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 第三章 魔法の練習は前途多難?


 ─── 1 ───


 「さてと、それじゃあまずは基礎トレから始めましょうか」

 庭先に出ると、シャルが張り切って言い出した。シュエはシャルの斜め後方にいたまま、俺のことを警戒しているみたいだ。

 ──俺、何もしないよ?

 心の中で悲痛の叫びをしつつも、こればっかりは時間が掛かるものでもあるし、俺もまだ人とちゃんと話すのが苦手なので、

 「シュ、シュエちゃん!」

 「ふぁっ! ……はい」

 「あっ、あのね。俺も人と話すの、得意な方じゃないし、むしろ苦手と言うか、その……でも、お互い少しずつ、話せるように、なっていけたらなって……思っ……て……」

 ダメだ。どうしても緊張して、後半は尻すぼみしてしまった……カッコ悪いなー俺。

 「ふふふっ」

 「えっ?」

 「あっ! ご、ごめんなさい、です! 笑ったりして………でも…ユウトさんは……優しい方なの……ですね。人見知りの……私に……気を使って……くださって……少しずつ。少しずつなら、頑張れそう、です」

 シャルの後ろに隠れつつも、そう言ってくれるシュエの言葉が嬉しかった。

 「うん。お互いに頑張っていこ」

 返事は無くても、すごくうなずいていたので、これはこれでОKとしておこう。

 

 「はいはい。ラブラブタイムはこれで終了ね。さっさと魔法の特訓するんだから」

 っっっっっっっッッッッッ!!!!!!!!

 「「 ラブラブタイムなんてしてない『です』 」」

 俺とシュエからのタブルツッコミにも動じず、シャルはそそくさと準備運動をはじめた。

 シャルにおいてかれて、ぽつんとたたずむシュエの方を見ると、顔が赤くなっていた。

 こうゆういじりは苦手みたいだな。でも顔を赤くしたシュエも可愛いな~。

 あっ、こっち見た。

 「っっっっっっっ!!!!」

 目が合った瞬間、さらに顔を真っ赤にして、シャルの方へと猛ダッシュしていくシュエ。

 ──さすがに傷つくよ?

 「さてと。落ち込んでても始まらない。俺も準備体操でもするかな」

 魔法の訓練がどんなものか分からない俺は、とりあえずシャルのやっているのを、見様見真似でまねることにした。

 

 

 ─── 2 ───


 「それじゃあ準備運動も終わったし、まずは魔力を上げる訓練からね」

 「シャル。魔力を上げる訓練って、いったいどんな事をするの?」

 俺は疑問に思った事を、全て聞いておこうと思った。わからないままやっても効果は出ないし、知っていれば一人でも練習はできる。それに、知識や情報は多い方がいい。これもRPGや、ラノベで培った知識ではあるが……。

 「ユウトの魔力値ってどれくらい?」

 「え~っと、それが魔法については何も知らないんだ。ただ、ある人から俺には莫大な魔力があるって言われただけで……」

 「莫大な魔力ね~……ぷぷ。まぁ総魔力値はまた量るとして、今は魔力を扱うことに意識を集中しなさい。総魔力を上げるには、基礎体力向上と魔力を使って体に覚えさせるのが一番と言われているわ。ユウトはまず基礎魔法でも覚えてみたらどうかしら? シュエもそう思わない?」

 急に話を振られてビクッとするシュエだったが、

 「う、うん。……私もそう思う。でも基礎魔法の前に、どの属性が適合しているのかを調べるのがいいと思うっっっ! …………です」

 シャルと話している時は、普通に話せていたのだが、俺が見ていることに気づいた瞬間、声が消え入りそうなほど小さくなっていった。

 仕方のないこととはいえ、ヘコむな~~~~。

 「確かにそうね。じゃあ魔力適合テストでもしてみますか」

 「ん? 魔力適合テストって何?」

 「そのままの意味よ。魔法にはいくつかの属性があるの。火・水・土・風・雷・光・闇・無。の8種類。無属性は基本的には誰でも扱えるけど、他の属性だと相性もあるから、まぁ多くても、無を除いた2属性が基本かしら。王家直属の魔法師団の中には、5属性を操る人もいるみたいだけどね。って、そんなことも知らないの?」

 「いや~あははは」

 「笑って胡麻化さないの! まったくもうっ」

 「ごめんって。それより無属性ってのはどんな魔法なの?」

 「あ~もう。本当に世話が焼けるんだから。いい? 無属性は身体に及ぼす魔法と言われているわ。自分の体を強化する肉体強固や遠視、瞬発力上昇などなど。そういった魔法が多くあるの。中には特殊なものや、身体強化以外もあるらしいけど、よく知らないわ。まぁ初めは体が強くなる魔法ってぐらいの認識で大丈夫よ」

 「なるほど。わかったよ。ありがとね」

 丁寧にいろいろと教えてくれるシャルに感謝の言葉と笑顔で返した。

 「っっっ! べ、別に勘違いしないでよね! 練習相手が無能じゃ、私が困るから教えただけであって、あんたの為じゃないんだからね!」

 ツンデレ発言頂きました! ありがとござまーーす!

 「なにニヤニヤしてんのよ! 燃やすわよ」

 ヤバイ。これ以上からかうとマジで燃やされそうだ。涙目のツンデレ女子は、やると言ったら本当にやってくるから危険だ──。

 「ご、ごめんなさいです。……そ、それじゃあ無知な俺に、魔力適合テストを教えて頂いて宜しいでしょうか?」

 「そーやって最初から素直に頼べばいいのよっ。シュエ、あれの準備できる?」

 「大丈夫。こうなると思って、すでに準備しておいたから」

 「さっすがシュエね。ありがとぉー」

 「えへへ~~」

 笑顔で話しながら、シュエの頭を撫でるシャル。シュエも嬉しいのか、とろ~んとした笑顔をしていた。

 ──百合百合した会話を見ているのも好きだが、できれば俺もいつかシュエの綺麗な髪をなでなでしたいものだ。

 俺の邪心を感じとったのか、シャルが『ぎぬろっ!』とこっちを睨んできた。俺はとっさに視線を外し、そっぽを向いたので良かったが、きっとあのまま見ていたら、英雄学園に通う赤髪の女帝様のような眼力で吹き飛ばされ、縦回転をしていただろう。

 

 

