第二十話:艦隊幕僚
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「ただいまー」
男は軽やかな声で帰宅を告げると、あたしの方へ振り向き手招きをした。
「司令部に用があるんでしょ。入りなよ」
ショックなあまり、硬直ってしまったまま、男の無邪気な笑顔に誘われて、ふらふらっと中へ入る。
すると、奥から仔猫のような、ちまっとした女の子が現れたんだ。
「提督ぅ~、遅いよぅ……。ルイ、三十分も待ったんだよォ」
「ごめん、ごめん」
女の子は、男の腕に絡みつき、男は、はにかんで頭を掻いている。
見た感じ、仲良し親子みたいで微笑ましく思えるのだが、今のあたしは愕然としていた。
……ええ、と。今、この子、『提督』って言わなかった?
「はれぇ~、このお姉さん、お客さん?」
その間延びな声で、ハッと我に返る。
あたしは、今までの悪夢のような出来事を払拭するかのように、びしっと敬礼をして配属の報告をした。
「外周方面軍、第九独立分遣艦隊情報参謀、および艦隊司令官副官を拝命しました、トウノ・サユリ中尉であります」
「報告、ご苦労様。僕が司令官のクサカ・ショウゴだ。で……」
提督は密着している女の子の頭をなでる。
「あたしはぁ、クサカ・ルイっていいま~す。司令官付従卒です。階級は上等兵曹でぇ~す」
彼女は、あたしの腕を取って、ぶんぶんっと振り回し、ニパっとくったくない笑顔を見せる。
「こう見えても、一応二十歳なんですよォ」
見た目は十二歳前後の少女にしか見えない。
……と、ということは、まさか?
言葉を探しながら、見つからず、直言する。
「ええと……グリューンエルデの方ですか?」
二人の顔が瞬間、強張る。が、あたしも同類なのだ。
「すいません。あたしもグリューンエルデ出身です。見た目はよく中学生と間違われますが、新東大文科Ⅲ類出身で動員将校の二十二歳です」
あたしは、ははは……と作り笑いをした。




