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僕は多分、小説家になれない  作者: 綾海 旦
制限時間は刻々と
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1ページ目

 惨憺たる赤が、月光だけが照らす部屋中に満ちていた。

 …そう打ち込んで、僕は首を傾げた。

「うーん…」

 意味わかんねーわ。

「読者の想像力に任せるか…」

 いやいや、何かセンスに欠けるな。悲劇の始まりにしては描写が明るすぎるような。…そうか、月光。「月光が照らす部屋」からは、闇に差す光という希望がある印象を受ける。月光いらない。僕はバックスペースを押して文を打ち込み直した。

 惨憺たる赤が、闇の中でもはっきりと識別できるほど鮮やかに、残酷に部屋中を穢していた。

 …何か、くどいな。何でだろう。言葉が羅列しているだけで、状況を正確に描写できている感じがしない。血を「赤」と表現しているのが悪いのだろうか? だがストレートに「血」と書くのも小説らしさに欠ける気がする。

「進まなーい…」

 小説の冒頭部分だけで、かれこれ2週間以上頭を抱えている。

 でも、出だしでいかに読者の心を掴むかが重要だと思うし。

 ある日家に帰ったら、家族全員が殺されていたのだ。主人公にとって、その時の光景は受け入れ難いものに違いない。

 それを文字だけで表現しなくてはならない。

 そうだ。主人公は多分、部屋中に飛び散ったそれが愛すべき家族の「血」であるとは、すぐには認識できない。ただ「赤いもの」でしかない。だから「赤」で良いのだ。問題は「闇」と「穢す」だ。

 夜なのだから「闇」と表現しても間違いではない気がするが、それだと主人公は帰宅して電気をつける間もなく家族の異変に気がついたことになる。

 まあそれならそれでいいか、と思い直し、「穢す」に着目する。

 抽象的すぎてわかりづらいような気がして、「穢す」に代わる動詞を探し始めた。


 こんな調子で、いつも〆切を逃している。

 でももう、制限時間は残り少ない。

 就職活動が本格化する時期までに、何とかして一発当てないと。もうすぐ二十歳になっちゃうし、時間はもう待ってくれない。

 文学賞に応募して―大賞とって、小説家デビューしてやる。

 たとえ星の数ほどいる小説家の卵の一人に過ぎなくても、ひときわ輝いてやる。

 そう決心し、創作意欲を燃やしながらパソコンに向かう。

 正直、才能なんて欠片も無いと思う。

 それでも諦められず、こうしてキーボードを叩き続けている。

 まだ間に合うかもしれない、と自分を奮い立たせながら。



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