 ─── 3 ───


 「それじゃあ始めるわよ」

 「よろしくお願いします!」

 俺はシャルの前に立ち頭を下げた。人に教わるにはそれなりの態度で示さなくては。

 「と言ってもこれを使うだけなんだけどね」

 シャルが持っているのは、8色の石がはめ込まれた円盤だった。

 「え~っと、これは?」

 「これは魔晶盤ましょうばんといって、自分にはどの属性があるのかを見極める道具なの。論より証拠。今から使ってみるから、よーく見てなさい!」

 シャルはそう言って魔晶盤に手をかざして、念じ始めた。

 すると、魔晶盤にはめ込められた石の内、赤と透明な石が光る。

 「お~、綺麗だ。えーと、属性は全部で八種類で、石も8つ。その内の赤ってことは、火属性の適性があるってことでOK?」

 魔晶盤から手を離したシャルが少し驚いた顔をして、

 「へ~。そこまですぐに合点がいくとは、なかなかやるじゃない」

 「アハハハハ、ソレハアリガトウ」

 ──言えない。ラノベやアニメのファンタジーものでは、こういった物は定番だから、常識的なぐらいだ。なんて言えない。

 「それじゃあ、シュエにもやってもらいましょ」

 促されたシュエが魔晶盤の前に行き、手をかざすと、水色、緑色、白色、透明な石の4種類が光った。

 「シュエ凄いね! 無属性を除いたら、2種類が平均なんだよね? それなのに3種類も使えるなんて!」

 「そ、そんなこと、ないよ~~……です……」

 褒められて恥ずかしかったからか、顔を赤くして、頭から湯気を出しているシュエ。

 何この子! 可愛すぎでしょ!

 「それはともかく………………」

 俺はシャルの方をじーっと見つめた。シャルも感づいたのか、

 「うっ、うっさいわね! 例え1属性だけでも、とびっきり強力で、うまく使えればいいのよっ!」

 俺の言いたいことを察したらしく、まくし立ててくるシャル。そんな姿も可愛く思う俺は、全属性イケるオタクだからか、それとも小さい子が頑張って強がっている姿にほっこりしているのか、どっちなんだろうな。見た目は9歳の子どもでも、中身は15歳である。たとえ6歳しか違わなくても、やはり感覚的には、二人の事を妹の様に感じてしまっているのかも知れない。

 「いいからさっさとあんたもやりなさいよ!」

 シャルにせかされ、俺もさっそく魔晶盤に手をかざした。すると、

 「「っっっっっ!!!!!!」」

 シャルとシュエが二人同時に驚いていた。

 「ちょっとユウト、あんた…………なんで全属性…………光らないの?」



 ─── 4 ───


 「どうして? 他の属性ならいざ知らず、無属性まで光らないなんてあり得ないっ」

 「そーですね。これは前代未聞かも知れません。まさかの無魔力者がいるなんて……」

 シャルもシュエもひどくびっくりしていた。どうやらこの世界では、使える使えないに差はあれど、魔力を持たない人間など一人もいないらしいのだ。

 ──どうせいつかはバレるんだ。二人に伝えておこう。

 「なぁー聞いてくれ………」

 俺が話し出すと、二人が真剣な面持ちで俺を見つめた。そして俺は意をけっして、

 「あの…………魔力って、どうやって出せばいいの?」

 

 ………………………………。

 ………………………………。

 

 「「はぁ~~~~~?????」」


 

 ─── 5 ───


 「まさか魔力すら出せないなんてね」

 「まったくです。そんな人がいたなんてことに驚きです」

 「面目次第もございません…………」

 俺は地面に直接正座をさせられていた。驚かした罰ということらしい。

 「魔力が出せないんじゃあ、魔晶盤なんて使えるはずないじゃない」

 「まずは魔力を出す練習から始めないといけませんね」

 「そうね。魔力すら出せないなんて、入学試験どころか、生活に支障が出るレベルだわ」

 「いえ、支障どころか、生きていく事すら困難なレベルです」

 「やめてー! 俺のガラスのハートをこれ以上傷つけないでーーー……」

 俺が耐えられなくなり、地面に崩れ落ちていると、目の前に手が差し伸べられた。

 「ほら、そんなくずおれてないで、さっさと練習するわよ!」

 「三人で頑張ればきっとすぐに出来る様になりますよ。だから一緒に頑張りましょう」

 「二人とも~~~~…………よし! 俺頑張ってすぐに魔力を使える様になってみせるよ!」

 「そーそーその意気で頑張りなさい!」

 俺は二人からの励ましに力をもらい、やる気に満ち溢れていった。きっと二人の励ましさえあれば、なんだって出来る気がする。


  ◆ ◆ ◆

 

 「まさかあそこまでダメダメだったなんてねー」

 「そうですね。魔法が使えないのは分かっていましたが、魔力までとは……」

 「私たちがしっかり指導してあげないといけないわね」

 「はい。なんか弟ができたみたいで、ちょっぴり嬉しいです」

 「それであいつと話す時も自然になってきたのね」

 「えへへっ。そうかもしれません」

 

  ◆ ◆ ◆


 「ん? 二人でこそこそ何話してるの?」

 「何でもないわよ! ほら練習始めるわよ」

 「そーです。入学試験まで日にちもありませんからね」

 「んー? わかったよ???」

 いったい二人は何を話していたんだ? まぁ女の子の内緒話しを詮索するほど子どもでもないし、ここは大人の余裕を見せて、流されておくか。

 

 「それじゃあ基礎の基礎である魔力の出し方について教えるわね」

 「はい先生! よろしくお願いします!」

 「よろしい! ではお手本をみせるわ。手を後ろに引き、前に出すと同時に、こうよっっ!!」

 シャルの手の先から、もやっとした湯気の様なものが出た…………が、ただそれだけだった。

 「??????」

 「だから、こうやって、こうだってば!」

 「????????????」

 「だぁぁぁぁぁーーー、もう! グッとやって、ガッとして、こうすれば出るでしょ!」

 「わっかんねーよ!! ほぼほぼ擬音じゃねーか! そんなもん当人以外わかるわけねーよ。わかったら天才だっての!」

 地団駄を踏み、伝わらないもどかしさを表すシャルと、擬音と身振りでは一向に伝わってこないから、叫んでしまう俺。これじゃあどっちが子どもなんだか…………。

 「えっと、ユウト……さん。まずは目をつぶって、気持ちを落ち着けてみて下さい」

 「お、おう」

 俺はシュエの言う通り、目をつぶり、直立不動で気持ちを落ち着かさせた。

 「落ち着いたら、自分の胸のあたりに意識を集中してみて下さい。何か感じませんか?」

 目をつぶっているので、当然視界は真っ暗なのだが、胸辺りに意識を向けると、

 「なんか温かいものを感じる……」

 「そう。それが魔力の元。それが胸から手にかけて、体の中を通っていく感覚、イメージをしてみて下さい」

 シュエに言われるがまま、体の奥の温かいものが、じっくり移動していくイメージをする。これが魔力の元であるなら、一気に出すのは危険だろう。ラノベでも、魔力出し過ぎで倒れるなど、よくある話だ。

