03 幸運
太陽が昇り、朝日が森を照らす。
一晩中考えた結果、人型を基本として時間を掛けて色々改良していくことにした。
確かに、躰を大きくした方が早く強くなるだろう。
私の場合質量はそのまま力になる。
だが、それではただの<愚かなる暴食>となにが違う。
大きいだけでは意味はない。
それに、人の精神を持つのだから人に近い方が都合が良いだろう。
方針が決まったところで、下流に向かって歩き出す。
ここから村までは、歩いて1日というところだ。
村の事が気になるので、急いで様子を見に行きたいが<愚かなる暴食>になってまだ1日も経ってない。
まだ、躰に違和感もあるため、慣らしながらゆっくり向かうことにする。
朝食がまだなので、ちょうど川の側にたくさんいる<水粘塊>の1匹に手を突っ込み核を抜き出す。
こいつらは核が水の様な粘液を出して体を作り、獲物をからめ捕り捕食する。
そして、核を抜き取ると粘液は形を保てなくなる。
<水粘塊>の核を口に放り込む。
グニグニしておもしろい食感だ。
一般的には下級ポーションの材料にされるので、食べられるはずと思い食べてみたが……味がしない。
そして吸収した結果、<水粘塊>の核と透明な体が造れるようになった。
透明な体は本物同様にゆっくりとしか動かせないため、あまり使う機会はなさそうだ。
核の方は瞬時に体を造ることに優れているようで、体の構築と再生が早くなるように、複数体内に作っておくことにする。
元々<愚かなろ暴食>の躰は、本体である一つの核で造られていたので効率が悪かったため、躰を造る機能だけを持った小核を複数体内に配置することにしたのだ。
所詮は<水粘塊>の核なので、<愚かなろ暴食>に備わっていた再生と構築能力が少し早くなった程度の強化だ。
僅かだが強くなったことで気分がよく、のんびり川の側を歩いているとかなり遠くに<新緑熊>らしきものが見えた。
慌てて隠れ<新緑熊>の様子を見る。
どうやら魚を食べているらしい。
<新緑熊>はこの森最強の魔物なので、今の私ではとても敵わないだろう。
静かに食事が終わるのを待つことにする。
<新緑熊>が食事していると、森から別の<新緑熊>が現れた。
後から来たのは、若い<新緑熊>の様で先にいたのより二回りぐらい小さい。
お互いに唸り声をあげて威嚇し合っている。
どうやら若い<新緑熊>が縄張りを賭けて戦いをいどんだらしい。
若い<新緑熊>が最初にとびかかり、攻撃を繰り返すが体格差と経験の差もあるのだろう、全て防御されカウンターをもらっている。
勝負は終始若い<新緑熊>が押され続け、若い方が重傷を受け逃げたところで決着した。
勝った方の<新緑熊>は、もう興味は無いとばかりに森の奥に消えていく。
一方負けた<新緑熊>は、なんと私が隠れてる方に向かって走ってきた。
慌てて木の上に昇ると<新緑熊>はよりにもよって、その下で休み始めしばらくして寝息が聞こえてきた。
どうやら巣に帰る体力が残っていないらしい、よく見ればお腹と首の後ろに大きな傷がある。
まさに満身創痍という状態である。
これはチャンスかもしれない。
<新緑熊>など今の私では、勝つどころか勝負にすらならないだろう。
しかし、今は満身創痍で寝ている<新緑熊>が下にいる。
こんな機会はもうないだろう。
私はこの<新緑熊>を吸収することにした。
静かに体制を整え、右手に毒の牙をたくさん生やし準備完了。
首の後ろにある大きな傷を狙い飛び降りる。
右手は手首まで<新緑熊>の体に埋まり骨まで到達する。
それと同時に毒を送り込み、牙を大きく長く変化させる。
「グ……ォ……!!」
<新緑熊>が痛みと驚きで声を上げようとしたが、喉まで牙が到達したようでさほど大きな声は出なかった。
私が確かな手ごたえを感じた時、<新緑熊>は背中に張り付いている私を引きはがそうと暴れ始めたが右腕の牙が返しになり外れる様子はない。
呆れた生命力だ、早く私の糧になれ。
このとき私は勝利を確信し、油断していた。
トドメをさそうとして、左腕を振り上げたのがいけなかった。
私の躰は宙を舞い、<新緑熊>の肩に担がれた状態になってしまった。
最後のあがきとばかりに<新緑熊>が鋭い爪を私のお腹に突き刺し、私の体を半分に引き裂いた。
そこでようやく<新緑熊>は力尽きたようで、倒れて動かなくなった。
危なかった、爪がもう少し上だったら核がやられていた。
戦闘では僅かな油断が死につながる。
いい教訓になった。
千切れた下半身を拾って繋げながら反省する。
さて、生きていることと<新緑熊>という魔物を仕留めれた幸運に感謝して食事といこう。
私は大きく口を開け<新緑熊>に食らいついた。