01 目覚め
2017/2/24 加筆・修正しました。
お腹すいたな、ごはん食べたい。
眠い目を擦り、無理やり目を開ける。
「グゥ!!」
あれ、なんで森にいるんだろう?
昨日は確か……
そうだ! 私食べられだんだ。
慌てて自分の体を見ると、無数の頭と手足が生えた気持ち悪い肉の塊が見えた。
球体に近い肉の塊から、主に<緑の子鬼>の顔や手足が生えている。
そこから、私の上半身が同じように生えていた。
「ギョガー!!」
なにこれ、どうなってるの?
なんで私の上半身が肉の塊から生えてるの?
そもそも私は食べられて死んだはずだ!
でも、意識ははっきりしているし、不思議とこれが自分の体だという確信がある。
ためしに、肉の塊からたくさん生えている足を一つ動かしてみる。
うん、問題なく動く。
踏みしめた地面の感触もわかる。
「グギュ」
さっきから人間じゃない声が出ると思い、試に出すと奇妙な鳴き声が口から出る。
歩いてみる。
走ってみる。
その他に様々な動きをしたり、どうも自分の体らしい肉の塊を観察する。
どうやら私は、肉の塊改め<愚かなる暴食>になったようだ。
ふざけるな!
私は年頃の乙女だぞ!
なんでこんな肉の塊に……痛っ!!
振り返ると足の一つに<森の狼>が噛り付いていたので、体からいっぱい生えてる腕で殴り飛ばす。
「キャン!」
可愛らしい鳴き声を上げながら木にぶつかり、動かなくなった<森の狼>を持ち上げてみる。
うん、見事に首の骨が折れている。
私つよ~い…………むなしい。
そりゃ村娘のころよりは、強くなってるよ。
強い女性に憧れてたし、小さいころの夢は女騎士だったよ。
でも、肉の塊だよ。
女としてどころか、人ですらないよ。
落ち込んでいると、混乱で忘れていた空腹が自己主張してくる。
お腹すいた。
でも、食べ物なんて……!
あるじゃん、<森の狼>を食べればいいんだよ。
でも、火がない。
そもそも解体されてなし、できない。
でも、<森の狼>の死体を見ていると、この体の本能ともいうべきものがこのまま噛り付けと訴えてくる。
ここは、覚悟を決めるしかない。
意を決して食べようとすれば、上半身?の下にある肉の球体部分がウニウニ動き出して大きく開いた口になった。
あら便利、これなら丸ごといけそうだ。
いただきます。
ボリボリ、ガリガリ、ごっくん。
ご馳走様でした。
味はあまり良くなかったけどお腹は膨れた。
ん?
なにか体に違和感が?
ボコッ
なんか<森の狼>の頭が生えてきた。
しかし、なんで生えてくるのが私の胸のところなのよ!
ひっこめ~、ひっこめ~。
お!
徐々に胸が凹んでいく。
いや、<森の狼>の頭が無くなってるんだよ。
私の胸は健在だよ、普通より小さ目だけど。
完全に<森の狼>の頭が消えたので、胸を触ってみる。
異常なし、元に戻ったようだ。
さっきの感じを意識して、手が<森の狼>になるように念じてみる。
グニグニ、ボコボコ
あっという間に、手が<森の狼>の頭になった。
手を元に戻す。
こんどは、手を四本に増やしてみる。
お~おもしろい。
しばらく色々試した後、<愚かなる暴食>について、知っていることを思い出してみる。
・いろんな魔物をごちゃ混ぜにした肉の塊みたいな姿をしている。
・食べた生き物の部位が新たに生えてくる。
・知能がなく本能のみで生きているとされる。
・どんどん巨大化するので、いずれ自重でほとんど動けなくなる。
・最終的に動けなくなり餓死するか、自身の肉圧で心臓兼脳である核が潰れて死ぬ。
これが一般的に知られてる<愚かなる暴食>という魔物だ。
悪食と大食漢に最後は自滅することから、<愚かなる暴食>と呼ばれている。
はっきり言ってバカである。
そのバカが今の私である。
悲しくなるので深く考えないようにしよう。
ともあれ、自身が<愚かなる暴食>になると新たに分かることがある。
分かりやすくまとめてみると。
・どうやら食べるというより、吸収している。
・吸収した生物の構造を学習し、再現して自身のものとする。
・再現したもののサイズや形はある程度調整が効く。
・再現した部位を組み合わせて、体を造り変えることができる。
ということは、今の私も学習され再現されたということになる。
だとしたら、私は本当の私と言えるだろうか?
確かに今までの記憶はしっかりある。
でも、<愚かなる暴食>の本能ともいうべきものもある。
私はクレア?
クレアの記憶を持った<愚かなる暴食>?
私はいったい何なんだろうか……