第四章 入学試験で大暴れ!
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シャルたちとの魔法の特訓をさらに5日ほど行い、魔法史学の基礎や身体能力なら、シャル母から合格間違いなしの太鼓判をもらった。
相変わらず通常魔法は使えないが、魔弾の発動時間や連射数などが向上し、同時に精密な魔力コントロールも出来る様になった。
異世界に来てから25日目。
ついに魔法学園の入学試験を受けに、魔法都市『バリシォーイ』へと向かった。
バリシォーイは、総人口の約7割が魔法学園の職員や学生であったり、魔法の研究者だったりと、とにかく魔法を学ぶには世界でも有名な都市である。
この国を統べる王。グリューエン・コーニング。
その圧倒的な力と魔法で、多くの魔物を蹴散らし、いくつもある国々を陽気な性格でまとめ上げた王の中の王。
そんなコーニング王家の王城があるのも、このバリシォーイの中……むしろグリューエン王の、魔法使いとしての実力、大らかな性格に引かれた者達が集まり出来たのが、この魔法都市『バリシォーイ』であるといっても過言ではない。
そして、王様自らが率先して作った学園こそ、俺たちが向かっている『スプランドゥール魔法学園』なのだ。
魔法使いを育てることに定評があり、卒業生はいずれも凄腕魔法使いとして、世に知られている。
そんな有名な魔法学園だからこそ。入学希望者は毎年増え、入学試験も年々ハードになっているのだ。
いったい俺たちには、どんな試練が待ち受けているのだろうか………………。
「ちょっとユウト。さっきから何一人でぶつぶつ言ってんのよ! ほらもうすぐバリシォーイに着くわよ。準備しなさいよね」
「そう。俺たちはついにバリシォーイに、いや、魔法学園の入学試験を受けるの為にスプランドゥール魔法学園に来たのだ! 待っていろよ入学試験! このユウトがサクッと合格してやるぜ! ふふふふふっ。あーっはっはっはぁ」
「ちょっ、ちょっとシュエ。ユウトってどうしちゃったわけ? さっきから一人でぶつぶつ言ってたかと思って声かけたら、急に叫び出しちゃうし……」
「そっとしといてあげようよシャル。昨日初めてアレが成功して嬉しかったのと、初めてアルヒの町から出たのとで、テンションがあがってるんだよ」
「はぁ? あいつ別の町から来たんだし、旅ぐらいしてたでしょ? 何がそんなに嬉しいのよ。それにアレは……」
「その辺りは私もわからないけど、でも道中の野宿やモンスター狩りでもやたらと興奮してたよ? やっぱり旅に出るの初めてなんじゃないかな? アレのことは別にしても」
「はぁーもう。まったく変な奴よね。それにもう子どもじゃないんだから、魔法都市に行くぐらいで、はしゃいでんじゃないわよっ」
先ほどからシャルとシュエが何やら俺の事を言っているみたいだが、そんなことは気にならない!
だって、ついに異世界に来て初めて冒険をしているのだから!
速度が全然出ないくせに、やたらと椅子の固い馬車の乗り心地。
時々襲ってくる角の生えたウサギや、変な色の犬型のモンスター狩り──まぁ危険という事で戦闘はさせてもらえず、護衛の人たちが倒すのを馬車の中から見ていただけだが──それでも初のファンタジー感溢れるイベントにテンションが上がらないなどあるはずもない!
こっちの世界に来てから25日の間は、ほぼ屋敷の中か、行っても裏の森。町内への買い出しぐらいで、モンスターもいなければ、冒険をしている気にすらならなかった。
それがどうだ! こんなにも世界はファンタジーで溢れている! これが狂喜乱舞せずにいられるか? 答えは否だ!! 俺のテンションは天井知らずに上がっていくぞ! なーっはっはっは!
─── 2 ───
説明臭い脳内妄想も終え、俺たちはアルヒを旅立ってから5日目。ついに魔法学園があるバリシォーイに到着した。
「へ~ここがバリシォーイか……デカいな…………」
「ホントよね~……」
バリシォーイの都市は、高さ5メートルを超える石壁によって守られていた。入口も同じく巨大で、いったい何を通す目的で作ったのかさえ分からないほどの大門の前には、屈強な男たちが鎧をフル装備して守っていた。
「凄い凄い! あれ初級魔法なら簡単に弾き返してくれる魔返しの鎧じゃない? あっ! あっちの人が持っているのは国立魔法軍隊の青杖! それにあの人が持っているのは──」
「「…………………………」」
「なっ、何よ二人とも! さっきからじっと見てきて」
俺とシュエが、天井知らずのテンションではしゃぎまくるシャルをジト目で見つめていた事に、ようやく本人も気づいてくれた。
「シュエさんや」
「なんですか? ユウトさん」
「俺に『子どもじゃないんだからはしゃいでるんじゃない』と言ってたのは、どこのどなたでしたっけ?」
「そーですねー。私の記憶が正しければ、今まさに魔法具をみて大はしゃぎしているシャルだったと思いますよー」
「そーでした。そーでした。あっ、シャルはそのまま楽しそうにしていればいいよ。ハハハハハ」
「あーもう! うっさいわね! 子どもだって馬鹿にして悪かったわよ! だって見てみなさいよ。あんなに凄い魔法具やマジックアイテムが見れるのよ? 興奮しない方がおかしいでしょー?」
自分の非を詫びたのか、開き直ったのか分からないほど、シャルはいかに魔法具が素晴らしいか語りはじめた。
「えっと……シュエ、シャルってもしかして……」
「はい。魔法具やマジックアイテムが大好きで、もうマニアと言うしかありません……」
この世界にも『マニア』という言葉があるのか。なら『ヲタク』というのもあるかも知れないし、ないなら俺が広めてもいいかもな。
などと、永遠と続くシャルの魔道具話を聞き流しながら、そんな益体もないことを考えていた。
バリシォーイに着いたのはいいが、石壁の前で荷物や身分の確認やらの検問を受け、結局中に入れたのは一時間もたった後だった。
入学試験は明日の正午だったので、今日は早めに休むために宿へと直行し、簡単な食事をとったらすぐに布団に入った。
初めての旅の疲れと、馬車の固く揺れる椅子から解放されたことで、俺はあっという間に眠りに落ちた。
ちなみに、シャルもシュエも同じ部屋だったが、ラッキースケベも、Hなイベントも特にはなかった。
これでも俺は元中3で、実年齢でいえば15歳だ。さすがに小学生には欲情はしないよ?
………………たぶん。
シャルは性格も体型まだまだ子どもだと思うのだが、シュエは胸がほんの僅かだが膨らんできていて、優しく微笑む表情などは、グッとくるものがなくはないが……いや! 大切な友達に何を思ってるんだっ! 自重しろ俺──。
そんな取り留めのないことを夢見心地で思っているうちに眠ってしまい、気が付くと朝陽が昇り、カーテンの隙間から俺の顔を照らしていた。
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「天気もいいし、体調もばっちり! 今日は絶好の入学試験日和ね」
「朝から元気がいいなシャルは」
朝食を食べ終え、試験へ向かう準備を終えた俺たちは、宿屋の前でスプランドゥール魔法学園行きの乗合馬車を待っていた。
バリシォーイの都市まで送ってくれたのは、入学試験を受ける人たち用に国が出している乗合馬車で、遠くにいる子を都市まで送ってはくれるが、都市内に入ってからは自分たちで行動しなければならない。なので、俺たちは学園行きの馬車を探しているのだが、
「全然来ないわね、馬車……」
「何かあったのかな?」
待てど暮らせど馬車は一向に現れないまま、時間だけが過ぎていく。
「あーもう待てない! こうなったら歩いてでも行きましょー」
しびれを切らしたシャルが、学園に向かって歩いて行き、途中で見つけたらその時乗ればいいかと、俺とシュエも歩いて学園まで行くことにしたのだが…………。
「なんかあっちの方が騒がしいみたいね、ちょっと見に行ってみましょ」
「あっ、ちょっ……。ったく、ほんと考えるより先に行動する奴だよな」
「あはははは。シャルは昔っからあんな感じで、でもそれが良いことに繋がってきましたから」
「へ~。そんな奇跡みたいな事もあるんだなー」
シュエと話しをしながら、先に走って行ったシャルを追いかける。
シャルの先走り行動が好転するってどんな奇跡なんだろうな。
「今もその奇跡は続いてますよ」
「へ? そうなのか?」
いったいそれはどんな奇跡なんだ? 俺も身近で感じられるのなら知っておきたい。
「ユウトさんと今こうして一緒にいられるのも、シャルの直感的な行動が奇跡を起こしたからだって私は思っています。そして、とても嬉しい事だって感じています」
そう言うシュエの笑みは、少し恥ずかしそうにしながらも嬉しさが溢れていて、そして何より本当に幸せそうだった。
(ヤバイ! なにこの可愛過ぎる生き物は! マジで天使ではなかろうか!)
