《2》確かに変化は求めたけど…!
えっと??
ん??
私は今、家を出たところだよね??なんで私、森の中にいるの???
家を出た直後、なぜか森にいた。なんでだ。寝ぼけているのではないだろうかと自分の頬をつねってみる。
「いっ…」
ったかった。
夢ではないらしい、寝ぼけてもいないらしい。辺りをぐるっと見渡す。辺り一帯が木々で、先もきっと森だろう。上を見上げる。ああ、いい天気だ。家を出たときと同じ天気だ。
「どーうしよ…」
ここがどこなのかがわからない。
私は都会に住んでいたので、まさか地元の森にいました!なんてことはないはずなのだが。とりあえずどこか日があたるところにしゃがんでみた。
ひとまず、これからどうしようか考える。
「はぁ……」
正直現実逃避中だ。
30分は経った。
まず動揺してどうしようどうしよう!というよりは、あり得なさすぎて思考を放棄した。放心状態だった。何とかしなきゃとやっと我に返ったのは、空腹のせいだった。
「お腹すいた……」
そう。今日はギリギリにおきたのだ。
朝食を犠牲にすれば間に合う時間に起きた。
私はよりによって、今日、朝食を犠牲にした。睡眠を優先した。それがこの結果。
いつまでもここにいるわけにもいかないので、歩きだすことにした。
最初はどの方向に行こうか迷ったが、正直ここがどこかもわからないので、太陽や影、風向きを頼りにしたところで意味がないのでは???と思ってしまったのだ。なんとかなるだろう、と思って適当に歩きだした。
そこから一時間は歩いただろうか。
うん、いい運動にはなった。
でも…
「…………っ」
まだ森の中だった。
直線にあるいてきた。
戻らず、曲がらず、ただ真っ直ぐと。
なのに景色がかわらない。まだ一時間しか歩いてない。諦めるにはまだ早い。あともう一時間なら歩ける。だが、朝食を抜いた空腹のいまの私には、少し辛かった。止まらず歩き続けた私は足を止めた。ちょっと休憩をしよう。その場にしゃがんだ。地面とにらめっこだ。
「これからどうしよう…」
まさかずっと森ってことはないので、森からは抜けられるはず。だが、森から抜けたらまずはどうする?そこには何があるだろう。お腹は空いてるし、あぁ、会社は無断欠勤扱いだろうな。
歩きだすまえにスマホを取り出した。なんと電源が切れていた。というか点かない。充電はばっちりだったはずなのに。ぶっ壊れた??本当に最悪だ。
森だから電波が入るとは思わないんだけど、連絡がとれるならとりたいし、場所の確認だってしたかったんだ。
それなのに。
「仕方ないか」とすべてを受け入れられるほど私の心は大きくない。まず仕事どうしよう、連絡入れられないし。ここはどこだろう、帰れるだろうか。お腹がすいた、食べられるものが見当たらないんだけど。小さなことの積み重ねでどんどん自分を追いやってしまうのが私の悪い癖の1つでもある。
あー、ほんとにどうし…
「おい? 」
地面とにらめっこしていたら頭上から男の声が聞こえた。自分の世界に入っていたものだから、それはもう驚いた。驚きすぎて声がでなかったかわりに身体が反応して、思わず後ろに倒れて尻餅をついた。
痛かった。
「わ、悪い。驚かせるつもりはなかったんだが」
「い、いえ」
といいつつ、心臓ばっくばくである。
ほんとにビビった。
そしてびっくりして体勢を崩し、それを見られたことが恥ずかしくて男から視線をそらした。
「んで、こんなところで一人で何をしてるんだ?体調悪いのか?」
「えっと…」
体勢を崩した私は男に声をかけられながら、よっこらせとゆっくり立ち上がったところで
ギュルルルルル……
おお……なった~お腹がなった~
しかもこの森の静けさが余計に音を響かせる~!
これは絶対聞こえただろ~!
「…………ふっ」
うぅ…
「…ごめん。で、こんなところでどうした?」
「えっと……」
びっくりして尻餅ついて、立ち上がったらお腹が鳴って。恥ずかしさが先立って男の顔が見られず、ずっと別の方向を見ていた。落ち着いたところで、私はやっと男のほうに視線をやった。
するとどうだろう。背格好は私より頭一個分は高いし、足が長いし、しかも顔が整っている。少し目付きが悪そうだが、それでも思わず目をやるような。年は私とそう変わらないだろう。髪は綺麗な黒髪。私も黒髪だが、この男とはまた違った質感のある黒髪だ。なんというか、男にしては綺麗すぎる細くてさらさらしていそうな髪。そして、魅入ってしまいそうになる瞳の金色の…まるで、猫のような…
「……カラコン?」
なんで口に出したんだ。今私が答えるべきなのは彼の質問であって、彼への疑問ではない。
「からこん?」
「あ、あ、いえ、なんでもありません。えっと、こんなところでどうしたのか…そう……そう。あの、わからないんです……」
「は?」
お前何いってんの?みたいな反応をされ、凄く逃げ出したい。
「気づいたら森にいて、ここがどこかわからなくて、しばらく歩いたんですけど、森から抜けられなくて」
「………つまり、迷子だな?」
「ま、迷子…うん……?なのかな……はい…」
いまいち伝わっていないが、迷子なのには間違いないか。右も左もわからない状態だし。
「なんでまたこんな朝っぱらから……まあいいや。森から抜けられればいいのか?」
「はい。あ、いや!出来れば、どこかバス停か、交番辺りまで連れていってもらえると、助かります……」
そう、森から抜けても土地勘がないから帰りかたがわからない。ならばいっそ、バス停とか駅とか。タクシーが拾えるならそれでもいいし、交番があるならそこで助けてもらったほうが安全だし、少なくとも見知らぬ人に迷惑をかけることがなくなる。現時点で迷惑をかけているけれど。
「ばすてい…こーばん?どこだそりゃ」
「は?」
「だからその、ばすてーだとか、こーばんって場所」
おおっっと????ここはもしかしてそんな田舎なのか??!
バスが通ってないほどの田舎?コミュニティバスもない?交番がない?もしかして駐在所のほうが通じる???
「えーと、ちなみにここって、どこなんですかね?」
まさか孤島とかそういうところじゃないよね……