 俺は魔力の元? から、細い管が手に向かって伸びていくのをイメージした。

 イメージ通り、温かい感覚が胸から伸びて、肩にいき、肘、腕、そして手から出ていくのを感じた。すると、

 「ユウトっっっ! ストップ! ストーーップ!」

 シャルの声に驚いた俺は、パッと目を開た。

 すると、まるで湯が沸いたヤカンの口から蒸気が噴出する様に、俺の手からも魔力が大量に噴出していた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!

 驚いたことで集中力も切れ、同時に魔力の噴出も止まってしまった。

 「あんたね! そんなに魔力を一気に出したら、魔力切れでぶっ倒れるわよ!」

 「ユウト……さん。大丈夫ですか? しんどかったり、気分が悪かったりしていませんか?」

 「あっ…ああ、大丈夫だ」

 俺は自分の手を、信じられないものを見る目で見ていた。何故なら俺がイメージしたのは、細い管ぐらいだったのだが、実際に手から出た魔力量は凄まじいものになっていた。

 ここで俺は女神さまからもらった『莫大な魔力』と『今は感じれませんが、すぐに実感も湧いてきますよ』という言葉を思い出していた。

 「女神さま……さすがにやり過ぎでは? はははっ」

 「ねーユウト、あんた本当に大丈夫なの?」

 「一応お医者様に見てもらいましょうか?」

 「大丈夫、大丈夫。次はうまくやるからさ」

 心配そうに俺を見ている二人に心配かけまいと、より一層明るく答え、再度魔力を使ってみることにした。

 次こそはコントロールを間違えない様に。イメージは糸よりもさらに細く、髪の毛みたいな極細の感じで──。

 イメージした通り、とても細い細い糸が伸びて、手から出でいった。出ているのを感覚で感じながら、俺はそっと目を開けてみた。すると、

 「お~。これが魔力を出すってことか」

 手の先から、最弱にした加湿器から出る様な靄が出ていた。

 「ん~、まだまだ出すぎってくらいだけどね。まぁコントロールは少しずつ学んでいくしかないわね」

 「そーですね。でもそろそろ止めないと魔力切れになってしまいますので、今日はこの辺にしておきましょう」

 シュエの提案で、俺の魔力訓練はここで終了。俺的にはまだまだ余裕というか、全く魔力は減っていないのだが、ここは心配させない様に今日の練習はやめておこう。

 その後は、シャルとシュエの練習を見学していた。

 魔力コントロールもそうだが、この世界の魔法には詠唱が必要なのが分かった。

 明日からは、魔力コントロールと詠唱の練習をすることで、本日の練習はお開きとなった。



 ─── 6 ───


 魔法の練習は終わり、屋敷の中に戻ろうとしたとき、一台の馬車が玄関前に止り、中から赤い髪を腰ほどまで伸ばした女性が下りてきた。

 釣り目と、勝ち気を通り越し、スーパーレディ、キャリアウーマンっぽい雰囲気がしていた。

 雰囲気こそ違えど、その顔立ちから、その女性がシャルの母親だとすぐに分かった。

 やはりシャルが、馬車から降りる女性を見た途端「お母様ーー」っと叫び走り出す。

 「あらシャル、今日も魔法の練習頑張っていたのかしら?」

 「はい! 今日は魔力コントロールを重点的にいたしました」

 「よろしい。詠唱も大事だけど、魔力を垂れ流しにしたりコントロールを怠ると、結果として魔力切れとなり、戦力外となってしまいます。ですので、一見地味な魔力コントロールですが、とても重要になってくるので、しっかり練習なさい」

 「はい! お母様!」

 褒められて嬉しかったのか、ポニテがフリフリ動いていた。

 これはどういった仕組みだ? もしや魔法の一種か?

 などと、他愛のないことを考えていると、

 「あら? そちらの子は見かけませんね。いったいどこの方ですか?」

 「あっ! ご紹介が遅れました。この子はユウト、今日町で───」

 シャルが俺との経緯をお母さんに話してくれたので、俺が説明する手間が省けた。

 「──ということで、本日からうちで面倒を見てあげようと思うのですが、ダメでしょうか?」

 「あなたの行いは、領主の娘として最良ですよ。ですが、この子自身の事も知っておくべきだと思います。ユウトさんとおっしゃいましたね?」

 「はっ、はゃい!」

 急に話を振られるもんだから、ビックリして噛んでしまった……恥ずい……。

 「あなた、どこの地方からいらっしゃったのですか?」

 「えぇぇ~っと、なんて言えばいいのか……東の島国と言いますか……ジパングって呼び方だったり、日本って言ったりなんかしたりして……」

 ダメだ! この人の重圧感は俺が苦手なやつだ。圧倒的な強さを持っているという自信と、自らを曲げない芯の強さを持った人の話し方だ。言っている事は普通なのに、こちらに有無を言わせない圧力がある……。

 「ジパング? ニツポン? 聞いたこと無い場所ですね。まぁ島国という事ですから、私が知らないところもあるかも知れませんね」

 良かったーー。追及されても『実は異世界から転生してきたんです』なんて答えられないから、本当に助かったーーーーーー。

 「ではユウトさん。あなたはどの様な魔法を使えますか? まぁうちの子と同い年みたいですので、初級である一節詠唱ぐらいは出来て当然よね?」

 「えーっと……それが…………その………………」

 「……あっ、あの…お母様。ユウトは一節詠唱どころか、今日初めて魔力を出せるようになりました」

 「!!! 今日初めて魔力を出したって、まさか、ただ魔力を手から出しただけですか?」

 「は、はい。そのまさかです……」

 「ということは、詠唱も何も知らない、コントロールも出来ないという事ですか? それでも属性把握ぐらいは…………」

 「お母様……全てないない尽くしです。今日は魔力を出し過ぎてしまったので、属性診断も出来ず、ちなみに、私たちと同じ魔法学園を受験したいとも言っていて……」

 「なっ! なんですって!! 試験までひと月もないのに、何も出来ない分からない状態で試験を受けようと言うのですか!?」

 「はい。まさにその通りです」

 何やら親子で盛り上がっていらっしゃる。どうやら俺の考えは、シャル母からすれば在りえない事だったのだろう。全てが出来ない、ないない尽くしの俺では、きっと屋敷には置いてもらえないだろう。無茶を言ってシャルを困らせるのも嫌だし、ここは素直に引き下がろう。女神さまからひと月は暮らせるお金はもらっているし、魔力の出し方も覚えた。これならコントロールくらいは一人でも練習できるし、詠唱は分からんが、なんとかやっていくしかないな。

