4鉄壁の門番
門を守って早4年、門番のモンドはいつものように城門前に立っていた。雨の日も風の日も、笑顔で門の前に立ち続けるモンドは、街の人とも旅人たちとも仲がいい。出入りする者に、ひと声かけるのがモンドの美学だった。
「モンドさん、ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ、勇者殿」
若い勇者、セイン殿と言葉を交わす。今朝門を出た時よりも、晴れやかな顔をしている。一皮むけて帰って来たのであろう。両足が腫れているのも、名誉の負傷に違いない。
「ただいまモンド、これあげるわ。ユリミの花、奥さん好きだったでしょ?」
「おお、これはこれは……かたじけありません、魔法使い殿。おかえりなさいませ」
誇り高き魔法使い、スワン殿から花を受け取る。彼女は気が強く高圧気味なため勘違いされがちだが、よく他人に気が回る良い子である。モンドは花をそっと、自分の鎧の隙間に差し込んだ。
「……ん」
「はい、おかえりなさいませ、戦士殿」
片手をあげて通り過ぎる戦士、バートン殿に頭を下げる。彼は別の勇者パーティにいた戦士だ。勇者の命令を無視し、パーティから離れ一人で村を守り通した英雄だった。本来ならば勇者の命に逆らった罪人として裁かれているところだが、勇者セイン殿がパーティに加えることで刑を逃れることが出来ている。
「よぉモンド、髪切った?」
「いいえ、切っていませんよ?」
「ああそうかい?まったくいつもよりイイ男だからよぉ、髪型変えたのかと思っちまったぜ」
まったく、この人はいつも適当なことばかり言う。モンドはお世辞とわかっていながらも、照れくさそうに鼻の下をこすった。
「ははは、上手いですね。おかえりなさいませ」
「おうよ、じゃあなモンド、仕事頑張れよ!」
緑色の気さくなおじさんはそう言って門を通ろうとして、
「……っちょっと待ったぁああああああっ!?」
正気に戻ったモンドに止められていた。セインが「まずい」といった顔で振り返り、スワンが舌打ちをしていた。
「誰だあんた!?常連みたいな空気出しやがって危うく通すところだったわッ!?」
「ん?おいちゃんかい?おいちゃんはあれだ、ただの気の良い河童だよ」
「カッパってなんだぁあ!聞いたことないわ!?」
エキサイトするモンドに、勇者セインが話しかける。
「ちょっと待ってくださいモンドさん、その人は別に悪い人じゃないんです、危険はないんです!」
「いや通せませんよ!明らかに魔物の類じゃないですか!」
「なによ!ただちょっと緑色でくちばしと甲羅があるだけのおっさんじゃないの!通しなさいよ!」
「緑色でくちばしと甲羅があるだけのおじさんってなにっ!?」
揉める三人をよそに、戦士バートンがぽんと手を打った。
「あーあれだ、カッパさんてば服着てないから止められてんだよ。ほら、俺の予備のマントあげるから羽織りなカッパさん」
「お、悪ぃね」
「いやいやちげーよ!!裸だからとかじゃなくッ!!つーかマント付けたところで裸にマントだろうがそれッ!!駄目だよ!!なんでちょっとポーズ取ってんの!?カッコよくないからねっ!?」
マント姿で仁王立ちする三平太にツッコミを入れる。モンドもまた、ツッコミ属性の持ち主だった。