「ユウトさんどうしました? お顔が真っ赤ですよ?」
下から上目使いで見上げるとか、どこのラブコメヒロインですか!
10歳の少女とは思えぬ萌え攻撃に、一発KОしかかったがなんとか耐えきった俺。自分で自分を褒めてやりたいと思った事は、この世界に来て初めてかも知れない。
「あっ、あれれ~。おかしいぞー。しゃるのやつはどこにいったんだ~」
「ユウトさん? どうしたんですか? 急にぎこちない話し方で。あっ、私も一緒に行きますから、ちょっと待って下さいよー」
俺は某少年名探偵よろしく、話をそらしつつシャルを探しに向かうことにした。
あのままでは、シュエに抱き着いてしまっていたかも知れない。きっとシュエのことだから怒ったりはしないものの、恥ずかしさのあまり口をきいてくれなかったり、このあとの魔法学園の入学試験で失敗などしてしまうかも知れない。
俺のせいで試験合格確実のシュエを失格にさせる訳には絶対にいかない。ここは全力で話を反らしさせてもらう。
まぁシャルが心配っていうのは少なからずあるのだが……。ホントだよ?
シュエとまともに目が合わせられないものの一人にすることもできず、一歩前を俺が歩く形で一緒にシャルを探していると、人混みの後ろに真っ赤なポニーテイルがふぁさふぁさと揺れていた。
「シャル、やっと見つけたぞ! 勝手にどっかに行くのはやめろって……って聞いてるのか?」
「聞いてるわよ! それよりあれを見てみなさい」
「ったく、ホントに聞いてるのかよ……んで、あれってなんだ?」
シャルが指さす方を見てみると、そこには行列を作った馬車が、人が歩く速度で町を進んでいた。
先頭の二台を除いて、その後ろには魔法学園行きの乗合馬車がずらりと並んでいる。
いや、並んでいたと言うよりは、前の二台が遅いため、進めないでいるみたいだ。
「あれはいったいどうなってんだ?」
俺が疑問に思った事を口にすると、近くにいたおばちゃんが教えてくれた。
「なんでも、貴族様のご子息が魔法学園の試験に行く途中だそうよー」
「へ? ならなんであんなにゆっくりしたペースなの?」
「相手は貴族様よー。言葉には気を付けないと不敬罪で捕まっちまうよー。それにいくら道が綺麗にされてるからって、馬車で走ればお尻が痛くなっちまうよ。それが嫌なんでしょうよー」
「はぁー。そんなもんすかね? でもそれで他の人にまで迷惑をかけるってのはなぁー」
だいぶ人と話すことに慣れてきて、年上の人なら初対面でもスムーズに話せるようになった。これもシャルと関わってきたからの奇跡か?
俺が独特なしゃべり方をするおばちゃんと話している隙に、気付けばシャルがいなくなっていた。
まぁ予想はつくのだが…………。
「ちょっと! そんなにちんたら走ってたら他の人に迷惑でしょ! 道を譲るか、もう少し早く走ったらどうなの!」
「あっ、あの子は何をしているのよー!」
あ~、さっそくやってくれてますよシャルのヤツ。
突然のシャルの行動に顔を青ざめるおばちゃん。そーだよー。いきなり貴族様に喧嘩売るようなことすれば、そういった反応になるよー。
俺とシュエは半ば諦めた顔をしつつ、ほってはおけないのでシャルの隣にまで向かう。
面倒ごとは簡便なんだけどな~。
「貴様! この馬車がナハッシュ・ヴェント伯爵様のご子息。サウラー・ヴェント様の馬車と知って申しておるのか!」
馬車と並走していた護衛兵が、怒気をあらわに俺たちに……と言うより、シャルに言い寄ってきた。
止まった馬車の窓からは、人をさげすむ様な下卑た笑みを浮かべる、長い金髪と緑色の目をした男の子がこちらを見ていた。
どうやらこの子が、護衛兵の言った、サウラー・ヴェント様その人なんだろう。
きっとシャルが貴族とは知らずに喧嘩を売って、今から青ざめ土下座でもして泣いて謝ることを想像して喜んでいるのだろう。まぁ当然、
「だからなに! 貴族なら何をしてもいいって言うの? それが本当に貴族のする事だと思っているのなら、とんだ貴族の恥さらしだわ!」
そんな事はお構いなしで食って掛かるよね。シャルだし。
散々な言われ方をして、顔を怒りで真っ赤にされた貴族様(笑)。何か言うかと思っていたら、バッと扉が開き、釣り目で独特の緑の髪型をした男の子が下りてきた。
「貴様! その様な事をサウラー様に言って、ただで済むと思ってはいないだろうな! サウラー様のお父上は伯爵様。それも『豪風使いの蛇神』と恐れられた風魔法の使い手。そのご子息であらせられるサウラー様に、貴様らの様な下々の者が声をかけることすら許されない高貴なお方なのだ! それを言うに事欠いて貴族の恥さらしとは、その首無いものと思え!」
お~! スネ〇的ポジションの奴が出てきたよ。強い者にへりくだり、弱い奴は強気で怒鳴る。まさにス〇夫だ。しかも説明口調なのがなんとも脇役っぽい。
俺が〇ネ夫くんの登場にちょっとした感動を感じている間にも話は進んでいた。ややこしい方向へと。
「そんなの思わないわよ! 悪い事している人に悪いと言って何がいけないの? それで罰せられるなんて方がおかしいわ」
「貴様には貴族様というものが分かっていないようだな! それなら今ここでその罪の深さを味わわせてやる! 『土よ貫け……』」
ス〇夫が懐から杖を取り出し、呪文を詠唱し始めた。これは確か風の初級攻撃魔法。街中で魔法を使うとかどうかしている。周りへの被害を考えていないのか?