 俺が、ネガティブなんだかポジティブなんだか分からない問答を自分でしていた時、

 「ユウトさん。あなたは本当に魔法学園に入学したいのですか?」

 シャル母から質問をされた。まぁ魔術師になるためにも、魔法学園には通った方がいいって女神さまも言ってたし、

 「はい。例え一人になっても、毎日練習して魔力コントロールぐらいは出来る様にしてみます。そして、受かるかどうかは分かりませんが、それでも試験は受けようと思います」

 「試験では魔力コントロールだけではダメかも知れませんよ?」

 「それでも……それでもっ! 男が一度やるって決めたのだから、できません。やりませんじゃカッコがつかないでしょうっ!」

 ついつい某海賊団の骨の人のセリフ回しを真似してしまった。どこに行っても俺のオタ趣味は変わらないらしい。

 「よく言いました! 腑抜けたことを言うようでしたら、すぐにでも追い出したかも知れませんが、あなたの心意気、しかと聞きました! 残り一か月。私自らあなたに徹底的に魔法を教えてあげましょう!」

 「へ? どーゆーこと……ですか?」

 「お母様があなたに魔法の特訓をしてくれるって言っているのよ! お母様は『劫火ごうかの女帝』と呼ばれるほどの炎の魔法の使い手なの! きっとユウトも魔法を使える様に……いや、きっと強くしてくれるわ。頑張ってね!」

 どうやら、俺は『劫火の女帝』に魔法を教わることができるみたいだ。これは良いことだよね?

 「シャル。それにシュエちゃん。あなたたちもよ?」

 「え! 私たちもですか!?」

 「当然じゃない。もともとは残り10日から教えるつもりだったけど、この際だわ。この子と一緒に、徹底的に仕込んであげる。うふふふふ」

 「「そっ、そんなーーーー」」

 シャルだけでなく、シュエもビックリした(嫌そうな?)顔をしていた。

 「何が不満なんだ? すごい人に教えてもらえるなら、願ったり叶ったりじゃないか」

 「あんたはお母様の怖さを知らないから言えるのよっ!」

 「はい……奥様の地獄の特訓は本当に厳しくてですね、あれを…思い……出す…だけ……で…………ガクガクガクッ」

 冷静沈着で、優しさと思いやりを具現化したようなシュエですら震えだした!

 いったいシャル母の特訓って何をするんだ?

 「さーって、そうと決まれば今日はたっぷり栄養をとって、ぐっすり寝て、明日の訓練に備えるわよ。久々に腕がなるわー」

 俺たちが小声で話していても意に返さず、豪快に宣言すると、シャル母は屋敷へと入って行った。

 

 その後の夜食の時もシャル、シュエは目も虚ろで、ただただ機械の様に黙々と食事を済まし、早急に寝室へと向かって行った。

 今日の出来事をシャル父に話すと、「あぁぁー」と訳知り顔をして、寝室に向かった娘たちと、俺の事を温かい目で見てきた。

 シャル母だけは上機嫌で、ワインを2本も開けている。いったい特訓に何があるというのか。

 明日にならないと分からない事だし、することも無いので俺も早めに休むことにした。

 おやすみなさい。

 


 ─── 7 ───


 翌日。空は快晴いい天気。絶好の特訓日和となった。

 「つ、ついにこの日がやってきましたか……」

 「はい……シャル! 絶対生き残ろうね!」

 「当然よ! シュエと一緒にまだまだしたいことがあるものっ!」

 今朝も順調の百合具合。見ていて楽しいのだが…………。

 「二人とも大げさだな~。単なる特訓でしょ?」

 「「ただの特訓じゃない(です)!」」

 シュエも一緒に大声を出したことに驚いてしまった。ビックリしている俺を見てシュエが、

 「えっと、あの。奥様の特訓は本当に、ほんと~~~~に! 激しく厳しいものなんです!」

 「そーなの?」

 「ええ、そーなのよ! 私とシュエは何度か経験しているけど、毎回記憶が飛んでいるのよ……」

 「記憶が飛ぶってまっさか~~」

 さすがに実の娘や使用人とはいえその友人を、記憶が飛ぶまで特訓させるだなんてそんなこと。

 ちらりとシュエの方を見ると、虚ろな目で空を見上げていた。

 え? マジ? 記憶が飛ぶって、俺たちはいったいどんな特訓をさせられるんだ?

 

 俺たちがそんな会話をしていると、

 「おはようみなさん。昨日はよく眠れたかしら? 体調管理も魔法使いとして大切なことですからね、休める時にはしっかり休みなさい」

 と話しながら、昨日着ていた綺麗なドレスではなく、動きやすそうなパンツルック姿で、シャル母が現れた。

 「はい。ゆっくり休ませて頂きました」

 「あら。ユウトさんは元気ですね。シャルもシュエちゃんも元気に今日の訓練に励みなさいよ?」

 「「は、はい…………」」

 どうやらまだ二人は恐怖でガチガチらしい。いったい何をさせられるんだろう。

 「では今から訓練を開始します。そうねー、それじゃあシャルとシュエちゃんは、それぞれあそこに用意した土人形を、距離20メートルから一節詠唱の初級攻撃魔法のみで倒しなさい」

