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乳児編 5. 親子

 2匹の獣の親子は、親が子の前に出てこちらを威嚇してくる。その迫力は、こちらが背を向ければ、襲ってくることを用意に想像できるだけのものであった。

 子は親の背に隠れながら、怯えた目でこちらを見ている。


 対するこちらも親子である。母は、動かずに手を前に出して魔力を練っている。俺は何も出来ずにいた。


 お互いがお互いを牽制しながら、時間は経って行く。

 今は均衡した状態にあるが、そう時間が経たないうちこの均衡は崩れるだろう。そしてそれは、こちらが不利になる状態が多分に考えられる。


 相手は野生の獣なのだ。こう言った状況にも慣れているだろう。だが、母がこう言った状況に慣れているとは考えられない。次第に俺も、この状況を打破しなくてはと微かな焦燥を覚える。


 この世界に来て、約一ヶ月間の記憶を振り返って俺にできることは恐らく一つしかないだろうということにたどり着いた。

 それは、魔力である。けれど魔力についてまだ詳細に分かっておらず、下手に相手を刺激してより状況が悪くなること考えると手出しが出来なかった。


 母の頬に汗が流れる。相手は以前としてこちらを警戒して、一定距離を保ったままだ。

 俺が邪魔になって下手に動けないのだ。そう確信できるほど、母の顔には緊張の色が見えた。それは、相手も同じなのかもしれないが。


 どうしようかと、俺自身も焦っているのがわかる。ああだこうだ考え、ふと脳裏に疑問がよぎる。こちらは相手が攻撃してくることを警戒して動けてないが、相手は何に警戒しているのだ? と。

 母は見ただけでは、手を前に突き出していることしかしていない。もちろん、俺だけが魔力を感じられるなんて思っていない。


 だからこそ、魔力にこの獣達は気づき、警戒しているのだろう。だが、魔力の練り方、つまりこれから発動するであろう魔法の種類を察知して警戒しているのだろうか? いや、それは考えにくい。

練られている魔法は複雑で流動的だ。もし、静的ならわかりやすいかもしれないが、これでは分析なくして魔法の判断は困難だ。


 人間でも難しいと思われることをこの獣達ができるということはないだろう。

 すなわち、獣達は魔力の形ではなく量に警戒しているのだ。


 それなら、俺にいい考えがある。

 今は母が練っているのは、恐らく攻撃か防御の魔法だ。相手が襲ってきたときに、発動するつもりなんだろう。そして、量だけなら俺は母が練っているのは数倍の大きさは練ることができる。


 それだけの量を練ったのなら獣達は、すぐさま逃げ出すか襲ってくるかのどちらかだろう。どちらにしても、この状況が続くよりずっとマシである。


 深呼吸。大気中の魔力に干渉し、自らに混ぜ合わせるように練り体内で量を上げていく。より濃くより深く。

 そのまま練り続け、集中したせいで周りが見えなくなっていたのだろう。互いの緊張はピークに近くなっていた。


 まだ。

 あと少し。


 今だ!!


 体内に閉じ込めていた魔力を一気に体の周りに顕在化さした。直後母の体がビックリしたように揺れた。魔力を形にしていないから、直接の物理的被害はない。それはこのまえ試した。だから大丈夫だと思いたい。


 その数瞬後に、獣達は吠えたかと思うと、二匹ともが体をひっくり返し腹をこちらに向けてきた。どうやら、今の魔力量はかなりのものだったらしい。何はともあれ、一件落着。


 改めて見ると、実に良い毛並みだ。モフりたい。


 腹を見せた二匹に目を向けると、母親の方が足の付け根らへんに深めの切り傷があった。なるほど、林で何らかの争いで怪我をして子を守るため林を抜けて来たと言ったところか。


 しかし、完全に服従のポーズをした手負いのものを無下にするのは気が引ける。それになかなか毛並みをよく、ぜひペットにしたいな。ここは、主となるため恩を売っておこう。


「ああぅ〜」


 今だ唖然としている母を目覚めさせ、指で怪我の部分を指し示す。一瞬こちらに懐疑的な目を向けてくるが、こちらの意図を察してくれたようだ。

 さすがは、慈愛に溢れた聖女のような母である。少しためらいながらも、俺が主張し続けたため、彼らの怪我を治療しにかかった。


 その時屈んだので、これから主となるものの匂いを覚えさせるため鼻を撫でてやった。

 治療が終わり、再び母は歩みを進め目的地を目指そうとする。救われた二匹は、後をついてくる。


 どうやら本当に、主と認めたようだ。いいだろう、着いてくるが良い。

 母は困惑の表情を浮かべているが、俺はそんな母に対してこれでいいんだという意思を伝えるため力強く頷いた。これで、いいのである。


 結局追い払うことなく、二匹を伴ったまま俺たちは草原に佇む一つの小屋へとたどり着いた。

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