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彼の事情

 いくつかわかった事を、レイドは脳内で整理していた。

 まず、刺客達にはレイドの情報が流れていなかった。

 レイドが邪龍であることを知っているのはナル達以外では、リディクと騎士団長、そしてシャルロッテだけである。

 もし人とコミュニケーションを取れる邪龍の存在が、刺客を送ってきている者達に伝わっているのならもう少し装備やら準備を整えて挑んできたはずである。

 それが無かった。

 少なくとも、レイドのことを知らされていない下級兵士が移動の情報を流しているはずである。

 しかし、その下級兵士が誰なのかわからない。

 情報収集に長けており、尻尾を掴ませないのはそちらがわのプロと言うことになる。

 工作員、諜報員、そして古い言葉で言うところの草の者、すっぱ。

 レイドの友人あたりなら、忍や忍者と言ったことだろう。

 情報をもたらすことのスペシャリストーースパイである。

 結局、レイドにすら特定されることなく首都入りとなったのは、仕事として成功なのか失敗なのか少し気になるところだ。

 しかし、情報をもたらすことだけが仕事であるなら、大成功と言えるだろう。

 あまり怪しまれないように、必要以上の術式は使わなかった。

 他の兵士には、レイドのことは賢女とナルに仕える小間使いだと説明している。

 その情報をそのまま伝えたのだろうとは思う。

 そして、これも結局分からずのままだったが、いったい誰がナルに毒を盛っていたのか。


 それもピンポイントで、である。

 ナルを危険視しているのは確かだ。

 何より、自国の王ですら殺そうとする怖い物知らずがいる国なのだ。

 それも複数。

 いっそのこと、さっさと国家転覆でもなんでもしてしまえよ、と言いたいところだが、そう簡単ではないのが国と言うものなのだろう。

 野心家ならば誰だって権力が握りたい。

 自由に使えるだろう、巨大な権力を握って天下を手中にしたいと考えるものだ。

 現実はそう甘くはないが。


 アキとジョットだけ謁見を許され、ナルとレイドは用意された客室で待つことになった。

 用意された紅茶には、毒は入っていなかった。

 使われているカップにも毒が塗られていることもなかった。

 一応、客としての扱いを受けている。

 メイド達などこの城で働く者達の態度も、おそらく普通だ。

  

 「あぁ、ここだったか」


 ノックも何もなく、いきなり部屋の扉が開いた。

 現れたのは、三十代後半の紫色のローブに身を包んだ男性だった。

 くすんだ金髪と、眠そうな目をした男である。

 ナルが着ているものもローブではあるが、男のものに比べると粗末なものである。

 ズカズカとナル達のところまで来ると、男は名乗った。

 

 「俺はアーサー・エンタープライズ。

 宮廷魔道士だ。君が賢女の娘か。

 それと、なるほど」


 見るからに緊張するナルを見て、次にレイドを見てアーサーと名乗った男は人払いをさせた。

 給仕達ですら退出させ、部屋の中にはナル、レイド、そしてアーサーの三人となった。


 「まさか、龍族がいるとは驚いた。気配はほぼ人間で騙されたよ。

 さて、君の母君と夫は今はあのカッコつけの所だ、とどうした?」


 ナルのフードの下から覗く紅い瞳に宿っている怯えに気づいて、訝しげにアーサーは訊く。


 「あ、いえ、その、えっと」


 少しは人慣れしたと思ったが、ダメだったようだ。

 やはり、家族の誰かしらが近くにいないと、ナルの大人の男性への恐怖は緩和されないようである。


 「すみません、人と話すのに慣れてなくて」


 何とかそれだけ言って、ナルは俯いてしまった。


 「あぁ、なるほど。いやいや警戒させて悪かった煮て食ったりはしない。

 安心してくれ。

 ちょっと話を聞きたくてね。

 事態がいろいろ複雑で申し訳ないんだが、まずは君たちの生活を邪魔したことを謝らせてほしい」


 そして深々と頭を下げてきた。

 

 「しかし、よく無事にここまで来てくれた」


 頭を上げ、そんなことを言ってくる。

 

 意味が分からず、ナルはうつむいていた顔をあげると、コテンと首を傾げた。

 

 「貴方はすべて知っている?」

 

 横で、レイドがそんなことを言ったがやはりナルにはなんのことかわからない。

 

 「いや、全てではないさ。

 だからこそ知りたいと思っている」


 レイドにそう返して、アーサーはフードの下のナルの顔を見る。

 そして、申し訳なさそうに言った。


 「そのフードをとって、顔を見せて貰えるかい?」


 「あ、す、すみません。それは、ちょっと」


 「アースナルさん、フードを取って顔を見せてくれ」


 さっきより強い口調で言われる。

 今度はレイドが怪訝な表情になった。


 「お見せ出来るようなものではないので、すみません」


 そうして平謝りしてくる。

 すると、何故か楽しそうにアーサーが顔を綻ばせた。


 「貴女は、さすが賢女の娘と言ったところだ。

 素晴らしい」


 突然そんな事を言われてしまう。


 「はい?」

 

 「今、俺は言葉の中に魔法の力を込めました。

 俺のオリジナルの魔法です。

 そちらの龍族は看破したようですが、貴女にはそもそも効かないようだ」


 悪びれずそう言ったアーサーに、レイドが訊ねた。


 「貴方の目的は何ですか?」


 レイドの問いに、アーサーは少し懐かしむような遠くを見るような、不思議な表情を浮かべて返した。


 「この国と、誰よりも大事な俺の友人を守ること」

 

 


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