 「あっ、あのお母様。一節詠唱では20メートルの距離を飛ばすのは無理なのではないでしょうか?」

 「そ、それにそこまで離れてしまっては威力も落ちてしまいますし……」

 シャルとシュエが二人掛かりで説得を始めたが、

 「ええ。普通はそうよね。でもやってちょうだい」

 シャル母は笑顔でそれを却下し、二人は『ガーーン!』という擬音がぴったりの顔をしていた。

 「すみません。一節詠唱の魔法では20メートル? は届かないんですか?」

 土人形はだいたい20メートルくらいの位置にある。魔法なんだから、永遠とまではいかなくても、100メートルくらいは飛びそうなイメージだったのだが。

 「そうね。一節詠唱の初級攻撃魔法の有効射程は、だいたい10メートルと言われているわ。飛ばすだけなら15メートルはいくけど威力がほぼ無くなってしまうのが定説ね」

 「それじゃあ二人に課したメニューは不可能なんじゃ?」

 俺は純粋な疑問をシャル母にしているだけなのだが、シャルとシュエは援護をしてくれていると勘違いしているのか『いいぞ! もっと言ってやれ!』という期待に満ちた顔をしていた。

 「確かに定説では無理ね。でも出来ない訳じゃないのよ?」

 そう言ってシャル母は、20メートルより奥に置いてある土人形の方に掌を向けた。

 「火よ穿うがて。ファイヤーショット!」

 呪文詠唱を始めるとシャル母の手が光だし、詠唱終了と共に掌から、ソフトボールぐらいの火の玉が、凄い勢いで飛んでいき、土人形を爆散させた。

 「まぁ、ざっとこんなものよ」

 なんでもない様にシャル母は言っているが、これがとても凄いことなんだと、シャルとシュエの表情から読み取れた。

 「まぁ見ての通り、出来たでしょ? それじゃあ二人はこれをやってきてね。あっ! 当然終わるまでやるのよ?」

 つまり出来ないと永遠に終わらないという事だよね!

 シャルたちが嫌がっていたのが、今になって理解できた。

 「それじゃあ次はユウトさんね」

 「はっ、はい!」

 俺は何を言われるのか、正直ビビっていた。魔法が使える二人が、あれだけ厳しいのだから、何も出来ない俺は、さらに厳しい特訓が待っているかも知れない。

 「ユウトさんは魔力は出せるようにはなっているのよね? ならさっそく魔晶盤で、属性適正をやってみましょう」

 「へ? それだけでいいんですか?」

 拍子抜けをしてしまった。昨日見ていた限りでは、属性適性を見るには、魔晶盤に魔力をそそぐだけでよかったはずだ。

 「まずは自分に適した属性を知らない事には、どの分野を伸ばすのかが変わってきますからね。適正属性が無かったとしても、別の属性の魔法を使用することは可能ですが、やはり威力も精度も落ちてしまいます。ですので自分に合った属性を知っておくというのは、とても大切な事なんですよ?」

 シャル母の説明はとても分かりやすく合理的だった。

 なんだよ。ビックリして損しちゃったじゃないか。

 「それじゃあ、やってみてちょうだい」

 「はい! それではいきます!」

 俺は用意された魔晶盤に、細心の注意を払って魔力をそそいでいった。体の奥にある温かいものから、極細の糸が伸びていくイメージで、手から放出させる。昨日やったおかげか、今日はより細く、スムーズに進められた。

 魔力を浴びた魔晶盤が一瞬凄い光を放った。

 「こっ! これは!!!!」

 シャル母の驚く声が聞こえる。いったい何個の属性に適合したのだろうか。昨日の様に零とはいかないだろう。ちゃんと魔力もそそいだし、一瞬ではあるが凄い光を放っていた。

 俺は閉じていた目を薄っすら開けていくと、そこには光輝く透明な石が目に入った。

 確か透明なのは、無属性の魔法石だったはず。とりあえずは一種類。それじゃあ他の属性はどうかな?

 「まさか……まさか……」

 シャル母も驚いている。きっと全属性コンプリート。こんなの前代未聞だわ的フラグ立ちまくり? もしかして、女神さまがフル属性のチート能力をくれたのかな?


 「まさか……無属性しか適応してないなんて……」

 「へ? 無属性のみ?…………」

 俺の淡い期待は、一瞬で砕け散った。


 

 ─── 8 ───


 「えーーと、ユウトさん? 例え無属性だけでも立派な魔法使いになることはできますよ? 今活躍中の魔法使いの中にも、無属性だけしか使えない人が、いたよーな…いなかったよーな……そうでもないよーな…………」

 「つまり、ほぼほぼいないってことですよね?」

 「えっと、まぁー…………そーーですね。ごめんなさい」

 「謝らないで下さい! 余計惨めになるじゃないですか!」

 俺は現実を知り崩れて落ちてしまった。確かに女神さまから莫大な魔力はもらったが、それで魔法が使えるとは言われていない。努力次第だとも聞いていた。でも……だからって……………………。


 「無属性しか適性が無いって、どーしろって言うんだーーーーー!!!!」


 「ユウトさん。たとえ無属性しか適性がなかったとしても、別に他の属性の魔法が使えない訳ではないのですよ」

 「ほっ、本当ですか!」

 俺は即座に顔を上げ、シャル母へすがる様な目を向けた。

 シャル母は少し言いずらそうにするものの、

 「いいですか、属性適性があるという事は、その分魔力変換率や威力強化につながります。無ければその分無駄な魔力を消費してしまうので、効率的とはいきません。ですので、ほとんどの魔法使いが、自分の適性のある属性魔法を使うのです」

 「なら、魔力さえ大量にあればその辺は気にしなくてもいいってことですか?」

 「まぁ、乱暴に言ってしまえばその通りです」

 「なーんだ。なら問題ないですね」

 俺には女神さまからもらった莫大な魔力があるので、魔力を多めに消費したとしても、なんら問題は無い。

 少しでも疑った俺を許して下さい女神さま。

 「いえ、事はそれほど簡単にはいきません! いいですか? 人の魔力には限界があります。それを超える魔力を消費してしまったら、良くて昏倒、悪ければ死に至ります。ですので本来ならば適性のある属性魔法以外を使うのは得策ではありません」

 「だったら魔力の総量を上げればいいんじゃないですか?」

 俺には関係ない話だが、気になったので一応聞いてみることにした。

 「それが簡単には総量は上がらないのです。生まれながらにして多くの魔力をもっている者もいますが、それもごくわずかしかいません」

 「えっと、基本的なことを聞いてなかったのですが、平均的な魔力量っていったいどれくらいなのですか?」

 「そーですね、魔法学園入学者なら、最低100MP(魔力ポイント)ぐらいでしょうか。入学期間の10歳から15歳の間が一番、総魔力量が上がりやすい時期でもありますので、卒業を迎える頃には、平均で800MP、多い子になると1000MPなんて子もいます。そして大人になって魔法使いとして一人前と呼ばれる人で1300MP。国王直属の魔導士隊では3500MP、今のところでは、大賢者様が9600MPという、とんでもない魔力量を持っていますが、それだけあっても、他の属性の魔法を使うのはあまり無いと聞いています。ですので、やはり他属性の魔法を使うのはリスクが高いという事です」

