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1河童の三平太

「いやね、おいちゃんもいちいち怒りたくないんよ?もういい歳だし、血圧とか気にしないといけない年代だしさぁ」

 勇者セイン、16歳。この状況がなんなのかと聞かれても、僕にもわからない。

「でもさ、いきなり火ィ付けてくるって、どういうことよ?あれだよ?火付けってのは大罪だよ?あんだけ激しく燃やされちゃ、市中引き回しにされてもおかしかないねぇ」

 左右に座る仲間を見やる。戦士バートンと魔法使いスワン。謎の魔物に正座を強いられ、自分と同じく戸惑っている。

「その後も『熱いっ!』って言ってんのに斬りかかってくるし、あれだよ?おいちゃんは優しいから二人で斬りかかってきたの一回にカウントしたけど、それでも2(ツー)アウトだから、仏様でもあと一回でキレてるからね?」

 緑色の魔物が腕を組みながら三人の顔を覗き込む。なんでだ…………なんで…………

「なんで勇者のパーティが魔物相手に説教されてんだぁあああああああああッ!!」

「お、落ち着け勇者!刺激してはいけない!」

 勇者セインは被っていた兜を、地面に叩きつけつつシャウトした。興奮するセインを、戦士バートンが落ち着かせる。

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

「おうよ、落ち着いた?」

「フゥゥ…………まぁ、少しだけ」

 セインは冷静になって座り直す。レベル上げの最中、見たこともない魔物を見つけたのが運の尽き。レアな素材でも落とさないかと不意打ちを仕掛けたのが間違いだった。先制で打ち込んだ『ファイアーボール』を耐えられ、戦士との二人掛かりでの攻撃を受けとめられ、あっという間に返り討ちにあってしまった。

「魔物に正座させられるなんて、なんという屈辱……っ!魔力をケチり過ぎましたわ……」

 貴族の出である、プライドの高いスワンがほぞを噛む。自分の全力の魔法であれば、魔物の一体くらい訳なく倒せたものの…………死体から剥ぎ取る素材とレベル上げを続けることを考えると、初手で上位の魔法は撃ち込めなかった。

「あの……すいませんでした、ゴブリンかと思っちゃって、つい……許してください」

 落ち着いたセインが陳謝しながら頭を下げる。自分はともかく、戦士の重い一撃をも、この魔物は片手で受け止めていた。僕たちでは、この魔物には敵わない。この場で僕たちを生かすも殺すも、この魔物の気分次第だ。出来るだけ穏便に済むよう、下手したてな態度で許しを請う。しかしスワンは、勇者が魔物相手に簡単に頭を下げたことが気に入らなかったらしい。信じられないといった様子でセインを見た後、『自分だけは屈しないぞ』といった目で、目の前の魔物を睨みつけた。

「ゴブリンってなんだ?おいちゃんみたいな、素敵な見た目してんのかい?」

「何が素敵よ!あなたみたいな、気持ち悪い色した魔物よこの緑野郎!」

「なんだと!おいちゃんの小粋な緑を否定する気かぁっ!許さん!許さんぞそれはっ!謝りなさい!!」

「魔法使いィっ!?やめろっ!すいませんナイス緑です!魔法使い!ほら謝りなさい!すいませんって謝りなさいっ!!」

 スワンはセインの言うことを聞かずに、ツーンとそっぽを向いてしまった。この状況でなお魔物を挑発するスワンに対して、セインは慌てふためく。仲間を守るために勇者である僕が頑張っているというのに、なぜそんなことをするのか!必死に取り繕うセインの左肩を、戦士バートンがトントンと叩いた。

「なんだよっ!今大事なところだろ!早く謝らせて機嫌直してもらわないと……」

「なぁ、勇者よ。この人(?)に仲間になって貰ったらどうだ?」

 緑色の生物を指差しながら戦士が言った。

「……は?」

「俺らより強くて魔法耐性もある、話も通じる相手だ。悪くないと思わんか?」

 戦士に言われて、魔物の方を見てみる。魔法使いの失礼な態度に対して怒ってはいるようだが、腕を組んでいるだけで狂暴な様子はない。高い理性と知性を有している証拠だ。

「あ、あのぅ……すいません、魔物さん」

「ん?魔物じゃねぇさ、おいちゃんは河童だよ」

「カッパさん……良ければ僕たちと一緒に世界救いませんか?」

「はぁっ!?何言ってんのよアンタ!魔物を仲間にだなんて、正気なの!?」

 スワンが大声でセインに噛みつく。セインは手でスワンの口を塞ぎながら、三平太の勧誘を続けた。

「こう見えて僕は国公認の勇者なんです!一緒に戦ってくれる強い味方を探ししてまして(ひへまひへ)是非へひ一緒ひっほして頂けないかと(ふぁほ)

「ンー!ンー!ンーッ!!」

 じたばた暴れるスワンに頬っぺたを引っ張られながら、言葉をつむぐ。

「ん?いいよ」

「いいんだっ!?」

 三平太は意外とあっさりと了承してくれた。

「よくわかんないけどさぁ、若者に力貸してくれって言われちゃ、貸さねぇわけにはいかねぇよなぁ年寄りとしちゃよぉ」

 鼻の下を人差し指で擦りながら、三平太が手を伸ばす。セインは三平太の手を取り、新たな仲間と熱い握手を交わすのだった。


「ンーーーーーーーッ!!」

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