10 到着
お待たせしました。
変わり映えのしない風景を見ながら、のんびりと馬車を走らせる。
奴隷商達を殺してから半日ほどが過ぎた。
あの後は街道の途中で道を変え、ある程度進んでから適当な場所で休憩をした。
今の私の姿は一般的な長剣を持ち、軽装の革鎧をきた女傭兵である。
もちろん奴隷商の護衛から剥ぎ取った品である。
しかし、男物でサイズが合わないため違和感があり、手入れが雑なのか若干臭うのだ。
町に着いたら新しいモノに買い換えたいな。
できれば剣もそんなに良い物でなくてもいいから、頑丈なものに買い換えたい。
私が振るうには強度的に、一般的なものでは心もとない。
正直ほぼ飾りみたいなものだが、人前で戦う時に備えて武器ぐらい持っとかないといけないのだ。
一応、剣なら村の自警団で教えてくれたので、村人に毛が生えた程度だが使えるしね。
とりあえず今後は傭兵組合で登録し、傭兵として行動しようと考えてる。
登録すれば身分証代わりのギルドカードが手に入る。
身分証だけなら商人など他の組合でもいいのだが、傭兵は戦争以外に魔物の討伐もしているので、よさそうな魔物を探すのが楽になるのだ。
人に紛れずに魔境で過ごすことも出来るが、やはり元人としてある程度は文明的な生活をしたい。
私の今後の予定は決まったのだが、問題は同郷の女達だ。
今は全員馬車の中でぐったりしている。
奴隷商から解放されたとはいえ、故郷の事などでかなり精神的に参ってるようだ。
疲れてるようだが今後の事について話したいので、次の休憩のときにでも話し合おうと思う。
そろそろ小さな町か村があってもいいころだしね。
昼前に丁度休憩を取れる場所が見つかったので馬車を止めると、多少回復した様子の女性達から今後について話し合いたいとの申し出があったので、昼食がてら話し合いをすることになった。
あらかじめ私の方針は伝えてるので、主に女性達のことを聴くことになるだろうと思っていたら、代表らしい年長者の女性が話し始めた。
名前はマルカと言うらしい。
「クレアさんは傭兵として生活するので、私達と行動を共にとれないとのことでしたね」
「私たちも助けられておいて、今後の事まで面倒を掛けるのは心苦しいので、3人で協力していこうと言う結論にいたりました」
マルカに続いて双子の姉妹のアイラとレイラが言葉を発した。
「具体的には町で住込みの仕事か、村で家を借りて生活しようと考えています」
「3人で力を合わせて頑張って行きます」
この三人は従妹同士らしい。
素朴な顔立ちが若干似ている。
生きる気力があるのはいいことなので、少しサービスしてあげよう。
「その方針には賛成ですけど、先立つものが無いですよね」
「私は銀貨が5枚もあればいいので、奴隷商達のお金の残りを使ってください」
私の提案に驚いた顔をしたマルカは、申し訳なさそうにしながら口を開いた。
「ありがたいのですが、よろしいのですか?」
「ええ、その代わりと言ってはなんですが、馬を1頭と奴隷商達の剣と革鎧を頂きたい」
「もちろん構わないです」
「もともとクレアさんが手に入れたものですから」
「むしろ全てを持って行っても私たちに文句は無いです」
「助けられただけで十分ですから」
かなり謙虚な人たちの様で、口々にせめて半分は持っていくように言ってくる。
こんな状況なのに他人を思いやれる良い人たちのようで、助けてよかったなと心から思える。
それにたとえ何もなくても、生きていこうとする逞しさも感じる。
それからしばらく話し合いは続き、街か村に着いたら馬と剣・銀貨8枚をもらい別れることでまとまった。
せめてこれぐらいわと言われ、銀貨が3枚追加された。
その後、昼食を終えて場所を走らせること4時間あまり、ついに小さいが町を発見した。
大きな町と村の中継地点といった様子で、多くの馬車が門を行き来している。
この様子なら彼女達も仕事に困らなそうだ。
馬車で賑わう門で身分証が無いため、一人銅貨5枚を払い町に入る。
そのときに馬と馬車も預けておくのも忘れない。
「では、ここでお別れです」
「はい、お世話になりました」
「どうかお元気で」
門の側でマルカ達と別れて1人、傭兵組合と武器屋を探しながら大通りを進む。
あちこちにある店から食べ物のいい匂いがしてきたが、手持ちが少ないので我慢する。
なにもないところから始めるマルカ達のために、ほとんどの物資とお金を置いてきたが後悔は無い。
私ならどうとでも生きていけるが、彼女たちは普通の村人だったのだから。
さて、食べ物の誘惑にも負けず探したおかげか、割と簡単に目的の建物を見つけることが出来た。
傭兵組合の向かいに、傭兵に必要なものを扱う店がずらっと幾つも並んでいたのだ。
とりあえず、適当な店で嵩張る剣と革鎧を売って、剣と鎧を買うお金を確保する。
状態が良くなく、元々安物らしいのでたいした収入にはならなかった。
店話小さいが品ぞろえがよさそうな、傭兵組合のある大通りの端にある武器屋を選ぶ。
そこで売られていた刃が厚めで、標準より短めの剣を手に取る。
シンプルだが力強く、無駄なものを省いた機能美というものを感じるところが気に入った。
「すいませーん、これください」
「銀貨6枚だよ」
「どうぞ」
「確かに」
愛想のない店主らしきお爺さんに代金を払い店を出る。
思ったより物価が高い、やはり辺境の村とは違うのか。
鎧まで手が回りそうにないので、着替え様にいくつか古着を買うことにする。
買い物を終えて傭兵組合の前に来たとき、手元には銀貨1枚と銅貨3枚しか残らなかった。
村なら銀貨が8枚もあれば、節約して半年以上は過ごせるのに、都会恐るべし。
しかし、その甲斐あって鎧以外のほしい物は、あらかた手に入れることが出来た。
今着てる白いシャツに黒いズボン、替えの服2着と厚手の黒い外套と靴を手に入れたのだ。
予算内でギリギリ見た目を整えることが出来た。
合わない鎧やワンピース姿で傭兵組合に行き、変なのにからまれるのもいやだしね。
さて、それでは行きますか。
傭兵組合の扉を開けて中に入ると、私に複数の視線が突き刺さった。
会話って難しいですね。