シャルも迎撃しようと腰に下げた杖へと手を伸ばすも、
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
とてつもない大声が聞こえてきた。
空気だけでなく、周りの建物も震えるほどの大声で、周りの人たち全てが硬直し、声のした方へと視線を向ける。そんな中、いったいこの人の声帯はどうなっているのだと、緊張感のかけらも無いことをついつい思ってしまった。
「そこのお前たち。街中での魔法の使用は学園で禁止されている。もし使ったら入学を希望しても、試験を受けられなくなるが、それでも使うか?」
大声をあげたと思われる人が、人垣の向こうから現れた。
で、でけぇー…………。
身長は2メートル半をゆうに超えてるんじゃ? 体格は服の上からでも分かるほどの筋肉質で、きっとツキノワグマとも素手で渡り合えると思えるほどだ。
新たな人物の登場に、周りが静まりかえるものの、その状況でも自分が正しいと思っている、空気の読めないス〇夫くんは、
「ぼっ、僕たちは何も悪くない! そこの平民が貴族であるサウラー様に罵詈雑言を言ったのだ! だから貴族として、身分の違いを分からせてやろうとして……」
自分たちにはなんら非が無いことを主張しつつ、こちらを陥れることを言い出した。最後は尻すぼみにはなっていたが、こちらの大男さんに真っ先に意見を言えたのは凄いと思うよ? まぁ間違ってはいるんだけど。
「ほほう。それじゃあお前たちは何も悪いことはしてねーと?」
「そ、そうだ! 僕たちはなんら悪いことなどしていない! 先ほどの行為も、貴族として無知な平民に分からせてやらなければいけないと思っての行動なのだ!」
さすがス〇夫くん。スラスラと嘘や言い訳が出てくる出てくる。
怒りに震え、今にも食って掛からんとするシャルを、俺はシュエと二人で取り押さえていた。口をふさいでいる俺の手に、とても柔らかい感触がしてドキリとしたのは、また別の話しだ。
「ふむ。なるほどな。んじゃお前たちの言い分も聞かせてくれ。おっとその前に、そこの赤毛の嬢ちゃん、名前を教えてはくれねーか?」
大男はシャルの方を向き質問してきたが、この顔はきっとシャルの事を知っていてわざと質問していると俺は確信していた。だってニヤけてますもん顔が。
「ええ。私の名前は、シャルラッハ・ロート。ロート領アルヒの町を治めるロート家の長女で、父は伯爵。母は『劫火の女帝』と呼ばれた魔法使いです。そこにいる人たちが、馬車をあまりにもゆっくりと走らせているものだから、他の馬車や町の人たちが困っていたので、『貴族』として注意しました」
シャルも大男の意図を察したのか、普段は言わないであろう家の事や、シャル母の事まで話していた。
これを聞いた大男はニヤリと笑い、後ろにいたス〇夫くんはどんどん青ざめ、馬車の中のサウラー様(笑)は怒りに顔を紅潮させていた。
「なるほどなー。どうやらこれは貴族様のご子息様と、ご淑女様の間での揉め事だ。オレだけでは判断付かね~な~。いや~困った困った」
そう言う大男の顔には困った様子など微塵もなかった。どうやらこの後の展開も予想済みなのだろう。
ガチャリ、とサウラーの馬車の後ろに並んでいた一台の馬車の扉が開き、中から一人の少女が降り、従者を伴ってこちらへと向かって来た。
少女を見た街の人たちが一斉にざわめき始め、そして先ほどまで怒りで顔を真っ赤にしていたサウラーくんですら、顔を青ざめさせている。
ス〇夫くんに至っては青を通り越して藍色になってるし。マジに大丈夫かと心配になるレベルだ。いったいこの女の子に何があるんだ?
背中まで伸びる綺麗なレモンイエローの髪。瞳は大きく、エメラルドの様な透き通った緑色をしている。小顔で整った顔立ちは、100人中100人が美少女であると公言するほどの可愛さだった。自信なさげな表情も、保護欲を掻き立てられ、守ってあげたくなる。服装は質素だが、どこか気品にあふれていて、どこぞの伯爵令嬢であるお嬢様とはえらい違いだ。
その少女が近づくにつれ、町の人たちはその場に座り込み、頭を下げていった。
本当にこの子はなんなんだろう?
ついに俺たちの前に来ると、シャルやシュエや大男、ス〇夫くんも片膝を着き頭を下げる。サウラーも馬車から降りて同じ姿勢だ。俺だけが状況についていけず、その場で立ち尽くしている。マジでいったいこれはどうゆう状況?
「ちょっと! 何してんのよユウト!」
「ユウトさんも早く座って頭を下げて下さい!」
シャル、そしてシュエからも小声ながらも怒られてしまった。俺がどうしたものか戸惑っていると、
「いえ、そのままでも結構ですよ? …………むしろそのままの方が助かります」
「ん? ならこのままでいるね」
最後の方は消え入りそうな声だったので聞き取れなかったが、どうやらこのままでいいらしいので、このままでいさせてもらう。膝を着くには砂利も多いし痛そうだから。
他のみんなは頭は上げたものの、座ったままの様だ。膝痛くないのかな?
「では、この場は僭越ながら私が取り仕切らせて頂きます。ヴェント家の方は即刻ご自身が向かいたい場所へお行きなさい。あの様にゆっくりと走られては、他の皆様にご迷惑がかかってしまいます。でも急ぎ過ぎても危険ですので、街を進むのに適した速度を守ること。よろしいですね?」
「「はっ! 仰せのままに」」
サウラーとス〇夫はそう言うと馬車に飛び乗り、適した速度で走って行った。
御者の方や護衛もキビキビとした動きで対応する姿は、とても面白い。
「え~っと、誰かは分からないけどありがとね。助かったよ」
俺が少女に話しかけると、周りからざわめきが起こった。
ん? 俺がお礼を言ったのがそんなに不思議か?
…………どうやらおかしいのは俺みたいだ。シャルたちの悲壮感がにじみ出た表情がそれを物語っている。
今までの流れをラノベ的に考えてみよう。
まずテンプレとも言うべき偉そうな貴族の子どもが絡んできて(シャルが絡んだのか?)、それを撃退しようとすると大男が仲裁に入り、馬車から出てきた女の子にみんながひれ伏す。女の子はみんなをひれ伏せさせるほどの権力者、もしくはその親族だろう。男爵より上なら、子爵や公爵ってのも考えられるが、ここまで顔の知れた人ならもっと上の位であるはず。つまりは…………。
「えっと、シャル。もしかしてこの子、王族か何かだったりする?」
「はぁ? 今更なに言ってんの! この方はいくつもの国をまとめ上げ、そしてこのバリシォーイを建国されたコーニング王家の第三王女。ルフレ・コーニング様よ!」
マジで! 俺はなんてことをしてしまったんだ! ラノベの中ならこれは出会いのチャンスかも知れないが、リアルで王族にタメ口とかって、不敬罪で打ち首があり得る話だよ!
「知らなかったとはいえ、失礼な態度と言葉遣いをして、本当に申し訳ありませんでしたーーー」
俺はその場ですぐさまジャパニーズ土下座を決め込んだ。この世界で土下座があるのか、意味が伝わるのかは別として、誠心誠意の謝罪の気持ちを込めて謝った。
「あっ、あの、頭をお上げ下さい。王女と言っても第三王女ですし、それに見たところあなた達も魔法学園に入学試験を受けに向かわれている様ですが……」
「はっ、はい! 僭越ながら通わせて頂きたく思い、試験に挑ませて頂こうかと思っておりますです」
「それでしたら、私たちは同じ学友になるかも知れませんので、その様な話し方をしなくてもいいですよ?」
俺の敬語なのかよく分からない丁寧語もどきにも、嫌な顔せず受け答えしてくれる彼女はまさに淑女。そして素敵な王女様も、どうやら俺たちと同じ様に今から入学試験を受けるみたいだ。
──そして。
「あの、もし宜しければ一緒に向かいませんか?」
「「「…………はい?」」」
先ほどまで一緒にいた大男の姿はいつの間にか消えていて、それに気づく者は一人もいなかった。
─── 4 ───
俺たちは何故か王女様と一緒に入学試験会場に向かっていた。
馬車の中は四人が座っても広々としていて、御者台側に俺とシャル。後方にルフレ王女とシュエ。俺たちは向かい合って座っているのだが……。
「…………………」
ガタゴトガタゴト。
「…………………」
ガタゴトガタゴト。
「…………………」
馬車の走る音だけが響き、車内には沈黙が流れていた。
(ちょっとユウト。あんた何か話しなさいよ!)
シャルが俺のわき腹をつつきながら言ってきた。
(んならお前が言えばいいだろ!)
同じようにつつき返しながら反論する俺。
(はぁ? あんた女の子にそういった無茶をさせるっての? ここは男として紳士的に会話のエスコートをするべきじゃない!)
