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ドレッドノート家と聖女

 さて、ここでナルが席を外した後にまで、時間が戻る。


 「俺には、心に決めた人がいます。

その人をここに残して、国へ戻るなんて出来ないです」


 騎士達の話を全て聞き終えて、開口一番ジョットはそう言った。

 ナルの母は、微笑ましいとばかりにジョットを見た。


 「ジョット君。

ナルにもちゃんと話さないとね。行ってきなさい。あの子への説明は任せるわ」


 母の言葉に、頷いてジョットは席を立った。

 残された騎士達は、当然ながら説明を求める。


 「婚約を交わした、とそういうことでしょうか?」


 「えぇ」


 正確には今から告白するのだろうが、ほぼ上手くいくと女の勘が言っている。

 若い頃は、もだもだしがちだが、ジョットは妙な所は本当に父親そっくりなのだ。

 結果的に追い詰められてしまったのは、不幸中の幸だ。

 もちろん、不幸というのはこの騎士達のことである。

 ジョットは、思いを打ち明けることだろう。

 そして、ナルにはそれを受け止められるよう、教育を施した。

 ジョットは、少なくとも乱暴をする子ではない。万が一があったとしても、龍神がいるのだ悪いことにはならないはずだ。

 

 「私の」


 そこで、彼女が少し間を開けてしまったのは仕方ないことだろう。


 「娘と未来を誓い合っています」


 嘘も方便である。

 どうせその通りになるのだ。あながち嘘っぱちというわけでもない。

 母ーーアキの言葉に、騎士達は目配せする。

 内心、面倒なことになったと思っているのだろう。

 ジョットの生存を確認出来れば、次は帝王学を叩き込み、婚約者を決めるところまで上では話が進んでいるはずである。

 それも、現れたという【刻印の聖女】を見つけ次第、ジョットと聖女の婚約、その儀を執り行うはずである。

 聖女が見つからなかった場合でも、それなりの家から令嬢を娶ることになるだろう。

 どちらにせよ権力が絡んでくる。

 

 「だからこそ約束をしてください。

あの子達の仲を裂かない、いいえちょっかいを出さないと。

私が国へ協力する条件は、それです。

そして、未来の息子の意思を尊重すると、そう約束出来なければ協力をいたしません」


 「それは、我々には判断しかねます」


 「なら、そう伝えてください。この条件が呑めなければ、一切協力はしない、と森に住む女が言っていたと、上層部にお伝えください」


 きっぱりとアキが言ったとき、頃合いを見計らっていたのだろう。

 龍神が、人の姿で現れた。

 その神々しい気配に、警戒するまもなく、騎士達は動けなくなってしまう。


 「話は終わったようだな。では、こちらとしても良い返事を期待しているぞ。そうそう、今回は目を瞑ってやるが、次あの娘を脅すようなことをしてみろ、その臓腑を喰らって撒き散らし、魔物の餌にしてやるからな」


 言うだけ言って、龍神は騎士達を森から追い出した。

 アキの目の前から、騎士達が消えてしまったのだ。

 

 「まさか、聖女が出てくるなんて」


 「その聖女とは、なんなのだ?」 


 「伝説の存在、と言われている歴史上実在した人物達の総称です。

上位存在、造物主、我々人間が神として崇めている存在が愛した女性のことです」

 

 「あぁ、なるほど。心の拠り所にして祈りを捧げている、アレか。

宗教と言ったか? 人間が造り上げた居もしない存在のことだろう」


 仮にも龍神と呼ばれる存在が、言って良いことでは無いような気がするが、そもそも存在の概念が違うのだ、一々指摘することでもない。

 それに何より、龍神の言葉は的を射ていた。

 そう、人間が信仰する神とは、結局は人間が造り出した架空の存在にすぎない。

 龍神のような存在もいれば、信仰されていない神もいる。

 

 「本来の造物主を無視して、別の神を造り上げるとはどちらが神かわからないではないか」


 そう、本来の造物主が別にいるのだ。

 この場合の聖女とは、この本来の神に愛された存在ということになる。

 愛された、と言うと特別な存在のように思われるだろうがその本質はいくつかの条件が重なっただけの存在だ。

 たとえば各時代の美醜感覚において、最高の美しさを持っているだとか、魔力、魔法の才能が突出しているだとか、聖女の子孫であるとか、そして、健康的であり元気な赤子を産むことが出来ること。

 これら全ての条件を満たした少女が聖女となる。


 「先程の騎士達はそのようなことを知らないようだったが?」


 アキの説明に、当然な疑問を龍神は返した。

 それはそうだろう。

 これを知っているのは、聖女の子孫にあたる、それも直系のものだけだ。

 少なくともドレッドノート家はそうだった。

 

 「まぁ、情報というのは独占していることに価値がありますから」


 「そういうものなのか」


 「そういうものだと取っていただければ」


 「では、呪われた印だとあの娘が思っている、あの子の体に現れた刻印は?

あの子は聖女ではないのか?」


 「わかりません。そもそも、聖女に現れるという刻印、それそのものはただの目印でしかないのです。

いいえ、伝承によればそもそも聖女には刻印自体なかった可能性があるのです。

最初の聖女の出現は今から千五百年前、そこから五百年前まで、千年の時間が流れています。

その千年の間に、【聖女】は不確かな記録や伝承を含めれば国の内外問わず数百人の存在が確認されています。

千年、そうですね我々人間の時間でいうなら五十年から百年を一つの時代、区切りだとすると、その時代の中で同時多発に聖女が現れたこともあれば、たった一人だったこともあります。

最初の聖女は、神の国から来たとも言われ、その初代の再来だと言われたのが五百年前の聖女でした。まるで物語を、伝説をなぞるがごとく王子を救い、国を救い、王子と間に子を成し国母となったと伝わっています。

五百年前の聖女が最初の聖女の直系であったというのが、今から二十年前の研究で明らかになっていたはずです」


 しかし、それ以降はどう研究が進んだのかわからない。

 なにしろアキは外国にいたのだから。


 「ふむ。もうひとつ、初歩的な質問になるが【神子(ノア)】とはなんだ?」


 


 

 

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