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プロローグ

 足が動かなくなるほど必死に、村の近くにある森の中を走りぬいた。

 なぜ、私がこんな目に遇っているのか。

 それは、後ろを振り返れば一目瞭然だ。


 燃え盛り夜の闇を照らす、故郷の村がある。そこには、現在進行形で村人を殺しながら高笑いする聖国の兵士どもがいる。

 どうしてこうなったと神を呪いたい。


 今日は私の15歳の誕生日だった。

 それほど裕福な家庭ではなかったが、優しい両親と姉に恵まれたごく普通の家庭だ。

 幼いころの病が原因で、声を失った私に変わらぬ愛情を注いでくれた家族と共に、今日はささやかな誕生祝いをし、これからも平和な日常が続くと思っていた。

 そんな思いは、響く轟音と悲鳴で瞬時に打ち砕かれた。


 私が暮らす村は、カルノート公国という小国の辺境にある。

 そこに、隣国であるアルス聖国が突然せめてきたのだ。

 聖国は<聖神アルス>を崇める宗教国家であり、異教徒と異種族を徹底的に差別する性質がある。

 それゆえ、戦争を繰り返しては勝ち続け、大陸で一番の大きさを誇る大国となった。


 現在は周辺各国で同盟を結び、聖国を抑え込んでいる状況だった。

 そのためここ数年は、我が国でも小さな小競り合い程度しか行われていなかった。

 それが宣戦布告なしで、いきなりの襲撃である。

 国境の砦を落としたであろう聖国の軍隊は、夜の闇に紛れて現れたのだ。

 ここはただの辺境の村なので、当然あっという間に蹂躙された。


 私達家族は逃げる中で散り散りになり、私は一人必死に森の中へ逃げ込んだ。

 逃げる途中聖国の連中から、<勇者>という声が聞こえてきた。

 そちらを見ると、空に浮かんだ人影が巨大な魔法の光を放ち、村の避難所である村長の家を吹き飛ばすのが見えた。

 恐怖のあまり、私は体力の続く限り森の中を走った。


 ここまでくればひとまず大丈夫だろう、そう思いながらたどり着いた川の傍で休息をとっていると対岸から”それ”は現れた。

 肥大化した肉の塊から、無数の魔物の顔や手足を生やした姿を持つ<愚かなる暴食(フールグラトニー)>である。

 それが奇妙な鳴き声を上げながら、川を渡ってくる。

 疲労困憊の私は碌に逃げることもできず、やつの歪な手に捕らわれた。

 全身を握り潰される痛みの中、<愚かなる暴食(フールグラトニー)>が大きな口を開くのが見えた。


 それが私、クレアの人としての最後の記憶となった。

 


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