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08 遭遇

 いつもより長いです。

 疲れた。

 肩まで伸ばした真っ直ぐな黒髪に意志の強そうな目とスッとした鼻筋、物語の女騎士のようで凛々しいという印象を相手に与える顔は姉さんのものだ。

 よく見ると本当の姉さんの顔との微妙な違いが分かるが、限りなく本物に近いと言っていい完成度だ。


 私たちは姉妹だけに顔立は似ていたが格パーツの微妙な違いと性格の違いで、姉さんが母に似て凛々しい雰囲気であるのに対し、私は父に似てのんびりとした雰囲気だった。

 村に着くまでは確かに私の顔だったはずだ。

 ならば姉さんの顔になったのは、寝ている間に勝手に変化したとしか考えられない。

 元々顔の各パーツが微妙に違うだけなので、吸収していなくても姉さんの顔なら造り易いはずだ。

 夢の中で姉さんの敵を討つと強く思ったから、顔が変化したとしか考えられない。

 顔を変化させるついでに、喉も新しく作り直したんだと思う。


 念の為隅々まで躰を確認すると、顔は姉さんだが他は私のようだ。

 今の私の胸は前と同じで普通より小さめぐらいで、身長も手足の長さも以前の私と同じで違和感がない。

 姉さんは巨乳で高身長のスタイル抜群だったのだ。

 どうせなら躰も姉さんみたいなのがよかったのに……。


 まあ、体型ならいつでも好きなように弄れるからいいとして、姉さんそっくりの顔はどうしようかな、造り変えようと思えばすぐできる。

 何時でも変えれるなら怒りと憎しみを忘れないように、決意の証としてこのままにした方がいい気がする。

 それにこの顔で勇者を殺しに行けば、面白い反応が見れるかもしれない。

 もっとも勇者が姉さんを憶えていればだけど、まあ忘れていても憶えていても殺すことに変わりはない。


 

 予想外のことでビックリしたけど、気を取り直して国境に向かい出発する。

 そういえば朝から何も食べてないので、弱いが空腹感がある。

 昨日たくさん聖国の兵士を食べたから、しばらく保つと思ったんだけど、どうやら燃費の悪い躰らしい。


 近くに何かいないかと匂いを探ると、街道から少し入った森の中からよくわからない匂いがした。

 なんか酸っぱい? 感じの匂いだ。

 とりあえず匂いの元を確認するために、音を極力立てないよう注意しながら向かう。


 さほど時間を掛けずに匂いの元にたどり着いた。

 そこに居たのは2mぐらいの長さで、黒光りする甲殻を持つ<毒百足(ポイズンセンチピード)>で、1頭の<森の狼(フォレストウルフ)>を食べていた。

 

 <毒百足(ポイズンセンチピード)>は名前のとおり毒を使い獲物を弱らせて捕食する魔物だ。

 最大で10mまで大きくなるそうだから、こいつは小さい部類になるだろう。

 食事に夢中でまだこちらに気付いてないようなので、後ろから飛びつき頭付近の体を掴み力の限り引っ張る。

 少しの抵抗ののち<毒百足(ポイズンセンチピード)>の体は二つに千切れたが、体液が服に飛び散ってしまった。

 後で川にでも行って洗わなくては、今度からもう少し考えて攻撃しよう。

 右手に持った頭が付いた方が勢いよく暴れるので、木に向かって思いっきり投げつける。

 それがトドメになったようで、<毒百足(ポイズンセンチピード)>は動かなくなった。

 

 それでは遅めの昼食といきますかね。

 食糧の少ない辺境で暮らしてたため、虫を食べることに抵抗はあまりないが、さすがにこのサイズは初めてだ。

 村人なら狩る前に餌になる確率の方が高いため、自衛以外ではほとんど魔物には手を出さなかったのだ。まあ、自衛と言っても相手は<緑の子鬼(ゴブリン)>や<森の狼(フォレストウルフ)>などの弱い魔物に限るけど。


 では、いただきます。

 甲殻は固いので後にして、中にある身を剥がして口に入れる。

 プリプリとした食感が癖になりそうだ。

 それに淡白な味わいでいくらでも食べれそうだ。

 毒のピリピリとした刺激もいいアクセントになっている。

 

 身の次は残った甲殻を食べる。

 少し硬いけど食べれないほどじゃない、今の私は顎も強いのだ。

 お残しはしない主義なので、食べれそうなところは全て口に入れる。

 

 2mぐらいあった<毒百足(ポイズンセンチピード)>を平らげたので、満腹ではないが結構お腹が膨れたみたいだ。

 この躰を満腹にするにはどれだけ食べればいいんだろう?

 そもそも満腹という概念がこの躰にあるかも謎だが。



 さて、<毒百足(ポイズンセンチピード)>を食べたということは、新たな生物の情報を得たということであり、私の躰が強化できるのだ。

 私は再生能力は高いが防御力が弱いので、<毒百足(ポイズンセンチピード)>の甲殻が手に入ったのは嬉しいことだ。


 それなりの強度があり軽い甲殻が造れそうなので、急所の核がある場所を守るためコルセットの様に胸と胴体を覆ってみた。

 鎧などと違って軽く、音もあまりしないので、服の下に隠せて便利そうだ。

 その気になれば全身を覆って、甲冑を着た騎士みたいにもなれるだろう。


 ついでに今まで毛で隠していた腰回りにも、甲殻を生やして下着みたいにする。

 凛々しい姉さんの顔と相まって夜の店の女王様みたいになったが、毛で隠していた以前よりはましなはずだと思いたい。

 だんだん姉さんに対して申し訳ない気持ちになってきたが、服で隠れる部分なので気にしないようにする。

 


 さて、細かいことは置いといて、<毒百足(ポイズンセンチピード)>の体液が付いた服を洗いたいが水がない。

 確か街道をもう少し進んだ先に、小さな湖があったはずなのでそこまで我慢するしかないようだ。



 のんびり歩いていき夕暮れには、旅人の休憩所になっている湖に着いた。

 昼過ぎからここまでは、特になにごともなく来ることが出来た。

 まあ、ここ数日がいろいろありすぎただけで、普通はこんなもんだろう。

 

 とりあえず人目に付きにくい場所で服を洗い、乾くまでは水浴びをして過ごすことにした。

 久々の水浴びはとても気持ちがいい、村にいたころは普段は濡らした布で体を拭くだけで、川まで行かないと水浴びなんてできなかった。

 村の外は危険なので集団で川まで行き、見張り組と水浴び組に別れるのでなかなか大変だった。

 覗きに来る男共バカもいたしね。


 少し前の事なのに、とても懐かしい感じがする。

 きっともう戻ってこない日常モノだから、よけいにそう感じるんだろうな。

 



 長めの水浴びを終え服を着ると、少し向こうから漂ってくる匂いに気が付く。

 木々の向こうに複数の人間の匂いがする。

 こんなに近くに来るまで気が付かないなんて、少し感傷に浸りすぎたようだ。

 少しすると木々をかき分けて、商人ぽい中年男一人と護衛らしい若い男二人が現れた。

 

 「お、これはこれはなかなかの美人ですね」

 「聖国の襲撃から逃げた村人ですかな?」

 

 中年商人は私を値踏みするように見つめてくる。

 カエルみたいな顔と相まって、かなり気持ちが悪い。


 「丁度いい、この女を捕えろ」

 「商品の追加だ、傷をつけるなよ」


 二人の男が武器を構えて近づいてくる。


 「痛い目に遇いたくなけりゃ大人しくしろよ」

 「後でいっぱい楽しめるからよ」


 どうしてこうトラブルばかりおこるのだろうか?


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