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屋上にて

 約二名を除いたクラスメイトは、入学初日の和気藹藹とした雰囲気で教室から出て行く。

 担任紹介が意外に長く、自己紹介は明日に持ち越しとなった。担任紹介というよりも先生の生い立ち紹介だった。いらない情報。

 何人かの女子グループは、新入生代表出挨拶をした、美人な皇木さんに話しかけたがっていたようだが彼は絶賛私と笑い合っていた。時々言葉を交わしてはお互いに、にこりと笑う。うふふ、化かし合いに腹の探り合い。

 そして全く同じタイミングで席を立ち、特に言葉も無く二人で教室を後にする。目指すは屋上。校舎裏?死角が多いし、実は窓も多く人目がある。ついでに声も響くので却下だ。屋上なら視界は開けているし、よほど大声じゃない限り風で声は響かない。幸いなことにこの学校は屋上解放タイプ。例え施錠されていても解錠の魔法があるから意味はない。

 屋上には先客はいなかった。在校生は生徒会役員と入学式の会場撤収の最少人数しかいないから当たり前なのだが。

 ドアをがっちりと閉め、念のため鍵をかけて改めて目の前にいる皇木さんと向き合う。

 ちょっと長めの癖のある黒髪。瞳も真っ黒で、白い肌との対比がすごい。確か私が知ってる魔王バージョンだと髪は青みがかった銀で、瞳も深い深い青色だった。カラーチェンジしたのだろう。高校生デビューならぬ人間デビュー時に。それなら私もカラーチェンジして置けばよかったのだろうか。無理だけど。


「さて、お前に聞きたいことがあるんだが、姫?」

「私は特にない!」

「姫がここにいるということは、勇者もこちらにいるのだろう?」


 無視!

 いや、まあ確かに私も聞きたいことはあるのだが。


「いないよ。私は元からこっち側の人間だし」

「ああ、姫は異世界から召喚された魔法師、だったか?」

「そう。私から見れば、どうして魔王陛下がここにいるのかが分からないんだけど」


 謎だ。魔王は確かにあの時息の根を止めた。どんなに頑張っても復活不可になるように、ご遺体の最後の一かけらまで消滅させたはずなのに。例え私と同じく異世界からの召喚だろうと、あそこまでされたら死ぬだろう。私は拒否権がなかったけど、一応説明はされた。元の世界に戻す時に時間は呼び出した時に合わせる。戻れることが前提だが、旅の途中や戦闘の途中に死んだら生き返るなんてことはできないことも。だからこそ必死に魔法師として最高峰を目指したのだが。鍛えないと死ぬ。


「姫からみれば、あの世界は異世界召喚なのか」


 何故かしみじみと魔王陛下が呟く。


「因みに私からみれば、あの世界はいわゆる前世だ」

「前世?」

「私の前世の記憶が魔王だった」


 異世界召喚と同じぐらい一笑したいな。真面目に話したとしても、信じるのは幼稚園生か厨ニ患者くらいだろうか?

 つまりは私からみれば異世界召喚ファンタジーだった勇者御一行との旅。

 魔王からみればあれは前世、過去のこと。時間のずれを感じないでもないが、些細過ぎて問題にならない。それを言い出したら、私が過ごした3年は夢か幻になってしまう。だってこちらの世界では、あの3年間は『なかったこと』なのだから。


「まあ、いいか」

「何が?」


 魔王はそう言うと、フェンスに寄りかかる。


「こちらの世界では、私は魔王ではない」

「まあね」

「魔王の象徴とも言うべき魔力も、こちらでは全然役に立たんしな」

「え?」

「何だ、姫もだろう?こちらでは魔法が使えない」


 魔法。自分自身の中にある魔力を元とした、超常現象みたいなものだ。

 あの世界では日常生活のいたるところで魔法が使われていた。一般庶民だと簡単な火や水、光といったもの。多少魔力があれば簡易攻撃魔法。一人で魔物が退治できるようになって、魔術師の資格が得られる。魔術師は大きな町で数人しかいない。田舎だと居ないのが普通。私を呼び出した国には、兵団、騎士団、魔術師団があったが、魔術師団は圧倒的に人数が少なかった。魔術師の上が魔法師で、更に上に魔導師がある。私の時は魔導師の席は空席だった。基本的に魔導師レベルだと存在しないのが当たり前なので、実質的に魔法師であった私が最高位だった。魔王は魔導師レベルだったんじゃないかと思う。

