第二章 俺、異世界に来ちゃいましたっ!
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「…………っ! ここは……?」
意識を取り戻した俺の目に映ったのは、広々とした草原とそこそこ大きな町だった。
どうやら俺は、町を見下ろす様な高い丘の上にいるみたいだ。
その丘には、一本の大きな木が立っているだけで、他には何も無く、誰もいない。
「……どうやら本当に異世界に来たんだなー」
日本じゃ北海道ぐらいにしかないんじゃないかと思うほど広々とした草原が、見渡す限り続いて、下に見える町の家々は平屋ばかりだった。二階以上ある建物は一軒しか見当たらなかったが、大きな街まで行けば沢山あるのかも知れない。
そして空には、普通の鳥っぽいものの他に、くちばしが大きく、羽も赤紫色をした怪鳥と思しきものが飛んでいたので、まず間違いなくここは女神さまが言っていた異世界なんだろう。
「さてと、それじゃあまずは、持ち物検査でもしてみますか」
俺はヲタクだ。それもかなり濃いめの。オールジャンルで選り好みは無く、全てのアニメ、ラノベ、ゲームにアイドルetc. 興味が湧けば、分け隔てなく好きになった。
その中でも特にファンタジーものが好きだったので、もし自分が異世界に行ったなら。っとよく妄想していたので、この様な状況でも冷静に対処、判断できる。
今俺が着ている服が、自殺の時に着ていた服装と変わっているので、きっと女神さまがこの世界に合わせた物を与えてくれたのだろう。
自分が持っている物の把握は、冒険する上では必ずしておかなくてはならない。いざと言う時に某猫型ロボットの様にバタバタするのはカッコ悪い。
それに俺はRPGゲームでも、ボス前には出来るだけレベルを上げたり、全マッピングをしないと、先には進みたくない。万全を期して、余裕をもったクリアをするのが好きだった。
服装は、ザ・ファタジー界の村人Aといった感じのシンプルな物。
持ち物は、銀色のコインが3枚入った袋と、封筒が一つ。
とりあえずは封筒を開けてみると、中には数枚の手紙が入っていた。
『この手紙を読んでいるという事は、無事にエレフセリアに着いたということです。私は、異世界に送ったら、はいお終いっと投げ出す様な神様ではありませんので、簡単ではありますが、これからあなたのとるべき行動をお教えします。
まずは今見えている町はアルヒと言い、小規模ですが、大抵のものは揃っている町です。そこで何を成し、どう生きるかをあなた自身が選びなさい。どの様な選択をするにしても、きっとあなたの助けとなってくれる町です。
少ないですがこの世界のお金も渡しておきます。今持っているのが銅貨というもので、他にも銭貨、銀貨、金貨などがありますが、この世界の水準では、一日辺り銅貨5枚もあれば生活はできます。ちなみに金銭の差は、銭貨10枚=銅貨1枚。銅貨50枚=銀貨1枚。銀貨20枚=金貨1枚です。
それから、この世界での固有名や文字などはそのままですが、それでは生活出来ませんので、この世界での単位や会話、文字の読み書きなど、この世界の人たちとやり取り出来る様に、お互いの中で自動互換される様にしておきました。ただし、どちらにも存在しない概念や言葉に関しては、そのまま聞こえてしまうので注意して下さいね。
最後に、あなたの魔力は莫大ですがそれだけでは魔法は使えません。たくさん勉強する必要があるでしょう。大変な思いはするでしょうが、しっかり励みなさい。──では、これで私からの助言や援助は以上です。頑張りなさい』
女神さまからの手紙を読み終えた俺は、グッと手に力を込めた。そして、
「やってみせます! 絶対に最強の魔術師になってみせますから、見ていて下さい女神さまっ!」
大声で、空に向かって叫んだ。
─── 2 ───
「さて、それじゃあアルヒの町に行きますか……んっ?」
持っていた手紙を仕舞おうとしたら、もう一枚残っていた。
その内容というのが、
『追伸。あなたの外見と年齢を引き下げておきます。この世界での15歳はすでに成人扱いをされますので、魔法を学ぶには遅すぎます。冒険者となるのも良いですが、それには魔法の知識が全く足りません。魔法なくしてこの世界で生き残るのは、とても難しいことです。
ですので、あなたの年齢を9歳にまで引き下げます。アルヒの村で多少の魔法知識を習得し、一か月後の魔法学園入学試験に間に合わせて下さいね。それまでの生活費は渡してありますので、無駄遣いをせずに頑張って下さい。
では、あと10秒後に年齢を下げますね。9…8…7…6……あーでも、記憶や知識は元のままなので心配には及びません……はい、0』
ボフンッッ!