(それこそなんだよ! おしゃべり大好きな女の子が話を始めればいいじゃないか)
「なによ!」
「なんだよ!」
「あの~。先ほどから何かトラブルでしょうか?」
小声で言い合っていたつもりが、次第に大きくなっていたみたいで、最終的には怒鳴りあっていた。
心配そうなルフレ王女と、呆れ顔のシュエの姿が目に映った。
「「ごめんなさい。なんでもないです」」
俺とシャルは、心配をかけたたルフレ王女に謝りつつ、席に座り直した。
「えーっと……ルフレ王女様は、どうして俺たちを馬車にお乗せして頂けたのでしょうか?」
「ちょっとユウト、あんた何言ってんの? 変な言葉遣いになってるわよ?」
「しゃーねーだろ。王女様との話し方なんて知らねーんだから」
「だからって『お乗せして~』はないでしょ。ぷぷぷっ」
「何笑ってんだよ! ならお前が何か喋ればいいだろ!」
「はぁ? あんたこそ何よ!」
「あっ、あの~。喧嘩はそこまでにされた方が……」
「大丈夫ですよ王女様。これでも二人はとても仲良しなんです。こういったやり取りもいつもの事ですから」
言い合いをしている俺とシャルに、困惑顔で見つめる王女様と、楽しそうにニコニコ見ているシュエ。なんかどーでもよくなってしまった。
「えっと……、俺本物の王女様と話した事がなくて、変な言い方や失礼な言葉遣いになってしまうかも知れませんが、それでもお話して良いですか?」
俺はルフレ王女にしっかり目を合わせ、今思っていることをそのまま伝えた。
なるべく敬語は使おうとは思うが、それでも出来ないものは出来ない。虚勢をはって自分を偽るぐらいなら、初めから割り切って、自分に出来るところからやっていき、向上するよう努力していく事しか俺には出来ない。あとは王女様の判断に任せる。
「はい。……実は私も皆様とお話がしたくて、馬車にお誘いしたのです。それに年も同じですし、これからは学友にもなれるかも知れませんので、もっと楽な話し方でも大丈夫ですよ?」
『あっホントに? ならタメ口で話させてもらうぜ、ルフレ』
な~んてことは言えるはずもなく、俺たちはまず簡単な自己紹介から始めた。
シュエだけならまだしも、シャルも完璧な言葉遣いでルフレ王女に自己紹介が出来ていた。俺はまだ慣れず、どうしても違和感のあるなんちゃって敬語になってしまった。
だが、それを気にする王女様でなく、俺のなんちゃって敬語にシャルがツッコミを入れる度に、少しずつ笑顔が見られ、全員の自己紹介が終わる頃には、笑顔で笑いながら話せるようになっていた。
「ユウトさんたちが出会ってまだひと月しか経っていないとは思えないほど、仲が宜しいのですね」
「まぁ、いろいろとアドバイスをもらったり? 美味しいもの作ってくれる事には感謝しているわ」
「そうですね。ユウトさんの作ってくれた『すいーとぽてと』は絶品でした」
「『すいーとぽてと』とはなんですか?」
「マッシュの実を潰して、お砂糖やミルクを混ぜて作るお料理で、とても甘くて美味しいんですよー」
「ええ! マッシュの実にお砂糖を入れるのですか!」
「はい。私たちも初めはビックリしたけど、これが本当に美味しいの! 赤茶と一緒に食べると、本当に至福の一時だわ」
「それは是非食べてみたいですねー」
「「「………………じぃーーーーー」」」
三人の女の子から期待の眼差しを向けられてしまっては、男として引き受けない訳にはいかんだろう。
「了解です。また今度時間見つけて作ってみますよ」
「「「やったーー」」」
手を取り合って喜んでいる姿は、王女様といえど一人の女の子なんだど実感する。
ちなみに、俺は一人暮らしをしていたので、それなりに料理は出来る。異世界に来たら『プリン』で! というテンプレネタも、まだまだ後にとっておこうと思い、ジャガイモに似た野菜があったのでスイートポテトを作ったところ、みんなに大喜びされた。
この世界では、マッシュの実をお菓子にという発想はなかったみたいで、初めは怪訝そうにしていたが、シャル母が率先して食べてくれ、声も上げずに黙々とモグモグと食べる姿に、シャルたちもスイートポテトに興味を引かれて口にしたところ、虜になってしまったらしく、三日に一回作らされることとなってしまった。
俺一人では作るのが大変なので、お屋敷の料理担当でもあるメイドさんたちに作り方を教えて、全てお任せにした。
それはさておき、だいぶ打ち解けてきたのか、もう普通に話せている。シャルなんてすでにタメ口だし。
それから入試会場である学園前に着くまでの間、おしゃべりが止むことはなかった。
─── 5 ───
馬車は無事、試験会場であるスプランドゥール魔法学園へ到着した。
周囲を高さ3メートルの壁に囲まれ、正面入り口には屈強な男が門番として立っている。
子どもが魔法を学ぶ学校としては、物々しい感じだ。
「魔法を使いこなすのって本当に難しいの。どこの国でも魔法使いを増やそうと教育には余念がないし、それが出来ない国は、よその国から素質のある子どもを誘拐したりするみたいだから、ここまで強固に守られているのよ」
俺が学園をまじまじと見ていたら、シャルが説明してくれた。
「それに安心して下さい。壁は魔法耐性のある石を使ってますし、門番の方も、国に忠義深く、魔法使いレベル5以上の者が就いておりますから」
「魔法使いレベル5!!」
「? 何その魔法使いレベルって」
「ユウトさん。魔法使いにはその強さと、偉大さを表すレベルというものが1~10までで決められているんです」
シュエの説明によれば、この世界の魔法使いには既定のレベルがあるようだ。
1レベル=初心者・新人・駆け出し
2レベル=そこそこ使える
3レベル=一人前
4レベル=中級者・国立魔法軍隊新人
5レベル=上級者・プロ・国立魔法軍隊部隊長
6レベル=大魔法使い・国立魔法軍隊総隊長
7レベル=最強の魔法使い・魔法を極めし者
という位があるそうだ。でも…………。
「残りの8・9・10は?」
「えっとですね……」
「いいユウト? 一般的には8以上になるなんてまずあり得ないの!」
「どうしてさ。規定があるってことはなった人がいるってことでしょ?」
シャルにシュエ、それにルフレ王女も、俺の事を残念な子を見る様な目で見てきた。
いったい俺がどうしたって言うんだよ。
「えっとですね、ユウト様。8レベルになるには、魔法の扱いに長けているだけではいけないのです。オリジナル魔法と呼ばれるものを、1つでも作らなくてはなりません」
俺がまだわからないと、首をひねっていると、
「ホント馬鹿! いい? オリジナル魔法を作るってことは、今までこの世に存在しなかった魔法を作り出すってことなの! どれだけ歴戦の魔法使いでも、生涯に思い付き、作りだせるのは3つほど。それでもオリジナルとはいかず、今までにあった魔法の劣化版や、多少の強化版に過ぎず、オリジナル魔法とは認められないの」
「今最高レベルなのが、大賢者様でレベル9。オリジナル魔法を7つもお創りになられた凄いお方なのです」
「レベル10になるには、10個のオリジナル魔法を作らなくてはいけないので、今の ところ誰も到達した人はいないんです。だから魔法使いとしてはレベル7が上限で、それ以上は魔導士、魔術師と呼び名が変わるんです」
三人から三者三様、いろいろと説明を受けるのだが、
「そもそもオリジナル魔法ってどうやって判断するんだ? いくら魔法を熟知して扱いが上手い人でも、過去にどんな魔法があったかなんて、全ては分からないだろうし、もし知ってたら思いついた時点で、それがオリジナル魔法かどうかなんて、分かっていそうだが?」
俺が思ったままの質問を返すと、今度は可哀そうな子を見る様な目で見られた……。
さすがに落ち込むよ?
