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殲滅のソティス~新米の宇宙艦隊参謀は戦局不利な最前線でいつも大変~  作者: 武田 信頼
SECTION:2 『へいわ』に捧げる戦争神話
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第十九話:無名の艦隊



               ※※ 19 ※※



 万華鏡のように輝くマリンブルーの東京湾を眺めるのもつかの間、定期便の輸送機が有視界飛行状態の横須賀基地に緩やかに着陸(ランニング)した。


 「あちぃー」


 空調の効いた機内から、滑走路に降り立ったあたしは、エンジン熱と日差しで焼けたアスファルトの上で(いぶ)されながら、艦隊司令部を目指して歩き出した。


 とはいえ、とてもつもなく広大な基地を、しかも地図に不案内なあたしは、何処(どこ)から探したものだと、あれこれ思考を(めぐ)らしていると、丁度、駐機場(エプロン)の端を、ビニール袋を下げた男が歩いているのが見えた。


 その軍人は、よっぽど暑いのか、上着はTシャツ一枚に宇宙軍のスラックス。

 見るからに貧相でだらしない中年士官風だった。階級や所属はわからない。


 

 頼りなさそうだけど、一応聞くだけ聞いてみるか……。


 

 「あのぉ……」

 「はあ、何か?」


 男はあたしに視線を向ける。無精髭(ぶしょうひげ)と、とろ~んとした目つきが、ますます声を掛けたことを後悔させた。


 「あのぉ、貴官は第九独立分遣艦隊の司令部が何処にあるのか、ご存知ですか?」

 「……?」


 男は眼をパチクリさせる。


 「あ、あの……、第九……」

 「あ~、あ~」


 突然、あたしの言葉を(さえぎ)って奇声を上げ、ぽんっと手鼓を打つ。


 どういう過程を経て、何を納得したのか、さっぱり理解できないけれど、思い当たる節があったらしい。

 男は満面の笑みを(たた)えて語り始めたのね。


 「久しぶりに真っ当な名前を聞いたから何処のことかと思ったよ。ははは、ついておいで、案内するから」


 男は嬉しそうに口笛を吹きながら、歩き出した。


 あたしは一瞬、あっけに取られてしまったが、見失わないよう急いで追いかける。


 「あ、あの、ここに来るまでの間、色々な人に(たず)ねて回ったのですが、全員といっていいほど、第九独立分遣艦隊のことを知りませんでした。一体、どんなところなんですか?」


 男に並んで歩くと、今まで一番疑問だったことを聞いてみた。何となくだけど、この中年士官なら知っていそうな気がしたからなのね。


 しかし、あたしの質問が聞こえなかったのか、それともわざと無視したのか、どちらでも取れるような、にこやかな笑顔で前方を指差した。


 「あれが司令部だよ」


 その指先には築何十年なのか分からないほど、おんぼろな二階建て木造建築物。


 艦隊名が書かれたプレートもなく、一見ただの倉庫にしか見えない。

 ただ、玄関先に立っている前時代の遺物と言うべき赤錆(あかさび)びた郵便受けだけが、人の存在を健気(けなげ)に主張していた。


 ……へ? ここがホントに司令部!?




 

 




 

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