 あまり知られていないが、基本的に魔法は魔力を元に精霊や妖精にお願いしている。魔力を餌に協力してもらっているのだ。知られていないのは精霊も妖精も見えないから。魔術師の上位で存在を微かに感じる程度。なので魔法とは魔力を元にした現象、だとされている。

 魔法師であった私は精霊や妖精の姿もちらちら見えていた。だから詠唱やいわゆる魔方陣がお願いの言葉であることも理解していた。魔導師レベルだった魔王ならばっちりと精霊、妖精の姿を見ていただろう。会話も出来ていたかもしれない。意思の疎通ができるなら、使える魔法も強大になる。

 逆に言えば精霊や妖精のいない場所では役立たず。この世界に精霊も妖精もいない。昔はいたかもしれないし、今も山の奥の奥に行けばほんの僅かながら存在している。しかしあの世界での魔法のようなことはできない。だから魔王は『魔法が使えない』と評したのだろう。

 ところが、だ。


「私は使えますよ」

「は!?嘘だろう?」

「いえいえ。ほら」


ヘアゴムを外して空中に初期魔法である明りを作り出す。昼間だし、晴天なので目立たないが。

 信じられないものを見る目で見られた。失礼な。


「私は元から精霊も妖精もいない世界の住人なので。彼らの力を借りることができない。多分純粋に魔力をエネルギーとした現象なんだと思いますよ?」


 確証はないけど。

 精霊や妖精の姿が見えるせいで、余計に魔法は彼らの力を借りるものって意識が強いんだろうな。なら見えない一般人や魔術師なら魔法が使えるのか?否だ。詠唱や魔方陣も精霊、妖精へのお願い文章だから聞き届ける相手がいない。

 だから私はそんな手順を踏まず、現象を望む。自分自身に。それが周囲からは異常に見えた。だからこそ魔法師という称号を得た。周囲が使えない、理解できないから魔導師の称号は与えられなかった。いらないけど。

 私の説明を聞いた魔王は納得するように頷いた。


「詠唱と魔方陣がいらない、現象だけを望む。つまりは無詠唱か。確かに試していないな」


 そう言うとおもむろに右手のひらを上に向けて頑張っている。

 ・・・頑張っている、が、何も起こらない。

 睨まれた。どういうことだ?だろうか。知らねーよ。


「何も起こらないぞ」

「知りませんよ。推測憶測なら、魔王の魔力は異世界のモノだから使えない、とかじゃないですか?」

「そうか」


 しょんぼりしている。

 いや、魔王ともあろうお方がそんなあからさまにがっかりするなよ。


「姫」

「なんですか」

「私は口調を戻してもいいだろうか」


 なんだ藪から棒に。口調?好きにすればいい。

 はっきりとそう告げれば、フェンスに寄りかかったままその場に座り出した。

 今さらだがまだ話続くの?おなか減ったから帰りたいんだけど。


「俺も姫みたいに最初からこちらの住人だったら、魔法が使えたんだろうな」


 俺?俺!?口調を戻す、ってこっちの世界用の口調のことか。確かに男子高校生で自分の事私なんていうやついない。魔王としてならぴったりだったんだろうけど。いやいや、苦労してるね魔王。いや、皇木。

 因みに本当に今さらだが、私は特にどこかの国の姫ではない。単に木崎 姫という名前で、あちらの世界で姫呼びされていたのだ。魔王や魔族は御姫様や村娘に興味は示さなかったので、攫われたりはしていない。今思えば、いや当時も思ってたけど魔王や魔族って何が目的で行動していたんだろうね?今は聞けないけど、機会があれば聞いてみたい。

 私も長話に付き合うべく、皇木の横に座る。

 仕方ない。あと30分くらいなら付き合おうではないか。



***

登場人物

木崎 姫(主人公)、皇木(元・魔王)



あと少しだけ説明でだらだらします

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