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04 激昂


 もぐもぐ、ひたすら<新緑熊(グリーンベア)>に噛り付いては咀嚼する。

 一時間もしないうちに私の数倍あった巨体がきれいになくなった。


 ポヨン、ポヨンとお腹が揺れる。

 やはり食べ過ぎだったみたいで、お腹がかなり膨れてしまった。

 本来の<愚かなる暴食《フールグラトニ―》>なら躰全体が肥大化するところだが、私が人間だったころのイメージのせいか食べるとお腹だけが膨らむようだ。

 今は人様に見せれないぐらいお腹が出てしまっている。


 お腹を引っ込めるため吸収能力を強化する。

 必要な部分を吸収し躰を造る材料にして、要らない部分を肉塊として分離させる。

 これで体型は元通りになった。

 私がこの躰に馴染んできたのか、大分躰を自由に操作できるようになってきたのだ。


 そして、<新緑熊(グリーンベア)>を吸収した結果がすごかった。

 この森最強の魔物だけあり、私の躰をかなり強化することができたのだ。

 今の私は小柄な成人女性ぐらいのサイズだが、楽々成人男性を持ち上げて振り回せそうである。

 牙も立派になり嗅覚も強化された。


 躰を再生や構築するために必要な物を圧縮して体内に貯めこんでるのと、筋肉が発達し骨が太く強靭になったため、体重が激増したのは乙女として悲しくはあるが満足できる結果だ。

 しかし、躰が強くなったからと言って油断は禁物だ。

 先ほどはそれで死ぬ思いをしたのだ。


 躰を慣らすために、参加していた村の自警団の準備運動をする。

 腕を振り、腰を捻り、その場でジャンプ。

 動きは滑らかで問題はなさそうだ。

 もう、人間だったときより身体能力は数段上である。

 体重が問題だけど……。


 色々吸収して変化しているので、すでにクレアという皮の下は完全に魔物由来である。

 だが喉は相変わらず<緑の子鬼(ゴブリン)>のものなので、上手くしゃべることが出来ない。

 人間の様に言葉を話す生物の喉を吸収しないと、これは変わらないだろう。

 もしかして完璧を目指すなら、人間を吸収しなければいけないのだろうか?

 

 <愚かなる暴食《フールグラトニ―》>になったためか、魔物を生で丸齧りするのに抵抗は感じない。

 でも、さすがに人間を食べるのは”少し”抵抗がある気がする。

 まあ、どうせ”まだ”人を食べる予定はないのだから、悩むのは後回しで良いだろう。

 私は再び川沿いに村へ向かい歩き出す。

 

 今は村に向かい様子を確認するのが先だ。

 みんな逃げきれてるといいのだけど、現実は甘くない。

 おそらく聖国の兵士共に蹂躙され、ほとんどの村人は殺されているだろう。

 私の家族も生きている可能性はかなり低い。

 私も魔物になってしまったし、このまま逃げた方が確実に生き延びれるだろう。

 

 それでも村の事が気になって仕方がないのだ。

 聖国の奴らも、いつまでも村にはいないだろう。

 おそらく近くにある街を襲うのが目的で、村はついでに略奪しに来たに違いない。

 奴らに村を襲うメリットはそれぐらいしかないのだ。

 よって、すこし覗くぐらい大丈夫なはずだ。


 考え事をしている間も足は動き続け、日が暮れるころには村まで1時間ぐらいの場所までたどり着いた。

 少し休憩して、夜の闇に紛れて村に行くことにした。



 そして、休憩を終えた私は深夜の村近くの茂みに潜んでいる。

 まだ聖国の兵が残っている可能性があるので、緑の毛を全身に生やして風景にに溶け込んでいる。

 

 村は家のほとんどが焼け落ちており、村の森側に僅かにのこっている家が見える。

 そして、家の側に死体が積み上げられていた。

 死体を確認するため近づいて行くと、家の側から人の話し声が聞こえてきたので慌てて家の残骸の影に隠れる。

 少し顔を出して様子を見ると、聖国の兵士が5人いて死体を運んでいる姿が見えた。

 なにか話しているようなので、耳を澄ませる。


 「死体の処理なんかめんどくさいな~」

 「しかたないだろ、命令なんだから」

 「本隊が戻るまでに終わらせないとまた怒られるぞ」


 しばらく聞いていると、どうやらあの5人はなんらかの罰として死体の処理をしているらしい。

 そして、奴らが新たに運んできた死体を見て私の頭は真っ白になった。


 「もったいねえな、こんな美人を殺して」

 「しかたないだろ、その女が勇者様の誘いを断ったんだから」

 「せっかく奴隷として、そばに置いてやると言われたのに断ったからな」

 「しかも、勇者様にあんな汚い言葉を言ったらな」

 「勇者様直々に処刑されてたしな」


 体は無く首から上のみだが、それは紛れもなく姉だった。

 あの優しい姉の無残な姿に、勇者と聖国に対し怒りが際限なくあふれ出してくる。


 気が付くと私は奴らに向かって走り出していた。



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