16 大森林③
新しい躰の試運転がてらに<ウォーレル大森林>の奥へ向かっていると、夕暮れ時に小さ目の洞窟を見つけたのでそこを拠点にすることにした。
村にあった物置小屋くらいの広さだが、雨風が凌げればそれでいい。
ちなみに先客の<森蜥蜴>と言う大きなトカゲの魔物がいたので、今夜のご飯になってもらった。
肉はボリュームがあり、食べごたえバッチリでした。
夜の間は僅かな睡眠の後に、休憩がてら躰の調整をして時間を潰す。
躰の試運転で見つけた動きにくい所を修正したり、パーツを組み替えて現時点での最適解を模索する。
最近は吸収した生物の数も増えてきたので、色々試すことが出来てとても充実している。
今回は触手の数を4本にして先に爪を付けたり、<森蜥蜴>の鱗の方が強靭なので、<毒蛇>の鱗と入れ替えたり、甲殻の形を変えてより動きを阻害しない形にした。
その結果甲殻の鎧は以前より体型に沿った形になり、体型がハッキリ出たので恥ずかしさが増大した。
恥ずかしさも強くなるためと諦めるが、せめてもの対策に甲殻で兜を作り顔を隠す。
顔を隠せば人は大胆になれるのだ! と言うか赤くなった顔を見られるとさらに恥ずかしいからだけどね。
こうやって弱い所は強く、強い所はより強くしていくのだ。
翌朝は日が昇るのと同時に洞窟を出て獲物を探す。
ちなみに昨日から、躰を魔物形態に変化させたまま過ごしている。
理由としては慣れるためもあるが、人の姿は窮屈な感じがするのだ。
やはり<愚かなる暴食>となって、精神が着々と魔物に近づいているのだろう。
それでも根本的に私は私であり、勇者に復讐するという目的に何ら変わりはない。
力を付けて必ず復讐を果たして見せる。
ともあれ今は朝食の調達が先だ。
昨日あれだけ食べたのに、もう空腹を感じ始めている。
相変わらず燃費の悪い躰である。
すぐに<一角兎>と言う角の生えた兎を見つけたので、捕まえてペロリと頂いたがぜんぜん足りない。
新たな獲物を求めてウロウロしていると、少し先の開けた場所に<戦猪>の部隊を発見した。
また<戦猪>か、いいかげん飽きてきた。
これだけ見かけると言うことは、かなり大きな群れがあるのだろう。
もしかしたら<王種>が生まれたのかもしれない。
<王種>は一定以上の規模の魔物の群れを統率する存在の呼称で、出現すると場合によっては国が亡ぶこともある。
もちろん滅多に生まれる存在ではないし、その全てが国を滅ぼすほど強いとは限らない。
そもそも<王種>と言う呼び方も、無数の配下を従える様子がまるで王の様にみえるからそう呼んでいるだけなので、戦闘能力が高いとは限らないのだ。
しかし、今回<王種>が生まれているなら、強力な個体の可能性が高い。
そもそも<戦猪>事態が好戦的な魔物なので、その<王種>が弱いはずはないだろう。
もっとも、<王種>と言っても<戦猪>は<戦猪>なので、すでにたらふく<戦猪>を平らげている私には係わりのないことだ。
今更<戦猪>から得る物などないのだから。
討伐して傭兵のランクを上げることも考えたが、登録したての新人がそんなことをしたら目立って仕方ないだろうからやめた。
ほしいのは魔物の情報だけであり、私が目立つ必要はないのだから。
まあ、今はいるかもしれない<王種>より目の前の肉だ。
<戦猪>は剣を持ったのが2体に、杖を持ったのが1体の合計3体だ。
おそらく杖を持ったのは魔法を使えるのだろう。
人間や魔族は魔法の理を理解することで習得するが、魔物は魔法理を理解せず偶然覚えたり本能で固有の魔法を使用する。
<戦猪>は魔法に長けた種ではないので、あいつは偶然覚えた方だろう。
そういうタイプは使える魔法が極端に少ないので、練習相手に最適である。
あいつで対魔法使い戦の予習と行こうかな。
そうと決まれば邪魔な剣持ちの<戦猪>を排除するとしよう。
勢いよく地面を蹴って<戦猪>の目の前に移動する。
そして私は驚愕する<戦猪>に向かい爪を振り下ろした。