《8》買い物に行こう!
自分に魔力があることが判明したお昼前。
ちょっと?興奮した私は、魔法陣を書けるようになりたいから、魔法陣に書かれている文字を勉強したいと伝えた。
そんなに驚かれると思ってなかったけど、突然魔法陣を書けるようになりたいだとか、そのための文字を教えてほしいだとか言ったものだから、セシルさんを困らせてしまったらしい。落ち着け、と言われてようやく私は我に返って落ち着いた。
「あー……とりあえず、そういうのは後でいろいろ説明してやるから、その前に今日は必要なものを買いにいこう」
そうだった。あの部屋には生活に必要なものが揃っていなかったのだ。とりあえず寝具だけでもほしい。あと着替え。これだけあれば数日は大丈夫だと思う。
ただ、どうやら近所ではそういったものが売ってないらしく、中心部まで行かないといけないらしい。歩いていくのかと思ったのだが、それでは日が暮れると言われた。馬車を使うらしい。タクシーみたいな感じで、お金を払うとつれていってくれるという。
「ば、馬車…!すごい、初めて乗った」
「お前のところでは馬車は使わないんだな」
「うん。そもそも移動手段としての馬はもう大分前に……う"うぇっ」
景色がかわる。少しずつ家が増えてきて、人通りも増えてきた。だが、道がきちんと整備されているわけではないので、もうガッタガタなのだ。揺れる。
普通に喋ってたら突然揺れて、腹から変な声が出てしまった。女性としてはあるまじき声だ。
「舌噛むなよ」
いつかやらかしそうだ。気を付けよう。
そしてセシルさん、笑わないでもらえるかな。
「そういえば、買ったものって家に届けてくれたりするの?」
「そうだな。寝具とかは持って帰れないから。今なら夜には届けてくれるだろう」
「よかった。それなら今日は自分の部屋で寝れるね。服は何を着ればいいのかな」
「今の服でもいいが…もっと着飾ってもいいんだぞ」
「い、いや!いい、いい。だって、平民には平民の服装があるでしょ。派手なものを着て目立ちたくない~」
ブンブンと首を横に振った。揺れ動く馬車のなかで、互いに向き合って座りセシルさんと買い物の話をした。具体的に何を買うのか、どういうものを買えばいいのかというものだ。
気に入ったものを買えばいいということだったが、ほんとうに安いの…いや、できればぐっすり安眠できるものがいいが、大きさとか豪華さは求めないから、それなりのものが買えればいいなぁと。服装について、今の私は白シャツに無地の淡い赤のロングスカートというシンプルな格好をしているのだが、服装についてはこんな感じでいいらしい。ただ、もう少し派手さを求めたほうがいいのではということだった。ワンピースのような服装もあるが、なんだかどこかの令嬢みたいな雰囲気が出そうなので遠慮した。あんなフリフリの服とか着れないよ……
装飾品もお断りした。不思議そうにされたが、今のこの生活には必要ない。必要になれば自分で買えばいいし、稼げるようになってからでいいのだ。
「セシルさんの仕事って、魔法陣を作ること?」
「そうだな。正確には、魔法陣を研究して、新しい魔法陣を作る。新しい魔法陣っていうのは、生活を豊かにするための家具につかう魔法陣だな」
つまり彼は、こちらでいう最新の家電製品を作るための基盤を作っている、ということだろう。家で使う水も、火も、灯りも、あれは魔法陣があるからこそ。稼働させるには魔法石と魔力が必要らしいが。
彼が言うには、魔法陣というのはかなり専門分野らしく、既存の魔法陣は書こうと思えば誰でも書けるらしいが、新しい魔法陣となるとそうはいかないらしい。それこそ限られた人ではないと出来ないことらしい。
専門分野で新しい魔法陣を作り出すような仕事というのは、それなりに稼げるらしい。そしてその専門分野、いわゆる専門職である魔法陣作成を私が安易に手を出そうとしている。とても不安だ、大丈夫だろうか。
「ユキ、本当は一人で買い物したいだろうが……」
先ほどの会話が終わり、しばらくお互い無言の時間が続いていた。先に沈黙を破ったセシルさんが言ってきたのはこのあとの買い物のことだった。というのも、今回行く街は王宮に最も近い城下だ。買い物をするなら城下がなんでも揃っているのだが、なにぶん人も多く迷子になる確率、そして城下といえど決して安全というわけではないので防犯も含めてセシルさんがついてくるということだった。
「あー…むしろセシルさんに迷惑かけるかと……買い物に時間かかるかも……」
女性の買い物は長いというが、私の場合も当てはまる。基本機能重視なのだが、他の似たようなものを見つけるとついつい比較して悩んでしまうのだ。なるべくささっと済ませたいのだが、こればかりは女の性なのか、なおせずにいる。セシルさんは構わないというのだが、セシルさんのお金で買い物に来ているし、セシルさんの時間を割いてついてきてもらっているのだから、なるべく早く済ませたいというのが私の心情であった。
「わあ~~」
街について馬車から降りた。歩いて大通りまで出ると、そこには奥までずらりと並ぶ建物に、そこを行き来している大勢の人がいた。セシルさんの家のある町のような、まばらに建てられているような建物ともまた違い、縦にも横にも大きな建物が多かった。
「まず先に寝具からだな。何かこだわりはあるか」
「こだわりというか、もう安眠出来れば文句ないといいますか。機能重視で選びたい!ちなみにセシルさんのあの布団は最高だった!」