手紙を読み終えたと同時に、俺の体が煙に包まれ、煙が風によって流された後には、
「なんじゃこりゃ~~~~~~~!!!!!??????」
俺の体は、9歳の子どもの時の姿に戻っていた。
─── 3 ───
「はぁ~。子どもに戻ってしまったが、これも女神さまの配慮だからなー……とりあえず、アルヒの町に行くとするか」
せっかく念願叶って異世界へと来たのだから、細かい事は気にしない事にしよう。
それにこれも、女神さまが俺を思ってしてくれたのだから、きっと正しい事なのだろう。
小さくなった俺は、目先の目標でもある町へと向かった。
丘から降りて町に近づくと、活気のある声が聞こえてきた。
太陽の高さから見て、だいたいお昼を過ぎたぐらいだろうか。食事処と思われる場所から出てきた男達が、仕事の道具を持って「さー、もうひと踏ん張りするか」っと何処かへ向かって行くのが見えたので、きっとそれぐらいの時間だろう。
それより、見た目は西洋風の顔立ちの人が、日本語を話しているのは、先ほどの女神さまの手紙にあった会話の自動互換のおかげだろうか? 違和感は残るが、アニメの中ではよくあることなので気にしない様にしよう。
検問も門番もなく、すんなり町に入ることが出来たのはいいんだが、
「さてと……これからどーしようか」
魔法学園入学の為には、魔法の勉強をしたいのだが、何をどうすれば良いのかさっぱりわからない。
「ん~~~~…………」
「あなた見ない顔ね。この町は初めて? もしかしてお母さんとはぐれちゃった?」
「……ん?」
どこへ向かえばいいか悩んでいると、一人の女の子が話しかけてきた。
真っ赤な髪をポニーテールにした、ちょっと釣り目で勝気な女の子。
うん。きっとこの子はツンデレに違いないな。
前世? でのヲタク知識から、赤髪ポニテ、釣り目で勝気とくれば、ツンデレ四大要素ではないか! という答えが一瞬にして脳裏に浮かんだ。
こうゆう子には、そっけないながらも、ちゃんとした優しさをみせてあげれば、簡単にデレる事が決まっている。ふふふ。ギャルゲーもやりこんでいるのだよ俺はっ!
ふはははははははははははっっっ
だが、
「っえ、と、その、あぁ……んん」
俺は斜め下を向き、口ごもる。長年のいじめ経験から、人と面と向かって話すのが怖くなっていた。不機嫌にしてしまい、またいじめられてしまうのではという恐怖から、うまく言葉が出せない……。
「ん? どーしたのよ。下を向いてたって分からないわよ」
ヤバイ! 相手の機嫌を損ねてしまった! どうにかしなければ! でもいったいどうやって? わからない。わからない。わからない……………。
「はぁー。まったく、世話が焼けるわね。私が一緒にお母さん探してあげるから、そんなに落ち込まないの。大丈夫だから。安心しなさい」
強気ながらも、優しく言ってくれた思いやりのある言葉に、俺はふと顔を上げた。
少女は、言葉と同じように、優しさを内包した眩しい笑顔を向けてくれていた。
こんな思いやりのある笑顔を向けられたのはいつ以来だろうか。俺はついついその子の事を凝視していたら、
「な、何じろじろと私の顔を見てんのよっ! さっさとあなたのお母さん探しに行くわよ!」
そう言ってそっぽを向かれてしまった。どうやらこの子も見られて恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤になっている。まぁ出会ってばかりの奴に凝視されれば恥ずかしくもなるだろう。
「そ、それはそうと、あんた名前はなんて言うのよ!」
まだ恥ずかしさが残っているのか、少女はこちらを振り向かず聞いてきた。
「ぇっと、その……あっ、あの……」
いくら優しい言葉を受け、少しは安心できたとはいえ、急にすらすらと話せるはずもなく、もごもごしていると、
「私の名前はシャルラッハ・ロート。シュルでいいわ。年は9歳よ」
またも笑顔で接してくれた。この子は人を安心させる天才なのかも知れない。
