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福徳小学校の七不思議  作者: スネオメガネ
怪3 小さきモノ
10/35

調査

「七不思議ですか?」


「ええ、授業で脱線した時に生徒達が言ってたんですよ。だから、知っておけば、生徒達との話のネタになるかと思って…」


 なるべく、自然に聞こえただろうか?


 結局、最初に聞き込みを行なったのは、沢田先生だった。彼女ならば、同じ学年だし、自然に聞けると踏んだからだ。


「まぁ、知ってますよ」


 そこで、彼女はイタズラっぽく笑う。


「ここの七不思議は、少し変わってるんですよ」


 彼女は、すっかり忘れているようだが、そこまでは、以前も聞いた事があるのだ。


「…どう、変わってるんですか?」


「ここの七不思議は…7つ全て経験すると、願いが叶うって言われてるんですよ」


 ?


 篠宮少年から、聞いた話とは、まるで違う内容だった。1年以内という内容も、6つ経験したら登場する審判とやらも一切出てこない。


「…願いが…叶うんですか?」


「はい。そう言われてます。

 だから、他の学校は有名な7つの怪談を七不思議と呼ぶのに対して、ここの七不思議は、っぜ〜んぜん、知られてないんです」


 これでもかというドヤ顔を決めてきた。


 ここで、私の気持ちは、一気に冷めていった。


 なぜなら、聞いた二人の話に食い違いがあったからだ。それは、伝聞の特徴とも言えるかもしれないが、要は正しく伝えられていないという事を意味する。

 誰かが、聞いた話に自分の解釈や価値観で補正を掛けて、他の人に伝える。そして、聞いた人間も同じように補正を掛ける。

 結果として、元の話とはかけ離れた内容が、まことしやかに語られるようになる。


 よくある話だ。


 そんな話に期待していた自分の愚かさに脱力しそうになる。


「…どうやら、信じていないようですね?」


 沢田先生が、私の顔を見て、眉をひそめる。


「まぁ、怪談の一種ですよね?沢田先生は、信じてるんですか?」


「私は、信じてますよ」


 胸を張って答えた後、身を屈め、小声で話し出す。


「だって、私、七不思議らしきものを見た事があるんですよ」


 意外な答えだった。思わず身を乗り出す。


「どんなのですか?」


 ツクエツムリだろうか、手の長い奴だろうか、それとも…別のまだ見ぬ怪異か。


小人(こびと)です。妖精です」


 訪れる沈黙。


「…ふぅ。やっぱり信じてもらえませんか…」


「いや、そんな事ないですよ」


 ガッカリした感じで気落ちする彼女に慌てて否定の言葉を送る。


 本心だった。


 手の長い奴やツクエツムリを見た事のある私が、比較的マトモに思える小人の目撃談を疑う理由などない。


 ただ、この話は、どこでどう遭遇したのかを聞かなくてはいけないと思い、思わず沈黙してしまっただけだった。もしかすると、その際に険しい表情をしてしまったのかもしれない。それを彼女は怪訝なモノを見る表情と判断してしまったのだろう。


「その小人は、どんなんだったんですか?」


「…どんなんって…、ちっちゃくて、トンガリ帽子被って、たくさんいたんですよ…」


 集団でいるのか…。


「…どこで見たんです?」


 そこまで、話したところで、彼女の視線が私の後ろへと移る。


 ?


 何事かと振り向くと、私の後ろに黒田先生が立っていた。


「七不思議の話ですか?」


 黒田先生は、私と沢田先生の間の席に持っていたコーヒーを置いて、そのまま席に着いた。


「懐かしいですねぇ」


 コーヒーをズズッと啜って、言った。


「黒田先生も聞いた事ありますか?」


「ええ、私もこの学校は長いですからねぇ」


「小人の話ですか?」


 沢田先生が、便乗して質問する。


「小人の話もありますよ。巨大ナメクジの話や妖怪、手長足長の話もありましたねぇ」


 黒田先生が遠くを見ながら話す。


「ま、どれも子供が考えるような与太話ですよ」


 そして、バッサリと切る。


 沢田先生が、少しガッカリしたような顔をした。


 私はと言うと、巨大ナメクジと手長足長に引っ掛かりを覚えていた。

 私が見たツクエツムリと巨大ナメクジは同一のものなのか、はたまた別物なのか?そして、手の長い奴と手長足長は同一なのか?という事だった。


 もし、別個体であるならば、そいつらの遭遇エピソードが欲しいし、同一のものならば、話は進展していない事になる。


 ただ小人というキーワードだけは、まだ経験してない上に、沢田先生の言う言葉と黒田先生の言葉に共通していた。


 あとは…


「ちなみに、7つ全て経験すると願いが叶うって言われてるんですか?」


 私は、黒田先生が終わろうとしているにもかかわらず話を続けた。


「いえ、正確には6つでよかったはずですよ。

 6つ経験した時点で起こる試練に打ち勝てば、願いが叶うといった内容で、その話が7つめの不思議として語られていたはずです。

 …溝口先生まで、子供の作り話に影響を受けてるんですか?」


「いえいえ、さっき沢田先生にも言いましたが、授業中、脱線した際に子供達が七不思議の話をしていたもので…、知っておけば、コミュニケーションの一助になるかと思いまして…」


 怪訝そうに聞いてくる黒田先生を適当に誤魔化す。


 聞きたい事は聞けた。小人の話は、後から沢田先生にも聞ける。


「さっ、お仕事、お仕事!」


 私は、若干、わざとらしく七不思議の話を切り上げた。

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