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報せ

 アーバンベルグ国の後宮にいる一番若い側室に【聖女の刻印】が現れた。

 その報せは、アーバンベルグ国の宮廷魔道士からもたらされた。

 龍神が庇護する賢女の家。

 国から派遣されたシャルロッテと騎士達が滞在して五日目のことだった。

 ただ滞在を許されたわけではない、家事に協力することを条件に寝泊まりを許可されたのだ。

 と言っても農具をしまっている小屋だったが。

 しかし、風呂の用意はしてくれるし食事も出してくれたので騎士達に文句は無かった。

 さすがにシャルロッテに小屋での寝泊まりはキツいと考えたのか、他でもないナルが、今は空き部屋となった元自室をシャルロッテのために用意してくれた。

 初日のようにナルを貶すことは無かったが、終始顔はムスっとしていた。

 シャルロッテと騎士達の前ではこの五日間ローブのフードを被り、ほとんど顔も見せていない。

 しかし身の回りの世話をするためにナルは比較的シャルロッテと、一番接していた。

 そのため、彼女がとても綺麗な白髪であり、宝石のように鮮やかな紅い瞳をしていることと、時おり見える顔があと数年もすれば絶世の美女と呼ばれるくらい整っていることを知ってしまった。

 田舎娘であるのに、もしかしたら絵画に描かれる女神かと思うほどその容姿は美しい。

 今まで、その育ちから美しい一級品にだけ触れてきたシャルロッテだからこそ兄の婚約者の少女が容姿だけなら王族に入れる資格を持っていることを嫌でも理解できてしまった。

 しかし容姿だけでは駄目だ。

 育ちも血筋も、いくらナルの母が賢女と呼ばれていても、出自のわからない女の子供という点ですでに王族に連なる資格は無いのだ。

 問題は、それをどうわからせるかであった。

 遠回しの嫌味は笑って流される、直接的な物言いは龍神の怒りに触れる。

 癪ではあったが、シャルロッテは己の護衛であり近衛騎士であるリディクへ話をふり、助言をもらい、今日まで、言葉をかえなんとかジョットとの婚約を解消してもらおうと動いていた。

 一方、リディクはリディクでなんとかナルへと接触しようとするが悉く失敗に終わっていた。

 龍神の警戒もそうだが、ジョットがとにかくナルへ近づけさせないのだ。

 仕方ないので、ジョットへそれとなく揺さぶりをかけてみるがこれも中々手強い。

 正直な所、五日目にして面倒くさくなってきていた。

 その矢先に、刻印の聖女が確認されたと報告が届いたのだ。

 その報告には、ジョットへの便りもあった。

 宮仕えの魔道士と神官が力技を使って書類上だけでも、ジョットと聖女の婚姻を結ぶことを決定した旨が書かれていた。

 渡りがなかったことも働いた。

 王室の中だけのことならいくらでも辻褄を合わせられる。

 貴族の反対も出たが、国の発展のためという意見に反対意見は潰されてしまった。

 そう言った特別待遇が許されるのが、聖女という存在であった。

 その五日目の夜のことだ。騎士達とシャルロッテが寝静まってから、龍神も交えた緊急家族会議が開かれた。


 「ここでこうしていても埒があかないと、よくわかったわ。

だから、話をつけてこようと思うの。幸い、と言うべきか向こうには私やナルが、ドレッドノート家の人間だと知られていないようだし、いざとなったらその名前を出して現王を説得します」


 「昔の女だったと名乗り出るのか?

やめておけ、もっと事態が悪化するぞ。それよりも妾が直接出向いて国を滅ぼした方が早い」


 「まさか、そんな未練がましいことしませんよ。ただ、魔道士の一族の生き残りがいるという事実は、それなりの効力があります。ジョット君はそのドレッドノート家の一員で、すでにナルと契りを交わしているのです。

今さらそれを解消するわけにはいきませんから」


 そんなアキと龍神の会話に、ジョットとナルは口を挟めずにいた。


 「ジョット、君はどうしたい?」


 なので、ナルはジョットへそう訊ねた。


 「どう、とは?」


 「正直、ボクは君に選んでもらえたことだけで満足していた。

でも、君にはもっと別の道があるって提示された。

ボクはここで君と生きることができるなら、それでいい。

でも、君にはボクと違って人生を選択できる。まだ、選択肢がある。

ボクは」


 「やめてくれ、ナル」


 「ボクは君にとっての最善の選択肢も、最良の選択肢も与えることができない。

ここにいてほしいし、君の事を本当にほしいと思っているけど、でもボクは君に何かを与えることが」

 

 「難しく考えるな、娘」


 そこで口を挟んできたのは龍神だった。


 「すでにジョットは娘を選んだ。だからこそこうして邪魔が入った事を煩わしく思って、なんとかしようとしているのだ。

あの騎士達と小娘がお前にジョットと別れるよう仕向けていたのと逆の事をどうやって行おうかという話しあいをしているのだ」


 「え、そうだったんですか?」


 ナルはシャルロッテの言葉を、新鮮な知識として聞いてはいたが直接的な言い方ではなかったので全く気づいていなかった。

 

 「ナル、君は俺のことを信じてくれている。

俺は君のその信頼に応えて、決して君を裏切らないし捨てない」


 そのジョットの言葉を疑ったことは、ナルは一度もない。

 ただ、一番良い人生の選択肢はなんだろうかと考えた時、ジョットはナルと違ってまだ人生を選べるのだということに気づいてしまったのだ。

 だからこそ、ナルはジョットのことを自分の欲で束縛するのはどうかと思った。


 「一先ず、こちらの意見に耳を貸さないことはわかった。

たぶん、どこかでこちらの意見が止められている可能性がある。

だからこそ、敵陣に乗り込んで話をつけたいのよ」


 アキの言葉に、ナルは考える。

 やはり話をつけるなら自分もその場にいた方が良いだろう。

 人は怖い。

 この容姿である、また言葉で傷つけられると思うと本当に怖い。

 でも、ジョットはナルの事を裏切らないし捨てないと言った。

 永遠の愛を、ナルにだけ誓ってくれた。

 なら、怖いからと逃げることはできない。

 ナルは、人生を選ぶことはできないけれど、それでも逃げるか逃げないかの選択肢は残されていた。


 「お母さん、ならーー」


 ナルは真っ直ぐに母を見つめて、沸き上がってくる恐怖心をなんとか誤魔化しながら言った。


 「ボクもそれに着いていって良い?」

 


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