「お、俺は、神代、優人……で、す」
「カミシロー? 変わった名前ね。じゃあカミシロー、お母さん探そっか」
そう言って手を引いて連れてってくれようとするシャル。でも間違っているので、一応訂正はしておいた方がいいだろう。
「えっと、ね。神代は苗字って言うか、家名で。優人が……名前……なん…だけ……ど」
後半は消え入りそうになったけど、なんと伝えることができた。
「そうだったの? それはごめんなさい。この町では家名は後につけるのが普通だったから。そっかー。別の町では逆になったりするのね。なら私の場合はロート・シャルロットになるのかしら? あはははは。変なの~」
そう言って笑っている彼女の顔は、とても楽しそうだった。
「あっ、それから……」
俺は詰まり詰まりしながらも、シャルに同い年でおること、両親はおらず一人身であること、魔法を学びたいこと、そして魔法学園に入学したいことを伝えた。
するとシャルは、
「ウソッ! 同い年だったの! てっきり6歳ぐらいの子かと思ったっ!」
「初めのリアクションはそこなんだ……」
長い話をしたおかげか、少しなら詰まらずに、どもらずに話せるようになれた。
「まぁ、両親がいない子は珍しくはないし……」
そう言うシャルの顔は、どこか寂しさが秘められていた。
「それより、魔法を学びたいのよね? そして魔法学園に入学したいと」
「え~っと、まぁそのつもりなんだけど……」
シャルはどこか嬉しそうに聞いてきた。
「なら丁度良かったわ。ユウト! あなた私の家に来なさい」
「はぁ? 何が丁度良くて、どうしてシャルの家に行くことになるの?」
「鈍いわね。私はここの領主の娘。だから、一人ぼっちでいるあなたを助けてあげるのも、領主の娘として当然の務めなの。それに私も魔法学園の入学試験を受けるのよ。練習ついでに見てあげるわっ!」
何がどう鈍いのかは分からないし、領主の娘だというのも初耳だった。まぁ、どうやら当面の生活場所と、魔法を覚える環境は手にできたみたいだからラッキーだ。このラッキー続きも女神さまのご利益なのかな?
─── 4 ───
シャルの家は町の一番奥にある、とても大きなお屋敷だった。
庭は広く、きれいに整備もされていた。
「どぉ? 広い庭でしょ。ここで魔法の特訓もするのよ」
「なるほど。だから噴水とかの調度品が無い訳かー」
「あのねユウト。噴水なんて水を無駄に垂れ流しているだけじゃない! 国からの資金や、町の人たちから納めてもらっているお金を、そんな無駄なものに使うなんて出来ないわ。少しでも町の人たちに還元できるように取り計らい、政策をしていくのが領主としての務めだって、いつもお父様が言っているもの」
「そっ、そーなんだ。シャルのお父さんは立派な人なんだね……」
「そーなの! お父様はとても立派なのよっ! あれは町の近くの川が大雨で氾濫した時……」
シャルからのお父さん自慢はこの後、15分ほど続いた…………。
「さて、それじゃあまずはお父様に挨拶をしに行きましょう。許してくれるとは思うけど、やっぱりちゃんと伝えておかなくっちゃ」
俺はシャルに連れられて屋敷の中へと入って行った。
屋敷の中は広々としていたが、想像と違いメイドさんはいなかった。悔やまれる……
それはさておき、二階の一室へと案内され、シャルが3回ほどノックをすると「入りなさい」と、少し渋めだが、優しそうな声が返ってきた。
中に入ってみると、質素ではあるが、使いやすい様に洗礼された内装の部屋が広がっていた。
その最奥にある事務机で、書類を書いている男性。歳は40代中ほどで、落ち着いた風体をした見るからに出来る男がそこに鎮座していた。
「おやシャル、どーしたのかな?」
落ち着いた口調で、柔和な笑みと共にこちらに目を向けてきた男性。彼がシャルの父親で、この街の領主様なのだろう。