「本当にユウトって一般常識が抜けてるのよねー」
「いいですかユウトさん。オリジナル魔法などを判別する特殊なスクロールがあるんです」
「それに対して自身の制作した新魔法を使用することで、スクロールに魔法名・製作者・製作日・詠唱などが浮かびあがってきます。もしオリジナル魔法と認められたのなら、自身で唱えた詠唱や魔法名。それに製作者名が自分の名義になるので、一目瞭然なのですよ」
「なるほどなー。なら思いついたそばから、そのスクロールにバンバン打ち込めば、いつかは当たるかも知れねーな」
「本当に馬鹿っ! ここまでくるともう何も言えないわー」
「えっとですね、このスクロールってとても高価な物なんですよ?」
「王族や魔法使いレベル7以上、もしくは冒険者ランク7つ星以上の者の推薦があれば別ですが、個人が買おうとするとなると、金貨1000枚は必要かと……」
金貨1枚が日本円で10万だから…………。
「一億円!!! クッソ高ぇーーーー」
「いちおくえん? てのは分からないけど、まぁ高価な物だって伝わったなら良かったわ」
「そりゃーほいほいとは試せねーな」
俺があまりの高額さに驚いていると、
「それでも、王家としてはオリジナルと思える魔法を使う人に対しては、すぐにスクロールを提供しますけどね」
「それはなんで?」
「ホントものを知らないわねー」
「さっきからシャルうるさいっ。説明してくんねーなら黙っててくれ」
「何よ!」
「まぁーまぁーシャル。ユウトさん。オリジナルの魔法は、効果が弱かったとしても、それだけでとてつもない価値を生むんです。他国へ売ったり、それを元手に国益交渉や和平を結んだりと、いろいろ出来るんです」
「それこそ効果の高い魔法や有益な魔法には、それ以上の価値がありますし、それを他所の国に渡すわけにはいきませんので、我が国としては可能性が1%でもあれば、スクロールの出し惜しみは致しません。それでも推薦などの規定はございますが」
「なるほどな~」
シュエとルフレ王女は嫌な顔せず色々な話を聞かせてくれた。二人は俺の天使なのかも知れない。
それはさておき、つまり俺が魔術師になるのは夢のまた夢って事では? どうしよう、女神さまに『最強の魔術師』になるって約束したのに…………。
俺が自身の無知さと、人生の厳しさに打ちひしがれ、絶望していると、ゴーンゴーンと学園から鐘の音が聞こえてきた。
そっか。今から入学試験だったっけ。こんな状態で大丈夫か俺?
─── 6 ───
門番の人に促されて、俺たちは中に入っていく。
馬車は、入り口に入ってすぐのところで降り、集合場所に指定されている、サッカーコート2面分ほどのグラウンドへ向かって行った。
道中、やはりというかルフレ王女に視線が集まり、一緒に歩いている俺たちも注目を浴びてしまう。
「私のせいで申し訳ありません」
ルフレ王女は何度も謝罪の言葉を繰り返すが、周りからの目など気にするシャルではない。笑顔で『気にしないで、大丈夫よ』と、ルフレ王女を労わっていた。
そういった気遣いがすぐに出来るのは、シャルの良いところだといつも思う。
俺たちが着いてからしばらくすると、職員の人がルフレ王女を呼びに来た。
どうやら、会場は同じでも王族は試験を別に受けるらしい。
お互いに受かることを祈り、励まし合いながら再会の約束をして別れた。
そして、ルフレ王女が近くからいなくなると、
「さっきはよくも馬鹿にしてくれたな」
───やっぱり絡んできたよ。
グラウンドに入ってから、ずっとこちらに視線を向けてきていた奴らがいた。
馬車騒動の貴族様(笑)とス〇夫くん。
ルフレ王女が傍にいたので何もしてこなかったが、いなくなるとすぐこれだ。
俺とシャルは心底嫌な顔をしていた事だろう。俺たちの表情を見た貴族様とス〇夫くんが、顔を赤く染めていくのがその証拠。
シュエは、子どもとはいえ男がやはり苦手なのか、シャルの後ろにすぐに隠れてしまった。小動物っぽくて、可愛い~な~。
「まぁ待てピュスよ。ここは同じ伯爵家として対応をするのが礼儀であろう」
「さすがはサウラー様、お心が広いですね。お前たちもよく見習うといい!」
へ~。ス〇夫くん、ピュスって名前なのか……興味ないけど。
「改めて自己紹介をしよう。私はヴェント領を治めるナハッシュ・ヴェント伯爵の嫡男。サウラー・ヴェント。風属性の使い手にして『風に愛されしサウラー』とは私の事だ!」
でたよキメ顔。
「さすがサウラー様、カッコ良すぎです! 僭越ながらわたくしめも。僕はサウラー様に仕えるガラパタ男爵家の次男。ピュス・ガラパタ。得意の土の魔法でいつでも貴様らなど土に埋もれさす事ができるんだ。気を付けることだな!」
「「「………………………」」」
「サウラー様。こいつらビビってなんにも言い返せないみたいですよ」
「ふん。さっきまでの威勢はどうした? ルフレ王女様がいなければ何も出来ない腰抜け共め」
『うわ~めんどくせー』と思ったのは俺だけではないだろう。
その証拠に、シャルが露骨に嫌な顔をしているし、シュエも控えめながら、痛い子を見る目をしている。もし俺が同じ目で見つめられたら、一週間は立ち直れない気がする……。
そんな俺たちの反応を、ビビっていると勘違いした二人は、さらに高らかに俺たちを蔑む言葉を並べているが、俺たちの耳には一向に入ってこなかった。
─── 7 ───
「おーおー。今年の入学希望者は元気があっていいな~。はーっはっは」
「静かに待つということが出来ないのですかね、まったく」
どうやら試験官の先生が来たみたいだ。とても対照的な二人で、片方の人は、細身で眼鏡を掛けて黒い長めのローブを着た、いかにもインテリ風の魔法使いだ。もう片方は、
「あれ? さっき馬車の時に会った……」
「おっ? お~、お前たちはさっき出会った坊主たちじゃないか! なんだお姫様は一緒じゃねーのか?」
「えっとルフレ王女は別のところで試験を受けるみたいで……」
なんとか答えることの出来た自分を褒めてやりたい。
9歳に戻っている俺の身長は約130㎝。この人は2m半ほどあるから、その差1m以上。そんな相手を前にして、噛まずに話せたのだから偉いでしょ?
「お~そーだったな。ところで、また言い合いをしていたみたいだが、何か揉め事か?」
ニヤリと笑った笑顔は、悪役レスラー顔負けの獰猛さと、悪戯を思いついた子どもの様な無邪気さを併せ持った不思議な表情をしていた。
「はぁー……。あなたって人は揉め事に突っ込まないと生きられない生き物なのですか? もう少し大人な態度を示してはいかがですか?」
インテリ系の方も話かけてきた。大男と比べると小さくて細い、頼りない印象だったが、近くで見ると、身長は170㎝を超えているし、体格も細いのでなく引き締まった感じだ。そして何よりイケメンである。爆ぜてしまえ。
「おめぇーは相変わらず固ぇーな。いいじゃねーか。これぐらい揉め事にも入んねーよ」
「まったく、あなたって人は。はぁーーー」
どうやらこの二人は昔からの知り合いの様だ。二人は気の置けない間柄ということか。俺もいつかはそんな親友を作ってみたいもんだな。
そんな事を考えていると、
「ねーねー。あの二人ってさ」
「だよねだよね。きゃーーー」
「どっちが攻……」
ダメだ! これ以上は聞いてはいけない気がする!
