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普段は、ダンジョンでボスやってるけれどそれなりに動けちゃったりするんです

 その日の夜。

 張ったテントの中で、食事前の祈りも済ませ、用意された食事に手をつけようとしたところチラッとレイドがナルの皿を見てきた。

 それに気づいたナルが自分に用意された料理とレイドの分を見比べると、明らかにナルの方が量が多かった。

 ナルはそんなに食べる方でもないので、残すより良いだろう。

 そう考えて、少し食べてもらおうとお願いしようと口を開いた。

 

 「レイドさん」


 ナルが言いながら、自分の分の皿をレイドへと差し出そうとして、レイドが何やら難しそうな顔をしていることに気づく。


 「どうかしました?」


 レイドはナルの料理が盛り付けられた皿と、自分の皿を交互に見たかと思うと、アキやジョット、シャルロッテの皿も見た。

 他の者はすでに手をつけている。

 それを見て、今度は安心したかのように息を吐き出すと、ナルにだけ聞こえるように声をひそめて言ってきた


 「ナルさん、こちらと料理を交換しましょう」


 「あ、ちょうど良かった。ボクもこんなに食べれないなぁって思ってたんですよ。ありがとうございます」


 「いえいえ」



 


 さらに、それから数時間後。

 深夜、交代で見張りについている兵士以外は眠っている時間。

 レイドは、夜営地が見える空の上にいた。

 子供の姿のまま浮遊している。

 やがて、感じた気配に動き出した。

 その気配は全部で四つ。

 種族こそわからないが、すべて二足歩行するヒトのものだ。

 音もなく、ナル達が寝ているテントへ近づき、凶悪な武器を手にしたのを確認して、レイドは、


 「中央大陸以外はやっぱり物騒だなぁ」


 なんて呟きつつ、全身黒い布で身を包んだ者達へ拘束魔法をかけようとしたが、勘づかれ逃げられてしまった。

 しかし追いかけ、音もなく背後について、レイドは自身の体の一部を変身させる。

 レイドが変えたのは指の爪だった。

 お伽噺の魔女のそれよりも長く鋭い凶器となった爪で、背中から心臓を次々貫き、まさにあっという間もなく3つの気配は消えてしまった。

 残った影の両足を同じように変化させた爪で貫き、動けないようにして、レイドは誰の差し金なのか訊ねようとする。

 しかし、口の中に仕込んでいた薬で、その最後の一人は自害を図ろうとした。

 それを、今度は見た目には普通の人間の手を突っ込んで止める。


 「さて、貴殿方はどこの誰でしょう?

 かなり訓練されているところを見ると、軍関係者、それとも貴族の私設兵団か、いやこういったことを仕事にしているプロでしょうか?

 あぁ、プロだとすると仕事の失敗はそのまま死に繋がるんでしたっけ?

 いやいや、違いますね。ただの仕事だったらわざわざ死を選ぶことはない。

 仕事を失敗して死を選ぶというのは依頼人への忠誠が大きいと考えることができる。この事実を隠蔽するために死ぬ。

 貴殿方が危害を加えようとしていたのは、さて誰でしょうか?」


 候補は四人。

 アースナル・ドレッドノート。

 アキ・ドレッドノート。

 ジョット・ドレッドノート。

 ジョットの妹のシャルロッテ。


 まさか護衛の兵士達が目的でも無いだろう。


 「あ、そうだ。言質を取りたいからこうして貴方を死なせていないんです。

 知ってますか? 貴方が死んでも貴方がどこの誰か調べるなんて容易いんですよ。

 異能力、別名スキルと呼称される魔法とは違う特殊能力でいくらでも個人情報が取れます。

 死者の冒涜になるんで、僕がやりたくないだけで貴方は生かされている。

 さぁ、忠誠ーー自己満足で死んで死後の冒涜を受けるか否か選んでください。

 そうそう、もう一つ。出来るならやりたくないってだけなので、出来ない訳じゃないんです」


 最後の一人は、使える手で印を組んで自害のための呪詛を発動させようとした。

 それを呆れたように見て、レイドは空いている方の爪をもう一度変化させ、その手首を切り落としてしまう。


 そして、まるで小さな子に注意するように言った。


 「脳さえあれば記憶を読み取れます。お仕事ご苦労様でした」


 そのまま咽を貫いて失血死を待つ間。

 レイドは記憶を読み取っていく。

 それが終わると、すでに死んでいる他の者の記憶も同様に読み取った。


 月光が照らし出す森の中に、黒ずくめの四つの死体と、血で汚れた指を布で拭く子供の姿があった。


 

ーーーーーーー......



 初めての大都会に、ナルは旅の疲れを見せずただ目を輝かせていた。

 そして、この数日兵士である騎士団長達とそれなりに関わって来たからか、他人に対しての慣れがナルにも出てきていた。

 整備された道を馬車が進む。

 家も小さなものから豪邸へと変わっていく。

 どうやらこの辺は貴族の住む地域らしい。

 そうして、城門へとたどり着き、護衛の兵士達が門番の者と入場のための手続きをする。

 小窓から城を見て、まるでお伽噺に出てくる王子様のいる城みたいだ、と当たり前過ぎることをナルは考えていた。

 口には出さなかった。


 「ここが、ジョットの家なんだね」


 「ナル、絶対にフードは取るなよ」


 何をそんなに不安がっているのか、ジョットが言ってくる。


 「わかってるよ」


 さすがに人目があるので抱き締めることはしなかったが、代わりに強くジョットはナルの手を握った。

 ジョットの不安は、ナルを他人の目に晒すことと加えてもう一つあった。

 妨害と嫌がらせだ。

 この移動していた数日の間、レイドが教えてくれたのだが、ナルは何度か食事に毒を盛られていたらしい。

 そして、刺客ーー暗殺者も来ていたらしいが、すべてレイドが未然に防いでいたらしい。

 レイドは誰にもその事を話していなかった。

 昨夜、たまたま用足しのために外に出たジョットが、刺客を始末して帰ってきたレイドと鉢合わせした。

 その時に、レイドは下手に隠して誤魔化すよりも、明日ーーつまりは今日ーーは都入り予定とわかっていたのでちょうどいいと考えたのか、この数日に起こっていたことを話してくれた。

 レイド曰く、誰が敵なのか、情報を流している者が兵士の中にいるようなので、それを知らん顔をして調べる目的もあったらしい。

 どうやら複数の存在からナルが目をつけられているのがわかったらしい。

 現に、刺客達はそれぞれ別組織に所属する者達だったということだ。

 おそらくナルやアキなら、仮に襲われたとしても何とかできる気がするがそこにはレイドなりの考えがあるらしかった。


 「それと、俺やレイドから絶対に離れるな」


 「わかってるよ。こんなに大きな家じゃ迷子になりかねないしね」


 そう言うことじゃない。

 言おうとして、しかし、昨夜レイドに言われた言葉がよみがえる。

 アキやナルには教えないようにと言われているのだ。

 知ってる人間は少ない方が良いらしい。


 「そう、だな」


 「でも、龍神様の森よりは小さいかな」


 建物と広大な自然を比べるのは何か間違っている気がしたが、苦笑するに留めておいた。


 

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