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福徳小学校の七不思議  作者: スネオメガネ
怪2 這い寄る
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モヤモヤ

 モヤモヤする。


 入学式の前日に見たモノが何なのか…、そればかりが気になっていた。


 あの異様に長い手がボールを奪っていってから、乱れた椅子を片付ける羽目になった訳だが、正直、いつアレが戻って来るかと、ビクビクしながら片付けた。


 幸い、アレが戻って来る事はなかった。


 それは、すごくありがたい事ではあったが、一度しか見ていないせいで、結局、アレが何だったのかが、わからず仕舞いのままなのだ。


 もちろん、他の先生方に聞いても、変人扱いされる可能性が高いので聞けない。


 翌日、入学式の時に天井を見上げると、普通にボールが挟まっていた。休みを挟んだ始業式でも、変わらず、挟まったままだった。


 そうなると、アレも実は、幻覚だったのではないか?と、いう思いが頭を掠める。


 そうなると、自然にアレは、やはり幻覚だったのだと、納得しようという方向に思考が走る。だが、アレについて納得のいく答えを考えようと、事細かに思い出そうとすると、あの場に篠宮少年がいた、という事に思い至る。


 アレが幻覚だと納得するためには、篠宮少年があの場にいなかった。もしくは、あの場にいたが、一人でワタワタしている私を見たという答えが必要だ。


 その答えであれば、自分が幻覚を見ただけだと結論付ける事ができる訳だ。


 私は、とにかく篠宮少年と話をしなければ、という思いに囚われるようになった。


 だが、篠宮少年は6年生で、私は5年生の担任だ。


 一度だけ、渡り廊下ですれ違った事はあるが、声を掛ける事はできなかった。違う学年の教師に呼び止められるというのは、ある意味で目立つ事になる。当然、周囲の注目を浴びる事になるだろう。


 そうなると、その場でアレについて話をする事は、聞き耳を立てる生徒に聞かれる事になるだろう。


 最悪、篠宮少年と私は、変人のレッテルを貼られる事も考えられる。と、言うわけで、短縮授業も終わり、通常のカリキュラムに戻った今でも、篠宮少年と話をする事が出来ないでいたのだ。


________________________


「…はい。今日はここまで。日直」


「きりーつ、気をつけ〜」


「「「ありがとうございましたぁ」」」


 日直の気怠そうな号令を合図に、みな帰り仕度を始める。


 私は、片付けを行いながら、それを見送った後、職員室へと向かった。


 職員室へ戻り、黒田先生と話をする。


「だいぶ慣れましたか?」


「ええ、まぁ…。なんだかんだ、前の学校の時とそれほど大きな変化がないので…」


「それはよかった。ところで、沢田先生が参加してる勉強会があるそうなんですが、溝口先生も参加してみてはどうですか?」


 そう。


 教師というのは、ただ授業を教えていればいいという単純な仕事ではない。


 日々、書類に追われ、時にはテストの採点に追われ、その中で、子供達にどうやって分かりやすく教えて行くか、という事を考えて、授業の準備を行っていかなければならない。

 授業も中学校と違い、一人で国語、算数、理科、社会、英語と教えなければならず、その準備も多岐に渡る。


 そこで、つきまとってくるのは、どうやって分かりやすく教えるか?という問題だ。教え方も、クラスの状況などによって、変える必要もあるし、なかなか一筋縄ではいかない。


 そこで、教育委員会主催の研修とは別に、近隣の学校の教師などで集まって、自主的に勉強会を開き、情報交換や教え方について話し合ったりする事がある。


 黒田先生が言う勉強会というのは、それの事だろう。


「…」


 黙り込む私に対して、黒田先生が優しく声を掛ける。


「まぁ、すぐにとは言わないので、考えておいて下さい。気が向いたら、沢田先生にでも声を掛けてみて下さい。

 一応、他の…学校の中堅どころの先生が多い勉強会らしいので…」


「はぁ」


 つい、煮え切らない態度を取ってしまう。


 勉強会と聞くと、彼女の事を思い出してしまうからだ。


 あれは、教員になって2年目の事だった。


 当時の私は3年生を担当していて、日々、指導について悩んでいた。


 そんな時に、近隣の学校の教員達と親睦を兼ねて勉強会を行う事になり、そこで初めて彼女と出会ったのだ。


 彼女と出会った頃の事を思い出す。


 と、同時に頭に痛みが走る。


 最近、彼女の事を思い出すと、頭が痛くなる。


 何か悪い病気だろうか?


 …いや、単にまだ彼女の事を乗り越えきれてないだけなのだろう。


 思わず、苦笑いが溢れる。


「ところで、遠足の班は決まりましたか?」


 黒田先生の発言で、現実に戻る。


 今日の学級会で、来週の遠足の班決めを行う予定になっていたのだ。


「はい。今日、決めました。後で、データにして印刷します」


「いや、3クラス分まとめたいので、行事フォルダに入れて、メールでリンクを送っておいて下さい。

 まとまったところで、沢田先生と溝口先生にメールでリンクを送りますので」


「わかりました」


 そう答えて、PCに向かって、早速、作業に取り掛かった。


 今回は、自由に班を作ってもらう事にした。所謂、好きな子同士のグループを作成してもらった。顔と名前は、だいたい一致してきているが、人間関係まではわからないので、この遠足で見極めたいという狙いがあった。


 多少、揉める事を想定して、あぶれた者の受け入れ先があるか?という心配はあったが、皆、素直ないい子達ばかりなのだろう。比較的にすんなりと班が決まっていき、杞憂に終わった。


 グループメンバーの住所や特徴を照らし合せながら、『なるほど、こういうグループかぁ』などと一人納得したり、意外がったりしながら、グループ表を作っていく。


 作業に没頭していると、視界の端に、職員室の扉から中を伺う篠宮少年が見えた。

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