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王様は困っています

 さて、どうしたものかと彼は再発した頭痛に、眉間に皺をよせた。

 自身への暗殺計画に、後継者問題、そして後宮に現れた刻印を持つ側室の聖女のこと、更には政と、力をつけつつある貴族への対応、とにかく自分の不始末ゆえに大きくなってしまった問題案件を一つずつ、ではなく同時進行で進めていく。

 側近である宰相は先日汚職が明るみに出て更迭した。

 他の貴族からは賛否両論の声があがった。それを黙らせる手も打って後任には信頼できる者をおいた、賢王と讃えられた先王ーーつまり彼の父の作った土台がやっと機能しはじめていた。後任は民間の人間で、先王の時代に学園で優秀な成績を修め雑務からではあるが政に触れ、働いてきた人物であった。

 病み上がりではあるがとにかく彼ーーこの国の王ーーも働き続けていた。

 問題の一つである彼への暗殺計画はいまだ続行中と考えられた。

 学生時代からの親友であり、貴族でありながら【貴族らしくない貴族】と名高いエンタープライズ家の次期当主のアーサーからの報告で、どうやら龍神域の賢女が力を貸してくれることが確定し、王都に向かっていることが知らされた。

 エンタープライズ家は今は亡きドレッドノート家の血が入っている。

 そのためか、アーサーやその家族にも魔法の才能は受け継がれていた。

 しかし、ドレッドノート家にはやはり今一つ及ばない。

 魔法に愛された一族。

 そして、かつての恋人であり婚約者が生まれた家。

 アーサーからの報告書から目を離し、今度は執務机の引き出しの一つを開ける。

 そこには小さな紙に描かれた少女の似顔絵が、風化しないよう魔法加工されて大事に保管されていた。

 町娘のようにデートをしたい、そんなかつての恋人の願いを叶えた時にたまたま公園にいた無名の絵描きに描いてもらった彼女の似顔絵だ。

 当時、まだ王子だった彼ーーヘンリーは変装をしていたとはいえ二人並んで似顔絵を描いてもらうのがなんだか気恥ずかしくて断って、彼女ーーかつての恋人であり婚約者であったアキの似顔絵が描かれる様を微笑ましく見ていたのだ。

 まだ、子供だった。

 それでも、これからどんな大変なことが待っていようともアキとなら乗り越えていける、そう信じていた。

 その未来は確約されていて、彼女が彼の前から消える日が来るなんて思ってもいなかった。

 思えば、彼女が消えて、その死亡報告が届き、更にはアキの実家であり一族が死亡したその時から彼の人生は少しずつ狂っていった。

 他の大多数の貴族から、アキの死が幸いとばかりに見合い話が舞い込み始め、次期王としてすでに決定していたこともあり、伴侶とさらに次の世代を残すために父親からも婚姻を急かされた。

 何度も何度も、アキの死亡が事実であると告げられて、重責にも堪えかねて疲れきっていた。

 仕方なく、正室をめとったもののいつまでたっても子供が出来ないことに漬け込まれ、側室も作ることになってしまったのだ。

 女とは怖いもので、部屋にやって来るもののなにもしない、それどころか触れてすらこないヘンリーに薬をもって無理矢理体を重ねてきたのだ。

 それが正室、側室含めて三度続いたあたりで王は自棄になってしまった。

 どこにも、愛しい彼女がいないのだ。

 いるのは、醜い女達。

 どこまでも欲深く、傲慢な女達。

 そこに愛情はない。

 そこに家族であるという慈愛はない。

 ただ、家を栄えさせるために身を犠牲にしているという、悲劇のヒロインを演じている女達。


 「どうして、迎えにきてくれないんだ」


 色褪せることない優しい色合いで色付けさせられ、やわらかく微笑んでいる過去の彼女の似顔絵に、ヘンリーは問いかける。

 もちろん、答えなど返ってはこない。

 絵は、結局、絵なのだから。

 呪われ、毒を盛られ、死にかけた。

 生死の境をさ迷ったにもかかわらず、アキは迎えに来てくれなかった。


 溜め息を一つ吐き出した時、ノックも無しに執務室に誰か入ってきた。


 「お疲れだなぁ、王様?」


 冗談めかして言ってきたのは、アーサーである。


 「少しでも俺を哀れと思うなら、お前が代わって王になってくれないか?」


 「そうとう疲れがたまってんなぁ。お前」


 半分冗談、半分本気でヘンリーが言えばアーサーは苦笑した。

 今度、仕事を調整してやってアキがいた頃のようにお忍びで街に遊びに連れていこうか、と長年の親友は考えた。

 しかし、今は仕事の時間である。

 その提案と計画は後に回すとして、アーサーはヘンリーと共通の部下であるリディクからの報告を告げる。


 「疲れてるところ悪いが、どっかの家がちょっかいかけてきてるぞ。

うちと同じ公爵家だとは思うが、いまいち尻尾を掴めない」


 「ちょっかい?」


 「側室の件、それとお前の生き残りの息子。

書類上だけでも婚姻が成立するところだった」


 「はぁぁああああ」


 大きい溜め息をヘンリーは吐き出した。

 

 「もちろん、優秀な俺と俺の部下が水際で止めたけどな。

ただ、賢女達がここにくる一番大きな理由がそれだ。

ジョットと言ったか? 

他のバカ息子達によって捨てられたお前の息子は事実上、嫁がいる。賢女の娘だ。すでに一緒に暮らして一年近い。

その嫁の腹に子がいる可能性もある。

平和に暮らしていた賢女達に、俺の目を掻い潜って文が届いたそうだ。

その文の内容が、後宮にいる側室の聖女とジョット王子の婚姻についてだった。

報告書にはああ書いたが、おそらく賢女は文句、というか殴り込みにくるんだろうな。

賢女が本当の意味で力を貸すかどうかは、その対応しだいだろう」

 

 アーサーの言葉に、ヘンリーはさらに痛くなってきた頭を抱えた。

 

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