06 夢
勢いのままストックせずに書いているので、そろそろ矛盾と忘れた設定がありそうで不安な今日この頃。
気が付くと私は真っ白い空間に立っていた。
現実味のない空間を見た瞬間に、これは夢だとなんとなく理解した。
自分の躰を確認すると、人間だったときの姿そのままだ。
ふと気配を感じて振り向くと、<愚かなる暴食>が大きな口を開けて私を呑み込もうとしていた。
<愚かなる暴食>の本能に喰われてたまるかと先ほど思ったばかりだ。
この怒りと憎しみを忘れてなるものか!
それにたとえ夢でも、二回も喰われるのはごめんだ。
噛み付きを躱して回り込み、無防備な<愚かなる暴食>に喰らいつく。
さっき決めたとおり逆に喰いつくしてやる。
私は私だ、家族の、”姉”さんの敵を討つんだ。
あんたなんかに構ってる暇はない!
待ってて姉さん、必ず勇者を殺すから。
いつの間にか私の躰が大きくなり、<愚かなる暴食>を一口で食べれそうになっていたので、口に放り込み噛み砕いて呑みこむ。
妙にスッキリした気持ちになったところで夢は終わり、私は現実に引き戻された。
目が覚めると森の木々が見える。
確か昨日は姉さんを埋葬した後に、手近な木に登り眠ることにしたんだっけ。
軽く躰をほぐして木から降り、ずいぶん気分がいいことに気がついた。
昨日の夜より、頭がスッキリしているのだ。
夢の様に<愚かなる暴食>の本能を呑み込んだみたいだ。
私の意識と<愚かなる暴食>の本能は完全に混ざり合っている。
二つが融合することで、新たな私として生まれ変わった気分だ。
「良い天気だ……あれ?」
「声が出る……少し野太いけど……」
どやら聖国の兵士の喉を再現していたらしい。
寝てる間に寝ぼけてしたのだろうか?
まあ、男性の喉なので野太いのもあたりまえだろう。
喉の具合を調整するのに、思ったより時間が掛かってしまった。
やはり複雑な部分は難しい。
さて、気を取り直してこれからどうするか考えよう。
姉や村人の敵は討ちたいけど村長の家を吹き飛ばした魔法をみるかぎり、勇者にはまだまだ敵わないだろう。
聖国の奴らも騎士ぐらいになると、まだ負ける可能性が高いので手を出せない。
もちろん諦めるつもりはないので、今は強くなることに専念するのがいいようだ。
強くなるには強力な魔物を吸収すればいい。
そのためには魔物が多数生息する魔境に向かうのが良いだろう。
となると目的地の魔境を決める必要がある。
ここから一番近い魔境は、カルノート公国と隣のルクセム王国にまたがって存在している<ウォーレル大森林>だ。
<ウォーレル大森林>は見た目はただの森と変わりないし、ほどほどの大きさで、そこそこ強い魔物が生息している。
初めて挑戦する難易度としては、中々いい感じだと思う。
北からアルス聖国→カルノート公国→ルクセム王国と縦に並んでいるので、聖国からも遠すぎず近すぎずの程よい距離で正確な情報を得やすい所もいい。
とりあえずルクセム王国を拠点にして、しばらく<ウォーレル大森林>で力を付けることにする。
その後は周辺の魔境を巡ろうと思う。
今はまだ戦う時ではない、耐えて力を蓄える時だ。
目的地が決まったので、森の中をのんびり歩いて行く。
まずはこの森を抜けて、王国方面に向かう街道に出ないといけない。
でも、私の見た目が問題だ。
胸と腰を毛皮で隠した背の低い女が、他人から見た今の私である。
完全に蛮族か、ただの変態である。
元は年頃の村娘なので、この姿で人前に出るのはできるかぎり遠慮したい。
全身に毛を生やすこともできるが、やはり暖かい国の夏で毛むくじゃらは変だろう。
部分的ならアマゾネスに見えないこともない……と思いたい。
ああ、服がほしい……でも、お金がない。
村にあった服は全部燃えたか血まみれで、金目の物は全て奪われていた。
よって、持ち物はなにもない状態である。
あ~どこかに服落ちてないかな……ん?
ずっと先の方に煙が見える。
この先は森が終わって街道なので、森が燃えてない限り煙を出す物はないはずだ。
気になるので、煙の発生源まで走って行く。
見た目は人間でも、流石は魔物の躰だ。
身体能力が高いため、それほど時間を掛けずにたどり着くことができた。
そこでは1台の馬車が勢いよく燃えており、6人の男たちがそれを取り囲んでいた。