第四話:作戦部次席参謀フクイケ・タカシ少尉
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「後方RS-9宙域地点8-4-6だとは、情報部の作戦は稚拙だ。話にならん」
再び、作戦部次席参謀フクイケ・タカシ少尉が誹謗した。
あたしはこの場の雰囲気にやりきれない思いでいると、トクノ参謀長が話題の中心を逸らすように「ぐぅお、ほんっ」と慇懃な咳をしてヒクマ提督に促した。
「……如何なものでしょう、閣下。ただ今、作戦部のフクイケ少尉が提出した作戦案には前者2つの地点がありましたが、最後のはありませんでした。ひとまず情報部の情報を先に分析してみては。撤退作戦立案にあたって、より柔軟性に富んだものが考案できると思うのですが」
控えめに献策するトクノ参謀長は無言で頷く司令官から許可を得ると、さっそく仕切り始める。
「それでは今まで議論した作戦案とは別に進めていきたいが……」
「ちょ、ちょっと待ってください参謀長閣下! では、小官の立案した作戦案は破棄されたのでしょうか?」
一人納得できないフクイケ少尉が、これだけは譲れないといったふうに激しく反発する。
だけど、トクノ参謀長は何処までも冷静だった。
「まだ破棄とは決まっとらん。ただし情報部の内容如何で修正もしくは棄却も有り得る」
「……しかし小官の作戦案は完璧です。なぜ今更情報部の無意味な情報を検討する必要があるのです?」
……むかっ。
さらに、フクイケ少尉はわなわな震えた指先をあたしに向けて参謀長に意見する。
「しかも、この女……いや、この情報部の士官は士官学校も入ってないポッと出の駆け出しと聞いてます。そんな半人前の情報なんぞ検討するだけ時間の無駄ですっ!」
……むかっ、むかむかっ! どうせ、あたしは半人前でポッと出の駆け出しよっ!
しかし、こうも悪し様に非難される筋合いはない。あたしの中で何かが切れた。
「……あんた、さっきから一人で騒いでるけど、そのこと自体が時間の無駄じゃない? それが理解できない人に半人前呼ばわりされたくないわね」
クフイケ少尉は、あたしの剣幕に圧倒されたのか、あほみたいに大きく口を開けてパクパクさせている。
ふんっ! 悔しかったら何か言い返してみろ!
さらに何か言ってやろうとすると、マナ少佐が目であたしを制した。
「トウノ少尉。今は交戦中なんだから、わきまえなさい。フクイケ少尉、あなたのしたことは立派な侮辱罪よ。軍法会議に掛けられたくなかったら以後気を付けることね」
マナ少佐が一息つくと、その先をおもむろにトクノ参謀長が続けた。
「と、いうことだが……フクイケ少尉。貴様は確かに士官学校を首席で卒業して作戦部の中でも優秀なのは認めよう。が、その自己主張の強さが軍秩序の均衡を著しく崩すばかりか、軍に大きな損失を招く結果となり得る。そこのところを大いに留意してもらいたい。それと貴様はあまり理解しとらんようだが、作戦を立案するにあたって重要なのは戦況に対する分析力だ。確かな分析とは正確で、かつ豊富な情報の上にのみに帰結される。よって貴様の作戦案を一時保留にしたのはそれが理由だ」
完全に毒気を抜かれたフクイケ少尉は止めを刺されて力なく項垂れた。
まったく自業自得ってもんよ。いい気味だわ。
「……さて、トウノ少尉……といったかな。さっそくだが説明してくれたまえ」
今しがたの喧嘩の余韻で気が緩んでしまったせいか、突然のご指名に跳び上がるほどびっくりした。
「あ、あのう……、あたしが……いえ、小官が、でありますか?」
「他にいないだろう」
「は、はっ!」
参謀長の指示に対し、最初の見事な敬礼は何処へやら……と自分でも思うほど、ぎごちない敬礼をして軍服のポケットから慌てて光磁気記憶片を取り出した。