 「なるほど、ではどうやって総魔力量は量るんですか?」 

 「そうですねー、正確な数値を量るなら、魔法学園や魔法士協会などの専門施設に行けば計測できますが、大雑把な数値でよければ、うちにも計測器はありますよ? なんならユウトさんの魔力量を量ってみましょうか?」

 「えっと、それって高かったりします?」

 「うふふふ。ユウトさんは変な事を聞くのですね。確かに安いものではありませんが、普通に扱っていれば壊れることなどありませんし、何度だって使えますからユウトさんは気にしなくていいのですよ? ふふふっ」

 どうやらシャル母は、俺が使い切りの魔道具だと思って聞いたと勘違いをしているが、そうじゃない。俺が危惧したのはスカ〇ターの様に測定量オーバーで、ボンッ! と壊れたりしないかという方なのだ。

 「まぁ、もっとも大賢者様ほど魔力量を計測しようとしたら、壊れることもありますがね」

 はい。フラグいただきました!

 ダメだ! これは確実にボンッ! をしてしまう未来しか想像できない! 高くはないと言っていたが、それは領主様感覚で、俺なんかではきっと払うことのできないお値段に違いない。これは何としても回避しなければ。

 「えっと……総量は量らなくてもいいかな~って、思ったりなんかしちゃったりなんかするんですけど…………ほっ、ほら。無属性でも立派な魔法使いになった人も、いたりいなかったりする訳ですので、俺もそんな魔法使いを、目指したり目指さなかったり、しちゃったりしなかったりする訳で…………」

 「ん? ユウトさんは何を言っているのですか?」

 ですよね~。自分でも何を言っているのか分からなくなっていましたので…………。

 「確かに無属性使いも悪くはありませんが、どちらにしろ魔力の総量を知っておくことは大切です。ちなみにシャルで150MP、シュエちゃんは180MPと、どちらもこの年代の子にしては高い総魔力量を持っていますが、この様なのは小さい頃から魔法と親しみがあり、良き師に恵まれた子だからです。少なかったとしても落ち込むことは無いのですよ?」

 またもやシャル母は勘違いをしている様だ。俺がシャルやシュエと比較されるのを嫌がって、拒んでいるのだと思ったらしい。フォローまで入れられているし。

 仕方ない。あの手は使いたくはなかったのだが……。

 「あっ、僕ちょっとおトイレ~」

 某メガネ少年探偵くんの様に、逃げようとするも、

 「では5分で戻ってきてくださいね。もし戻ってこなければ…………うふふふふっ」

 「はい! ダッシュで戻ってきます!!」

 ヤバイ! あれは怒らせてはいけないタイプの人だ! もし約束を破ったら、何をさせられるか分かったものではない。

 俺は別の意味で尿意を感じてしまい、結局行くことにした。戻ってみるとシャル母は、二人の特訓を見ているようだったので、俺もそこへ足を向ける。

 「「ぜぇー……はぁー…………ぜぇー…………はぁー…………」」

 「二人ともだらしないですよ! あなたたちの魔力量ならまだまだ残っているはずです。しんどい思いをするのは、魔力変換の際に、無駄な体力を使っているからです。もっと効率よくスムーズに! ほら、もう一回!」

 「「っっっ!」」

 シャル母に奮起させられ、二人は詠唱を始めた。

 「火よ穿て。ファイヤーショット!」

 「水よ飛べ。ウォーターボール!」

 ドッチボールぐらいの火の球と水の球が、土人形目掛けて飛翔していった。

 2球とも見事に土人形にヒットするも、破壊するにはいたらず『ぽふっ』『ぴしゃ』と可愛らしい音と共に霧散した。

 「二人ともまだまだです! 形を維持しての射程拡張は出来ていますが、威力が全然なってないです。15分間、休息も兼ねてイメージトレーニングに励みなさい!」

 「「……はぁはぁ…………は…はいお母様(奥様)」」

 そう言った二人はその場に倒れこんでしまった。俺がビックリして駆け寄ろうとするも、

 「二人なら大丈夫です。メイドたちもいますので、介抱はその者たちに任せておけば。それに、汗だくで疲弊しきった顔を子どもとはいえ、殿方に見られるのは、あの子たちも望んではいないでしょう」

 そう言われてしまっては、傍へ行くことはできない。まぁ俺なんかより優秀なメイドさんたちが介抱するのだから、なんら問題はないだろうが。

 「さて、それではユウトさんの魔力測定をいたしましょうか」

 そうだった。俺も追い詰められた状況だったんだ…………。

 今更思い出しても遅く、言い訳も思いつかないまま、俺はしぶしぶ魔力測定器の前に立つのだった。

 

 「では、魔力測定機に手をかざしなさい。魔力を注ぐ必要もありませんよ。測定器が自動で計測をしますから」

 覚悟を決め、測定機に手をかざすと、

 「10…20……50……まぁ最低ラインは突破ですね。…………80……90…………1、110? …………250…………ま、まだ上がって…………………………なっ!」


 ドンッ!!!!!!

 

 俺の予想道理、魔力測定器は爆破してしまった。

 最終ラインが8000MPだったので結構高性能な装置だと思う。だが、やはり俺の魔力量を量りきるのは無理だったようだ。

 「…………………………………………………」

 シャル母も今だ放心状態から帰っては来れないみたいで、茫然自失としている。

 

 「あ…あの、お母様?」

 シャルが動き出したという事は、あれから15分はたっているのだろう。

 だが、シャル母は一向に返ってくることは無かった。

 シャルたちが特訓に戻ってから、さらに15分がたち、ようやくシャル母も返ってきたみたいだ。

 「ッ! ユ、ユウトさん! あ、あなたはいったい…………」

 ん~。本当のことを言っても信じてもらえそうにないし、ここははぐらかすことにしよう。

 「え? どーしたんですか? 俺の数値はいったいどれくらいだったのですか? それに装置も壊れたみたいですが、もしかして、初めからどこか故障していたのではないですか?」

