不便そうに感じるくらい」



ここの世界より私の世界のほうが凄いんだぞ!と、不便そうと言われたことが、なんだか馬鹿にされたような気がしてしまったので思わず言い返してしまった。



「魔法がないのに、ここより不便じゃないのか」



何か言い返されるのかと思ったが、彼は興味を示したようにこちらをじっと見つめる。



「不便じゃないよ料理だって、掃除だって、洗濯だって、全て一人でやっても時間が余るくらい」



「家事で苦労しないのか。それはいいな。ここでは家事で時間をとられるのが当たり前だ。特に一人ならなおさら」



食事はこんな感じで、セシルさんからの軽い質問責めに合いながら楽しんだ。食事が終わる頃、ちょうどセシルさんからの質問も途切れたのだが、セシルさんが何かを思い出したように私に問いかけた。



「ユキ、お前魔法が使えないって言ったよな」



「うん。私の世界には魔法が存在しないからね。一度も使えたことなんてないよ」



この世界に来てからだって、特別魔法が使えた!!!というわけではなかった。そもそも魔法がどんなものか見たことないから、使い方も知らないのだが、例えば怪我をして治癒魔法使いましたーとかそういうのもなかった。

わたしがそう答えると、いまいち納得していないセシルさんがまた問いかけた。



「お前、昨日部屋を掃除していたよな?」



「うん。バケツに水いれて、雑巾でちゃちゃーと」



「その水どこから使った?」



「どこって、そこの水だけど」



指を指した。昨日わたしが掃除するのに使った蛇口もどきの水道がある水場。外から繋がれた鉄パイプ、近くにはめられた青色の石。あれに触れると水がじゃばーって出るのだ。



「石に触れてか」



「うん」



だってそういうものでしょ?と首を傾げながら聞いた。



「あれはな、魔力を持ってないと使えない石なんだ」



「そうなの!?」



「ああ。あの石は魔力に反応する魔法石で、触れると魔法石を通じて魔法陣が発動するように連動式になってるものなんだ。」



「つまり?」



「お前は魔力を持っている」



「から?」



「魔法が使える」



「………」



なんてことだ。私はいままで魔法なんてもの使ったことがなかったのに、魔法が使えるだなんて。

あれだろうか。私の世界は魔法が使えない世界だったのだろうか。だから魔力を持ってても魔法が使えなかった、とか、そういう?



私の世界では魔法は空想。そんな世界に生きる私はただの人間。だと思っていたのに私は魔法が使える魔力を持っている。



「…おい?大丈夫か?」



魔法でどんなことが出来るのかわからないけど、少なくとも、あのセシルさんが書いてる?ような魔法陣が使えるってことだよね。私もああいう魔法陣を書いて使えるってことだよね。楽しそう。陣に書かれた文字はわからなかったが、読めるようになりたい。そのための勉強ならば惜しまない。



だって今まで、新しいことを始めるのに、一から覚えてきたのだから。新しい趣味のために、参考書から何もかもと揃えて始めてきたんだ。新しいことを覚えるのは苦ではない。特に興味があるものならなおさら。



ああ、なんてことだ、それって凄く…



「すごい!!!!」



素敵だ。あの世界では見つけられない、覚えられないものだ。魔法陣を書くのが趣味っていうのもおかしいけど、書けるようになりたい!だから、私はこれを趣味にしよう…!!



私の新しい趣味:魔法陣を書くこと






「継続」を「持続」に修正。

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