どうやらこの世界にも、男の掛け算が好きな女性がいる様だ。しかしまだ9歳ほどの子がする話しなのか? まぁ女の子は成長早いって言うけど、さすがに……。そして、俺が欲しいのはそういった親友ではなく、普通に切磋琢磨できる親友であると、ここでちゃんと伝えておきたい。
「まぁそれはいいとして、本当になにがあったんだ? 事と次第によっちゃあ、試験を受けさせる訳にはいかなくなるからよ」
やはり大男は試験官の一人だったみたいだ。俺たちよりもサウラーの方に目を向けている。会話を少ししか聞いてないのに的確な判断を下せるのは、頭のキレも良い証拠だ。
「私たちは何もやましい事などしていません。さきほどの事もありましたので、和解もかねて、挨拶をしていたまでです」
真実ではないが、嘘とも言い難い事を言うサウラー。ボロを出しやすいピュスをすぐに後ろに下げたのも、的確な判断だと思う。
「お~そうだったのか。それは俺の早合点だった。すまない」
頭を下げサウラーに謝罪する大男試験官。
相手が子どもだからって適当に済ませずに、しっかりと自分の否を認め、謝れているこの人に、俺は尊敬のまなざしを向けた。
シャルとシュエが微妙な表情をして俺を見ているのは何だろう?
「それじゃあもう和解したってことでいいんだな? 後から揉めたりするのは厄介だからよ。今言いたいことがあるならハッキリしといた方がいい。俺たち大人もいるし、これは試験に反映しないと誓おう。おめぇーもそれでいいよな?」
「ええ。構いませんよ。むしろそうしたゆがみは早めに対処しておいた方が良いでしょう」
大男試験官とインテリ試験官の許可がでた事で、サウラーはここぞとばかりに絡んできた。
「では遠慮なく言わせて頂きます。さきほどの馬車の件はルフレ王女様に免じて水に流しましょう。ですが、貴族であるロート嬢ならいざ知らず、その他の者は名乗りもせずに後ろにいるだけ。それでは貴族として示しが付きません。今シコリを取るならば、同じ試験を受ける者としてのあなた方の実力を見せて頂いて宜しいでしょうか。ただ試験に落ちましただけでは納得いきませんので、今ここであなたの得意とする魔法を見せて頂きたい」
「まぁそれくらいならオレたちも許可してやろう。あそこに木が見えるだろ? 攻撃魔法ならあれを狙え。それ以外なら、周りに影響が無い範囲でやってみな」
大男試験官からの許可もあり、益々強気のサウラーくん。
「ちょっと話してもいいかしら?」
シャルが大男試験官に許可を取ると、俺たちに顔を近づけ小声で話し始めた。
「いい? 魔法を使うのはシュエ。そんでウォーターボールは禁止。相手に手の内をさらす様な事をするのは得策じゃないわ。やるならヒーリングミストにしなさい」
「あれって三節詠唱で、魔力を結構使うよね? これから試験だけどシュエは大丈夫なの?」
「私なら大丈夫。ヒーリングミストなら水魔法を扱える人なら必須魔法だもん。使えてもおかしくないし、有用だからアピールにもなる」
「わかった。でも無茶はするなよ?」
「心配してくれてありがとう」
「よし。それじゃあ頑張ってきて!」
「話し合いは終わりましたか? では見せて頂きましょうか」
俺たちが顔を上げると、ニタニタ顔でこっちを見てくるサウラー。シュエの魔法を見ておののくがいいっ!
「おっと、その前に魔法を見せるのは、そこの君にして頂きましょうか。こちらが指名してもよろしいでしょう? 試験官さん」
「まぁそれでお前が納得するならな」
「「「っ!!」」」
俺たち三人は固まってしまった。
「そこの青髪の子が、長年ロート嬢と共に暮らし、その母親でもある『劫火の女帝』に訓練してもらっていたのは知っています」
「「「…………」」」
俺たちはまたしても驚き、何も言えなかった。どこからその情報が流れたのか、しかも先ほどの馬車騒動からそんなに時間も経っていないのに、どうしてそこまで知っているのか、その事に驚愕させられていた。
「ですがあなたの事は、何一つわかりませんでした。ですので、魔法を見せて頂けるのなら、あなたこそ相応しいと思ったのです。さぁ見せて下さい。もう後には引けませんよ?」
どうやら万事急須らしい。こうなったら、
「ちょっ、ユウト。あんた何してんのよ!」
俺はサウラーの前に立ち、スッと人差し指を立て、指先をサウラーの顔に向けた。
「よく見てろ! これは俺がつい最近習得した魔法だ! ふっ。覚えるのに一か月も掛かっちまったがなぁー」
「っ!!!」
サウラーの顔が引き気味で少し青ざめた。だがもう遅い! 俺のとっておきを見せてやる。
「あっっ、あの構えは。もしかしてライトレーザーを使うつもりじゃあ……」
「ラッ、ライトレーザーだって! あれは王家に伝わる魔法。光を指先一点に集中させ、穿つ魔法。それをあんな奴が使えるはずが!」
「いや。さっきまで、あいつの近くにはルフレ王女がいらした。もしやあいつは王女様専属の隠れた護衛だったんじゃないか?」
「もしそうなら、ヤバイんじゃないか!」
「指先が相手の子の顔に向いてるぞ! あのままでは顔に風穴が……いや、下手したら首から上が吹き飛ぶぞ!!」
外野がものすごい勢いで騒ぎ立てる。その声を聴きサウラーの顔が益々青ざめていく。
「おっ、おい試験官! すぐにそいつをやめさせろ! 狙うのはあの木だと言っていただろ! こいつは違反している! 早く! 早く止め、止めさせてくれぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー」
サウラーの叫びも虚しく、試験官は二人とも微動だにしなかった。
「さぁー見せてやる! 俺の今の全力を!」
「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー」
『火よ! 灯れぇぇぇーー』
………………ぽっ。
魔力を練り上げ指先に集中し、詠唱を唱えることで、俺の指先に小さな火が生まれた。
100円ライターで、強さを最弱に設定したぐらいの小さな火だったが、努力と練習の甲斐あって、俺がやっとのことで覚えた火属性魔法。
フッ……。あっ消えた。
まだまだ持続時間も短く、ちょっとした風が吹いただけで消えてしまうが、それでもやっとのことで覚えた魔法だけあって、本当に嬉しかった。
まだまだ特訓は必要だが、いつかチャッカマンの強状態ぐらいの火力を出せる様になってやる!