 「え…………た、たしかにその方がつじつまが合いますね。9歳でしかも、魔法のことすらほぼ知らない子が、あんな数値が出るわけ在りえませんものね。そうです。きっと壊れていたのに違いありません」

 どうやら故障という方で自己完結してくれたみたいだ。今回はこれでよしとして、次はどう乗り越えるかも、考えておかなければ。

 「測定器はなかなか手に入らないので、今回は無しとします。どうやら私も昨日の疲れが残っているみたいです。シャルたちには、夕ご飯までで今日は終わりにするように伝えて下さい。私は部屋で少し休みますので」

 「はい。かしこまりました」

 そう言い残すと、シャル母は屋敷へと戻っていった。どうやら相当ショッキングなことだったに違いない。できれば、壊してしまった測定器の値段についての事では無い様に願いたいものだ。



─── 9 ───


 俺はシャル母の伝言を伝える為に、シャルたちが特訓をしている場所に向かっていると、『ボフンッ!』という破裂音が聞こえてきた。

 「「……はぁ…はぁ……はぁ………はぁ…………」」

 そこには、肩で息をしている限界寸前の二人がいた。

 「二人とも大丈夫?」

 俺は二人が息を整えるのを待ってから、話しかけた。

 「こ、これが大丈夫に見えるっての?」

 「あはははは。ごめん、見えないわ」

 「まったくよ!」

 息は整ってはいるが、全身から疲労感が漂っていた。

 シャルから少し遅れて、シュエも落ち着いたらしい。

 「私たちはまだまだですが、ユウトさんの方はどーでしたか?」

 「えっと、それがどうやら、魔力測定器が故障してたみたいで、今日の特訓は終わりになっちゃったんだよね」

 「え? そーなの? この前私が使った時には、なんの異常もなかったんだけどなー?」

 「まぁ魔道具も完璧ではありませんから、壊れることもあるのだと思いますよ」

 「そうよね。はぁ、ユウトはいいわよね。今日はこれで特訓終わりなんだから、私たちは、まだまだかかりそうよ……下手したら終わらずに野宿するはめになるかも……」

 「あ~。それならさっきシャル母から、二人も夕飯時まで頑張ったら、今日は終わっていいって伝言預かっといたよ」

 「え! ホントに!」

 食い気味に聞いてくるシャル。シュエもどこか期待したまなざしを向けてきた。

 「う、うん。そー言ってた。間違いないよ」

 「よっ、良かったわねシュエ~」

 「本当に良かったよ~~」

 肩を抱き合いながら喜び合う二人。そんな二人の様子を見て、疑問に思った事をそのまま質問してみる。

 「二人はさ、今どんな感じになってるの? 的までは届くようになってたでしょ?」

 二人は『論より証拠』と、実際に見せてくれた。


 「火よ穿て。ファイヤーショット」

 「水よ飛べ。ウォーターボール」


 火と水の球が、それぞれ土人形に向かって飛んで行った。先ほど見た時よりも速度が上がっていて、勢いもそのままに土人形にヒットしたので『これいけたんじゃ?』と思っていると、

 「ボフンッ!」

 土人形に当たった瞬間、無残にも散っていった───魔法の方が。


 「あ~も~! どうして上手くいかないのよ!」

 出来ないことに癇癪をおこしたシャルが、その場で地団駄を踏み、イライラを表していた。

 「何がいけないのでしょうか?」

 シュエは、冷静に今の状況を打開すべきにはどうすれば良いか考えているみたいだ。

 「でも凄いじゃないか。始めた時は届きもしなかったのに。二人はほんの数時間ほどで、飛躍的に進歩しているよ。大丈夫! 二人ならきっとすぐに出来るようになるって。それに凄いよ! いったいどーやって短時間で届くようにしたのさ」

 俺は称賛と労いの言葉をかけつつも、不思議に思った事をそのまま聞いてみた。すると、

 「そんなの気合でガッとやっただけよ」

 「スピードが落ちない様に、水球に回転を加えました」

 

 「「「??????????」」」

 二人がそれぞれ違うことを言ったので、俺も合わせて三人で顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かべた。

 「えっとつまり、シャルは『気合』でなんとかして、シュエは『回転』という新しい技法で届くようになったと?」

 「ええ、そうなるわね。でも回転かー。それは思い付かなかったわね」

 「気合で何とかなってしまうのですね……」

 シャルはヒントを得たといい笑顔に対し、シュエは若干落ち込み気味だ。

 まぁ自分が試行錯誤していたのに、それを気合で解決できたと言われれば、へこみもするだろう。

 ただこの話を聞き、さらに俺の中で疑問が生まれたので、二人に質問してみる事にした。

 「届くようになったの分かったけど、どうして破壊出来ないんだろう?」

 「そんなの簡単よ。飛距離を倍にしたんだから、その分魔力も減り、威力が落ちるのは当り前の事でしょ?」

 「でも見た目だけならかなりの威力がありそうに見えたんだけど? 魔力が減ったなら、飛びながら収縮していくもんじゃないの?」

 「それは、私たちが状態維持を心掛けているからです。状態や形態が変わると、それに伴い、周りから受けてしまう影響も大きくなります。ですから、対象物に当たるか、限界射程距離にいくまでは、現状の形を維持できるように日頃から特訓しているのです」

 「なら威力も維持できるように心掛けたらいいんじゃない?」

 「「?????????」」

 二人は俺が言ったことが理解できない様で、二人揃って顔をコテンっとかしげていた。

 「えっとつまり、シャルなら火が相手に当たった瞬間消えるんじゃなくて、さらに燃え上がるイメージをするとか。シュエだったら、水球を楕円形に変えてから回転させて貫通力を増すイメージで飛ばしたりとかさ」

 「「!!!!!!!!!」」

 俺の言ったことにピンッときたのか、さっそく詠唱を唱え魔法を放つ二人。すると、

 ズドンッ!!!!!!!!!