「はいお父様。実はこの子両親を亡くし、一人で途方に暮れていたので、屋敷までお連れいたしました。話を聞くと魔法学園へ入学を希望しているみたいですので、入学試験までのひと月の間だけでも、うちに置いては頂けませんか? 魔法の勉強も人数が増えればその分励みにもなりますし、もし入学がダメだった場合でも、うちの使用人として雇ってあげることもできると思いまして……」
「なるほどね、えっと、君の名前はなんと言うのかな?」
「はっ、はい。神代優人です。あっ、神代が家名で、名前が優人です」
「ユウト君か。君さえ良ければうちに泊まっていきなさい」
人と話すのが苦手な俺でも、年上の優しそうな人となら、そこまで詰まらずに話せるようだ。
「えっと、いいんでしょうか? どこの誰ともわからない俺なんかを屋敷に置くなんて……」
「うむ。君の言うことは一理あるね。しかし、悪人ならそんなことを自分からは言わないよ。それに私は自分の娘の目を信じているからね」
「やだ。お父様ったら」
そう言って微笑みあっている二人は、とても穏やかな雰囲気だった。
「さて、自己紹介が遅れたね。私はこの町の領主で、名をグラナート・ロートと言う。ユウト君、しばらくの間よろしくね」
グラナさんとの話し合いも終わり、屋敷内をシャルに案内してもらった。お母さんは今は出かけているみたいで、戻ったら紹介してくれるそうだ。
他にも身の回りの世話をしてくれるメイドさん2人と、庭の手入れなどの雑用をする下男の1人を紹介されたが、メイドさんがいたのには歓喜したが、メイド服で無いのが残念で仕方ない……。
「今うちにいる人はこれで全部かしら」
シャルと玄関ホールで話していると、「ただいま戻りました」という声と共に玄関が開いて、屋敷の中にとても可愛い女の子が入ってきた。
髪はセミロング。上が青で毛先にいくほど白くなり、下5㎝ほどは純白と言っていいほど真っ白になっていた。薄青いワンピースが小柄な彼女を包み込んでいて、水と雪の妖精という表現しかできない自分の語彙力の無さが悔やまれる。
「おかえりシュエ」
「ただいまシャル。えーと、そちらの方は?」
「この子はユウト。町で一人ぼっちになってたから連れてきたの。今日からここで暮らして、一緒に魔法学園を目指す仲間よ。ほら、ぼーっとしてないで、あなたからも自己紹介しなさいっ!」
「あっ、ああ、ごめん。えっと、俺の名前は神代優人です。えーっと、神代が家名…」
「あーもう。それさっきからなんなの? 初めからユウト・カミシロって名乗ればいいじゃない!」
「そっ、それもそうだね。なら改めて、ユウト・カミシロです……よろしく」
シャルの口増もあり、なんとか自己紹介はできた。どうやら俺も少しずつではあるが、人と話すのに慣れてきたみたいだ。それもこの世界の人が、誰も俺の事を否定せずに、話を聞いてくれているからかも知れない。
「えっ、えっと……その……はい……よろしく…です。私はシュエ・フェーヤ……です。シュエって……呼んで……ください…………です…」
シュエはとても恥ずかしがり屋なのか、先ほどからもじもじとして、目を合わせてくれない。これは少し傷つくなー。
「ところでシュエ、どこに行っていたの?」
「あっうん。奥様に頼まれて、新しい魔導書を取りに行ってたの。今朝お店に届いたらしくって」
シュエはどうやら、シャルとは普通に話せるみたいだ。俺も早く仲良くなりたいな~。
「そーだったんだ。それじゃあ今から時間ある? 庭で魔法の練習したいんだけど」
「うん。本を奥様のお部屋に置いた後なら大丈夫だよ」
可愛い女の子の会話って、見ていて癒される。これからは一緒に暮らせるなんて幸せだっ! 前世では女の子はもちろん。男の友達すら一人いなかった俺には、女の子と会話したことなどあるはずもない。今この幸せを噛みしめよう。
「なら決まりね。三人で頑張って練習しましょう!」
「ふぇっ! ……さ、三人で…やるんだ……」
そうだった、この子とはまだちゃんと話せないんだっけ……。
シャルの後ろに隠れ、こっちを警戒しているシュエの姿にげんなりしつつも、せめて嫌われない様にしようと、心に決める俺だった。