今回は発動までの時間がいつもより早かったので、ちょっと自信があった。
どやっ! とサウラーを見てみると、ポカーンとしている。
周りを見ても、誰一人声も発せず、身動きすらしない。
シャルは眉間を押さえてため息をつき、シュエは、あはははと空笑いをしていた。
すると、
「おい。今のは火属性の魔法だよな。お前火属性が得意なのか?」
大男試験官が俺に話しかけてきた。俺は満面の笑みで、
「俺は無属性にしか適性はありませんでした。ですが、努力の甲斐あって出来る様になりました!」
「………………そ、そうか」
大男試験官が一言そう言うと…………。
「ぎゃはははははははは」
「あははははははははは」
周りから大爆笑が起こった。俺が首をひねっていると、
「マジかよこいつ。火を灯したぐらいで何あの嬉しそうな顔っ。ぎゃははははは」
「ほんとあり得ないって。あははははははは」
「あれで試験受けるってなんだよ。どこにそんな自信があるわけ?」
「誰だよ。ライトレーザーなんて言ったやつ。あははははははは」
「いやだって、火を出すだけであんな真剣な顔なんだぜ? がはははははは」
口々に俺を馬鹿にした発言をしてくる受験者たち。
そんな中、さっきまで俺を馬鹿にしていたサウラーが、
「はぁーーー、私はこんな者を相手にしていたのか……。興覚めだ。さっさと私の前から失せろ。行くぞピュス」
大きなため息をついて、どこかへ行ってしまった。
みんながまだ笑い転げている中、大男試験官がが詰め寄ってきた。
「マジかーーーー」
あまりの大声に、受験者たちも何事かと黙る。
「おめぇ一か月で、しかもその年で火を灯せるようになるとはスゲーな! オレ感動したぞ! しかもオレと同じで無属性しか適性ないっつーのになっ!」
大男試験官は、『は? 何言ってんのこの人?』という視線を周りから向けられても、平然と俺に話しかけ、称賛してくれている。
「いや~。オレがお前の年の頃は、自分の属性魔力もよく扱えずにいたから、他属性を習得したおめぇは凄いぞ。いつか大物になるかもな。がぁーっはっはっは」
この人はマジだ。マジで俺の事を凄いと思い褒めてくれている。上辺だけの言葉じゃなくて、本心から言ってくれていることが目でわかった。それはさっき自分もこの人に向けたのと同じ、人を尊敬する時に向ける目と同じだったからだ。
俺は嬉しくなってつい目頭が熱くなってしまった。
今まで人に褒められたことも、尊敬の眼差しを向けてもらったことも無い。
シャルやシュエに感謝はされた事はあるが、尊敬など一度もなかった。
嬉しい。人から認められることが、こんなに嬉しいんだと初めて知った。頑張ってよかった。努力して良かった。こんな嬉しい思いが出来るのなら、また頑張ろうと思える。
─── 8 ───
俺が一人感動に胸と目元を熱くしていると、インテリ試験官が近づいて来た。
「まったく、そろそろ試験を始めますよ。ハザックも準備を始めなさい」
「お~ゼク。悪かったな。ほらちび共、さっさと試験はじめるぞ」
「わたしの名前はゼクではなくゼークルです。まったく」
大男試験官はハザック。インテリ試験官はゼークルと言うらしい。
ゼークル試験官はどうやら『まったく』というのが口癖のようだな。
二人の試験官の名前を聞いた受験生たちが騒めき始める。
「ハザックってもしかして……」
「それにゼークルってやっぱり……」
「???」
俺はなんの事だかさっぱりだったので、シュエの方をちらりと見た。
「あの大きな人の方は、ハザック・ソルダード様。魔法使いレベル8で、冒険者ランクも7つ星。『無敵の剛腕』の二つ名を持っています」
「それでもう一人の方が、ゼークル・ウィクトーリア様。無属性以外の7種の属性を全て使える伝説級の人なの。それに魔法使いレベルも、大賢者様と同じで9。冒険者ランクは6つ星らしいけど、『智略の巨匠』と各国から恐れられているんだから」
「魔法使いレベル8以上ってほとんどいないんじゃなかったのか?」
「ええそうよ。だからあのお二方は大賢者様に続く生きる伝説。レベル8に到達できる人も一万人に一人なのに、そんな実力者が二人も揃うなんて……」
「それに、あのお二方は名前こそ全国に知れ渡るほど凄い方々なのですが、実際に目撃した人はほとんどいないんです。だからそれも合わせて伝説の人と言われているんです」
「なるほどな~」
俺はその凄さがどんなものか、まだ分かってはいないが、強そうな人ってだけは認識できた。
「んじゃ、そろそろ行きますか」
「ええ。集合時間になりましたし、時間に遅れるなど言語道断。試験を受ける価値もありませんからね」
「ちび共。俺たちについて来い。試験会場に案内してやる」
二人の試験官の言葉から、ついに試験が始まると感じ、受験生たちの中からピリリとした緊張感が生まれはじめた。
ハザック試験官達の誘導で、大きな2つのテントの前へと移動した。片側にハザック試験官、もう片方にはゼークル試験官が立ち、受験生はその前に雑然と立ち並ぶ。
「いいか、今から行う試験は、お前たちの『実力』を量るもんだ」
「このテントの中は、防音、耐衝撃性、魔法耐性の魔法で守られているので、中の音は聞こえず、衝撃も吸収され、君たちの魔法ぐらいなら簡単に耐えきれる様になってます」
「こん中に一人ずつ入り、己の『全力の力』を出してみろ」
「それをわたし達が見て、合格かどうか判断します」
「呼ばれた者から中に入んな」
「では、サウラー・ヴェント。シャルラッハ・ロート前へ」
初っ端からシャルが呼ばれた。シャルは緊張からか、顔がこわばっている。
一方のサウラーは平然と進み、ゼークル試験官のテントへと入って行った。
「シャルなら大丈夫。いつもの様にね」
シュエがシャルを励ましている。よしゃ、なら俺も元気づけてやりますか。
「シャル。両手を前に出して合わせてみ」
「?」
疑問に思いながらも、シャルは手を前に出してそっと合わせた。案の定、その手は少し震えている。
俺はニヤリと笑い、シャルの両手を自分の両手で挟む様に、勢いよくバチンッと叩き合わせた。
「っっっっ!!!」
お~シャルのヤツ驚いてる驚いてる。
「どうだ? 手の震えは収まっただろ?」
「えっ? あっ!」
「これは緊張をほぐす秘伝の方法だ! まぁ一人で出来ないのが欠点だがな」
俺は、学生たちが料理対決で自身の強さを表現するアニメの主人公が、友達に行ったことを真似てみた。
「いいか。料理っていうのは自分の持てる技術や知識を合わせて、皿の上に作り出すもんだ。試験だって同じ。今までやってきた努力の成果を全力で出すだけ。シャルは頑張った! だから堂々と胸を張れ。そんで合格してこい」
シャルのこわばった顔が徐々にゆるみ、いつものシャルの顔になっていった。
「まさかユウトに励まされることになるとわね……。でもいいわ。見てなさい! きっちり合格してみせるんだから」
「それでこそシャルだ。気張ってこい!」
「シャル! んっ!」
なに~~~~!! 両手をこぶしに握って、胸の前でグッとする『頑張って』のポーズだと! おいおいシュエさん。どんなけ俺を萌えさせてくれるんだい!
俺がシュエの可愛さに目を奪われていると、
「ユウト~~。後でちょ~っと話があるからね~」
シャルさん。笑顔なのに、全然目が笑っていませんよ?
シャルはそんな笑顔を残して、テントの中に入って行った。
ヤバイ。出てきたら何をされるか分かったもんじゃない。今のうちに言い訳を考えておかなければ。
─── 9 ───
少しすると、ゼークル試験官が出てきて、次の人の名前を呼んだ。呼ばれた子は不思議そうにするも、テントの中へと入って行った。
今度はハザック試験官が出てきて、また別の子の名前を呼ぶ。
みんなの疑問は益々増えていった。何故ならテントへ入っていった子が誰一人として出てこないからだ。
やはりみんなも、先に試験を受けた子に、中でどうだったのか聞こうとしていたみたいだ。しかしその思惑は外れ、誰一人として出てきていない。
中がどうなっているかも気になるが、それよりシャルが合格しているかが、気になって仕方ない。
どうやら、他の子たちも同じ様で、先に入った仲間を心配したり、不安に思っている子が多くいた。
俺たちの不安な気持ちとは裏腹に、試験はどんどん進んでいく。シュエもシャルのすぐ後に呼ばれた為、今は俺一人で待っている。
周りの子たちもどんどん減っていき、そして…………。
「んじゃ次。ユウト・カミシロってお前で最後か?」
ハザック試験官がテントから顔を出し、俺の事を呼んだ。周りには俺以外誰もいなくなっていた。
ガサッと音を立てて、ゼークル試験官もテントから出てくる。
「どうやら彼で最後みたいですね。こちらのリストの子たちは終わってしまいましたから」
「お~そーだったか。ならどうするよゼク。おめぇーも一緒にこいつの試験見てみるか?」
「そうですね。こちらは終わってしまいましたので、見学させていただきましょう」
「つー訳で、よかったな坊主。お前だけ試験官が二人っていう、特別待遇だ。がぁーっはっは」
「それって何か試験に有利になったりしますか?」
「うんにゃ。なんにも影響はしねーな。単なる暇つぶしみたいなもんだからよ」
「暇つぶしの為に、試験官二人から見られて行う試験とか、緊張感増してる割には実益ともってないじゃないですかーーー」
「まったくもってその通りですね。ですが、見せてもらう事には変わりません。もし断れば失格とします」
「理不尽だ~~~~~~!」
俺は、ゼークル試験官の理不尽な答えに絶叫しながらも、『まったく』てそうゆう使い方もあるのか~。と、ゼークル試験官の口癖の使い方にバリエーションがあることに少し歓心していた。
─── 10 ───
「まぁーそう落ち込むなって。こんなもん、さくっとやって、ちゃっちゃと合格したらいいじゃねーか」
「そんな簡単に合格できるんですか?」
テントの中に入るまで、俺は鬱々としていた。
試験官さんたちの暇つぶしの為に、なぜかハードモードの試験となってしまったからだ。
ハザック試験官はちゃちゃっと合格しろと言っているが、この試験はそんなに簡単なものなのだろうか?
