表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失敗は出逢いのもと  作者: みたらし風花
第一章
3/25

《3》ここは日本でオーケイ?


「お前ほんとにどこから来たんだ?ここは王都でも一番外れにある森、国内最大の森"深遠の森"だよ」



「しんえんの森?」



「それも知らずにこの森に入ったのか?いや、まあいいや。とにかく、この森は国内でも一番の広さを誇る森で、1日2日歩いてもその先へ抜けることは出来ない。」



「えっっっ。じゃ、じゃあこの森から抜けるにはそれだけ歩かなきゃいけないの…?」



「いや、ここは森の入り口だから、しばらく歩けば出られる」



「よ、よかった…」



国内最大って。深遠の森とか聞いたことないんだけど。別名みたいなものだろうか。1日2日歩いてもってことは、どこか山とか川?を越えなきゃいけないからそれくらいかかるってことかな。日本の7割は山だって言うし。

今軽く聞き流したけど、オウトってどこだろう?どこの地名を指してるのか全然わからない。



そしてどうやら、私を連れていってくれるらしい。「いいんですか?」って聞いたら「お前はここに残りたいのか?」と言われたのでそんなまさか!!!お願いします!!と頭を90度下げた。本当にここまで頭を下げる機会があるなんて。



前を歩く男の左後ろからついていく。



「オウトって言いましたけど、結局ここ何県なんです?」



先ほどの疑問を口にした。

またも「こいつ何いってんだ?」の顔をされた。何がおかしい。



「王都は王都だろ。お前……馬鹿なのか?」



「馬鹿ぁ!?」



なんでさも「知ってて当たり前だろ」みたいな言われよう!?

思わず大声をあげてしまったではないか。



「しかもケンってなんだよ。王都はこの国ユーピテルターの首都レイリースのことだろうが」



「ユーピ、テルター………レイ…リース??」



男の説明から出た名前は、全く知らない名前だった。オウトはどうやら王都らしく、ここはユーピテルター王国の首都、レイリースという土地らしい。

意味がわからない。日本じゃないのか。



「お前どこから来た?ここは隣国に比べたら小さいかもしれないが、それでも大きい国だぞ?」



大きい国だと?

これでも発展途上国を含む主要国家は頭に入ってる。首都だって名前を聞けば「あ~」くらいの反応はできる。ユーピテルターなんて国なんて聞いたことがないぞ。ますます意味がわからない。助けてほしい。ただでさえ知らない場所にいて、日本だと思ったからなんとかなるだろうと思ったのに、ここは日本ですらなくて自分の知識にはない国にいるというではないか。



「どこって……日本から…ですけど……」



「ニホン?そんな国、あったか……?」



なんと言うことだ。

目は金色だがカラコンだと思うし(そもそもここまで綺麗な色のものがあるのかわからないけど)、黒髪で……

しかも会話が成立しているから、この男も日本人だと思ったのに。


日本をしらない?そんなまさか。江戸時代ならいざ知らず、現代において日本を世界で知らない国はほとんどないはずなんだ。


なのに、なのに…


頭の処理が追い付かない。自分が抱いていたわずかな希望すら、今ここで砕かれた。

私はどうしたらいいんだろう、どうしたら帰れるんだろう、ここで、どう生きていけばいいのだろう。処理が追い付かないのに、どんどんどんどん不安が混み上がってくる。気づいたら涙がぽろぽろ落ちていた。



「おいっ!?」



ギョッと男の人が驚いた。そりゃそうだろう。ただでさえさっきから会話がいまいち噛み合わない森で迷子になってた女が、突然涙を流し始めたのだから。変な人だと思われているにちがいない。



「わ…わからないんです……!気づいたらここに…!ここにいて…!ずっと日本だと思ってたから!帰れると思ってた!なのに……!ここは日本じゃなくて……わたしの知らない国で……」



知らない知らない知らない。

一瞬で、自分は一人ぼっちになってしまったのだと感じた。



ぽろぽろと雫のように流れ落ちていた涙が、今では筋となって頬をつたって流れ続けている。



「おい、落ち着け」



両肩をパンっと掴まれた。驚いて吐き出すように出て来ていた言葉が止まった。金色の、キラキラとした瞳が、わたしの目を覗く。しかも、まるで子供をあやすように視線を合わせて話しかけてくれている。



「お前が意図してここに来たわけではないことは分かった。お前がこの国を知らないことも、お前が俺の知らない国から来たことも、分かったから……落ち着け」



ぽんぽん、と両肩を優しく叩く。何故だかそれだけで荒れた心が落ち着いた。小さく深呼吸をし、感情を落ち着かせる。



「まずはこの森から出よう。またそこから少し歩くが、俺の家がある。とりあえず俺の家に来い」



「で、でも」



「話を聞いてやる、だから…」



ギュルルルルル………



「……」

「……」



ああぁあああぁああああ!!!!