そう、とてもふかふかだった。体に負担が掛からない厚みのある敷き布団に、重すぎない掛け布団、そして高さのちょうどいい枕。
「なら揃えるならあの店とそこの店だな。俺もあそこで揃えたから」
並んで歩きながら、セシルさんが指で指してお店を教えてくれる。先に手前のお店から入った。そこはベッドを買うために入った店だった。さすがに置くにはスペースがいるため実物はなかったが、かわりにカタログのようなものを見せてもらった。
最初お嬢様が使うような何人も寝れそうな大きなベッドなどをすすめられたのだが、あの部屋にそんな大きなベッドはいらず、本当に一人寝れればいいベッドを選んだ。形とかもこだわりはなく、なんどもセシルさんに確認されたのだが断った。
次に向かったお店は寝具屋さん、ここが重要なのである。
「俺が買ったのはここらへんのだな」
「ほ~。触ってもいいですか」
「是非、触ってご確認下さい」
いろんな種類の寝具が用意されていて、どれも少しずつ違っていた。
「わ~これなんか超気持ちいい……」
「左様でございますか。寝具は大切でございますからね。夫婦円満の秘訣でもありますよ」
気に入った寝具が見つかり、特に枕を私が顔に押し当ててふかふかしていると、優しい目をした店員さんがとんでもない発言をしてきた。真っ昼間からなんてことを言うんだ。
「ははは~確かにそうですね~」
多分何か凄く大きな勘違いをしているのだが、ここは過剰に反応せずスルーが一番。ここで否定すれば「恥ずかしがらなくてもいいのですよ~」とか言われるに違いないのだから。
「セシルさん、私これがいい」
「あ、ああ…わかった。すまない、これを頂けるだろうか。あと、これを……」
セシルさんの反応が鈍かったのだが、先ほどの店員の発言が不愉快だったのだろうか。冷やかされるの嫌いな人いるよね。変に絡んでくる店員ほどうざいものはないし。一人で選ばせろって時あるある。セシルさんは買い物の手続きをしに行ってくれたらしく、私は戻ってくるまでこのふかふかを堪能した。
これらは夕方には届けてくれるとのことだった。これで私はようやく気にせず眠れる。今日もセシルさんのベッドを使うことになってたら、さすがに眠れなかっただろう。昨日は疲れが勝ったが、今日はそういうわけにはいかなかった。
「お洋服~!」
ふんふんふん~!
普段から機能重視してるけど、これでも女の子だからね!毎回ポンポン買うわけじゃないけど、服をみたりするのはすごい好き。
今度は服屋さんに来たのだけれど、私がイメージしたお店とは違かった。イメージしたのは、いろんな服が飾られているお店。ここは貴族様もいる街だからドレスとかあるのかなぁとか思ってたんだけど。なんだろう、これではまるで…
「仕立て屋さん?」
「ここで好きな布を選んでくれ。金とかは気にしなくてもいいから」
「え、布から???」
「そうだが…量産された服がいいのか?」
「量産された服がいいというか、私のところではそれが普通だったから…てっきり…」
「そうだったか。量産された服でもいいんだが、残念ながらそういう服ほど質が落ちるし、俺としてはああいう服は着てほしくない」
「でもでも!布からって、高いでしょ」
「だから金は気にしなくてもいいと言ってるだろ。それに、着飾った服を着たいわけでもないんだろ?それならそんなにお金が掛からないし、今後のために何着か用意してもらえ。俺はここにいるから」
「でも…」
「でもじゃない。いい加減怒るぞ」
「えっ怒らないで!?」
「なら早く行け」
「うっ。じゃ、じゃあセシルさんもきてよ。私ここでどういう服着ていいかわからないし……」
「俺に女のことを聞くな。そういうのも含めて全部店員に聞け。ほら行ってこい」
「わわわっ」
いろいろ渋っていたらセシルさんがうんざりした顔で私を店の奥へ押し込んだ。
店員さんには「仲が宜しいんですね」とか「服をプレゼントされるなんて、素敵ですね」とか言われたが、ここでも勘違いしてますね??と口に出したかったのだが、面倒なので「ははは」と流して置いた。
スカートが一般的らしく、ならば今履いているものと同じようなものがいいと頼み、服も似たようなものを用意してもらうことになった。布のことはよく分からなかったが、ここにある布はどれも肌触りがよかった。ただ金額がわからないのでびくびくした。庶民の私にとっては、服を買うにも値段を気にして買っていた私には落ち着かない買い物だった。
面倒なので全部無地にしてやろうと思ったら、店員に止められて、いろいろ熱意のこもった説明で懇願され、半分は刺繍が入ったもの、少しレースがついたものを用意してもらうことになった。そのせいで思ったより時間がかかってしまい、セシルさんに深く頭を下げた。でも刺繍選びやレース選びは楽しかった。もちろん抑えめにしてもらったのだが。
そのあと、なんやかんやで生活に必要な食器や、部屋に置く机、椅子などを買ってもらい、思ったよりもあとで自分で買おうと思っていたものまで揃えてもらってしまったのだった。
家に帰ってくると、セシルさんが用意してくれていた家の鍵をもらい、夕食を用意してもらうことに。その間に今日買い物した寝具などが届き、部屋を片付けるなどの作業で夜が更けてしまったので、ここにきて二日目の生活は、あっという間に終わったのであった。
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