 「う、うそ…出来た」

 「はい……今までのが嘘の様にすんなりと……」

 シャルの土人形は火の包まれ、灰になって崩れ落ちていった。シュエの土人形の腹部には、大きな風穴が空き、そこを中心に倒壊していった。

 二人の魔法はそれだけでなく、シャルのは火は今でも燃え続け、シュエの水球は後ろの壁にも穴を空けている。

 ちょっとしたアドバイスだけで、一瞬で自分のものとする二人の姿に、少しだけ嫉妬してしまった。

 …………早く俺も魔法を使ってみたいな~。


 その後、二度三度と魔法を繰り返し練習する二人。その度に精度と威力が上がっていった。

 夕食へ向かう頃には、シャルは土人形を一瞬で炭と化し、シュエは頭や腹、喉へとピンポイントの狙い撃ちが出来る様になり、距離も20メートルから35メートルへと延びていた。

 二人の急成長に、益々焦ってしまう俺だった。なにせ、俺が出来たのは魔力を出すことと、無属性の適性があるという事だけだったのだから……。

 二人が特訓を続けている間は、本で詠唱に必要な呪文の暗記をひたすらおこなった。一日でも早く魔法を使える様になる為に。



 ─── 10 ───


 翌日。シャル母も落ち着いたのか、みんなと一緒に庭に出ていた。

 「ごほん。では昨日の練習の成果を見せてください」

 俺たちが必死な思いでやっている特訓は、シャル母にとってはただの練習でしかないみたいだ。

 「「はい!」」

 いつになく自信満々の二人は、さっそく土人形に向かって、魔法を放つ準備を始めた。

 その様子を見ていたシャル母はいぶかしげな表情をした。

 まぁ、それはそうだろう。何故なら、

 「どうしてあなたたちはそんなにも離れているのですか?」

 シャルとシュエが立っているのは、シャル母から言われていた20Mを通り越し、倍の40Mほどの場所に立っていたのだから。

 「見ていてくださいお母様。私とシュエの今の力を!」

 そう言うと、二人は詠唱を始めた。

 そして、

 「■■、ファイヤーショット!」

 「■■、ウォーターボール!」

 シャルの手からは、ドッチボールからソフトボールほどに小さくなった火球が、ものすごい勢いで発射され、土人形を爆散させた。

 シュエの方は、すでに水球とは言えないほど尖ったものが高速回転をしながら、土人形の胸──人間でいう心臓がある場所──を的確に打ち抜いていた。

 二人の魔法を見たシャル母は信じられないものでも見る様に固まっていたが、昨日の様に長時間でなく、すぐに現実に戻ってきた。

 「ふ、二人とも昨日何があったのですか? 一日でここまでの成長を見せた者など、私は知りませんよ……」

 母親(師匠)からの称賛の言葉に、手を取り合って喜ぶ二人。


 「実はユウトから良いアドバイスをもらったのです!」

 「ユウトさんから?」

 「はい。そうなんです。実は──」

 シャルとシュエが、昨日上手くいかず悩んでいた時に、俺のしたアドバイスが自分たちを急成長させてと、興奮気味に話していた。

 俺からすれば、ただなんとなく思ったことを言っただけなのだから、そんなに持ち上げないでほしい。だって俺自身はなんの成長もしてないのだから、聞いてて落ち込んでくる。

 俺、そんなに凄い奴じゃないよ?


 「なるほど、確かにユウトさんのアドバイスは的確ですね。本来であれば、長い修練の中で、自分で気づいていくものですが、他の人の魔法を見ただけで、その改良点をすぐさま見い出せるのはすごい事です」

 シャル母からも称賛され、益々居たたまれない思いになってきた。

 「いいですか? 二人が覚えたものは本来であれば、魔法学園に入り、卒業までに身に着ければ上出来と呼べるものです。それを入学前にすでに取得できたのは素晴らしいことですが、これに驕らず、もっと精進をしなさいね」

 「「はい!」」

 「よろしい。では今日からは、他の魔法でも応用できないかの模索と、魔力量を増やすためのトレーニングに移りなさい」

 「はい! それじゃあシュエ行こっ」

 「うん。もっともっと特訓して、二人で強くなろうね」

 二人は笑顔でかけて行った。その様子はやはり9歳の子どもなんだな~っと微笑ましく見ていたら、

 「それではユウトさんの成果を見せていただいてよよろしいですか?」

 シャル母からそう言われ、俺は暗記した全属性の初級魔法の詠唱おこなった。しかし、何一つ発動するものは無かった…………。

 「…………………………」

 「…………………………」

 「え~っと、まぁ適性があったとしても、いきなり発動するとは限りませんよ? ですので、これから少しずつやっていきましょうね?」

 苦笑いが隠せてないですよ……。


 それから20日間、詠唱の暗記や魔法使いの歴史、この世界の事を学んだり、実際に魔法を見せてもらったりなどしながら、魔法に関するさまざまな特訓をシャル母から学んだ。

 だが、俺が出来たのは、始めに覚えた魔力を出すという事だけだった……。

 シャル母は『まっ、まぁ人それぞれ得意不得意はあって当然よね。きっといつかできる様になるわよ…おほほほほ……』と空笑いをしていた。

 だが、確証は無いが、もしかして? と思えるものが俺の中で出来始めていたのだ。

 今日はシャル母に一人で考える時間がほしいと伝えると、シャル母も、俺が悩み落ち込んでいると思ったらしく、すんなりと休みをくれた。

 俺は誰もいない森の奥へと行き、自身で考えていた事を試してみる。

 それは、今まで魔力を制御して、薄く出していたものを、一点集中で一瞬だけ爆発的に出したらどうなるかというものだ。

 手をピストルの形にして木に付け、体の中の魔力を、エアーガンでBB弾を撃つ様なイメージで放ってみる。すると、


 ズドンッ!!!!!!


 木には銃で撃たれた様な風穴が開いていた。

 距離を取ってもう一度試してみると、成功はしたものの威力が格段に落ちた。そこで、特訓初っ端のシャルたちの事を思い出し、飛距離が伸びても木を穿つイメージ、それから出す魔力の形をピストルの弾の様にして、回転もかける。

 俺が思っている以上に成功した。

 たった5発撃っただけで木は根元以外残ってはいなかった。

 何本かの木を実験台に練習を重ね、夕方になる頃には、森の真ん中に広場が出来ていた。

 だいたい千発撃ったぐらいで、総魔力量の0.01%ぐらいの消費だったのだが、座って一息つくと、元に戻った。どうやら、魔力回復量も莫大化しているみたいだ。

 とにかく、魔法? とは呼べないかも知れないが、戦う力は手に入れた。あとは入学試験を突破するだけだ!

 だが、この魔弾──今命名──は、威力もそうだが、シャル母に教えてもらった魔法の中には無いものだったので、隠し玉にしといた方がいいだろう。

 前回の魔力測定の時みたく、シャル母が卒倒してしまうかも知れないからなー。

 そんな事を考えながら、俺は太陽が傾き真っ赤に染まりかけの森を後にした。

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