「ブッ」



「っ!」



堪えられない。

もう、無理だ。



「笑うなぁ!!!!」



「ははははははっ」



お腹すいてたんだ。泣いたらよけい体力使ってお腹すいた。身体は正直だな……せめて空気を読もうよ。



キョトンとした男の顔がちょっと可愛かったけど、そのあと盛大に笑われた。それにはちょっとイラっとした。人前で、しかもこの状況でお腹の音を鳴らす女もどうかしてるけど、その女に対して遠慮の欠片もなく笑うのもどうかと思う。わたしの顔が赤いのは、羞恥から来るものである。



「先に帰ったらご飯にしよう。俺も腹が減った」



「よ、よろしくお願いします」



「いいよ、敬語使わなくて。どうせそんな年変わらないだろ」



「え…じゃ、じゃあ…よろしく」



「おう。で、名前は?俺はセシル」



「……(ゆき)


「ユキ。うん、よろしく。とりあえず昼には着くはずだから、頑張って」



少し目付きの悪いひとなのかとおもったけれど、そうでもないらしい。私は袖で涙を拭く。目を拭く。ここまで泣いたのはいつぶりだろう。一人で泣くことはあっても、人前で泣くなんて。これからは気を付けよう。再び歩きだした男の…彼の後ろをついて歩いていく。しばらく無言で歩いた。彼から声をかけてくることはなかった。きっと私が落ち着くまで待ってくれているのだろうかと思った。だって、今はお互いに共有しなければいけないことが多いのに、それを待ってくれているのだから。



涙も完全に引いたころ…



「目、擦ったろ。赤くなってる」



「ああ……」



「ああって……」



特に気にならなかった。が、人からみたら痛々しい顔になっているのだろう。私もさすがにこの顔で人前には出ないが。彼の前では大泣きしてしまったし、もう取り繕いようがないといいますか。

今日、朝食を抜いてしまったことは悪かったが、化粧をしてこなくて良かったと思う。だって化粧をしていたら、涙で化粧は崩れるわ、衣服に涙で流れ落ちた化粧がついてしまうなどといった大惨事になるところだった。



「帰ったら目冷やせ。大分マシになるだろ」



「うん」



優しい人なんだろうなと思った。私が女性だからなんだろうが、男性は泣いた女性に対してみんなこういう態度なのだろうか。人前で、しかも男の前で泣いたことがなかったので基準がわからずにいる。


この優しさは、いや、これを含めて私に声をかけて慰めて気を使ってくれるというこれらの優しさが、今の私には心がじわじわ温かくなるような感覚を抱かせた。この先のことなんて不安しかないのに、なんだか大丈夫のような気がして。


彼の左を歩く。

これでも歩く速さは早いと思ってる。都会と田舎の人では歩く速さが違うとよく言われるし、地方の友達が都会に来て一緒に歩いても、つい友達を置いて行きそうになるほど。


その時初めて自分が速いのだと気付き、友達の速度に合わせて歩く。でもそれも、友達と何度か遊ぶようになってからだった。今までずっと私に追い付こうと無理をしていたのではないかと思ったら、友達にたいしてとても申し訳なく思った。


それなのに彼は今、今日、それもさっき会ったばかりの私に歩幅を合わせてくれている。彼は脚が長いためか(とても羨ましいクソ)本当はもっと速く歩けるはず。だってさっきは彼が前を歩き、私がそのすぐ後ろをついて歩くかんじで、隣に並ぶまでは行かなかったのに。


今、その彼が隣にいる。なんどもわたしの様子を確認しながら、ゆっくり歩く。


森から出て、彼の家に着くまで、特にこれといった会話はなく、必要最低限の会話しかしなかったが、わたしの不安だった気持ちが、いつの間にか消えていたと気づいたのは私がこの森から出たあとだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