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福徳小学校の七不思議  作者: スネオメガネ
怪3 小さきモノ
11/35

沢田先生の体験談

「ねぇ、先生。あれから何か見た?」


 五月の晴天の下、運動会の最中、とてもナチュラルに違う学年のはずの篠宮少年が、寄ってきて話し掛けてきた。

 私は、ため息を吐きながら首を振る。


「篠宮さん、篠宮さんの学年は、あっちですよ。自分のクラスで応援してください」


「だって、先生といれば、きっとまた何か見れるかもしんないから」


 ツクエツムリを目撃してから、篠宮少年は事あるごとにやってきて、つきまとうようになっていた。だが、一人の生徒を特別扱いはできない。なんとかして、追い返そうと考えて、ふと思考が止まる。


 初めて、篠宮少年と会った時の言葉を思い出したのだ。


 …先生、多分、好かれやすいと思うから…。


 確かにあの時、篠宮少年は私について、そう言った。


「そう言えば、はじ…」


「こら、篠宮!応援は自分の席でしなさい!」


 思わず、あの時の言葉の意図を聞こうとしたところで、厳しい声が響いた。いつの間にか、篠宮少年の担任の谷口先生が、赤いジャージで側まで来ていた。


 私は、この先生が正直苦手だった。


 普通に生徒を呼び捨てにする姿勢に好感が持てないのだ。

 思えば、沢田先生も生徒を『さん付け』で統一していない。男の子には『くん』、女の子には『さん』を付けている。

 そう考えると、割と生徒の呼び方には自由度がある学校なのだろう。


 私は、前の学校で教わった通り、『さん付け』で統一している。性の差別をなくす、というのが理由だったと記憶している。…が、勝手な推測だが、本当は『くん付け』、『ちゃん付け』、『アダナ呼び』による贔屓感を防止するためだったのでは?と感じている。

 だから、全員『さん付け』にすることで、距離感を統一し、ムダなトラブルを防止しているつもりなのだ。


 そのせいか、生徒を呼び捨てで呼ぶ谷口先生が古いタイプの教師に見えてしまうのだ。


「はぁい」


 谷口先生に怒られた篠宮少年が、渋々、自分のクラスへと向かうのを見て、安堵する。

 その時、谷口先生がこちらをチラリと見た気がした。


 運動会が終わり、沢田先生と職員室へ戻る途中、再び、七不思議の話を持ち掛けてみた。前回話をした時に、信じていないと思われていたため、こちらも一枚カードを切る事にする。


「そういえば、入学式の準備の時の話なんですが…」


 そこで、一度話を切り、沢田先生の様子を見る。何の話が始まったのかと、大きな目を開いてこちらの様子を見ている。


「…いや、やっぱいいです」


 そこで、わざと話をやめてみる。


「…なんですか?気になるじゃないですか!」


 途端に喰いついてくる沢田先生。


 チョロいな。


「いや、…話しても信じてもらえないかな、と」


「私は信じますよ。溝口先生とは違いますから」


 そこで、胸を張る沢田先生。


 本当にチョロい。


「いや、車の鍵を探しに体育館に行った時に変なモノを見たんですよ」


「変なモノですか?」


「ええ」


「…何を見たんですか?」


「凄く長い手が天井から伸びてたんです」


 そこで、沢田先生の様子を見る。


「…本当ですか?」


「…本当です」


 沢田先生は、少し嬉しそうな顔をした。


「すごい!それって黒田先生が言ってた七不思議の手長足長じゃないですか!?」


 興奮したのか、手をワチャワチャ動かしながら話す。


「やっぱ、そうなんですかね?」


「きっと、そうですよ!すごい!いいなぁ」


 嬉しそうに話す。


「それで、どうなったんです?」


「ちょうど鍵を見つけて、帰る時に扉を閉めようとした時に見たので、気のせいだと言い聞かせて、そっと扉を閉めました」


 大嘘だ。


 本当は、ボールを持っていたせいで、長い手に追われたのだが、わざわざ本当の事を言う必要はないだろう。

 要は、信用させて小人の話が聞ければいいのだから。


「すごいですねぇ。やっぱり七不思議はあるんですよぉ」


 沢田先生が遠くを見ながら、うっとりとしている。


「沢田先生も小人を見た事があるんですよね?

 やっぱり、七不思議はあるんですかね?」


「私は、職員室で見たんですよ」


「職員室で?」


「はい、あれは2年前ですかね。テストの採点で遅くまで残ってたんですよ。そしたら、子供の声が聞こえてきて…、こんな時間に生徒が?って思ったんですよ」


「何時頃ですか?」


「21時を回ったくらいだったと思います」


 小人も黄昏時じゃないのか。


「それで、辺りを見回したら、…いたんです!」


「…小人が?」


「はい。3人の小人が…、ネズミを引きずっていたんです!」


 前は、たくさんいたって言ってなかったか?


「ビックリして、思わず『ギャッ』って言っちゃったんです」


「言っちゃったんですか?」


「はい、言っちゃいました」


 バツの悪そうな顔をして話す沢田先生。


「そしたら、小人達が一瞬こっちを睨んで、逃げていったんです。ネズミを残して…」


「ネズミを残して、ですか?」


「はい。とりあえず、私も溝口先生と同じで、見なかった事にして、帰りました」


「テストの採点は?」


「途中でした。だから、朝早く来てやりました」


「ネズミは?」


「…なくなってました。…でも、馬場教頭が先に登校していたので、もしかすると教頭が片付けたのかも…」


「…」


「….と、まぁこんな感じです」


 そこまで聞いて、話を整理して考える。


 朝になって、ネズミが消えていたのは、話の信憑性がグッと落ちる。


 見間違い。


 幻覚。


 そんな言葉が、頭をよぎる。


 どちらにしても、現場が職員室だと言うのなら、今回は、篠宮少年と一緒に経験する事はないだろう。

 どうせ、残業代は出ないのだ。これからは、少し遅めに帰るように心掛けよう。

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