まだ行けてないので、そろそろ行きたいなという話
城に滞在して、十日ほどが過ぎた。
時おり母とジョットの手伝いをしながら、ナルはいたって平和に過ごしていた。
その日の夜。
「そう言うわけで、もう少ししたら時間が出来そうだから、皆のお墓参りに行きましょう」
そうアキに提案された。
墓は先祖代々の墓地があり、そこに埋葬されているらしい。
管理は、教会がやっているらしく荒れているということは無いようだ。
しかし、とナルの中に疑問が浮かぶ。
ここに来る前に、ドレッドノート家のことは伏せるみたいなことを言っていたのに大丈夫なのだろうか。
お墓参りに行ったら、そのことがバレそうなものだが。
そう疑問を口にすると、アキは、
「嘘も方便って言う、ご先祖様の言葉があるんだけどね。
ナル、あなたも覚えておきなさい」
そう前置きをして、自分達がドレッドノート家の遠縁であると説明したらしい。
それで王が信じたかどうかは怪しいが。
公の場で、数百年前に養子に出された者の子孫だとでっち上げたらしい。
本家の者とはほとんど交流がなく、家も没落。
何代か前の人間が商売のため、隣国に移り住んだという話をでっち上げたらしい。
「うん」
「まぁ、とりあえずそう言うわけで問題はないわ」
問題は無いだろう。
食事もすでに終わり、お茶だけ用意してもらってメイドには一旦部屋を退出させてある。
レイドとジョットはお茶をまったりと楽しみながら、どこから持ってきたのか盤遊戯で遊んでいた。
よく見るチェスとは違い、黒と白の磨きあげられた宝石のような石を置いていく陣取りゲームのようだ。
「はるか東の島国で遊ばれている囲碁っていうゲームらしいです。
駒の動きとかを覚えなくて良いし、ルールもシンプル。
いま将棋と一緒に流行りつつあるんですよ」
そうレイドが教えてくれた。
元々は貴族の中でだけ遊ばれていたらしいが、最近商人の中でその盤を真似して作り、稼いでいる者がいるらしい。
最初は貴族の反感を買ったらしいが、元側室であり、次期正室候補のジュリエッタがいたく気に入って遊んでいるらしいという噂が広まると、その反感の声も小さくなったらしい。
「現金ですよねぇ」
レイドが盤上を見つめながら、難しい顔で言った。
上の意向を言われなくても汲み取り動くというのは、万国共通のようだ。
「そうそう、ゲームと言えば札に描かれた絵を実体化させて遊ぶカードゲームも流行っているらしいですよ。
ただ、こちらは少々大がかりな術式を用意しなければならないと言うことで、特定の場所でしか遊べませんが」
「へぇ、そんなゲームがあるんだ」
術式と聞いて、ナルの顔が輝いた。
「城下町に行けば出来るの?」
「おそらくは」
と、そこでナルは何かを考えているようだった。
やがて、アキに向き直り、聞いてみた。
「お母さん、お墓って遠い?
お弁当とか作った方が良いかな?」
「あら、作ってくれるの?」
「うん。場所が借りられればだけど」
なにしろ、厨房はそこで働く人達の聖地であり、戦地だ。
いきなり客であるナルが使わせてくれと言っても使えないだろう。
そもそも、そんな客などいないだろうが。
「お弁当箱や食材は市に行けば手にはいるでしょうけど。
場所は難しいかもしれないわね。
駄目で元々、明日聞いてみるわ」
ナルにだけ伝えられていないが、旅の道中の毒と刺客についてはアキもレイドから聞いて知っていた。
下手に知らせると、少しだけ良い方向に人馴れしてきたナルにまた不信感を植え付けかねない。
だからこそ、ナルにだけは知らされていなかった。
いずれ言わなければならないが、それは少なくとも今ではない。
せっかく明るく楽しそうにしているのだ、水を差したくはなかった。
その翌日の昼。
アキが確認を取ったところ、城の厨房は使えないが後宮のほうにピッタリな場所があるというので、そこなら使えるようだ。
ただし、後宮であるため男は入れない。
王が手配したメイドか宦官の同行が必要とのことだった。
レイドは上位種である龍族ではあるが男であることが知られているので、同行は許されず、ジョットも男であるため、却下。
アキは依頼されている仕事があるため、おそらく同行はできないだろう。
「じゃあ、仕方ないか」
そう言って諦めるかと思いきや、城のルールに従うことにしたようだ。
さすがにジョットが止めたが、久しぶりにジョットの大好物たくさん作るねという天使の笑みで返り討ちにされた。
しかし、事は命に関わりかねない。
このままでは、ナルに襲撃のことも全て話すことになるだろう。
そこで、レイドが提案をした。
「一人、ちょっとアテがあるんですけど。
その方に同行を頼んでみましょう。
もし了承を得られたなら、その人と王様が手配した方、両方を同行させて貰えば良いのでは?
駄目だったら、その時はその時でまた考えましょう」




