05 本能
姉の無残な死体を見た私は、激しい怒りに突き動かされ聖国の兵達に向かい走り出していた。
まったく警戒していなかった奴らは、まだ私に気付いていないようだ。
一般的な人間を超える身体能力を持つ私は、あっという間に奴らの側にたどり着いた。
「な、なん……」
私に気付いて声を上げたがもう遅い。
「グォォー」
雄叫びをあげ走った勢いのまま<新緑熊>の腕に変化させた右手で、1人の顔面を殴り飛ばす。
さらに左手で近にいる聖国兵士の首を掴み、そのまま力任せにへし折る。
「マイルズ! ハイド!」
「なんだこの緑の毛むくじゃらは!」
残った3人が剣を抜きながら、少しずつ離れていこうとするのですかさず距離を詰める。
「く、くるなー」
無茶苦茶に振り回すだけで、訓練した様子があまり見られないことから、こいつらは徴兵された平民もしくは奴隷ということがわかる。
大ぶりな上からの一撃を躱して、右腕の爪で薙ぎ払う。
これで三人目だ。
残りの二人の方を見ると、恐怖に歪んだ顔で震えながら剣を構えている。
「い、いやだ、死にたくない!」
「バ、バケモノ!」
三人殺しても私の怒りと殺意は一向に収まらない。
私の中で人間としての怒りと、<愚かな悪魔>の本能が混じり合っている感じがする。
こいつらを絶対逃がさない。
”喰らってやる”。
本能に意識が飲まれていく。
私は本能が求めるまま哀れな獲物に襲い掛かり、腕をへし折り、腹を裂き、喉を噛み千切った。
正気に戻ったときには、聖国の兵士たち全員が死んでいた。
奴らの死体はほとんど残っておらず、辛うじて手足や臓物の切れ端などが辺りに散らばっている程度だ。
どうやら私は、奴らを殺すだけでなく喰ったらしい。
人間を喰ったのに嫌悪感を感じない。
むしろ嬉しくて満たされる感じさえする。
<愚かな悪魔>の本能とかなり混じっている?
というより、行動が<愚かな悪魔>そのものと言った方がしっくりくる。
どうやら私という意識が表面にあるが、根底はやはり<愚かな悪魔>のようだ。
気を付けないとそのうちただ<愚かな悪魔>のになってしまいそうだ。
幸いにも姉さんの首は無事だったが、辺りは滅茶苦茶になっており、村人の死体と家の残骸が散らばっていた。
気を取り直して死体を集め、聖国の奴らが使っていた篝火で燃やす。
聖国の本隊がいつ戻ってくるか分からないため、この人数を埋葬する時間はないのだ。
両親の死体はなかったが、死体の数的に八割以上の村人は殺されたらしい。
あと、火葬の途中で気付いたことがある。
家族や村人の死をあまり悲しく感じないのだ。
<愚かな悪魔>の本能に一度飲まれたせいか、感情が薄くなっているようだ。
心まで魔物になり、私が私でなくならないように、憎しみの炎を強く燃やす。
<愚かな悪魔>の本能に喰われてやるものか!
逆に喰い尽くしてやる。
決意を新たに死体が燃えるのを見届けることなく、姉さんの首を抱えて村の墓地を目指し移動する。
せめて姉さんぐらいは、埋葬してあげたいのだ。
大好きな姉さん、どうか安らかに……