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邪龍さん

 並んで眠ることに抵抗はなかった。

 婚約してから、ジョットとナルはすでに体を重ねているからだ。

 一度や二度ではない、しかし今日は少し違った。

 部屋に入るなり、ナルはジョットに唇を奪われそのまま抱かれた。

 抵抗はなかった。

 怖がっていたのは、二人ともだったから。 

 先のわからない不安。それを二人とも言葉で塗りつぶしていた。


 信じているという、そんなありふれた言葉で隠そうとしていた。

 

 信じているのに、どうしてもお互いの温もりを求めてしまう。

 それこそを証明にするように。

 ただ二人は、お互いを求めあった。

 大好きと、愛しているの違いは何だろう?

 どうすれば、この得たいの知れない不安を拭うことが出来るのだろう?

 わからないまま、それでも二人は愛を確かめ合う。

 

 「ジョット、ボクを選んでくれてありがとう」


 新しい命を授かる神聖な儀式でもある、その行為の度にナルはジョットへそう囁く。

 ジョットはそんなナルにいつもと同じく返した。

 

 「それはこっちの台詞だよ。

ナル、俺と出会ってくれて、俺と一緒になってくれてありがとう」


 そうして、夜は更けていく。



***



 日付が変わって少しして家族会議はお開きになった。

 ナルの申し出には、アキとジョット、そして龍神ですら驚いた。

 己の意見を全く言わないわけではないが、魔法のこと以外で積極的に動くことなど稀なナルが少しだけ不安を瞳に宿して、それでも、と言ったのだ。

 正直、積極的なのは良いことだが賛成できない。

 龍と人は、並んで歩くことと道を指し示すことは出来ても強制はできない。

 並んで歩く時間も、一瞬だ。

 星の瞬きよりも、短い、ほんの一瞬の時間。

 その一瞬を、龍神は大切にしていた。


 だからこそ思案する。


 どうすれば、あの娘を守ることができるだろうか、と。

 この龍神の縄張りに入ればいくらでも守ることができる。

 しかし、与えられた縄張りを離れれば、その守るの意味が異なってくる。

 この地を離れることはできる。

 しかし、離れてできることは暴力による恐怖を人間達に与えることだ。

 一人を守るために、国が滅びる。

 傾国の美女が、滅びの魔女と後世に伝えられるのは、少々理不尽だ。

 何より、ナルは平和を望む。

 だからこそ、シャルロッテを殺そうとしたときナルは必死で言い募ったのだ。

 自分は大丈夫だから、と。

 だから、怒らないでくれと。

 

 ーー痛いことをするのも、されるのも嫌なんですーー


 シャルロッテと勝負をして、彼女を負かした後。

 彼女を魔法で介抱しながらナルはそんなことを言った。

 それでも、楽しくなってしまった自分を恥じていた。

 だからこそ、ナルはなるべく笑っている。

 実の父親と同じ年代の男は怖くてその笑顔はひきつってしまうことが多いが、少なくとも笑っていれば、本気で危害を加えてくる人間は少ないと知っているのだ。

 それが、ナルなりの処世術だった。

 

 「さて、どうするか」


 考えてみて、答はすぐに出た。

 



 


 日が上るよりも少し早い時間。

 その龍は現れた。

 

 「ひさしぶりの呼び出しで、何かと思えば」


 急な呼び出しにも関わらず、人懐っこい声で現れたのは知り合いの龍であった。

 神、と称されるほど生きてはいないが人間や他の種族と交流があり、つまりは人慣れしている龍族だ。

 人間で言うならちょうど今のナル達と同い年くらい、十代半ばほどの龍である。

 漆黒の巨体を人の大きさにまで変化させ、龍神の知り合いであり一部では邪龍とも呼称されている彼は礼儀正しく挨拶をした。


 「良いですよ。引き受けます」


 事情を聞くや、邪龍ーーレーズィリストは龍神の頼みを快く引き受けてくれた。


 「こちらも長期休暇にはいったところだったので、どこまで力添えできるかわかりませんが。

では、早速その方ーーナルさんを紹介してもらっても良いでしょうか?」


 人の姿をとった彼は、しかし十代半ばの姿ではなくもう少し幼い容姿をしていた。

 十歳くらいの人間の子供の姿である。


 「そうだな、もう少し待てば食事の時間になる、その時に紹介しよう」




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