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失敗は出逢いのもと  作者: みたらし風花
第一章
12/25

《10》魔法講座

この家に来てから数日が経った。

本当はすぐにでも、魔法のことが知りたかったのだが、セシルさんが外出しなければいけないとのことで、話を聞く時間が取れなかった。その間私は自分の部屋で本を読んでいた。



この国の文字は初めてみる文字で読めないはずなのだが、何故か頭の中で勝手に翻訳され、すらすら読めたのだった。



(英語すら読めない話せない私が読めるのって不思議~。英語もこうなら凄く楽なのに)



この世界には英語もないので、なくても困らない。そしてこの国の文字が読めることは私にとっては本当にありがたいことだった。英語もまともにできないのに、この国の文字など覚えられるはずがない。いや、会話は成立できるので、文字だけならばなんとかなるのかもしれないが。知識をつけることを一種の趣味としている私が、本ひとつも読めないようじゃ先が思いやられ、逃げ出していたかもしれない(勉強から)。



セシルさんに、文字が読めることを説明したら本を貸してもらえることになったのだが、その貸して貰った本が、私が初めてここに来たときにいたあの深遠の森についての本だった。



あの森がどういう森なのかということが詳しくかかれた本だったのだが、これを読み終えた時、私はあの日がいかに幸運だったかを思い知った。まず森の広さ、そして自分がどの位置にいたのか。本当に私はあの広いなかで、森の入り口とも呼ばれる付近にいたこと。そしてあの日、私は適当に歩き出し、ただひたすら前を歩いていたのだが、それが凄かった。もし私がどこか逸れたり、逆方面に行っていたら……私は生きていなかったかも知れない。



まず逆方面に行っていた場合、何日も森にさ迷う結果になっていたであろうこと。あの森の入り口付近は坂がいくつかあったものの、比較的平面だった印象が強い。だが奥にいくと少しずつ山を昇るようになっているそうで、足場も悪いらしい。それこそ道なき道を行く羽目になっていたとか。



そして私がどこか逸れていた場合、特に右に逸れていた場合は死の森という自殺の名所?らしい場所に行っていたかもしれないということだった。それぞれ森を抜ければ海があるらしいが、そもそも海側にたどり着くまでに険しい山を越えなければいけないらしいのだから、生身の体ひとつで行くには無謀な行動らしい。



よくもまあ私はただ一直線にひたすら歩いたものだ。セシルさんに会えたことが本当に幸運だったのだ。



さて、数日かけて分厚い本を読み終えたところなのだが、ついに今日、セシルさんが魔法について詳しく教えてくれるらしい。朝からウキウキわくわくで、実は夜は寝付けないほどだったのだ。



「さて、魔法について説明だが……俺たちにとっては当たり前に知っていることから話そうと思う」



「はい先生、よろしくお願いいたします!」



「先生…というのも、変な感じだが…まあいい」



昼食後、リビングのテーブルに向き合って座ったセシルさんとわたし。セシルさんが用意してくれた紅茶を前にして説明が始まった。ちなみに昼食後と言っているが11時くらいだ。ここ数日で寝起きするのに慣れた私だったが、どうやらセシルさんは通常運転で起きるのが10時前後らしい。だから朝食には少し遅く、昼食には少し早いいわばブランチを取っていた。



「まず、俺たちには人それぞれになるが魔力がこの体に存在する。強い魔力を持った者もいれば、弱い魔力しか持たない者もいる。その中で、王族や貴族を中心としたやつらは基本的に魔力が強い者が多く、逆に平民は平均して魔力が弱い。もちろん、貴族でも魔力が弱いものがいるし、平民でも魔力が強いものもいる」



「セシルさんは強い方?」



「そうだな。自分で言うのも変な感じだが…周りの評価ではそうなっている」



「魔力を持たない人はいる?」



「極稀に…だが、魔力がないという人にも微弱ながら持ち得る人はいる」



少しだけ建国当時の話をしてくれたのだが、今の王族や貴族を作り出したのは魔力の強さらしい。魔力の強い者が国を支え、国を栄えさせてきた。そういう者たちが権力を持つようになるのは必然なことで、王族や貴族ばかりに魔力の強い者が集まるのは、強い者同士で繋がった結果であるのだ。



「魔力の強い者は、普通に火を出したり、水を出したりすることができる……こんなふうに」



そういうなりセシルさんは右手をテーブルの上に差しだし、私に見せるように手のひらを上にした。

そして手のひらの上にボッと手のひらサイズの火が現れた。火が現れたと思ったらそれは水にかわり、手のひらの上で水の塊がぐるぐるしていた。



「す、すごい…本物の魔法だ…」



今まで家の中で生活するうえで、火や水、灯りを使ってきたのだが、それはあくまで家具や家庭製品につけられた魔法石に触ることで魔法陣が発動しているに過ぎなかったので、どうしても魔法を使っているというよりは家電を普通に使っている感覚に近かった。

初めて、人の手から火がでたり、水が出たりするのを見たことで、ここでようやく魔法が存在することを実感したのであった。



「魔力が強ければこれより大きな技を使うこともできる。属性…という部類は特にないが、人によって得意不得意がある」



「得意不得意…というのは、火を出すのが得意だったり、水を出すのが苦手だったり…ってこと?」



「そうだな。そして平民は、ここまで簡単に魔法を使うことができない」



「え、そうなの?簡単に魔法を使ったように見えるけど…」



「それは魔力が強いからだ。何かを具現化するにはそれだけ魔力が必要になるんだ。一般的な平民は、出せても本当に小さな火くらいで、水だってコップ一杯分出せるかどうかだ」



