第六話:参謀の苦悩
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トクノ参謀長が挙手して発言する。
「わしは作戦部の人間なので、その情報用兵理論というのはあまり詳しくない。『戦力自乗の法則』とは何だ? それによって何故全滅という結論が導かれる?」
あたしは、一旦デスク中央の立体型空間フォロビューを消去して、司令部お歴々のデスク前に小さなウインドゥを表示した。
「簡単に申し上げますと彼我の戦力比が10:6だったとしましょう。単純に計算すれは4:0ということになりますが、実は8:0となるのです」
ウィンドウに公式とグラフを表示する。
「つまり、
10²-6²=100-36=64=8²
ということです。
先ほどの話をいたしますと、敵が十の反撃率で対抗してきた場合、我が軍も何とか十に近い攻撃率を保っていれば後退しながらの戦線離脱も可能でしょう。
しかし、現状は苦しい戦況化にあります。著しい艦隊維持率と防御率の低下、それに艦隊の後退運用と亜高速航行の大勢準備などを考慮に入れた結果、攻撃率が六もあれば万々歳です」
あたしは、各自のウィンドウを消去し、再度デスク中央に立体型空間フォロビューを起動させる。
「戦力は文字通り『力』です。武器は二乗されることで戦力となり、その激突によって生まれる彼我の優劣を考えれば全滅まで30分もかからないと思います」
立体型空間フォロビューに表示された我が軍の艦隊布陣がRS-7宙域を離れるより早く、敵の猛攻によって消滅した。
「したがって、すべての情報を総合的に検討すると地点7-0-3と地点3-3-2は危険が大きいと言えます」
あたしは、そこまで説明し終えると、大きく呼吸と整えて一同の顔を見回した。
ダルマのようにどっしりと構えているヒクマ提督。腕を組んで「う~む」と悩んでいるトクノ参謀長。抜け殻になってぽ~っと宙を見つめているフクイケ少尉。目があって、にっこり微笑んでくれるマナ少佐……。
皆の様々なリアクションを確認した後、あたしは「こほん、」と軽く咳払いをして、次の説明に入るべく姿勢を正した。