ちらりとゼークル試験官の方を見ると、
「わたしの方の合格率は、約2割といったところですね」
「まぁそんなもんだろな。毎年250人ほど受けて、合格者が30人出ればいい方だしよ。それに比べりゃ2割ってかなりいい方じゃねぇーか? よかったな坊主」
二人の会話に益々落ち込む俺。合格率2割切るって、かなりの難易度じゃね? それをちゃっちゃと合格なんて出来るのだろうか…………。
「まぁそう考え込んでたって何も変わりゃしねーよ。どうせやるならささっとしちまえ。なぁーっはっはっは」
「はぁーもう。ハザック試験官と話していたら、悩んでるこっちが馬鹿みたいに感じますよ」
「それには同意見です」
ゼークル試験官もいつも振り回されているんだなー。と、短い間ながらも親近感が沸いてきた。
「えっと、確認なのですが、試験では自分の『実力』や『全力の力』を見せればいいんですよね?」
俺は気を取り直して、試験の内容を確認した。もし俺の考えに間違いがないとしたら、
「ああ。その通りだ。自身の力を俺たちに見せて、認めさせれば合格だ」
「なら別に『魔法』に限定しなくてもいいという事ですよね」
「ほぉ~。よく気がついたな。確かにその通りだ。魔法学園の試験だから、魔法を使うつてのは固定概念すぎる。いつ何時、魔法が使えない状態になるかも分からねぇ」
「逆に、魔法によって打開できる事も数多くあります」
「だから、どんな方法でもいい。自分の全力で、俺たちを認めさせてみろ!」
ハザック試験官もゼークル試験官も、俺の顔を見てニヤリと笑った。なんだかんだ言って、この二人は似た者同士かも知れない。
「なら俺の力、存分に見て下さい!」
俺はスッと手を出し、人差し指を伸ばし親指を立て、手でピストルの形を作った。
「ん? さっきの火ならもう見たぞ? お前のその努力はスゲーと個人的には思ったが、試験になったら話は別だ。それでは認めらんねーな」
ゼークル試験官の目が厳しい物になった。
それを見て、俺はニヤリと笑ってみせる。
俺の行動に何かを感じたのか、二人とも黙って俺がするのを見ていてくれた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は指先に魔力を集中させる。魔力の弾丸が高速で飛びだし、ターゲットを撃ち倒すことを強くイメージする。
無属性魔法しか適性が無く、詠唱も出来ない俺が、戦うために編み出した技の一つ。それがこの『魔弾』。まぁぶっちゃけ『レ〇ガン』だ。
特訓の成果もあって、全力で殴るのと同じ威力なら、ほぼ溜め無しで撃てる様になったが、この試験官たちを認めさせるには、威力が少ないと思ったので、少しばかり溜めてみた。
「うぉーーーー。【魔弾】!」
俺の発声と共に、魔弾は打ち出され、テントの内壁に直撃した。しかし、やはり高度な魔法耐性があるのか、ノーダメージに終わってしまう。
ちらっと試験官たちを見るも、じっとこちらを見たままで、何も言ってこない。これはマズい! このままでは落とされてしまう! どうにかしなければ……。
そうだ! まだ一度も成功はしていないが、アレをやるしかない! ここでやらなきゃ男が廃る! 『俺がやらなきゃ誰がやる!』
つか、きっと合格しているだろうシャルたちに顔向けできないし、俺だけ落ちたなんて知ったら滅茶苦茶怒られる! そればっかりはゴメンだ!!
◆ ◆ ◆
おいおいマジかよ、なんであんなガキが、【魔力球】を撃てんだよ!
オレでも、師匠の下で長年の修行で習得したってのに……。
それにこれは、詠唱なしで発動できて相手に気づかれない利点から、暗殺にも使えるかもしれないって危惧して封印した魔法。師匠と俺たちしか知らないはずじゃあ……。
◆ ◆ ◆
驚きましたね。
なぜこのような子どもがこの魔法を扱えるのでしょうか。
この技は、魔力量もさることながら、集中力。そして何より強いイメージ力が必要となっています。
何処で知ったかは知りませんが、この年で会得するには難易度が高すぎます。
まさか師匠の隠し玉ということは…………。
◆ ◆ ◆
「すみません! 今の無しでお願いします! 今度こそちゃんと本気出しますから!」
「はぁ? おめぇー何言って…」
こうなったらやるっきゃない!
俺はバッと足を開き、腰を落として横向く。ターゲットの壁に視線を合わせ、両手は腰のすぐ横に少し間を空けて合わせる様に構える。まぁぶっちゃけ『かめ〇め波』の構えだ。
【魔弾】それは幽遊〇書の『レイ〇ン』を真似しただけだ。そして魔力を溜めて打ち出すのなら、同じ要領で『かめは〇波』撃てるんじゃねぇ? と思いついた。
手から放水の様に魔力を出せたのだから、それを一旦、掌の間に溜めて圧縮していき、高密度になったところで、弾丸として打ち出し、余剰魔力で後押ししていけば、これは立派な『か〇はめ波』ではないかと。
狙いが定まらなかったり、霧散してしまったりして、結局一度も成功はしなかったが、今なら出来そうな気がする!
俺は構えをとってから、どんどん魔力を掌に圧縮していった。
初めは靄の様に漂っていた魔力が、次第に小さな光の球体になり、大きくなるにつれて、光も増していき、今では直視できないほどの光と威圧感を出している。これならいける!
「おっ、おい。おめぇー何やってんだ?」
「こっ、これはさすがに……」
試験官たちが何か言っているようだが、圧縮した魔力が、シュウィンシュウィンと音を立て始めたので聞き取れなかった。
「かーめー、〇ーめーーーーー」
テンションのあがった俺は、ついつい叫んでいた。そして…………
「破ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
限界いっぱいまで溜めた魔力を、俺はテントの内壁に向かって、掛け声と共に打ち出した。
霧散することもなく、真っすぐに飛んでいき、壁にぶち当たる『かめは〇波』。
若干、斜め上の方に当たってしまったが問題ない。
しばらくはテントの対魔法障壁とせめぎあっていたが、十分過ぎるほど溜めた俺の魔力に耐えられなかったのか、ガシャーンっとガラスの割れる音と共に、テントに大穴を空けた。
しばらく続いた魔力の流れも次第に落ち着き、俺はドヤ顔でハザック試験官たちを見た。
テントをぶち抜くぐらいだから合格はしているだろう。
確信をもって二人を見ていたが、二人は俺とテントの大穴を交互に見るだけで、何も言ってこなかった。
もしかしたら、テントを壊すのはルール違反だったのか、はたまた違う理由なのか、一向に俺の合格通知はされないままだった。
…………あれ? もしかして、俺…………やっちゃった?




