8自分の才能がわかりゃ苦労はしない
「僕に二つ名は無い」
「…………なに?」
セインはまっすぐこちらを見据えながら言い放った。あきらかに嘘を吐いているというのに、悪びれる様子がない。迷いのない目で戯言を宣うセインに対して、イーギルは怒りを爆発させる。
「馬鹿言ってんじゃねぇぞガキィッ!国から能力を認められることが『勇者』になるための条件だろうがっ!!」
勇者の装備が選んだ勇者候補たちは、全寮制の国の訓練施設に入れられる。そこで剣技や魔法を学んでいくうちに、どこかしら突出した、勇者としての能力を見出されることになる。それがわからぬうちは、どんなに優秀であろうとも『勇者』として認められることはない。ネックレスを貰って旅をしている以上、こいつは自分の能力を知っているはずだった。
「嘘じゃない。少なくとも僕は、二つ名を貰わないまま旅に出されたんだ」
10歳のときに候補生になってから丸5年、僕の訓練評価はいつも平均以下だった。勇者の装備に選ばれたものの、才能が見いだされずに勇者になれない人も多い。成長が見込めないと判断されれば追い出される。セインは自分もその一人なのではないかと、不安に思っていた。
寮に居られるのは18歳までだ。セインは16になる前に、何故か勇者の証を与えられ、旅に出された。追い出されたわけではなさそうだが、なんで勇者になれたのかは、未だにわからない。
「だけど勇者に選ばれたからには、僕には人々を守る義務がある!」
「ああそうかい、じゃあこいつらの代わりに死ね」
イーギルがセインに向かって手の平を向けた。高熱を帯びた炎の塊が、セインに向かって発射される。無詠唱によるファイヤーボール。本来であれば、木の桶を壊せる程度の初期魔法であるが、勇者の能力『火片』によって強化されている。壁を易々とぶち抜く威力のファイヤーボールが、唸りをあげて爆発した。