それこそ本当に、魔力を持っているという表現が正しい人のほうが多いらしい。魔力を持っているだけで、魔法は使えない、のが一般的な平民らしい。だがあくまで一般的な例であって、例外も多いという。先程の手のひらサイズの魔法なら意外と出せる人が多いんだとか。ただ、普通の人、平民はここまでやると凄く疲れるらしい。

魔力も体力と同じように消耗するんだとか。



「そういう訳で、俺たちみたいなのは生活する上で水や火を簡単に扱うことが出来るが、普通の平民はそうじゃない。それを補助するのが、魔法陣と魔法石だ」



魔法陣。魔法陣を用いる場合は術と呼んでいるらしいのだが、魔法陣は分かりやすくいえば電化製品の中身の部品的役割をしているようだ。自分の意思とは関係なく、この間のコンロのように「火を持続的につける」ために魔法陣を活用するのだとか。

しかし魔法陣の発動にはその魔法陣の機能によって魔力が必要らしく、このままだと平民では使えないらしい。



「魔法陣は自分が使えない魔法を補助するためのものだが、その分魔力は消費するし、平民では使えない。これをさらに補助するのが魔法石だ」



「これに触れることで魔法陣を発動させて、家庭製品を稼働させるんだよね?」



「そうだ。魔法石には魔力が込められている。だから、魔法陣とセットで魔法石が使われるんだ。これなら魔法石の魔力を消費するだけで済むから、平民でも普通に火や水を使うことができるんだ。ただし、魔法石は魔力に反応するから、魔力がないものは使えない、ということになってしまうが」



どうやら、あのいろいろなところにはめられていた魔法石の製品には、見えないところに魔法陣が組み込まれているらしい。そしてこの誰でも使える便利な家庭製品の元となる魔法陣を研究しているのがセシルさんらしい。凄い仕事だ。まさしく国のためになる仕事だと、褒めたら



「それはあくまで結果であって、俺は魔法陣を研究するのが趣味なんだ」



らしい。趣味で魔法陣を研究してて、それが結果的にこの国の生活を支えているのだから凄いと思う。



「そういえば、魔法石っていろんな色があったけど意味はあるの?」



「あーその説明もしなきゃいけないな。少し待っててくれ」



そういうなり彼は一度自分の部屋に戻っていった。数分後、部屋から出てきたセシルさんは、テーブルの上にいろんな色の、ビー玉サイズの石を並べた。



「これらの大きさが、一般的に使われる魔法石になる。大体の基準がこれだな」



「こんなに種類があったんだね」



私の前に並べられた石は、左から、白、黒、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、の順番に置かれていた。



「これはそれぞれ石に含まれる魔力の量によって色が違う。赤が一番魔力が少ない。比べて、紫は一番魔力が多い」



「白と黒は?」



「先に説明すると、魔力のこもった石というのは基本的に人が魔力を込めた魔法石のことを指す。中には元から魔力が含まれている石などあるが……元の、魔力のない空っぽの状態がこの白になる。そして、魔力を使いきった魔法石は黒くなって使えなくなる」



魔法石はいわば電池のような役割をしているらしい。そして充電器みたいに、魔力の量で色が変わるため、これらの家庭製品を使う上でも目安になるらしい。そして、黒くなって使えなくなったら新しい魔法石を購入し、はめ直して使うことができるという。



そして、魔法石はこの魔力量(色)によって値段が変わってくるらしく、一番魔力量が少ない赤は安く、一番魔力量が多い紫は高いらしい。



「黒くなった魔法石はもう使えないの?」



「いや。この黒くなった魔法石を白い魔力が空っぽの状態に戻すことを"浄化"というんだが、魔法で浄化することができる。ただし、そこそこ魔力は使うから平民には無理だが」



「え、でも魔法石ってみんなが使ってる生活必需品だよね?魔力を消費するのに人が全部やるには限度があるんじゃ」



「全部は無理だ。だからもうひとつの手段として、自然の力で浄化を行う。浄化の手段としてはこちらが一般的だな」



魔法石はもともと自然にある石らしい。だから探せば白い状態の魔法石が落ちてることもあるそうで、特に山や川ではこのビー玉サイズであれば拾えるという。



あの日、森で出会ったセシルさんは、この魔法石を探しに来ていたんだとか。生活必需品である魔法石が買えるのだから、この白い状態のものも買えるのではないかと思ったが、この地域にはないらしい。というより、あまり売られていないらしい。



自然の力による浄化だが、基本的に綺麗な水が流れる川などに戻すことが多いらしい。綺麗な水は浄化の力があるらしく、魔法で浄化するよりは時間がかかるが、これが一番の方法らしい。場所によって、川から水を引き、そこで浄化を行っているとかで、それは魔法石が奪われないようにするためだという。確かに浄化された白い魔法石はそのままでは使えないが、魔力を入れれば価値が生まれ、商売にもなる。ビー玉サイズが一般的だが、中にはそれよりも大きい魔法石もあり、その分こめられる魔力量も違ってくるため価値がかわる。そのため浄化を行う場所では管理されているところが多いそうだ。



「じゃあ、お前の魔力をはかってみるか」



ふむふむ、と説明を聞いていた私に、突然魔力がこめられていない白い魔法石を手渡された。

次は夕方頃に更新予定です。

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